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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット「溜め息」――新鋭王座5日目②

 何から書いていいのか。ピットから記者席への帰り道で、こんなにも溜め息が出たことはなかった。
 時間を追っていこう。
2009_0124_r10_1332  10Rは、1号艇の篠崎元志が敗れる波乱はあったけれども、この後に起こる出来事を思えば、穏やかなものだったということになる。勝ったのが、篠崎と同県の今井貴士だから、福岡勢は何はともあれ、歓喜に沸いていた。
 真っ先に出迎えたのは、岡崎恭裕、渡辺浩司、真庭明志。もちろん、同期の古賀繁輝や西山貴浩も嬉しそうな表情を見せている。今井も、ただでさえ細い目をさらに細めて、祝福に応えていた。そんななか、今井ではなく篠崎に寄り添っていた川上剛の優しさが印象に残ったが……。
2009_0124_0122  2着の新田雄史にも多くの拍手が向けられた。こちらは、篠崎と同期生。これもまた、波乱の結末につきまとう重苦しさを希薄にしていたか。同期の平本真之や同県の浜野孝志が、嬉しそうに新田と笑い合っていた。

 もし、この日の大異変のプロローグがあったとするなら、11Rのスタート展示だっただろうか。
 ボートリフトは150m地点あたりにある。ということは、真正面に2Mを見ることになる。10R組がピットに帰って来て、リフトが揚げられるのを待つ間、11Rのスタート展示は大変なことになっていた。吉川喜継が動くのは想定されていたが、それを4号艇の齊藤優、5号艇の安達裕樹が許さず、内枠ももちろん主張して、狭い間隔で6艇がひしめき合ったのだ。リフト周辺の選手たちから、大きなどよめきが沸き起こる。
 本番でも、まったく同じことが起こった。6艇が艇番の順にいち早く舳先をスリットのほうに向け、待機水面はまたもや大渋滞。結局、吉川が回り直しをして5対1の枠なりに収まったが、この隊形が波乱を呼ばないはずがなかった。
 1Mで金子拓矢の差しが入った。また1号艇が敗れるのか……。ここから、稲田浩二、峰竜太、安達裕樹の、くんずほぐれつの2番手争いが繰り広げられる。ゴールでは、峰がほんの少し遅れてはいたが、3艇がほとんど差がない状態で入選し、結論は写真判定に委ねられた。
 ボートリフトの最前列では、優出を決めたばかりの新田が手を組んで拝みながら、目を閉じて祈っていた。先輩の安達が前に出ていますように……。結果が出た。2-5-1。安達が2着だった。
2009_0124_0287 「よっしゃー!」 大合唱となった。叫んでいたのは、新田はもちろん、毒島誠、大峯豊ら。バッドボーイズ・ナインティツーの面々が、最高に人の良さそうな笑顔で同期生の壮挙を喜び合ったのだった。毒島にしてみれば、群馬支部の後輩が1着だったのだから、こんなに理想的な結末は他にはありえなかっただろう。
2009_0124_0194_2  安達がピットに戻ってくると、もっとも喜んでいたのは大峯である。10Rで敗れ、3年連続優出を逃したばかりだというのに、仲間の優出に弾むような声で「裕樹さん、やった、やった、やったっ!」と繰り返している。自身の優出失敗が悔しくないわけはないが、これで少しは溜飲を下げたかもしれない。とにかく、その喜び方は“自分のことのように”という表現しか思い浮かばないものであった。
2009_0124_0832  一方で、沈痛な表情がいつまでも貼り付いていたのが、稲田浩二である。昨年の新鋭王座準優を覚えているだろうか。やはり準優圏内を走りながら、Fを切った古賀繁輝が戦線離脱するのにつられてターンマークを大きく外し、優出を逃した稲田である。雪辱を期して臨んだ今年の準優は1号艇。リベンジするにはこれ以上ない条件だった。しかし……今年も準優圏内を走っていたのに、逆転負け。しかも接戦の末に敗れたことは、稲田の心をさらに重くしたに違いなかった。岡崎恭裕が慰める。藤岡俊介も声をかける。しかし、稲田は顔色を失くしたまま、うつろな目つきで視線を落とし、溜め息をついていた。来年こそ! もちろん彼にそう声をかけたいけれども、稲田の心中に来年のことを考えている余裕などあるわけがない。
「今年は泣きません」。開会式でそう宣言した峰竜太は、接線の末に4着。ピットに戻ってヘルメットを脱ぐと……笑っていた。さまざまな選手が峰に声をかけ、健闘をたたえる。誰に対しても、峰は笑顔を向けていた。仕方がない、そんなふうに笑っていた。同期の金子の快挙にも笑顔で祝福を送っていた。だが……僕にはそれが、無理やり作った笑顔にしか見えなかった。今年は泣かない、そう言ったのだから、泣くわけにはいかない。本来ならもっとも悔しい負け方だったはずなのに、笑い続けているのは不自然ではないか。僕にはそう思えたのだった。峰の心中を思えば……あまりにもせつない笑顔だった。

 レース後、優出選手の共同会見が行なわれている。11R組は、その様子が非常に印象的だった。
2009_0124_0043  金子拓矢は、GⅠ初出場にして初優出。しかもまだ優勝自体、経験していない。いきなり報道陣の前に引っ張り出されて、戸惑わないほうがおかしい。小さな声で訥々と質問に答える様子が、初々しかった。会見ではアテンド係の方から選手にドリンクが供されるのだが、金子は会見が終わると出されたコップをわざわざアテンドの方に返しにいって、ありがとうございましたと頭を下げている。会見では初めて見たシーンだ。その礼儀正しさもまた、初々しいものだった。
Img_8658  安達裕樹は、金子と正反対、大声でハキハキと質問に答えた。なんでも、安定板がついたことでアシが上昇していたそうで、「安定板がついたほうがやれるかもしれませんね」と言った瞬間、報道陣にかすかに笑いが起こった。これに気を良くしたのか、その後は「安定板がついたら、チャンスです」「明日は安定板がついてくれればいいですねえ」「安定板がついたら、僕(のモーター)がバツグンです」と安定板連発で、報道陣を爆笑の渦に叩き込んでいる。安達って、こんなヤツだったんかぁ……。初めて知った。

2009_0124_0317  11Rの会見が終わり、ピットに降りると、峰竜太とバッタリ遭遇した。「今節は気持ちを入れて、エンジンも出して戦うことができました。悔しいけど、来年は自分が優勝するんだと思えるように、頑張りたいですね」。そう言って峰は微笑んでみせた。
 余計なこと、だったかもしれない。僕は、追い上げて追い上げて、突進すら見せて、優出圏の2番手をもぎ取りにいく峰のレースぶりは、素晴らしかったと思った。前検で「豪快にいきますよ!」と決意を示したとおりのレースだった、そうも思った。それを伝えた瞬間、峰の表情が崩れた。涙があふれて止まらなくなった。峰が、泣いた。
 最初、僕は「泣きたいときには泣けばいい」と、峰について書くつもりだった。なぜなら、そのピュアさが峰竜太らしさであり、峰竜太の強さだと信じるからだ。もちろん「泣かない」と約束したからには泣くわけにはいかないと、無理に笑顔を作るのも、峰のピュアな部分。それでも、悔しさは涙で洗い流してしまえばいい。勝負師だからこそ、それでいいのだと思う。
 峰の涙に戸惑いながら、この男の素直さは絶対に武器なのだと確信した。笑えるときに笑っておけ、いずれ泣く時が来る、とは有名な将棋指しの言葉だが、泣けるときにもおおいに泣いておけばいい。峰竜太のこの涙は来年の新鋭王座、いや、今年のSGやGⅠで大きな大きな糧となって、彼をさらにビッグにすることだろう。

 僕自身は、もうこの時点でまいっていた。若者たちの純真な戦い、そこに生まれる明暗は、不惑を迎えて汚れ切った人間には強烈すぎる。しかし、さらに波乱は起こる。
2009_0124_0489  12R。優勝間違いなしとまで言われていた吉田拡郎がフライングを切った。同じ岡山の山田佑樹も。1号艇2号艇のフライングに、ピットは騒然となった。
 選手控室の出口で、大峯が「明日の1号艇は誰なんだ~?」と嬉しそうに今井の肩を抱いていた。古賀や麻生慎介らも嬉しそうにその輪に加わる。今井は望外のポールポジションに苦笑いを見せてもいたが、仲間にとっても心弾む事態であるのは間違いない。しかし、その歓喜は次の瞬間に消えた。
 いや、消えたという言い方は正確ではないかもしれない。消した、のだ。ボートリフトには、正常にスタートした他の4選手を待つ吉田と山田がうなだれて残っていた。彼らに気を使ったのは間違いなかった。その後、1着でゴールした松下一也が戻って来たときも、10Rや11Rのときのような歓喜は一瞬たりとも起こらなかったのである。
 吉田は、意外とサバサバしているように見えた。心の奥が穏やかであるわけはないが、それを見せないように、しかし必死に隠しているという様子でもなく、比較的淡々とふるまっているように思えた。だから、時折見せる悔しくて悔しくてたまらないといった表情が、実に素直な発露のようにも思えた。
2009_0124_0844  吉田以上に、山田が後悔をあらわにしていた。自分がこの事態を招いてしまった、そんな思いもあったかもしれない。F自体への、とんでもないことをしてしまった、という責任感もあっただろう。今日の準優18名のなかで、もっともツラそうな表情をしていたのは、山田だ。

2009_0124_0023  ピットに上がって、6選手が散ると、ようやく歓喜の声が沸き上がる。何しろたけし軍団のワンツーなのだ。もちろん、松下一也には佐藤旭なども祝福を浴びせ、松下が嬉しそうに笑っていた。
 川上剛の周辺は、もっともっと盛り上がっていた。「キャッホー!」という嬌声までも聞こえてきていた。たけし軍団の首領、いや、福岡支部のリーダー役でもある彼が2着で優出を決めたのだ。誰もが心浮かれるに決まっている。誰もが微笑んでその様子を眺めるに決まっている。
 しかし……。
 川上がTVのインタビューカメラの前に立った時、競技本部からのアナウンスがピットに響いた。このタイミングでの呼び出しは……。ピット内は騒然となった。川上は、カメラの前を離れて、競技本部へと向かった。
 なかなか姿をあらわさない川上。いったいどれくらいの時間が経っていただろう。やがて、ピットには一枚の紙が出回る。優勝戦メンバーが記されたそこには、川上の名前はなかった。川上は、まだ姿をあらわさなかった。別の通路から控室に戻ったのかも……そう推測した僕は、ひとまず共同会見場へと向かった。
2009_0124_0532  会見では、松下一也が報道陣を笑わせていた。今節は、通常52kgくらいの体重を50kgに絞っている。「正月は正月らしく飲み食いして、太ってしまったので、前節の大村から減量を始めたんです。でも大村の最終日、先輩が最終日なんだから飲めって言われて、それもそうだなって飲んだら、また増えすぎて(笑)。それでまた減量して、今節もあまり食べてません。明日が終わったら? また増やして(笑)、また減量して東海地区選に臨みます(笑)」。楽しい会見であった。
2009_0124_0533  だが……会見場を出るとき、そこで待機していたのが森定晃史であったとき、松下はどんな思いだっただろうか。森定とガッチリ握手をかわす松下の表情は見えなかったけれど……。その森定も「複雑な気持ちはある」と言った。森定にとっては、同県の仲間が(一人は同期だ)Fに散ったこともまた、複雑な思いにさせられることであろう。森定は明日、幾重にも絡んだ思いを胸に、緑のカポックを着ることになる。

 とりとめのない長文ですみません。筆力不足です。しかし、今日ピットで見たもの、感じたことは、とてつもなく重いものだったのも確かなことだった。若者たちが、純粋な気持ちで戦うからこそ生まれるドラマ。それを僕は、彼らの未熟さなどとは絶対に言いたくない。未熟という言葉を絶対に肯定しない。この場で起こる喜びも悲しみも、彼らを大きくはばたかせるステップである。だからこそ、そこにはあまりにもピュアな、歓喜の涙、悔恨の涙があるのである。(PHOTO/中尾茂幸 安達のみ山田愼二 TEXT/黒須田)


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コメント

今日の準優のことを書けって言われたら、私は「はぁ~(溜息)」だけしか書けません。
ゆっくり読ませて頂きました。
12人の悔しさの重みに、さらに“どよ~ん”です。
勝負って、辛いですね。
私が落ち込んでも仕方ないですけど・・・^^;

投稿者: hiyo (2009/01/25 0:14:46)
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