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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――静けさの理由

 強めの雨が水面を叩いていた朝。記者席で仕事をしていて、ふと気づく。今朝は静かだ……。9~10時の時間帯といえば、朝特訓のピーク。普通であれば、水面からは幾重にも連なるエンジン音が耳に届く。しかし今朝は、普段に比べてずっと音が少ない。10分以上も水面に選手の姿が見えないなんて、SGでは初めて見る朝の光景ではないだろうか。
 すかさずピットに向かった。天候急変に、選手たちは陸の上での調整に追われているのではないか。そう想像したからだ。
2009_0319_0463  静かだった。水面だけでなく、ピットもまた静かだった。試運転係留所は、丸岡正典、服部幸男ら数艇がつながれているのみ。満艇状態で、回転数を確かめるエンジン音が轟いていると予想していったのに、拍子抜けだ。しかも、艇はそこにあるものの、選手の姿は見えない。装着場でしばし選手の動きを待ったが、数分ほど選手の姿は視界にゼロ、であった。これも初めて見る風景だと思う。
_u4w8201  ならば、整備室やペラ室が満員御礼なのか。いや、違った。もちろん、ペラ室には懸命にペラと向き合う何人かの選手の姿がある。しかし、満員と表現するにはふさわしくない、人と人の間のスペースがある。ならば整備室はどうだ。こちらはむしろ、閑散という言葉がふさわしい。山口剛がペラを磨いているらしい背中が見えたけれども、作業をしているのはそれだけ。_u4w8141 だから、奥のほうでイスに座ってくつろいでいる長岡茂一と平石和男の談笑が妙に印象に残るのだった。どちらかの家の居間で過ごしているような雰囲気であった。
 これが天候がガラリと変わった、しかも勝負駆けの朝!?
 あまりにも静かな空気に、改めて拍子抜けだ。

2009_0319_0456  モーター音が響いた。1R発売中になって、吉川元浩、田中信一郎、田村隆信、松下一也らが試運転を始めた。条件のキツさに違いはあるが、いずれも勝負駆け。田村が3R登場と勝負の時は迫っていたためか、真っ先に試運転を終えていた。最後に終えたのは田中。いったんボートを陸に上げて、改めて調整をする心づもりのようだった。すると、田中のボートの周りに他の3人も集結。足合わせの手応えをお互いに語り始めた。
 まあ、よくある光景である。ただし、彼らの声は、少し離れたこちらにもビンビンと聞こえてきた。彼らが試運転を終えた瞬間、ピットから音が消えたからだ。
_u4w8528 松下「出足がかなりやられる感じですね」
田中「出足ばっかりや」
 普通ならばすぐそばにでもいない限り聞こえてこない会話も、今日は可聴範囲が広いのである。

 1Rの締切後、雨が上がった。空がわずかに明るくなる。晴天のときには観戦が心地いい、装着場の端っこのほうに移動。昨日に比べれば冷たい風も、なかなか気持いいものだ。
2009_0319_0123  と、その瞬間。装着場の空気が変わったことに気づく。なんと、選手がぞろぞろと出てきて、自艇に向かい始めたのだ。山口剛&松下一也のように、係留所からレース観戦を決め込んでいる者もいるにはいた。だが、何人かはボートの周辺で、作業というか準備というか、ともかく動き始めていたのだ。レースが始まるというのに。
2009_0319_0337  メモには、吉田拡郎、市川哲也、大賀広幸、柏野幸二、白井英治、島川光男、と記されている。ふんふんふん…………おっ! 全員、中国地区の選手だ! 偶然だし、何の意味があるわけじゃないけど、小さな発見がちょっと嬉しい。彼らは、レースが終わり、エンジン吊りも終え、展示も終了したら即座に水面に飛び出していくべく、そのための用意を怠りなくしているようであった。
_u4w7766  中国軍団の動きをきっかけに、多くの選手も動きを始めたようだった。彼らに確かめたわけではないから、あくまで推測である。52名は、レースの時間帯には雨があがることを知っていたのではないか。つまり、雨中の調整はあまり意味がない、と考えて、実際に雨があがってから動き出したのではないか。
_u4w8169  エンジン吊りのさなか、重成一人、木村光宏、平田忠則が温度計を覗き込んで、話し合っている姿があった。間違いなく、天候とそれに伴う調整方法の情報交換だろう。
 繰り返しになるが、あくまで推測である。しかし、1Rを境にしてガラリと変わったピットの空気は、確実に気候が選手の調整や作業を左右することを物語っていた、と思う。そう言葉にしてしまえば当たり前のことだが、今朝改めて、それを肌で実感したのであった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)


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