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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――夏のような暑さ

 暑い! ピット内の温度計は32℃を表示。夏、である。湿度が50%前後に下がっているため、まだ耐えられるが、体重100kg超の身にはやはりこたえる。午後最初に顔を合わせるなりアーネスト・ホーストばりの膝蹴りを入れてきた永田磨梨奈キャスターが「今まで記者席にいた? いいなあ」と羨む。いやいや、記者席でのPCとのにらめっこもなかなかツラい、と言いたくもなるが、たしかにまあ冷房は利いている。これからMB記念まで、記者席を出る際には決心が必要となってくるのだなあ……と、思いを馳せる夏の午後、なのであった。
 そんななかでも、選手たちは慌ただしく動きまくっているのだから、自分の泣き言が恥ずかしくなる。整備室は満員御礼、水面にはモーター音が轟く。それがSG初日の当然の光景とはいえ、暑いの寒いのわめくことなく、勝利への道を探し続ける彼らにはやっぱり敬意を抱く。
2009_0623_0972  11R発売中は、試運転組が続々とピットに引き上げてきて、ちょっとしたラッシュの様相を呈していた。名前をざっとあげれば、烏野賢太、白水勝也、横西奏恵、原田幸哉、重成一人、森高一真。狭いピットに一斉にボートが上がってくれば、一気に混雑感がマックスになる。ベテランも若手も、男も女も、汗だくになって水面を走り、陸の上でも走る。この6人が、それぞれにエンジン吊りをし合って、上気した顔が右へ左へと行き来していた。
2009_0623_0750  これで試運転組はすべてか、と思ったら、そうではなかった。12R発売中のことだ。控室へと続く階段の踊り場で、飯山泰がこちらにペコリと頭を下げた。我々は、信州の男。艇界に数少ない同郷の士である我々が顔を合わせれば、そこは一気にアルプスを望む山間の空気となる。……なんてことは別にないんだけど、ともかく会釈を交わし合って、お互いニコリ。と、飯山が何かに気づいたように水面に目をやって、目を細めたのであった。
 飯山が気づいたのは、モーター音。12R発売中だというのに、まだ試運転を続けている選手がいる! 飯山の素振りでそうと気づいた僕も、飯山に背を向けて水面に目を向ける。係留所の屋根の隙間から見えるボートには、「木村」というプレートがついていた。
2009_0623_0231  木村光宏。この光景は、実はSGではほぼ毎節、ヘタすりゃ毎日、目にするものだ。試運転タイムのトリを務めるのは、木村である割合が非常に高いのである。というわけで、意外でも何でもなく、「やっぱりか!」ということになるわけだが、それでもようやく試運転を終えてヘルメットを脱いだ顔から玉の汗が流れおちるのを見れば、やっぱり頭が下がろうというもの。木村光宏は、SGクラス屈指の勤勉な男、なのである。
2009_0623_0309  ちなみに、最後にたった一人、試運転を終えた木村だったから、装着場には他の選手の影がなく、それを見て全速ダッシュで駆けつけてエンジン吊りを手伝ったのは、気になる山崎智也であった。「智也くん、ありがと!」と笑う木村を見つつ、呼び捨てじゃなくて、くん付けで呼ぶんだ~、と余計な感想を抱いたのであった。

2009_0623_1220  整備室の混雑ぶりもハンパではない。7Rだったか8Rのあとに記者席に戻って来たチャーリー池上カメラマンが、「(守田)俊介が三つ割の整備をしてますよ」と報告。三つ割とは、クランクシャフトの大整備なのだが、それを聞いて俊介を息子と呼ぶほど愛する畠山酋長が「くわ~~~~、エンジンひどいもんな~~~」としかめ面を見せたのだが、それはともかく。その大整備は、12R発売中まで延々と続いていたのであった。ハッキリと確認はしていないのだが、おそらくはクランクシャフト交換をしていたと思う(明日の直前情報をご確認ください)。そりゃあ時間がかかる大整備、午後の時間いっぱいを使っての悪戦苦闘になるのも無理はない。なんとか整備を終えたあとはギアケースを調整し、さらにペラ調整にも向かっていて、俊介も相当に勤勉マンと化す初日の午後、だったのである。整備室は冷房も入っているとはいえ、快適さなど少しも感じていなかっただろう。
2009_0623_0930  そのすぐ横では森高一真が、本体整備。さっき試運転を終えたばかりなのに、残されたわずかな時間にも整備せずにはいられなかったらしい。で、その光景を眺めていたら、超興奮するシーンに遭遇してしまった! やはり本体整備をしていた上瀧和則が心配そうにのぞき込み、アドバイスを送り出したのだ。森高&上瀧! 伝説の06年蒲郡周年の優勝戦で、鳥肌が立つほどの進入争いを演じて、伝説を作った二人。そのツーショットだなんて、興奮せずにおれようか。
2009_0623_0176  上瀧の整備を眺めていたら、相当に微細で繊細で微妙な部分を丁寧に調整している様子であった。どの部分かと訊かれたら、僕には「わからん」と応えるしかないような、本体内部の細かい部分のようだった。モーターについてはそれなりに勉強したつもりだが、それでも何をしているのか具体的にはわからなかった。ただ、かなり神経を使っているだろうなあ、と想像できるほど、上瀧はただならぬ集中力だった、のである。そうしたなかで、後輩が苦しんでいると見れば、アドバイスに向かう。なかなかできることではあるまい。他の選手からもたびたび、上瀧の兄貴分っぷりを聞かされてきたが、その姿を見てなるほどと膝を打った。これが上瀧の男らしさ、なのである。

2009_0623_0343 さて、12Rはドリーム戦。今垣光太郎に追いつめられるシーンがありながらも逃げ切った松井繁は、レース後、ド迫力のオーラを発散しつつ、瞳をキリリと厳しく光らせていた。機力に満足し切っていないということもあるのか、勝ってなお笑わず。これもまた、王者の姿、である。
2009_0623_0797  印象に残ったのは、魚谷智之だ。道中、湯川浩司に逆転されて4着。湯川の機力勝ちのようにも見えたが、抜かれた魚谷にしてみれば、不満だらけのレースだっただろう。エンジン吊りに立ち会って、ボートとモーターが片付けられると、矢も楯もたまらんといった感じで、魚谷は水面のほうに走りだした。ボートリフト付近からは対岸のビジョンが見えるのだが、ここからリプレイを見ようというのだろう。カポックを脱ぐのは後回し、とにかく早く何が悪かったのかを確認したい! 追いたてられるかのように、魚谷はとてつもない瞬発力でリプレイを見に走りだしたのである。結局、魚谷の視界にビジョンが入った時には、3周1マークを回ったところが映し出されており、お目当ての場面には間に合わなかった。魚谷も、あぁ、とため息をついて、控室へと方向転換していた。しかし、魚谷のまっすぐな思いが具現化されたシーンに、僕は覇王の覇王たるゆえんを見たような気がした。この姿が、魚谷の強さの一端を間違いなく表わしている。
2009_0623_1350  で、ドリーム戦で「あんまり言われるんで腹立ってきた」と冗談めかした、3連覇を狙う湯川浩司。原田幸哉に「あれで届くんだ?」と魚谷逆転のシーンを振られて、なぜか顔をしかめていた。それを僕は、「そうなんです、すみません、エンジン出てて」と解釈したいと思う。偉業達成の確率がいくらか上がった初日、だったのではないか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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