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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――感動の優勝戦

_mg_8643   予想に反した雨。
 そして予想に反した選手の動き……。
 昨日の準優勝戦後、優出メンバーはそれぞれに、足には納得ができているコメントを出してはいたが、昨日と今日とでは、まるで違った気候になっていた。それを考えれば、選手たちは最後の最後までバタバタと調整に追われることになりそうなものだが、そんな予想はあっさり覆された。
 今日1日を通して、慌ただしい動きは見せる優出選手はいなかったのだ。

_mg_8428_3  とくに意外だったのは松井繁だ。
 9R後、優出メンバーによるスタート特訓が行なわれたが、松井ひとりがこれに参加をしなかった。スタート特訓に参加しない優出選手は、毎回1人、2人は出てくるものだが、松井がそうだったというのは、それだけでも珍しい。
 この時間帯には、その姿さえあまり見かけられなくなっていたのだが、他の5人が2本目のスタートを切ろうとしていた頃にようやくピットに現われた。そして、そのままペラ小屋に入って道具を片付けだしたのにも驚いた。その後も作業らしい作業をすることはなく本番を迎えることになったのだ。
 今日、行なわれた公開インタビューで松井は「皆さんが思っている以上にチャンスはあると思っています」と強調していたが、朝、走ってみたことで、それだけの手応えを掴めていたということなのだろう。

_mg_8474  このスタート特訓後、平石和男はギアケース調整をしていたし、短い時間のペラ調整をしていた選手はほかにもいたが、それらはほぼ微調整レベルに入るもののようにも見えていた。そして、選手たちそれぞれの表情は明るかった。
 たとえば寺田祥もそう。朝から姿をみかけること自体が少なかった選手だが、スタート特訓後にボートを引き揚げてきたとき、一瞬だけ「よし」というように唇をゆるめてみせたのだ。昨日から満足げなコメントを出していたが、このとき水面を走ってみて、昨日の手応えと変わらぬものか、それ以上の手応えを得られていたのだと思われる。

_mg_8734  そんな寺田に対して、笑顔で話しかけていたのが服部幸男だ。今日の服部は、レースが近づいていくにつれ、笑顔が見られる回数が増えていたので、やはりそれだけの手応えが得られていたはずだ。
 要するに、全選手が納得の足に近いレベルで仕上げていって、優勝戦に臨めていたことになる。
 ピットで選手同士が掛け合っている言葉はなかなかちゃんと耳には入ってこないが、このとき服部は寺田に対してこうも言っていた。
「その日によって、ぜんぜん足が違ったな。今日だって、レースになってみないと、実際のところはわからんからな」
 こんな服部の言葉が、大きな意味を持っている1節、そして優勝戦だったと言えるだろう。
 ……レース後、今垣は「雨のおかげ」「雨が降っていなかったなら、回りすぎていた」とも話していたが、最後の最後のところで、そうした部分も多分に影響していたのに違いない。

_mg_8595_2  優勝戦――。勝ったのはその今垣だ!
“恵みの雨”があったとはいえ、この勝利を引き寄せたのは他ならぬ今垣自身だ。
 昨日の準優後、共同会見に臨んだ今垣は、その会見中にもどんどん気持ちを高めていって、チルト0度で乗り心地を捨てて、ピンロク勝負に出るとの決意を固め、今日のレースで実際にそれをやったのだ。
 そのように言葉で振り返るのは簡単なことだが、それをそのまま実行し、ここで優勝を決められる選手なんて、普通はいない。それこそほとんど神がかり的なことであり、レース中から見ているこちらの鳥肌が立ってきた。

 レース後、今垣を迎えようとしていた選手は二人。石田政吾と中島孝平だったので、中島に対して「すごい人ですね」と言葉をかけてみると、中島は無言でうなずいた。中島もまた、今日の今垣を評する言葉を見つけられずに、ほとんど感極まっているようにも見えていた。
 わずかな間をおいて、中島はその感動を石田に伝えようとしていたが、それもうまくはできずにいたようだった。
「3度目で……3度目が本当に……」。
 そんなふうに言葉がつかえただけだったのだ。何が言いたかったかはそれだけでも充分にわかるが、それ以上の言葉を口にはできない様子だった。

_mg_8868  実際に今垣を迎えたときにも、どんな言葉をかけていいのかわからなかったのだろう。中島がどういったかは聞こえなかったし、石田は今垣に対して、無骨にこう言った。
「さっさと帰るぞ! (そうしないなら)サヨナラや」
 表彰式ではあやうく涙ぐみそうになっていた場面も見られた今垣だったが、レース後のピットにおいては、こんな素敵な仲間たちに迎えられ、最高に凛々しい顔を見せていた。
 私はかつて、今垣のことを「阿修羅」と評したことがあるのだが、今日の今垣もまさに、様々な表情を持つ、美しき阿修羅のようだった。
 今垣光太郎! おめでとう!!
 あなたは本当に凄い人です。それ以上の言葉はやっぱり見つかりません。
(PHOTO/山田愼二 TEXT/内池久貴)


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