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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――ドリームのあとさき

2009_0730_0561  12Rドリーム戦が終わった。ピットに帰還した6艇。その風景を見れば、誰もが勝者を言い当てることができるはずだ。佐々木康幸がヘルメットを脱ぐ。もう笑顔が弾けている。小走りでペラ箱などを拾い上げ、また走る。嬉しくて走っているわけではなく、勝利者インタビューが待ち構えているせいなのだろうが、それにしても小気味いいストライド。途中で叫んだ。
「ツいてたわぁ~、展開が!!」
 インの服部幸男がまさかのスタート負けで湯川浩司がジカマクり、さらにその上を阿波勝哉がぶん回すという派手な展開。佐々木の航跡は、1マーク手前ですでに勝利を標榜していた。4Rに続く「まくり差し」2連発の大技だ。佐々木は走る。ちょっと右肩を前に突き出し、斜め走りのようなおどけたポーズでインタビュー室に吸い込まれた。あまりの好発進、好リズムに照れがあったのかもしれない。
2009_0730_0360  2着の湯川も足取りは軽い。エンジン吊りを手伝ってくれた白石健と肩を並べて引き上げたのだが、柔和な横顔には自信がにじんでいた。自力で攻めての2着。白石が何事かをボソボソ言い、湯川がエヘッと笑う。不安とは無縁の笑顔だ。
 一方、断然人気のイン戦で敗れた服部は、物思いに耽るような顔で歩いていた。ちょっとだけ口を開いて、目は斜め左下。悔しそうにも見えるのだが、それだけではない。何かを反芻するような、過去にあった少しつらいことを思い出しているような……。

2009_0730_0668  伏せていた目を上げ、服部は歩いたまま左に広がる水面を見た。見ていないのかもしれない。顔が水面にぼんやり向いている、そんな感じ。やはり、何事かを考えているのだと思った。レースというより、ペラとの激闘に明け暮れた1日。6Rは2着にまとめたが、肝心のドリームではレースをできなかった。敗因はどこにあったか。ペラか気持ちかそれ以外の要因か。掴みにくい惨敗だったからこそ、様々な想いが浮沈していたのかもしれない。
 元気バリバリの佐々木と妙に哲学者っぽい服部を見ている間にも、選手たちは蜘蛛の子を散らしたようにピットから消えていく。阿波勝哉と丸岡正典はもう後姿を拝むのみ。

2009_0730_0935  確かな足色でドリーム3着に入った重成一人の姿は、どこにも見当たらない。ピットにのべ3時間ほどいて、重成の姿を見かけたのは2度。単にタイミング(相性?)が悪かったのかもしれないが、その2度だけ見かけた顔に焦りや不安は感じられなかった。クールで端正な横顔に、迷いのない意思(自信かどうかはわからないが)が見てとれた。今節の重成は怖い。いや、今節の重成も怖い。

2009_0730_0320  閑散としたピット。最後まで整備室にいたのは篠崎元志だった。最小登番選手として当然といえば当然なのだが、篠崎はさまざまな雑務の合間にせっせと自分のモーターも整備していた。誰もいない整備室、すべての作業を終えてシャカシャカと手を洗う。一心不乱に洗っている。私は、つい10分ほど前の光景を思い出した。12Rの面々が矢継ぎ早に去った後、篠崎は小走りにこの整備室に戻り、食い入るようにレースリプレイを見ていた。文字通り、食い入るように。その真剣な眼差しが、シャカシャカ手を洗っているうちに穏やかになってゆく。1日が終わった。育ち盛りの若者は、今日もさまざまなエキスを吸収したことだろう。(Photo/中尾茂幸、Text/H)


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