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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――雨、明暗、魔物……

2009_0724_0794  大変な1日だった。土砂降りの雨は12Rを迎えても止む気配を見せず、5R時に見舞われた初日夜のような豪雨はその時だけだったけれども、まるで壊れたシャワーのように振り続けた。水面をたたく雨音は途切れることなく大きな音をピット内に響かせており、水面際ではつい空を見上げてしまう者がたくさんいた。
「気にしないです。だって、みんな同じ条件でしょ」
 笠原亮はそう言って笑ったが、その同じ条件が過酷なのだ。時計も見づらいだろうし、水面も荒れる。12Rの今垣光太郎は3周2M、浮遊物を巻き込んで失速したようだが、そうした不測の敵も水面にはあらわれる。勝負駆けだというのに、こんな条件で戦わねばならないなんて……。まったく手を緩めようとしない雨空が恨めしく思えてくる。
2009_0724_0256  11R、白井英治は準優当確でこのレースを迎えている。だが、気を抜くわけにはいかなかった。予選1位の可能性がおおいに残されていたのだ。1Mを回って舳先が前に出る。1着なら文句なく予選1位だ。しかし、白井は他艇と接触するなどして後退、最後は5着でゴールすることになってしまった。
 ピットに引き上げてきた白井は、やるせない表情をして、心を占める悔恨をあらわにしていた。単にミスをしたとか、展開がなかったとかなら、無念に思うだけだ。しかし、不慮の事故に近いかたちでずるずると後退しただけに、その悔しさをぶつける場所がない。
 白井のボートの左側のカウリングは大きくヒビ割れしていた。艇修理担当の方がワイヤーを何度もチェックしていたし、白井もハンドルを回すような手振りをしていたから、操縦に難があったのだろう。ハッキリとわかるように溜め息をつく白井英治というのは、本当に珍しい。彼らしさが消えてしまうほど、不条理な敗戦。それでも明日は1号艇が転がり込んできているだけに、今日のネガティブなメンタルが響かなければいいのだが……。
2009_0724_0043  その11Rを1着で切り抜けたのが、濱野谷憲吾である。レース後、ボートリフトに収まって、出迎えた関東勢を見上げた時に、憲吾はにっこりと目を細めた。今節、初めて見る憲吾のスマイルのような気がする。ボートの後部に回って、装着場へと押していったのは山崎智也である。関東ツートップが肩を寄せ合うような格好になる。2009_0724_0047 智也が憲吾に耳打ちする。憲吾は、ピットじゅうに聞こえるくらいに声を張って、「ありがとうございまっす!」。ツートップの笑顔が並んだ。このところどうにもリズムが悪かった憲吾だけに、嫌な流れを吹っ切ったような気分になったのかもしれない。憲吾の穏やかな表情を見ていると、なぜかこちらも心穏やかになっていくのだった。
2009_0724_0318  対照的に、表情が冴えなかったのは徳増秀樹である。2着で予選突破を果たしているというのに、ずっと首をかしげている。服部幸男が「どうした?」とばかりに、微笑を浮かべて歩み寄ると、徳増は心中を吐き出すようにして服部に何事かをまくし立てた。微笑を維持し、腕組みをしながら、服部は耳を傾ける。ふんふんとうなずきつつ、最後に服部が一言耳打ちすると、徳増は「はぁ。疲れた」。とりあえず、服部に鬱憤を晴らしてもらったといったところか。静岡軍団の強さは、服部幸男がそこに存在していること、であるのに間違いない。

2009_0721_0372 12R、見ていられないほどに悲しげな表情を見せていたのは笠原亮だ。実はレース直前、笠原は僕に指を2本立てて見せている。そのとき僕はピット2階バルコニーにいて、笠原を見下ろすかたちになっていた。笠原のアクションは「2着でOK?」。得点状況を言えば、2着で6・00に到達するものの微妙な様相で、中島孝平の5着以下という条件がついていた。ただ、笠原にとってそうした状況は意味のないことだ。だから、まず「微妙」と声を出さずに口の動きだけで伝え、僕は1本指を向けたのだった。「1着でスッキリいこう」という意味を込めて。笠原は力強くうなずいて、意志をもった視線をまっすぐ前に向けて、待機室へと消えていった。
2009_0724_0278  そんな笠原を見ていたから、レース後の脱力し、かつ凍りついた表情は痛々しかった。泣きだしてもおかしくないのではないか、とまで見えた。それを見て歩み寄ったのは、やはり服部だった。まごうことなき師弟関係にある二人だから、笠原の顔を見ただけで何を思っているのか感じ取れるのだろう。その会話の中で、笠原の表情が癒えていくのを見て、服部の偉大さを再び知ったのだった。ちなみに、もう一人、笠原を心から慰めたのは原田幸哉である。そっと背中に手を回して、何度か軽くぽんぽんと叩く。それもまた、笠原の気持ちを鎮めるのに一役買っていたことだろう。
2009_0724_0081  歓喜の大逆転をやってのけた男もいた。湯川浩司だ。3周2M、今垣に不運もあって、まさかの2着浮上。湯川は、3着で6・00ながら、笠原と違って完全に18位には届かない状況だったのだから、最後の最後で準優への切符をもぎ取ったことになる。
 レース後、ボートリフトに収まった瞬間、湯川は先にリフトに収まっていた菊地孝平に何かを確認するような仕草を見せている。さらに、出迎えた太田和美にも疑問形の視線を向けている。最後に、ついさっき抜き去った今垣にも同様のアクション。ただし今垣には申し訳なさそうに頭を下げてもいた。
2009_0724_0372  エンジン吊りに駆けつけた松井繁が「乗れたのか?」と周囲に確認している様子が見えた。山本隆幸が嬉しそうに声をかけるところも見かけた。だが、湯川は周囲の控え目な祝福の言葉に、どちらかといえば苦笑いを返している。今垣に申し訳ない思いもあったのだろう。
 だが、最後まで諦めずに追いかけたからこそ、あの逆転劇があったのではなかったか。僕は、湯川の大逆転をカッコいいと思った。湯川は、エンジン吊りの面々が引き上げても、一人リプレイを確認していた。これはチャンスだ、と思い、リプレイを見終えた湯川に声をかける。
「ツイてただけや。今垣さんが巻き込んでしまっただけやから」
2009_0724_0791   湯川の苦笑いは収まらない。でもカッコ良かったと思う。そう伝える。湯川の笑みがちょっとだけ深くなった。
「俺、魔物をもってるのかなあ」
 もちろん、ジョークである。だが、ジョークが飛び出た湯川は、怖い。メンタルが仕上がりつつあるということだからだ。もちろん、このツキも怖い。ともかく、だ。湯川が笑みを向けてくれたのは久々である。グラチャンを超えて、一皮むけたのだと僕は確信している。
2009_0724_0210 湯川と別れて、ふと前を見ると、3周2Mまでは18位だった中野次郎がとぼとぼと歩いていた。湯川の逆転劇は、中野を蹴落とす結果となったのだった。その時点で中野がそれを理解していたかどうかは知らない。彼の天然ぶりを思えば、知っていようと知らずにいようと、表情や歩き方は変わらなかっただろうと思う。だが、そこに生じた大きな明暗の差に、ちょっと切ない思いになった。
 本当は、雨が降り続けたことなど、結果には何も関係ないかもしれない。だが、なんて罪作りな雨なんだ、と思った。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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