この特集について
ボートレース特集 > THEピット――冗句
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

THEピット――冗句

 準優勝戦のピット、時間を追ってレポートしていこう。

●9R 憲吾のマクリと信一郎の上機嫌
2009_0724_0036  濱野谷憲吾が5コースからド迫力のツケマイを決めた。猛烈なスピードで握っていくのがビジョンに映し出された瞬間、ピットで声にならない声が上がる。濱野谷はもともとマクリ屋だった。だが、最近は差し屋である。ピットはにわかにざわついた空気となった。
 エンジン吊りに向かいながら、中野次郎と飯山泰が狂喜している。ハイタッチを交わし、満面の笑みでリフトの最前列に陣取って出迎え態勢。その後の一連の流れを見ていても、濱野谷以上に二人は大喜びしていた。
 周囲の笑顔が満開に咲いていたのは、田中信一郎の仲間たちも同様である。信一郎もまた、嬉しさを隠そうともしない。今垣光太郎との笑顔の会話、なんだか初めて見たような気がする。信一郎のボートの周りは幸せにあふれていた。
_mg_0191  白井英治の憮然とした姿は、憲吾や信一郎とはまるで対照的であった。1号艇からトップSを決めたのだから、決して悪いレースではなかった。ただ、運がなかった。そう思う。しかし当人としては、不運を嘆くというわけにはいかない。のしかかってくるのは、最大のチャンスを生かせずに敗北を喫した事実、なのである。不機嫌な様子を隠そうとしない、いや、隠せないのが当たり前だと思う。

_u4w0192_2  共同会見に向かう際に、展示から帰って来た湯川に向かって信一郎は「ガリガリくんのおかげや」と言って、大笑いした。昨日、宿舎でガリガリくんを食べたら、当たりが出たのだそうだ。そのツキが活きた……わけは本当はないのだが、そんな軽口が飛び出すほどに、信一郎の気分は上向きであった。共同会見でも開口一番、「何も言えねぇ」と北島康介のモノマネを披露したのだから、まあちょっと古いけど、こちらの気分までハイにさせる上機嫌ぶりだったのだ。
_u4w0056 共同会見といえば、濱野谷の開口一番は「びっくりしました」だった。本人もびっくりしていたか。なるほど。で、それから濱野谷は、言葉を重ねれば重ねるほど、テンションが下がっていくように感じられた。これまで2度、インタビューをしたことがあるが、その2度とも、だんだんと言葉に詰まるようになっていった濱野谷。それを思えば、彼らしい受け答えとも思えるけれども、しかしこれが1着で準優をクリアした会見なのだから、少しだけ気になった。
 まあ、会心のマクリを決めたことにはしゃいでみせるような憲吾ではない、のだけれども。ふむ。

●10R 徳増の快挙と湯川の逆転
 徳増はレース前、緊張していたそうである。それを和らげたのは、後輩の一言だったそうだ。
「キク(菊地孝平)に、『3人で優勝戦乗っちゃいますかぁ~』って言われて、一気に楽になった。小さい悩みがすべて吹き飛んだ」
 その一言がなければ、あの差しハンドルは入らなかったかもしれない。
_u4w0080_2  2着争いが劇的だった。残した重成一人が徳増を追走し、6連続2着か、と思われた。しかし、重成のターンには冴えがなく、これを湯川浩司が追いかけた。
 もともと湯川は、中島孝平と3番手を競っていた。ターンごとに、展示ピットから辻栄蔵の「おぉっ!」という叫び声が聞こえた。だが、これを勝ち抜いた湯川が、今度は重成との競りに持ち込んだ。辻は相変わらず「おぉっ!」と叫んでいたが、その対象は変わっていた。最後の最後に湯川の逆転ターンが決まる。辻はとびきり大きな声で、「うおぉぉぉっ!」と嬌声をあげた。

 ボートリフトに真っ先に駆けつけたのは、笠原亮。続いて、服部幸男である。服部は嬉しそうに、笠原に向かって親指を立てた。この快挙を我がことと捉えていたようだった。
_u4w0026  ここからの服部がゴキゲンだった。徳増を待つ間、展示ピットに向かって、文字にしづらい奇声をあげ始めたのだ。あえて文字にすると、「うぇおぉぅぉぅっ!」だろうか。これは、展示を待つ菊地孝平と坪井康晴に向けられたものだ。菊地が声のほうを振り向くと、服部は菊地に指をさす。そして、もういちど「うぇおぉぅぉぅっ!」と叫んで、今度はバンザイをしてみせたのだ。な、なんだ、この服部幸男は!
 徳増が戻ってくると、服部はさらに「うぇおぉぅぉぅっ!」を繰り返す。徳増と目が合うと、ふたたびバンザイ。そして、なぜか山崎智也を笑顔でどついて、じゃれ合っていた。だから、なんなんだ、この大はしゃぎの服部幸男は!
 ハッキリ言って、大笑いさせていただきました。こんな服部幸男も大好き。
2009_0723_0063  大逆転劇で優出を決めた湯川の周りもみなゴキゲンだった。田中信一郎は大拍手で出迎え、控室に戻る際には悔しさを噛み殺していた松井繁も笑顔で湯川を称えた。あれほどの逆転劇なのだから、周囲のテンションが上がらなければおかしい。
_u4w0029  となると、まるで違った空気に包まれる場所が生まれてしまうのも仕方のないこと。重成一人の周囲は、どんな言葉をかけていいのか迷っているのだろう、微妙な笑みを浮かべていた。会見後、ペラを手に整備室に入っていく重成を見かけた。淡々とした表情が、先入観もあるからだろう、痛々しく凍りついた表情に見える。悔しさをあらわにするのを避けるために、平常心を装っているように思えるのだ。声をかけるのをためらわせるほどに、結界を作っているかのような雰囲気を醸し出す重成。その心中は察してあまりある、と言うしかない。

 会見で印象的だったのは、逆転劇の興奮も見せずに粛々と語った湯川よりも、爽やかな空気を振りまいて会見場に入室した徳増だ。
_u4w0062  SG初優出の徳増だけに、こうした場で彼の話を聞いたのはおそらく初めて。そして、彼は想像をはるかに超えるほど、饒舌だった。
「緊張するなといわれても、それは無理な話。だけど、その緊張を楽しめるように、それでいて勝てるようにできることはやって、今日みたいに自信をもって臨みたい」
 理路整然とそう語る徳増には、明晰さを感じたものだ。ただし、明日は菊地も魔法の一言を送ってはくれないだろう。一日、どんな表情で過ごすことになるのか、おおいに注目してみたい。

●11R 菊地の胸騒ぎと微妙な空気、そして西島の笑顔
_u4w0138  西島義則が前付けに動くのは、全員が想定している。だが、「ゆるめたように見えたので、自分もゆるめてしまった」ことで、菊地孝平はあわててインを主張する動きとなってしまった。ピットからは新ルールに抵触するギリギリのラインに見えて、騒然となった。
 菊地が逃げ、西島が差したことで、当事者二人のワンツー決着。深い進入を二人ともよくもたせた……と言いたいところだが、ピットには微妙な空気が漂った。
 待機行動違反を採られるのではないか……。
 出迎える静岡勢も、素直に喜ぶことができない。笠原亮と仲口博崇が、首をかしげながら確認し合ったりもしていた。西島を出迎える中国勢も同様。辻栄蔵が敗れてしまったこともあるのかもしれないが、とるべき態度を探しあぐねているようにも見えた。それ以外の面々も同じ。3着で入線した山本隆幸には繰り上がりの可能性もあるわけだが、出迎えたメンバーがそれを露骨に望むわけにはいかないし、またそうした発想もないであろう。
 リフトに収まった菊地は、静岡勢を見上げて「セーフ?」と、アクションだけで訊ねている。しかし、出迎えた面々も確たる返答はできない。
 11R後には、地上波テレビのインタビューが行なわれているが、すぐにスタンバイした西島に対して、菊地はなかなか会場にあらわれなかった。リプレイを見れば、おそらくはセーフのはず。しかし、それはあくまでもリプレイの映像。安心はできない。ようやく菊地が姿をあらわしたとき、ピットに安堵の空気が流れたような気がした。

2009_0724_0577_2  優勝戦は奇しくも菊地1号艇、西島5号艇と、同じ艇番を背負うことになった。
「菊地も今日は失敗したと思っているだろうから、明日は頑張って主張してくるだろう」
 会見で西島はそう言った。
「インから行きたいか? いえいえいえ、インから行きたいじゃなくて、インから行きます」
 菊地は会見でそう宣言している。
 明日も二人の駆け引きが見ものだ!……と言いつつも、二人ともジョークで締めくくっているのだが。
「まあ、カマシはありません(笑)」(西島)
「明日の朝、西島さんの肩でも揉んでおきます(笑)」(菊地)
 西島に対しては「そりゃそうやろ!」、菊地に対しては「そんなわけないだろ!」と突っ込みたくなったが、意外とお茶目な菊地孝平だから、宿舎では西島先輩をマッサージする菊地の姿があったりするのかもしれない。ま、それでも西島はインを狙ってくるだろうけど。

 菊地の会見が終わって記者席に戻ろうとしたら、ちょうど湯川がJLCのインタビューを受けていた。それをそばで待っていたのが信一郎。インタビューが終わり、信一郎が「さ、帰るぞ」と湯川を促すと、湯川は「明日は二人でワンツーします」と言った。すると信一郎は「(自分を指さして)ワン(湯川を指さして)ツーはないけど、(湯川を指さして)ワン(自分を指さして)ツーはあるで」と笑った。湯川はなはははと笑ったあと、付け加える。「ま、ゴンロクもあるけどな!」。優出同門コンビの漫才かい! と突っ込みたくなったが、僕もつられて爆笑するしかできなかった。(PHOTO/中尾茂幸=飯山、湯川、西島 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)


| 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント

奇声を発する服部サマ、いつもはクールな服部サマのファンには見せないおチャメな姿、ああ、見たかった。くっそぉ、自分達だけそんな服部サマの姿を目にして喜んでるなんて…o(><)o許せな〜いっっ!!変なテンションの服部サマ、私も好きだぁ〜っ!!!

投稿者: 月ちゃん (2009/07/26 0:39:05)

月ちゃんの言うとおり!
ファンはピットに入れない。だから最高にうらやましい。
だからこのレポートは最高に貴重。
クロちゃんグッジョブ。読んでて胸が熱くなった。
やっぱりアンタにしか書けないよ。
内池には荷が重すぎる。学生が背伸びして書いてるみたいな作文はもう読みたくない。
クロちゃん、大変だろうけどあと一日がんばってくれ!

投稿者: ももざくらちゃん (2009/07/26 3:40:40)
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません