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ボートレース特集 > THEピット――豪雨
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――豪雨

2009_0721_0190   11R前に振り出した雨が、11Rが終わると土砂降りになった。そのとき、係留所には松本勝也、田中信一郎、太田和美、原田幸哉のボートが。エンジン吊りを終えた彼らが駆け足で自艇に向かうと、雨はいっそう強くなる。試運転OKの緑ランプが点滅して、水面に飛び出していった4名。そのときは、こんな遅くまで、しかもめちゃくちゃな雨の中、若手の時期などとうの昔に過ぎ去った実績者が走っているのを見て、心の中でひれ伏していた。
 試運転タイムが終了して、手早くボートとモーターを片づけている彼らを眺めている間も、こちらはただただ敬服の念を抱いている。偉いなあ、この努力が報われるといいなあ……。そのとき、係留所の屋根となっている幌を叩く雨音が、強烈な音を立て始めているのに気づいた。
2009_0721_1103  な、なんだ、この暴力的な雨は!
 ゲリラ豪雨だぁ、とか、スコールだぁ、とか、関係者は口々に言っていた。でも、そんなレベルの雨ではない。何しろ、対岸のビジョンが見えないのだ。まるで世界中から集めてきた水を、北九州の空の上からマシンガンで猛乱射しているかのような殺人的豪雨。水面は激しく波立ち、雨音はドラムを叩いたかのような轟音。全員が巨大なシャワールームに閉じ込められたかのように、視界はぼんやりとしていた。
2009_0721_0531  思い立ってペラ室を覗きに行く。若松のペラ室は、水面側に大きな窓が設置されていて、コースの様子が見えるのだ。ところが、さすがの猛者たち、ペラ調整に集中していて、窓の外を見ている選手は一人もいない。試運転を終えた原田幸哉と横西奏恵は、展示を終えてペラ室に顔を出した瓜生正義と大口を開けて大笑いしている。ペラ室にはカンカンと木槌の音が響いているから、雨音も届かないのだろう。なんとなく感心して、ペラ室の前を離れた。
2009_0721_0268  すると、ドリーム1号艇の菊地孝平が、空を見上げている姿を発見した。目が合うと菊地は、思い切り顔をしかめてみせる。そりゃそうだ。こんな天候の中、菊地は人気を背負ってドリーム戦を戦わねばならないのだ。大時計が見えるかどうかすら懸念される状態なのだから、不安になるのが当然というものだ。まあ、この状態のまま発走させるとは思えないけれども、いずれにしてもドリーム出走組にとっては胸騒ぐ雨に違いない。
2009_0721_0123  菊地が出走待機室に入っても、まだ雨の勢いは衰えない。ひゃあ、えらいこっちゃ……と一向に止む気配のない雨を見つめていたら、ニコニコ顔の石川真二があらわれた。水面際にしゃがみ込んで、水面を眺める石川。……なんだか嬉しそうである(笑)。「なんか、綺麗ですよねえ」と笑う石川。そう言われて照明灯に目をやると、わぁ、ライトに照らされた雨が、なんかオーロラみたいだぁ……。思わず我を忘れて、石川とともに不思議な景色を眺める。だはは、我々はこの雨の中で走るわけではありませんからな、まったくもって気楽なもんである。
2009_0721_0351  それにしても、ドリーム戦はいったいどうなってしまうのだろう。このままなら発走時刻が遅れるかもしれないし、しかしいつになったら殺人的豪雨は勢いを弱めるのだろう。引き続き水面を眺めていると、装着場に選手の気配を感じる。角谷健吾だった。角谷は、関係者が大騒ぎしている豪雨など気にするそぶりも見せず、ひたすら濡れたボートをタオルでこしこしと磨き続けていた。レース後に相棒をいとおしむかのようにボート拭きしている選手はよく見かけるが(今節でいえば、今垣光太郎や笠原亮など)、角谷もその一人だったか。それにしても、周囲の空気との間に見えない殺人的豪雨を降らせているかのように、集中して相棒を愛撫する角谷には、どこか神々しいオーラが見えたものである。
2009_0721_1111 と、角谷に感心している間に、雨は少しずつ勢いを弱めていた。視界も開け、雨音は小音量となり、まだ雨粒は大きく見えるけれども、レースに支障はなさそうだ。やがて、乗艇の合図がかかり、ドリーム戦士たちは出走ピットに向かい、発走の合図で水面へと飛び出していった。待機行動中にまた雨音が大きくなったりもしたけれども、スタート事故もなく、ひとまず無事にレースは終わった。菊地孝平は1Mで差されたけれども、2Mで逆転。レース前のしかめ面は、杞憂の中に溶けていった。
2009_0721_0599  レース後、ピットに引き上げてきた6名は、全員がびしょ濡れだった。後方を走る選手が先行艇の水しぶきをあげて濡れているのは毎レース見られる光景だが、先頭を走った菊地も、いったんは先頭に立っていた松井繁も、同じようにびしょ濡れ。つまり、土砂降りの雨に打たれた姿だ。1Mは差し抜けながら、2Mでまさかのターン漏れ、菊地に逆転を許している松井は、なぜかニコニコ顔でピットに上がってきた。勝とうが負けようが、レース直後にこんな表情を見せる王者を見たことがない。その笑顔は、前検では苦しかったアシ色を戦えるまでに仕上げてレースに臨めたことの満足感だったのか、それとも2Mで差されたことへの苦笑だったのか。あるいは、どえらい環境でレースを無事終えたことへの安堵を含んだ「マジかよ?」的な笑いだったのか。なんとなく一番最後が正解のような気もするが、ともかくヘルメット越しの松井の笑顔には驚かされた。もちろん悔恨がないはずはないが、松井が笑ってるんだからこちらも笑えばいい。ひどい水面状況できっちりとレースを成立させた彼らへの敬意とともに、また安堵とともに。
 ともかく、真夏の大椿事でありました。ドリーム6戦士よ、ご苦労様!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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