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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――静

 妙に静かなのである。天候一変の2日目、さぞかし選手たちは調整に追われてるだろうなあと想像しつつピットに入ったのだが、これが完全に肩透かし。装着場も整備室もしーんとしている。
2009_0721_0841  もっとも、早い時間帯には慌ただしい空気だったことを示す痕跡のようなものはある。試運転係留所が満艇状態なのだ。手早く調整して着水し、実際に走って手応えを確かめる。そうすることで今日の環境に適合させようとしたのであろう。そんな係留所をしばし眺めていたら、王者が走って係留所に降りていった。松井繁も走る、夏の晴れた昼下がり、である。
2009_0721_0135  整備室には一人だけ、選手がいた。辻栄蔵である。静まり返った広い整備室に、辻栄蔵が独りぼっち。選手紹介では「気合入れてしゅーしゅー言いながら」と言っていたが、整備室での辻は別にしゅーしゅー言ってなかった。当り前か。3R前には整備を終えて水面に出ていった辻と入れ替わるように整備室に入っていったのは田村隆信。2009_0721_0852 今度は田村がしばし独りぼっちでピストンを外すなどしていたが、すぐに松本勝也もやって来て、さらにレース後の格納作業を行なう選手も数人、整備室は少しずつ賑わいを増していった。
 2Rで高沖健太が水神祭をあげている。SG初参戦で、2走目の勝利。ところが、これまた静かなレース後、であった。湯川浩司や田村隆信ら同期もエンジン吊りでボートリフトには来ているのだが、声をかけるチャンスはなかなか生まれない。東海勢が高沖を出迎えるものの、三重支部は他におらず、それもあってか歓声も拍手も発生しないのである。真っ先に出迎えた笠原亮がニコニコと笑顔を向けてはいたが、SG初1着の祝祭ムードはそこにはない。高沖も小さく笑みを浮かべるのみ、だった。エンジン吊りが終了したあとに湯川が祝福の声をかけて、高沖はようやく特別な笑顔を見せたが、水神祭らしい雰囲気といえばその程度であった。やっぱり妙な静けさである。

2009_0721_0879  3R発売中、ふたたび静寂に包まれた装着場。そのなかで一人、丸尾義孝がモーター装着作業を始めた。黙々と、そして微細な部分まで丁寧に、モーターをボートに取り付けている姿には、ベテランらしい風格がある。この作業には、けっこうな時間を費やしていた。それほど、丁寧に慎重に装着していたのである。このあたりの作法というのは本当に人それぞれで、素早く装着して水面に飛び出す者もいれば、ミリ単位にこだわる者もいる。丸尾はまさに後者のようで、他に音のない装着場で着々と自身の仕事を続けるのであった。
2009_0720_0433  水面際に向かおうとすると、えらく静かな雰囲気の男とすれ違った。森高一真だ。森高がこういう空気を醸し出す時は、とてつもない気合を腹の底にたたえているときだ。普通なら、すれ違いざまにちょっかいを出してくる男なのだから。こうした森高を目の当たりにするのは、清々しい気分にさせられるものだ。4R前には、ペラを手に装着場へと降りていく姿も見かけている。そのとき、横西奏恵がちょっかいを出した。森高の進路に立ちはだかって通せんぼをしたのだ。ところが森高は、口元に軽く笑みを浮かべただけで、横西の肩をちょこんと払って、静かに係留所に降りて行った。横西も、ちょっと肩透かしを食らったような表情になっていた。
 静かな闘志。森高一真には、それが似合う。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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