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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――先輩と後輩

2009_0801_0092  整備室を覗き込むと、ぱっとひまわりのような笑顔が目に飛び込んできた。瓜生正義である。
 出入口至近の場所にいた瓜生との距離は、ほんの2~3m。とはいえ、ガラス窓を隔てているので、こちらの醜悪な顔を気にした様子はない。というより、瓜生はその笑顔を、モーターを挟んで話しかけていた後輩の長野壮志郎に向けていたので、凶悪な顔が覗き込んでいようと気にもかけるわけがないのだ。
 それにしても、まるで何かを訴えかけるかのように話しかける後輩に、瓜生が見せていた笑顔は菩薩のようですらあった。もし僕が選手だとして、瓜生と同じ節に斡旋された後輩だとしたら、こんなにも心強いことはないであろう。そして、得るものも多いはず。長野がいつまでも瓜生との会話をやめようとしないのも道理である。
2009_0801_0393  その長野が、篠崎元志とともに食堂に消えていき、1分ほど後、缶ジュースを手に装着場のスミの喫煙所へと吸い込まれていった。すると、整備室から出てきた瓜生が、長野を大声で呼んだ。詳しい中身はわからないけれども、雰囲気としては瓜生が整備室で長野に何らかのアドバイスを送るために呼び寄せようとしたようにも見えた。ところが、喫煙所から姿を現わした長野の手には缶ジュース。それを視認したのかどうか、瓜生は自分のほうからスタスタと喫煙所にやってきて、福岡三者で一休み、となったのであった。後輩2人のいる喫煙所に入っていく時の瓜生の顔は、やっぱりひまわりのような笑顔であった。

 9R、4着に敗れた一宮稔弘の表情はやや硬く見えた。この4着で、明日の1回乗りで1着を獲っても得点率6・00には1点足らず。まあ、一宮がそこまで計算してレースに臨んでいたかは確認できていないので、それに気づいたこちらの先入観が、一宮の表情を厳しいものと感じさせたのかもしれない。
2009_0801_0057  その一宮に寄り添ったのが、濱村芳宏である。黒いカポックの右側にとりついた濱村は、控室へと向かう一宮の歩調に合わせて隣を歩き、会話を交わし続けていた。よくある同郷同士のレース後、と言われればその通りだが、しかし濱村の一生懸命に話そうとしている様子には、それ以上のものを感じざるをえなかった。
 10R後には、宮武英司に寄り添う濱村の姿も目撃している。宮武はいったん立ち止まって、濱村の言葉に耳を傾けていた。宮武は香川支部だから直接の後輩ではない。だがまあ、四国という括りで考えれば、遠縁の親戚と言えなくもない。濱村にとって、かわいい後輩であることには変わりはないのだ。宮武の表情がみるみる柔和になっていくように見えた。

2009_0801_0155  ボートリフトの手前、ペラ室の出入口の前あたりで、白石健が何度も何度も首をタテに振っていた。キビキビというか、力強くというか、肯く首の上下は相当に大きい。相手は松本勝也だ。シラケンは4R1回乗りの後も、遅い時間帯まで延々と試運転を続けていた。12Rに出走する松本と足合わせをしたのであろう。そこでの手応え、あるいはアドバイスを、松本はシラケンに話していたようであった。
 まっすぐに松本へと向けられた視線は外れることがなく、松本もシラケンの視線を真っ向から受け止めて、言葉を重ねていっていた。シラケンは時折、遠目にもわかるほど丁寧なしゃべり方で返答し、松本はさらに熱っぽくシラケンへと言葉を投げかけた。一通り話が終わると、シラケンは丁寧に頭を下げる。松本は、ひとつ小さく肯いて、シラケンと別れた。
2009_0801_0753  10Rが終わると、まるで子供がお母さんを見つけたかのように、馬袋義則が松本に駆け寄っている。松本のふるまいは、シラケンに対してのものと同じだ。松本にとって、後輩は等しくかわいい弟分なのだろう。松本は、誰が見たって親身に接しているのがわかる姿勢で、馬袋と会話を続けるのだった。
 兵庫勢がこうして松本のアドバイスを受けているシーンは、たしか一昨年の住之江笹川賞でもよく見かけ、感心していた記憶がある。松本の親分肌は、きっと兵庫勢の精神的支柱となっていることだろう。
2009_0801_0029  などと考えていたら、松本が風のようにボートリフトのほうへ駆けていく姿が視界に入った。11R前。松本は展示ピットにボートを移して、あとは展示&レースを待つのみという時間帯。リフトには、この時間まで試運転を続け、ようやく終了して陸に上がって来たシラケンがいた。松本はエンジン吊りへと走ったのだ。近くにいた馬袋とともにモーターを架台に乗せ、しばしシラケンへと言葉をかける松本。松本がひとつ肯いて背を向けると、シラケンは松本の背中に向けて深々と頭を下げていた。

2009_0801_0744  10R1着のレース後、何よりもまず服部幸男に声をかけていた笠原亮。10Rから帰還した田中信一郎を出迎えて言葉を交わす湯川浩司。同県ではないけれども、2009_0801_0447 その田中信一郎に「(エンジン吊り)ありがとう」と声をかけられ、微笑を浮かべる吉川昭男。などなど、先輩と後輩のシーンがやけに目についた3日目後半のピットであった。我々のような稼業では、こうした関係性というのが決して濃密とは言えないだけに(本当はH記者なんて大先輩なんですけどね)、ときどき見かけるこうしたピットの風景には、ちょっとした憧れを抱いたりもするわけだ。
2009_0801_0144  というわけで、さらに無理矢理こうしたシーンを探し出してやろうとして、安達裕樹と新田雄史がコンビでいたりはしないかなあ……などと無茶苦茶な考えでピットを眺めまわしていたが、残念ながら発見できなかった。そんな都合のいい予定調和がそうそうピットに落ちているわけがない。自分のアホさ加減を呪っていると、うわっ、安達裕樹が単独であらわれた。ちょっと驚いていると、安達は口元だけでニヤリと笑って、軽い会釈をしつつ去っていったのであった。妙な考えにとらわれている自分が恥ずかしくなりました、はい。

2009_0801_0705  先輩後輩のシーン以外で印象に残ったといえば、松下一也と松村康太がたけし軍団ユニフォームを着ていたことかな。特別、二人の絡みを見たわけではないけれども、相変わらずの結束力の強さに感心。11Rの展示後、松村は喫煙所で物思いにふけった表情でタバコを吸っていた。これがまた、味わいのある風情であった。2009_0801_0280 松村をピットで見るのは新鋭王座くらいしか機会がなかったが、普通の記念に入ってもこんなにも存在感を発揮できる男だったか。明日は厳しい勝負駆けになりそうだが(1R5号艇)、ちょっと注目してみよう。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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