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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――ストレートに伝わってくる感情

 こんなにも、レース後に渋い顔ばかりを見た優勝戦は初めてではないだろうか。
 5名の悔恨が渦巻く、SG優勝戦直後のピット。それでも、サバサバしている者もあれば、充実感が伝わってくる者もあり、必ずしも重苦しいばかりではない。胸の内に負の感情を燃やしていたとしても、人は笑顔になれるものだし、それはSGレーサーも同じこと。悔しさを紛らしているのか、本当にやることはやったのだと納得しているのかは人それぞれでも、これまでのSG優勝戦ではいつもいくつかの笑顔を見てきたと記憶している。
 しかし……。
_u4w5882  いちばん印象的だったのは赤岩善生だ。表情が凍りつくというのは、こういうことを言うのだろう。硬直しているとしか言いようがない、動きのない顔つきは、正視するのもためらわれるものだった。それがこの一戦に懸ける思いの大きさをあらわしてもいるのだが……。レースを終えてからモーターを返納するまで、赤岩の表情は痛々しいほど、ほぼ固まったままだった。
 真っ先に返納を終えたのも赤岩である。まるで辛酸をすべて吹っ切るかのように「ありがとうございました!」と野太く大きな声で言い放ったものの、表情はまだ変わらない。取り返しのつかないことをしでかしてしまったかのように、赤岩はただただ顔をフリーズさせたまま、ピットに背中を向けて去って行ったのだった。
_u4w5893  白井英治のツラそうな表情も忘れられない。返納のあとに整備室内のモニターを見上げた顔つきは、沈痛の一言。その周りを菊地孝平と坪井康晴が囲んだことから、一瞬、笠原亮の落水に絡んだのかと勘違いしてしまったほどだ。つまり、そういう顔を白井はしていた。この世の後悔をすべて背負ってしまったかのような表情、である。
 これまでに白井の優勝戦での敗戦には何度か立ち会っている。だが、ここまで苦渋の表情を見た記憶はない。SGにもっとも近い男と言われ、自覚もし、何度も王手をかけて、今日以上にチャンスの豊富な局面もあったはずである。だというのに……たぶん今まででもっとも悔しい敗戦だったというのか。それとも……。
_u4w5903  白井が事故に絡んだというなら、むしろ山崎智也である。その智也もまた、蒼ざめたような表情を見せていた。転覆し、救助艇で帰って来た智也は、係留所に降りながらもなお救助艇のなかを覗き込んでいる。落水し、同じ救助艇で運ばれてきた、笠原亮を気にかけていたのだ。「笠原くんに迷惑をかけた」とのコメントがあるように、二人の転覆と落水には因果関係があった。それが智也の胸を強く締めつけた。笠原は、救助艇から担架で運ばれているのだ。敗戦への悔恨より、罪悪感が心を占めたとするならば、智也もまた気の毒である。
_u4w5805 笠原は、救護室に運ばれたあとは、自力で起き上がっている。本当は救助艇からも自力で降りたかったようだが、左臀部あたりを打撲しているようで、うまく起き上がれなかったようだ。救護室から出ても、尻のあたりを気にして歩きにくそうにしている。「なんか、大袈裟になっちゃってすみません。大丈夫ですよ」と口にはするものの、しかし痛々しい……。笠原は、足をひきずりながら整備室に向かい、関係者に謝罪をして回っていた。
 整備室から戻った笠原と、智也が競技棟の入口で顔を合わせた。智也は、ものすごく悲しそうな表情で、笠原に頭を下げた。笠原としてはまったく禍根は残していないだけに、否定するのに必死だ。しかし智也は、「迷惑かけちゃって」と言葉を重ねた。笠原が、こちらこそすみません、と言いながら控室に向かう。智也は心配そうに、笠原の後ろ姿を見ていた。

_u4w5885  そうしたなか、切り替えがもっとも早かったように見えたのが、意外なことに松井繁だった。ピットに戻ってきた際の顔には、ハッキリ言って、たじろいだ。ヘルメットの奥で、憤怒の表情をしていたのだ。明らかに、敗戦に対して憤っている。もちろん、自分に対して、なのだろう。ヘルメットを脱いだ時には、鬼の形相は消えていたが、僕は間違いなく王者の怒りの表情を目の当たりにした。そしてビビった。
 ところが、モーター返納をしていた松井は、湯川浩司らと語らいながら、笑顔すら見せていたのである。もちろん、心からの笑顔というわけにはいかない。苦笑混じりとなるのは、当たり前だ。だが、SG優勝戦で敗れたときの松井は、いつだって一人、悔恨を噛み締めていた。それを思えば、少し不思議な光景だと僕は訝しく思った。僕はしばらく、今日の松井の様子については考え込むことになるだろう。そして、これも王者の理由を知る手がかりになっていくのだと思う。

_u4w5911  最後に、勝った池田浩二。当然のことながら、ただ一人、歓喜に頬をほころばせていた男である。ウイニングランから戻ってきたあとは、ひたすら笑顔だったし、原田幸哉とハイタッチしたあとは、「ツイてた」とばかりに口元に手を当てて、噴き出し笑いのような仕草も見せていた。もともと池田は勝利時の感情表現はストレートな男。それが仲間を笑顔にすることをよく知っていて、エンターテインメントとしてそうするのだ。準優1着後も、派手なガッツポーズで周囲をも笑わせていたが、この優勝戦後もようするに原田を笑かそうとしていたのだと思う。
_u4w5907  そんな振る舞いは、当然、見ているこちらにも気分を伝播させる。それまでツラそうな顔ばかり見ていた僕は、そのときようやくピットを後にする決心がついたのだった。
 とにかく感情がストレートに伝わってきた。勝者も敗者も。そんな優勝戦だった。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)


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