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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――6日目は特別であって特別でない

_u4w5612 1Rを勝った湯川浩司に、井口佳典がからかうように声をかけて笑う。「なんで最後にウンヌンカンヌン……」、ハッキリとは聞き取れなかったが、最終日に1着獲りやがって的な会話のようだった。
 2Rで敗れた平山智加が、放心状態にも似た表情で立ち尽くしている。最後の最後まで不本意な成績。やるせない思いと悔しさとちょっとした解放感と、いろんな思いが渦巻いているのだろう。
 やはり2Rで敗れた森高一真は、自艇のカウリングに寄り掛かると、大汗をかきながらジッと何かを考え込んでいる。激しい陽光などまるで意に介することなく、眉間にしわを寄せて、一点を見つめて動かない。
2009_0829_0083  3Rを勝った三井所尊春に上瀧和則が歩み寄って声をかけると、三井所は嬉しそうに目を見開いて耳を傾けた。大先輩にほめられるのが嬉しくて仕方がない、といった感じの明るい笑顔。
 最終日、優勝戦出場メンバー以外の者たちも、精一杯戦い、さまざまな感情でレースを終える。すべての先入観を取っ払えば、この日が予選道中だといっても信じるだろう。たったの6名だけが特別な戦いに挑む、6日間のなかでもっとも特殊な一日とはいえ、ピットに渦巻く勝負模様は何も変わりはないのだ。

 だからこそ、6名の動き、醸し出す空気はひときわ特別性をもって、見る者に伝わってくるのかもしれない。
2009_0829_0172  笠原亮が、ペラ室に閉じこもって調整に励んでいる。ただし、今日はペラ室の奥のほうにある、工作室というべき場所に笠原はいた。ここで主役となる道具はハンマーではなく、ヤスリなどの工具。通常、ここで選手の姿を見るのは中盤戦が圧倒的で、ペラを大胆に叩き変えて活路を見出そうとしている場合が多い。そこに、優勝戦の朝(というか昼)からこもっている笠原亮。彼はどんな決意をして、その場に身を置くことを決めたのか。
_u4w5129  赤岩善生は、モーター装着を時間をかけて行なった後、整備室の住人となった。装着後、なのだから、本体整備のわけがない。赤岩が始めたのはペラ磨き。壁際のテーブルに腰かけて、一心不乱にペラを愛撫する。以前、笠原が「ペラを磨くと何が違うか? 気持ちが違います」と語っていたことがある。赤岩も、気持ちを完全に仕上げるために、その作業を選んだのか。刻一刻と精悍さを増していく表情は、磨き上げられたペラの翼面にどう映し出されていたのだろうか。
_u4w5603  こちらの姿に気づいた瞬間、白井英治は目を見開き、そして笑った。会った途端の白井がこんな表情を向けてくれるのは、初めてのような気がする。今日の僕には、使命があった。白井の“弟子”であるH記者が、メモ用紙に白井へのメッセージをしたため、それを託されていたのだ。白井にそれを渡すと、白井の笑顔はさらに深く、明るくなった。H記者は、白井への思いを“詰将棋”のかたちで表現していたようだった。白井が「この詰将棋、わかります?」と嬉しそうに僕に見せる。それから、この詰将棋の要点がどこにあるのかを、白井はイキイキと解説してくれた。ほほぉ、と感心するこちらに、白井は頬にキュッと力を込めて、言った。
「しっかり伝わりました」
 H記者の思いが悲願につながるなんて、そんなことはありえないけれども、白井の決意に何らかの後押しをした、くらいのことは言ってよさそうである。

 装着場で姿を見たのは、以上外枠3名である。
_u4w5453 山崎智也には、競技棟への入口で顔を合わせた。どうやらエンジン吊りからの帰りらしく、そのまま控室へと向かっていたようだった。
 目が合ったので、どもっ、と小声で挨拶をする。智也は口元に微笑をたたえて、ぺこりと会釈を返した。ただし……智也はなぜか、目をそらした。悪い意味でそらしたのではない(と思う)が、少しだけ気になるそぶりであった。智也と言葉や挨拶をかわしたことは何度もあるが、たぶん初めてのことだったと思う。
_u4w5410  松井繁は、いつも通りの堂々とした振る舞いである。こういうのを王者の態度というとか、やはりオーラが違うとか、言おうと思えば何だって言えるけれども、あえてそういう書き方はやめておこうと思う。それくらい、いつも通りの松井であったし、もはや特筆するようなことではないだろう。
_u4w5523  で、ついぞ姿を見ることができなかったのが、池田浩二である。チャーリー池上カメラマンによれば、キャスターさんらに取材を受けていたというが、僕はそれを見落としてしまっている。結果、いちども池田を視認できなかったのである(ようするに、作業は早い時間にはまだ始めていない)。もっとも余裕がある……などと決めつけるわけにもいかないが、不気味であることはたしかだ。(PHOTO/中尾茂幸=三井所、笠原 池上一摩 TEXT/黒須田)


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