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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――ベスト6

2009_0829_0497 「くわぁぁぁぁぁっ! 悔しいっ!」
 笠原亮が、僕の顔を見るなり、言った。
 しかし……いつもの「悔しいっ!」とちょっと違う、と僕は即座に思った。
 充実感が、表情から読み取れるような気がしたのだ。
 たとえば、総理杯の準優(1号艇1コース)で田中信一郎にマクられたとき。2着には残して優出したというのに、すべてが終わったかのような蒼ざめた表情を見せていたものだ。浜名湖ダイヤモンドカップの優勝戦で池田浩二のマクリ差しを浴びたとき。「相手が一枚上だった」と自分の力不足を嘆いた。昨年のチャレンジカップ優勝戦でSで後手を踏んだ時には泣き出しそうな顔をしていたし、賞金王シリーズ優勝戦でSが行けずに敗れたときにも顔を紅潮させて悔しがっていた。
 敗れたときには全力で悔しがる。それが笠原亮。そうしたピュアな振る舞いは、彼の強さだと信じてもきた。
 そうした顔つきとは、今日は明らかに違っていた。そう思う。
 4カドからゼロ台のスタートを決めて、マクった。しかし差された。自力で展開を作った点において、これまでの悔しい大一番とはレース自体が違っていたのはたしかだ。マクれば差し場を提供するのは競艇の宿命。それは決して評価を下げることではありえない。もちろん、1着でなかったことは悔しい。勝ち筋をいち早く見つけていただけに、残念極まりない。だが、それでも力を出し尽くしたという手応えが彼にあったのなら、その充実感は知らず知らずのうちに、体からこぼれ出るものだ。
 笠原亮は最高の悔しがり方をした、と僕は思う。

2009_0829_0696  天に拳を突き上げる。
 ボートリフトがずんずんとせり上がり、装着場からも姿が見えた瞬間、大見得を切ってド派手なガッツポーズ! お前は歌舞伎役者かぁぁぁぁっ!?
 池田浩二というのは、こんなヤツなのである(笑)。
 ようするに、存在そのものがエンターテイナーなのだ。といっても、それを示す相手はもっぱら選手仲間である。出迎えた原田幸哉らを笑わせようとして、大げさなポーズをとる。こうした姿をもっともっとファンの前でもさらけ出してくれたら面白いのに。
 共同会見では、いきなり「他力です(笑)」と切り出して、笠原のマクリに乗っての差しを自嘲気味に表現していたが、しかしこうした展開を突くテクニックは彼の真骨頂でもある。機力的な手応えは総理大臣杯(優勝後も「アシは良くなかった」と言っていた)とほとんど同じだと言うが、会見での言葉数は総理杯のときよりずっと多かったように思う。
 つまり、ゴキゲンなのだ。
 レース直後、カポック脱ぎ場に戻って来て、池田は菊地孝平や山本浩次の頭越しに、笠原とアイコンタクトを交わしていた。そしてニヤリ。その時点で相当にゴキゲンだった。いや、あのガッツポーズのときにえらくゴキゲンだったんだよな。
 気づけば、ゴキゲンの池田浩二しか僕は見ていないのだった。

2009_0829_0783  思い切り苦笑いしていた。
 そりゃあそうだろう。狙いすました差しを突き刺しておきながら、2Mで逆転を喫してしまった。赤岩善生としては、まずは苦笑いを浮かべるしか、ほかに表情を作りようがない。
 ボートリフトの手前で、先にリフトに収まっていた山崎智也が、右手を掲げて「ごめん」の仕草をした。赤岩は苦笑いしながら、ぜんぜん、ぜんぜん、と智也の謝罪を否定している。そりゃあそうだろう。智也が無法な走りをしたわけではないのだから、赤岩としては自分を責めるしかなかったはずである。
 それでも、相当に悔しくはあったのだろう。勝利選手インタビューへと向かう智也に、「赤岩さんのおかげです、って言って」と無法な要求(笑)をしていた。智也としては当然、やなこった、となるわけだが、悔し紛れの一言くらい勝者にかけてもいいだろう。
 その赤岩が、共同会見では中澤和志への思いをアツく語った。初日の選手紹介でも名前を出して「彼の分まで」と誓っていた赤岩は、「明日は有言実行するために走る」とまで言っている。もともと、男の中の男、赤岩善生だ。男気パワーが最高にチャージされた状態で臨む明日の優勝戦は、もしかしたらもっとも怖い存在と言えるかもしれない。人は何かを背負うことで強くなれる。明日の赤岩は間違いなく、強い。

2009_0829_0625  なんとなく笑顔が弱い気がした。
 もっとも、この男は悔しいときほど笑ってみせる男だ。07年賞金王シリーズ以来のSG優出。山崎智也としては、ホッとした思いのほうが強かっただろうし、意外なほど薄い笑いが彼の本質なのかもしれない。
 赤岩に差された1Mを会見で問われて、「とりあえず2等になれそうだな、と思っていた」と語っている。「やっとペラが合ってきた感じがする」という智也は、このMB記念を猛反攻の端緒としたいと考えていたのだろう。そのためには、何よりまず優出。おそらくそのまま2着であったとしても、レース後の智也は同じ表情を見せたのではないか、という気がした。
 レース後、赤岩とはずいぶん長い間、レースを振り返り合っていた。焦点はおそらく1周2Mだったはずだが、赤岩がややターン漏れしていたとはいえ、智也としても会心の差しではあっただろう。
「久々なんで、楽しいです」
 そう笑って会見を締めた智也は、ようやくSG優勝戦を思い切り戦える喜びに満たされているはずだ。たとえ笑顔が深くなかろうとも。いや、深くないからこそ、その見立てに確信を抱く。

2009_0827_0640 「いいメンバーが揃ったんで、こういうところで勝ちたいですね」
 白井英治はハッキリと言い放った。共同会見で、「SGにもっとも近い男と言われますが」と尋ねられて、「そうですね」と即答している。この自意識が素晴らしい。そして優出メンバーを見渡し、自分以外の5選手がすべてSGウィナーであることを確認すると、この強豪メンバーだからこそ勝ちたいと言う。自分が“そういう”選手であることを少しも疑っていない口ぶりは、本当に気持ちいいものだった。
 それでもレース後は、少し厳しい表情を見せていたものである。1Mは濱野谷憲吾に先行されており、これを逆転しての優出。それが嬉しいということよりも、1Mで失敗していることへの悔恨とも受け取れる、そんな顔つきである。もっとも似ていたのは、笹川賞の準優で敗退し、優出を逃したときの表情だった。優出が決まったからには、力強い宣言をする。しかし、敗れたこと自体には納得がいかない。勝負師の顔、だった。
 ひとまず、SGタイトルに王手はかけた。あとは詰み取るだけ。それを可能にさせる勝負師の表情を明日見ることができるか。それがひとまずは注目点だ。

2009_0829_0794  もはや何を語ればいいのかわからん。
 予選1位、準優1着、優勝戦1号艇。
「自分が失敗しない限りは、と思ってる」と松井繁は言う。王者がそう言うのだから、誰も否定ができない。そんな気分にさせられるほど、松井はしっかりと自分のペースを貫き、戴冠にもっとも近い位置を手に入れた。
 気分は相当にいいのではないか、という気がする。地上波テレビ、JLCと2つの勝利者インタビューを経てあらわれた共同会見。どこか不機嫌なふうにも見えるが、僕は見逃さなかった。質問者が、聞くまでもないっすよね、という雰囲気で「コースは……」切り出すと、松井はそりゃそうやろ、という雰囲気で「はい」と一言。そのとき、少しだけニコリと微笑を浮かべたのだ。今までの松井なら、淡々と受け流していた類の質問のはずなのに……。
 さらに、今節は久しぶりに前検からいい手応えだと語っていたことに対し、それまで悪かったのは自分のペラが悪かっただけだと言ったあと、「まあ、そのわりには粘ってるんじゃないですか」と言って、またニコリ。こんなふうに優出会見で笑う松井は初めて見たような気がする。
 まあ、語れることがあるとするなら、それくらいか。それほどまでに、松井には見上げるほど高い場所で安定している。しすぎている。

 最後に。12Rで敗れた川上剛が、レース後、真剣に悔しがっていた。初SGの初準優、でも本気で優出を狙っていた証だ。それは若者としてまったく正しい姿だと思う。たしかに敗者となったが、カッコ良かったぞ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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コメント

@nifty記者様。ご無沙汰しております。
最終日ですが私も予想参加させて貰いますね。
夏の最後の思い出に「星を掴もう」と思っとります。
宜しくお願いします。

投稿者: しげ爺 (2009/08/30 11:37:24)
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