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ボートレース特集 > 浜名湖ダイヤモンドカップ 優勝戦私的回顧
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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浜名湖ダイヤモンドカップ 優勝戦私的回顧

福島マジック!?

①福島勇樹(茨城)
②笠原亮(静岡)
③池田浩二(愛知)
④坪井康晴(静岡)
⑤今坂勝広(静岡)
⑥萩原秀人(福井)

 福島マジック。そう呼ぶべきなのだろうか。
 2M逆転差し。先行艇がターンマークを外し、すかさずその間隙を突く、そんなシーンが3日続いたのだ。
 4日目8Rは丸岡正典。5日目12Rは今坂勝広。6日目12Rは池田浩二。
 ターンに定評のある男たちが、魔に魅入られたかのように、ターン漏れをした……。猛烈なアシ色で背後に迫る福島勇樹の影におびえたわけでもなかろうに、ことごとく逆転Vロードを用意してしまった……。
 やはり、福島マジック、そう呼ぶしかないような気がする。

2009_0804_r12_0619  表彰式でのコメントによれば、福島は緊張していたという。ピット離れで遅れたわけではないが、小回り防止ブイに到達するまでにいったん笠原亮に前に出られている福島。笠原がこだわらなかったことで、1コースをキープすることはできたが、舳先をスタートラインに向けてからは舞い上がっているところがあったようだ。
 130mをやや入った地点からの福島の起こしは、明らかに早かった。白い引き波がボートの後部に立ち始めたのがほぼターンマーク起こしの2~3コースと変わらなかったのだ。スリットに近づいてもなかなか外との差がつまらない状況に、福島も気づいていたという。「緊張してしまっていて、起こしがぜんぜんわからなかった。そしたら、めちゃくちゃ速くて(苦笑)」
 終始ニコニコとおかしそうに笑っていた表彰式での福島が、不意に真剣な顔つきになったのは、まさにこのスタートについて振り返ったときだった。レバーを揉みながら必死でタイミングを合わせ、福島はコンマ14でスリットを駆け抜ける。早仕掛けだと気づいたこと、きっちり1艇身に合わせたこと、そしてスタート展示では萩原秀人以外ゼロ台だった外の艇たちがコンマ10~19にとどまったこと……この時点ですでに、福島には誰よりもツキがあったと言うべきかもしれない。

2009_0804_r12_0630  1マークを支配したのは、池田浩二である。これぞ池田浩二のスーパーテクニック。池田がハンドルを入れ、2コースの笠原の上を乗り越えていこうとする瞬間、スタンドでは若い女性ファンが飛び上がっていた。
 早仕掛けでスタートを合わせていた福島は、スリット後に持前の伸びを繰り出すことができずにいた。他艇に出し抜かれていなかったのが幸いだったが、それでも1Mの福島のターンはやや慌てたものになっている。焦った先マイは往々にして流れるもの。それを見た笠原が、ターンマークぎりぎりを狙って差しハンドルを入れた。福島の引き波さえ超えれば、その先には穏やかなバック水面が待っている。本来であれば、見事な差し技である。
2009_0804_r12_0635  しかし、池田が一枚上手だった。笠原にツケマイを浴びせるようなかたちで、笠原の艇の後部に別の引き波を作った。笠原はこれにずっぷりと乗る。2コース差しが流れる典型的なパターン。笠原にとっては相手が悪かった、そう言うしかない。
 笠原を沈めた池田は、そのままの勢いでバック水面に突き抜けていく。さっきの女性ファンがさらに何度も飛び跳ねる。ジャンプしながら、手を叩く。2番手になんとか残した福島との差は2~3艇身。その女性のジャンプは、あと2周半の間、続くもののように思われた。

 福島マジックが現出したのは、10数秒後のことである。盤石に見えていた池田が、わずかにターンマークを外した。スーパーテクニックの持ち主である池田が、まさかのミスを喫した。ミスといったって、大きなミスではない。ほんの些細なことだし、差を詰められる程度で済んでいてもおかしくはないものだ。
2009_0804_r12_0655  しかし、福島はそれを見透かしていたかのように、俊敏に初動を切っていた。一発目のハンドルは、おそらく池田より早い。ほんの数秒後におこることを予測していたような動きで、池田が外したターンマークぎりぎりを福島は旋回した。内から坪井康晴が突っ込んできていたが、思い描いた航跡を1ミリも漏らさずに駆け抜けた福島には届かなかった。
 ターンの出口で内に福島、外に池田とラップになる。こうなれば、福島のパワーはキレキレだった。スリットのはるか前で、池田を約1艇身、突き離したのだ。それでも池田は食らいついていた。2周1Mのターンは、惚れ惚れするほどに鋭かった。今度はターンマークをなぞるように放った渾身の逆転差しは、一瞬、福島を捉えたようにも見えたほどだった。
2009_0804_r12_0668  そして実際、池田の舳先は福島の艇尾をつかまえている。こじ入れることができれば、また違った展開になっていたことだろう。SG2Vのクールガイにとって、GⅠ未制覇のヤングガイをあしらうことはそれほど難しいことではあるまい。それをさせなかったのは、スリットから1Mでは失っていた冷静さを取り戻していたこと、そして超抜クラスに仕上がっていた相棒のパワーだった。つかまえたと思った福島の艇尾はあっという間に池田の舳先を引き離し、後塵を浴びせた。スーッ。そんな音が聞こえるくらいに、福島は軽々と池田を突き放したのである。先ほどの女性ファンはその瞬間、地べたに座り込んでいた。代わりに、目の前のおっちゃんファンが立ち上がって、壮快に笑った。
2009_0804_r12_0709  単走状態に入った福島は、もはや負ける要素がなかった。「並んでからは、僕のほうが機力は出ていたので、ちゃんと回れば大丈夫だと思った」と表彰式で語ったとおり、ターンマークごとに、もしかしたら直線でも、福島はじわじわと池田との差を広げていった。単走というよりは、もはや独走であった。

 それにしても……と冒頭に戻る。3日連続で炸裂した福島マジック。これは単なる偶然なのだろうか。福島のパワーを先行選手が警戒した。いやいや、福島自身の実力が彼らに認知され、ターンに余計な力が入ってしまった。もしかしたら、2Mに引き波が残っていた? あるいは、浜名湖の2Mには魔物が潜んでいる……さまざまな想像はできる。そして、そのどれもが確信をもてない。
 ひとつ言えることは、幸運があったからといって、この優勝がフロックであるわけはない、ということだ。
2009_0804_r12_0771  近況の絶好調ぶりは艇界屈指であること。蒲郡の記念でも優勝戦のレース展開を作っていること。そうした好成績はもちろんペラの好調とも比例しているのだろうが、「自分はこういうレーサーだ、という特徴のある選手になりたい」という思いが、そこに魂を吹き込んだのだと僕は思う。つまり、選手として一段高い意識をもったこと。そうしたことが、福島勇樹という男を記念レーサーにふさわしい男にしたと思うのだ。
 ましてや、浜名湖4連続優出で、これが3連続Vだそうである。福島勇樹は、このダイヤモンドカップにおいて、最初から本命の一人だったのかもしれない。
 福島マジックは、そんな背景から生まれた……といったら穿ちすぎだろうか。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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