この特集について
ボートレース特集 > THEピット――勝負駆けの日、選手は何を知り戦っているのか
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

THEピット――勝負駆けの日、選手は何を知り戦っているのか

2009_0828_0138  魚谷智之が突き抜けた瞬間、今垣光太郎は準優のイスから転げ落ちた。
 レース後、魚谷のエンジン吊りに今垣光太郎が加わっている。
 ……こうした明暗は、4日目には常につきまとう。何度も目の当たりにしていることでも、慣れることはない。18位以内を争うということはまさしくこういうことではある、それはわかっていても、なかなかに辛いことである。
 選手たちが得点状況をどこまで理解しているかは、さっぱりわからない。まあ選手によるのだろうし、局面にもよるだろう。そうした計算は報道陣のほうが細かくしているものであって(4日目には詳細な資料がレースごとに発行される)、かといってボーダーギリギリの選手に「崖っぷちっすね」なんて話しかけるのはおおいにためらわれるものだ。
 今日はプロペラの中間検査があって、レース後の選手たちはそちらに時間をとられたりもしていた。9R1着で6・00に到達した今垣も、まずは検査を受けるのが優先事項になっており、その様子を目撃はしたが、そのとき得点状況に関する思いが頭にあったとは思えない。どうやら自分が微妙な立場にいることは理解していたようだが、それ以上のことは結局よくわからなかった。
2009_0828_0631  同じくボーダー付近にいた飯山泰は、10R終了時点ではやはり相手次第でどうにでもなるポジションだった。それもあって、飯山は報道陣が持つ得点状況表にずいぶんと長い間、見入っていたものだ。遠目に見れば、飯山を報道陣が取り囲んでいる図だが、実際は飯山が報道陣を求めた部分も大きかっただろう。結局、11R後には準優安泰となっているのだが、それが決まるまでは状況を知った分だけ、気が気ではなくなった部分もあったのではないか。それでも、知ることができるのなら知りたくなるのが人間というもの、である。
2009_0828_0437  10R終了後に印象的だったのは、秋山直之だ。6着に敗れているのだから、仔細な得点を理解していなかったとしても、準優アウトだということはわかっていたに違いない。STがコンマ29とヘコんだことで、外から叩かれる展開になっており、該当選手たちが次々に秋山に「ごめん」「すみません」と頭を下げていく。平田忠則が「アッキー、ごめん」といえば、道中で接触があった坪井康晴も「ごめん」と詫びる。これが、数秒間隔で秋山に連射されている。
 笑顔。暗鬱。笑顔。暗鬱。笑顔。暗鬱。
 秋山の表情が、数秒間隔で繰り返し一変する。そのギャップの大きさから秋山の心中を想像すると、ちょっとゾッとしてしまった。ごめんと言われて満面の笑顔を返す。これは明らかに作り笑いだろう。作り笑いの分だけ、まるで歓喜の表情にも見える笑顔になる。あまりにも不自然。あまりにも不条理。その直後の暗鬱な表情が、また悲しい。
 ともかく、だ。たぶん選手は自分の得点はある程度理解して走っている。そうでなければ、秋山はこんなにも切ない表情の変化を見せてはいない。
2009_0828_1079  11R、川上剛が先輩である瓜生正義との競り合いの結果、4着でゴールしている。これで6・00。当然、その状況を知っているからこその、「先輩も後輩もない!」競り合いであっただろう。レース後、川上は神妙な表情で瓜生のもとに直行し、頭を下げた。瓜生はもちろん「ああ、ぜんぜん!」と笑顔を返している。瓜生と別れたあと、川上は激しいレース後らしい荒い息遣いをしながら、エンジン吊りについていた岡崎恭裕にニンマリと笑顔を見せている。
2009_0828_0848  エンジン吊りを終えて、カポック脱ぎ場に合流した川上を待っていたのは、白井英治だった。
「初めてのSGで準優、よくやった。おめでとう」
 白井が右手を伸ばす。一瞬にして紅潮する川上の頬。ガッチリと握手が交わされ、二人は強く見つめ合った。つまり、白井は知っていたことになる。川上が何着以上なら予選突破で、結果が何着だったのかを。強固な絆で結ばれた間柄だからこそ、白井は川上の状況を気にかけていたのだろう。
2009_0828_0093 「えっ、届いたの!?」
 二人の握手を見て、そう問いかけたのは菊地孝平である。つまり、菊地はなーんにも知らなかったのだ。特別に仲がいいわけではないのなら、こういうものなのだろう。菊地は川上に「おめでとっ!」と手を揚げて祝福していた。
「菊地さん、1号艇じゃないですか?」
 12Rの展示終了後、笠原亮が僕の持っている資料を覗き込みに来た。僕はちょうど11R終了後の得点状況を計算している途中で、ハッキリした答えができなかったのだが。笠原は、同県の先輩が何着で何点くらいは認識していて、しかし他の選手との兼ね合いまでは確認していなかったのだと思われる。というわけで、大慌てで計算進行、たしかに1号艇の可能性はおおいにあった。だが、計算しているうちに気づく。笠原亮、あなたには予選1位の可能性までありまっせ!
2009_0828_0029「ええっ!」
 一瞬にして驚きの表情となる笠原。もちろん相手次第(具体的に言えば松井繁次第)であり、そうした他人任せの状況を良しとしない笠原だし、また妙に肩に力が入ったりする可能性もあるし、余計な情報だったかなと反省もしたが、笠原はグッと強い視線になって、控室へと向かったのだった。
2009_0828_1095  そして12R。魚谷が突き抜けたことで、笠原の予選1位はなくなった(松井に捌かれて4着で、1号艇もなくなった)。そして、今垣光太郎は予選落ちとなった……なりながら、魚谷のエンジン吊りに特に表情を変えずに参加した。
2009_0828_0245  選手たちは4日目、何を知り、知ったことで何を思い、戦っているのだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません