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ボートレース特集 > THE ピット――静かな勝負駆け
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THE ピット――静かな勝負駆け

2009_0801_0333  1レース前にピットに行くと、最初に目に入ってきたのは服部幸男の姿だった。
 選手控室のほうへと歩いていったので、2レース出走のため、ボートを待機ピットに着けたあとだったと思われる。やや俯き加減で、ゆっくりした足取りだった。
 次に服部を見たのは、2レース出走のあとになる。……5号艇で5着。レースから引き揚げてきた服部の表情はさすがに険しかった。いや、決して不機嫌になっているといったことではない。自分自身の不甲斐なさを噛みしめるような沈思の顔となり、1レース前よりもなおゆっくりとした足取りで選手控室のほうへと戻っていったのだ。
 地元・浜名湖のGⅠで、服部が勝負駆け圏外にいること自体がそもそも想像しづらい。だが、その状況を誰よりなんとかしたいと考えているのが服部自身であるのも間違いない。今節はまだ白星もない服部だが、ここから見せてくれるはずの意地とプライドに期待したい。

2009_0801_0191 「出足が良くて、悪くないんじゃない」
 丸岡正典に対して、菊地孝平がそんな言葉を掛けたりはしていたが、1レース前後のピットは静寂に包まれていた。
 装着場には選手も記者陣も少なく、試運転の時間が終わったあとには、ピット内に蝉の声が聞こえてくるほどだったのだ。
 ただ、選手たちの動きはさすがに勝負駆けの日らしく、慌ただしいものだった。
 待機ピットはいっぱいになっていて、レースが近づく時間帯以外は、次々に選手が試運転に飛び出していったし、ペラ小屋で作業をする選手も多かった。
 そして、いざレースが始まると、整備室内にあるモニター前に選手たちが集合しはじめる(写真は昨日の整備室モニター前の光景)。それ自体は浜名湖ではいつも見られる光景であるのだが、たとえば1レース中……。飯島昌弘はモニターのレースに目をやりながらも手は休めずに自分のペラを布巾で拭いていた。また、宮武英司は、勝負の大勢が決した2周目頃からは、モニターから目を離して、自分のペラをかざして、その調整具合を確かめていたのだ。
 そんな動きの背景にあるのは“焦り”ではないのだとしても、手を止めてゆっくりとはしていられない気持ちはあったに違いない。

2009_0730_0536  1レース、吉川昭男が勝って準優出への望みをつなぎ、ここで敗れた松村康太と松本博昭はその望みがほぼ絶たれた形になった。
 レース後の顔つきにもやはりそれが出ていた。吉川はとりあえずホッとしたような笑みを浮かべていたのに対して、松村は、服部と変わらぬほど厳しい顔つきとなり、ゆっくりした足取りで、控室のほうへと戻っていった。
 そのしばらくあと、やはり控室のほうへと戻っていった松本の表情と歩き方も、松村に似たものだった。
 松本には以前にインタビューをしていたこともあり、その後にピットに戻ってきたときには声を掛けてみた。このタイミングでどう話せばいいかと迷ったが、以前に取材をさせてもらった礼を言ってから、「準優は厳しくなりましたね」と言ってみた。
 取材の礼に対しては「こちらこそありがとうございました」と返してくれた松本だったが、準優に関しては、「厳しいっすね」とひと言呟いただけで、その後は口を閉じてしまった。
 以前に取材した印象でいえば、打ち解けやすい感じの男なのだが、ゆっくりと話している気分ではなかったのだろう。そのままボートのほうへと向かっていったので、「頑張ってください」と後ろから声を掛けると、「はい、ありがとうございます」とだけ返してくれて、そのまますぐに作業を始めた。

2009_0801_0096  1レースが終わって取材陣の数が、装着場で選手の声が聞かれる機会は増えていた。
 今日、アトリウム特設ステージでレースセミナーを行なう喜多條忠先生がピットにやって来て(レースセミナーは6・8・10~12R発売中)、選手たちに声を掛けていたが、その際の選手の反応からも、それぞれの選手の個性と今の状態が窺えた。
 すでに準優出が当確の馬袋義則はリラックスした笑顔で対応。
 その後に話しかけられていた阿波勝哉は、いまの自分の状態を詳しく話していたようだったが、その表情は終始硬かった。
 また佐藤大介は、腰のあたりで両手を組みながらも、直立に近い姿勢でかしこまった感じだ。喜多條先生を前にして、緊張しているようにも見えたものだ。

2009_0801_0433  2レース。勝ったのは篠崎元志で、この1着が今節初白星となっている。
 篠崎という男の性格からいえば、この“遅すぎた勝利”を素直には喜べないはずではあるのだが、エンジン吊りを手伝ってくれた津留浩一郎に話しかけられて、安堵の笑みを見せていた。
 ヴィジュアル系の彼には爽やかな笑顔がよく似合う。
 準優出は無理でもこの後も全力の戦いを続けて、こうした笑みを見せてほしい。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/内池久貴)


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