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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THE ピット――DO ONE'S BEST

2009_0802_0393 「やっぱり2回走りするわ」
 午後のピットに入ってしばらく経ったあと、平石和男が宮武英司にそう言っているのが聞こえてきた。
 これはおそらく、明日以降、一回走り希望を出そうかと迷いながらも、それはしない、と決めたということだろう。足の仕上がりに苦しめられている選手が、準優に進めなかったときなどに、一回走り希望を出す場合があるものだが、平石はその選択をしなかったわけである。
 その決断をしたのは、初日などに比べれば足が上向いているのとも無関係ではないだろう。だが、そうして最終日まで全力投球していくことを決断したあたりに「平ちゃんイズム」というものが感じられる。
 男惚れしたくなるナイスガイ平ちゃんなのだ。

2009_0802_0659  全力投球といえば、午後の服部幸男も凄かった。
 モーター本体の整備をしたあと、8レース前には、ペラを持って整備室とペラ小屋を何度も往復。9レース後には、試運転→ペラ調整→試運転→回転数チェック→ペラ調整と作業を続けた。
 さらに10レース後にも、最後までひとり水面に残って試運転をやっていた。その後、水面に引き上げてきたあとには、その前に足合わせをしていた佐々木康幸に声を掛けていったが、その表情はずいぶん柔らかなものになっていた。
 そして、聞き違いでなければ「出足はきはじめた」ということを言っていた。
 今日の服部は、最近よく見る「DO ONE'S BEST」のシャツを着ていたが、その言葉通りの一日だったのだ。

2009_0802_0409  夕方の8レースあたりから、勝負駆けの様相も激化していた。
 6号艇・菊地はここで3着して準優出に当確を出したが、レース後にはその表情はまったく変わらなかった。
 引き揚げの手伝いに出ていた坪井康晴と笠原亮に対して「お願いします!」とボートを託すと、タッタッタッと駆け足で控室へと戻っていった。
 そして、ほとんど間をあけずに装着場に帰ってきて、ペラ調整を開始。その後も休まず調整を続け、12レースでは見事な勝利を挙げて、準優勝戦3番目の1号艇をゲットしたのだ。
 菊地にとっては、準優出を果たすだけではなく、1号艇を得るまでが勝負駆けだったといえるのだろう。

2009_0802_0720  その8レースでは1号艇の山崎哲司が1着。相手待ちとはいえ、準優出に望みをつないだかと思われたのだが……、その後、競走本部からの呼び出しアナウンスがピットに流れた。そして、ターンマーク空けすぎによる「待機行動違反」(マイナス7点)になったことが知らされた。
 そのアナウンスが流れてくるのとほぼ同時に本部室から出てくる山崎の顔が遠目で見かけられたが、さすがにその表情はこわばっていたものだ。
 ピットに戻ってきたら声を掛けてみるかと悩まされたが、山崎の姿がピットで再び見られたのはかなりの時間が経ってからだった。
 しかも、これが“ご縁”というものなのか……、いちどピットを離れていた“ザ・師匠”中尾カメラマンがピットに戻ってきたのと同時だったので、こちらから声を掛けていくまでもなく話ができた。
「(僕なんて)こんなもんですよ」と少しスネたふりをして状況を振り返った山崎は、最後にもう一度、「こんなもんですよ」と言って、私たちの前から去っていった。
 その際には「こんだけスタート行ったのに……」「怖かったけど(笑)」とボソリ。
 F持ちの山崎が行ったスタートはコンマ04だった。

2009_0802_0573_2  続く9レース。4号艇で6コースとなりながらも勝ったのは、すでに昨日の時点で当確となっていた福島勇樹だ。道中で先行する丸岡正典を抜いての1着取りは圧巻だった。
 レースから引き揚げてきたときには、ヘルメット越しにも顔をくしゃっとさせて喜んでいるのが窺えた。
 その一方、メット越しにも悔しさで顔をゆがめているのがわかったのが丸岡だ。
 それでも、そうした二人がカポック抜き場で合流すると、「ハハハハ」と笑い声が聞こえてきた。その輪の中心にいたのは白井友晴(1号艇・5着)のようだったが、そうして、戦いが終わればすぐにノーサイドとなるのが、競艇選手たちの素敵なところだ。
 この後、福島に対しては「強いですね」と感嘆の声を掛けてみたが、それに対して「いやあ……」と笑った福島は「やばかったすね」と続けた。「6コースになって、焦りました」とスリット写真を見つめていたが、福島のスタートは10のトップスタート。たしかにしびれるものだった。
 こちらが声を掛けた瞬間に福島が浮かべてみせたのは破顔一笑だと思ったものだが、これは苦笑だったわけなのか……!?
 ただ、苦笑が苦笑に見えないところに、この男の絶好調ぶりが窺える。

2009_0801_0392  10レースでは3着条件だった長野壮志郎が3着をとって、6点ジャストで勝負駆けに成功! それがわかっていたのだろう篠崎元志の顔にも笑みが浮いていた。
 そして「壮ちゃん、壮ちゃん」と、中尾誠はちょっと冷やかし的な声を掛けていて、長野も照れ笑い。その傍ではエンジン吊りを手伝っていた瓜生正義と川添英正も、自分のことのように嬉しそうに笑っていたものだ。
 川添の顔は、子供の合格を喜ぶパパの顔のようにも見えたが、実はそう書いている筆者よりもちょっと若い。まあ、失礼といえば失礼な表現をしてしまったわけだが、それだけ温厚な人柄が顔に出ている。
 壮ちゃんこと長野は、その数分後には着替えてピットに戻ってきたが、エンジン吊りを手伝ってくれた先輩たちに礼を言って回っているときにはもう無表情に近い顔になっていた。
 こうしたときにも浮かれた部分を見せない壮ちゃんは、いつも飄々とした感じで、なんとなく私好みの選手である。

2009_0730_0428  11レースは、ピット内の事務室前から、事務室内のモニターを覗きこむ格好で見ていたが、数人いたスタッフ全員が立ってレースを注視していたのには少しだけ驚かされた。
 これは、3着条件勝負駆けの後藤のレースを緊張して見守っていたということだろう。最後の最後までわからない接戦のレースとなったが、後藤が3着でゴールをすると、歓声こそわかなかったものの、事務室内には安堵の空気が流れた。
 すぐにボートリフトのほうへと移動して、後藤の様子を見てみると、静岡勢の祝福に迎えられて笑顔を見せながらも首をかしげていた。最後の最後までもつれるレースをしたことで、手放しでは喜べないといったところだったのだろう。
 エンジン吊りに出てきたときの服部は、その時点では状況を把握していなかったのかもしれないが、静岡勢と少し話してから、後藤に話しかけると、その準優出を喜ぶ、親分的な柔和な表情を見せていた。
 ……そして、続く12レースでは先に書いたように菊地が1着!
 昨年11月の浜名湖賞ほど静岡勢が席巻している印象は受けてはいなかったのだが、いざ予選が終わってみれば、その浜名湖賞と同じく6人が準優出! あらためて静岡勢の層の厚さを知らされた。
 そして、今回は予選落ちとなってしまったが、その中心に服部幸男という男がいる意味はとつてもなく大きい。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/内池久貴)


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コメント

ね!やっぱり服部サマは素敵でしょ!!(*^ー゚)v

投稿者: 月ちゃん (2009/08/02 21:37:38)
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