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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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賞金王決定戦 私的回顧

2009_1223_r12_1166  そのとき、瓜生正義は何を思っただろうか。
 スタートタイミングはコンマ11。インの坪井康晴はコンマ12だから、ほぼ並んだスリットである。そこからの瓜生の行きアシは、明らかに坪井をしのいでいた。ただし、坪井を叩き切るほどの差はない。1M手前で3分の1艇身ほど前に出た程度だろうか。
 マクるか。差すか。
 瓜生の2コースまくり率は7・5%。2コース差し率は20・0%。無難に行くなら、行かせて差しが正解。しかし、これは単なるひとつのレースではない。賞金王決定戦なのだ。
 確率に懸けるのか、それとも勝利をもぎ取りにいくのか。
 瓜生は何を思って1Mに突入したのか。

2009_1223_r12_1161   そのとき、坪井康晴は何を思っただろうか。
 好スタートを切った。2コースの瓜生とはほぼ同体。まず先マイできる態勢である。ところが、瓜生の勢いが自分よりまさっている。スリットの時点では赤いボートがのぞいて見えていたはずだが、その視界をさえぎるように瓜生が自分を交わし去ろうとしていく。
 瓜生はマクるのか。それとも差すのか。そして自分はどう受け止める。
 もちろん、坪井の戦略は先マイしかない。瓜生がどう攻めてこようが、ターンマークを真っ先に回るのみ。瓜生だけではなく、外の4艇が何をどうしようが、坪井としては逃げしかないのだ。ただし、瓜生が主導権を奪い取ろうとしているとなれば、話は変わってくる。
 坪井は何を思って1Mに突入したのか。

2009_1223_r12_1234  瓜生はマクった。坪井は張った。
 大競りとなった二人は、対岸にある護国神社の鳥居をめがけているかのように、ずるずると流れていった。おそらくレバーを落とした坪井を瓜生が交わしたときには、4艇はすでに1Mを超えていた。二人の賞金王決定戦は、ここで終わった。
 これは賞金王決定戦である。ツケマイに出た瓜生を、抵抗した坪井をバカな奴らだと言う者がいたら、僕は真っ向から反論する。
 自力で黄金のヘルメットを奪おうとした二人を、どうして否定できるというのか。
 違う。これが賞金王決定戦なのだ! もしあのとき、瓜生が早々と引いて差していたとしたら、巧い、さすが瓜生だと思ったとしても、尊敬の念は沸かなかっただろう。もしあのとき、坪井が瓜生を行かせて小回りしていたら、冷静だ、さすが坪井だと思ったとしても、敬意を払う気にはならなかっただろう。
 自らの力で栄誉を引き寄せようとした坪井康晴と瓜生正義を、僕は誇りに思う。賞金王決定戦の舞台をこの目で見られてよかった! 競艇が好きでよかった! そんなふうに興奮させてくれた2人は、最高の競艇選手なのである。
 僕の買っていた舟券は、2-1である。瓜生が差して、坪井が残して。
 1M、僕はそんなことも忘れて、坪井と瓜生のスピリットにただただ鳥肌を立てていた。

2009_1223_r12_1242  その競り合いは、松井繁にウィニングロードをもたらした。鮮やかな差し。まさしく競艇の教科書に載るような、大競りの間隙を突いたビッグウィンである。
 坪井と瓜生を称えるなら、展開に乗っただけの松井の勝利には尊敬を送れない?
 そんなわけがない。松井は、自力でこの展開を呼び込んだからだ。
 手元に成績表があるなら見てほしい。トップスタートを切ったのは松井である。コンマ08。スタート展示では瓜生がP離れで後手を踏んだため2コースに入りながら、本番でコースが変わろうとも何の迷いもなく、松井はスタートを踏みこんでいる。
 コメントを聞いていないので、あくまでこちらの憶測と断わっておくが、瓜生はスタートでのぞかれた松井に叩かれるのを嫌ったという部分はなかったのだろうか。抜群の行きアシも手伝って瓜生は、坪井を競り潰し、松井を封じ込めようとした、そんな可能性も見出せるのである。
2009_1223_r12_1358  だとするなら、スリットの瞬間、実は主導権を握っていたのは松井だったことになる。しかもレース後の会見で、松井は「3コースは展開に左右される部分があるから」ということで、このケースもありうる展開のひとつとして想定していたようなのだ。
 もしかしたら、坪井も瓜生も、松井の手のひらで転がされていた?
 まあ、うがちすぎの評価であろう。それでも、松井繁なのだから、勝利をもぎ取るためにはそれくらいの手管は軽く使いこなすだろう……などとも思う。
 決まり手と1Mだけを見れば、競り合いに乗じた差し、となる。だがそれは、松井が自力で手にした展開だ。勝利の女神は、己の力で道を切り開いた者に惚れるのである。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/K)


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