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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――決定戦の仲間が気になる

 時間が経つにつれて、自分のレースを終えたシリーズ組は、決定戦に出る仲間が気になっていくようであった。
_mg_0269  9Rを終えたばかりの井口佳典が、モーター格納を終えると水際まで出てきて、水面を見つめる。決定戦組のスタート特訓が行なわれていたそのとき、もちろん黄色いカポックを着た同期生が、視線の先にはいた。腕を組み、じっと動かない井口は、そのとき何を思っていたのだろう。特訓を終えて、田村が係留所に入る。井口の立っていた場所は、田村が今日一日、調整をするために係留していた場所の前だった。モーターを止めて、ふたたび調整に入ろうとする田村に、井口は笑顔で声をかける。話したのはほんの二言三言だったけれども、井口は満足そうにうなずき、控室へと戻っていったのだった。

2009_1217_0620  スタート特訓を終えて調整用の係留所に入った田中信一郎のもとには、芝田浩治が歩み寄っている。芝田は、田中に回転数について尋ねたようで、田中は数字を芝田に伝えている。芝田は人の良さそうな笑顔を田中に向けて、三度ほどうなずいてみせた。
「ええ音してるでしょ?」
 田中が芝田に問いかける。芝田は、肯定することで田中を勇気づけようとするかのように、今度は大きくうなずいてみせた。それは明らかに、激励の意味をもつうなずきだった。頑張れみたいな直接的な声援は飛ばしてはいなかったけれども、芝田は満足そうに笑って、控室へと戻っていったのだった。
2009_1218_0311  その田中には、角谷健吾も視線を送っていた。10R後に出発する帰宿バスの第一便に乗るため、角谷は通勤着に着替えて、バスのほうへ向かっているところだった。田中は10R後、すなわち11R発売中に2周ほど試運転を行なっていて、それに気づいた角谷は足を止めて、水面を見つめた。田中はそのまま展示用ピットにボートを入れたから、角谷は田中のそばに歩み寄ったりはしていない。だが、きっと田中も気づいたと思う。角谷が祈るような目で田中の動きを追っていたことを。そこに激励が含まれていたことを。展示ピットに田中が入ったのを見届けた角谷は、表情を変えずにバスへと向かっていったのだった。

「おい! 湯川!」
 12R前のことだ。鎌田義が、湯川浩司を大声で呼んだ。鎌田はボートリフトのほうに向かっており、数10m離れて湯川も同じ方向に向かっていた。その湯川を、鎌田は呼びつけたのだ。
「湯川! お前は決定戦の楽しみ方を知らん! 俺が教えてやる。来い!」
2009_1218_0610  鎌田は決定戦のレースをいつもボートリフトのあたりから観戦していて、すなわちそこが特等席。たしかに、2Mと対岸のビジョンがよく見える場所だ。鎌田は、艇運係の方に話しかける。
「湯川は最近、決定戦に出てばっかりだから、楽しみ方を知らんのですよ~」
 たまにはシリーズ組として観戦するのもええやろ、という慰めなのか、だから来年はまた観戦される側に回れや、という激励なのか、とにかく鎌田は湯川を特等席にいざなった。湯川はバツの悪そうな顔をして、ボートリフトのほうへと歩いていったのだった。

2009_1220_0242 「おぉ、静岡、来てますねえ~」
 決定戦の枠番抽選会は、装着場内の小屋のような場所で行なわれる。ここは朝、体重測定を行なう場所でもあるようで、2階建て。1階は選手や関係者の喫煙所にもなっており、ガラス窓が2方向に設置されている。ここから、報道陣やTVカメラは抽選を覗き込むわけで、当然僕もその輪に加わっていた。
 坪井康晴がA組(結果的に12R)の1号艇を引き当てたとき、耳元で声がした。最初はどこかの誰かが別の人に話しかけていると思って気に留めていなかったのだが、どこかで聞いた声だな~と思って振り向くと、笠原亮が報道陣の頭越しに抽選の様子を見ていたのだった。
 B組(結果的に11R)の抽選に移り、笠原の師匠である服部幸男がガラポンを回す。
「2号艇の予感がする」
 ガラガラポン……お見事! ほんとに2号艇! もしかして、予知能力? 笠原が悪戯っぽく笑いながら、今度は菊地孝平の抽選を眺めて言った。
「菊地さんは3の気配がする」
 ガラガラポン……あらら、5号艇。
「あぁ……ま、そんなにうまくはいかないっすよね」
 静岡勢3人が好枠になりますように、と願いつつ、そして楽しみつつ、抽選の模様を観戦した笠原。来年はあっちの部屋に、と言いたかったが、それは明日以降にとっておこう。ともかく、笠原はにっこりと笑って、帰宿バスのほうに歩き出したのだった。
(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=井口 TEXT/黒須田)


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