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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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優勝戦私的回顧

 まるで、スタミナが切れたボクサー同士の殴り合いのような優勝戦であった。あえて偽悪的な言葉を使って表現しているが、貶しているわけではない。むしろ褒めているのだ。レースをしている当事者だけでなく、見ている者すべてが、最後まで結果の予測ができない。そんな面白いレースがあるだろうか。

2010_0124_r12_0822   圧倒的1番人気の小坂尚哉は、スタートで他艇よりも約1艇身遅れて終了。はからずも、2コースの新田雄史に絶好の展開が転がり込んできた。

 新田は1マークで安全策を選択した。小坂の飛び付きを警戒して、ピッタリとツケては回らず、小坂と少し間隔をあけた場所を旋回したのだ。
 しかし、レースにおいて安全と危険は表裏一体の関係にある。安全を求めた結果、皮肉にもターンマーク付近に絶好の差し場が生まれてしまう。

 そこにズバッと飛び込んだのは毒島誠である。

2010_0123_r10_0602  スリット裏で毒島は後続に3艇身のリードを取った。スタンドから見ている分にはセーフティード。実況の焦点もすでに2着争いのアナウンスへと移っていた。

 ところが、毒島にとってはセーフティーリードではなかった。というよりも、内2艇のミスにより転がり込んできた先頭に、平常心ではいられなかったようである。
 普通ならば百発百中で決められそうな1周2マークのターンを毒島は漏らす。競輪で言うところの「足が三角に回る」といった状態。当たり前のことが、当たり前にできなくなってしまうのが、大レースの怖さである。ここに食らいついてきたのが、1マークを失敗した新田雄史であった。

2010_0124_r12_0850  2周1マーク。内にいた新田が先に回る。毒島は付けて回ろうとするが届かない。旋回が終わると、新田が逆転。2艇身ほどのリードを取ることに成功した。1周1マークの失敗で、いったんは新田の手のひらからこぼれ落ちた優勝が、毒島の失敗によって、ふたたび新田の元に戻ってきたのである。

 だが事はそう簡単には進まない。2周2マークで、さっきのターンミスがウソのような鋭い差しを毒島が入れてきたのである。それに対して新田の艇がやや跳ねてしまう。毒島のクリーンヒットが決まって、新田が持っていた2艇身のアドバンテージは、一発で帳消し。2艇は完全な併走状態になり、勝負は最終周回にまでもつれこむ。

2010_0124_r12_0884  3周1マークは、2周1マークのリプレイのような展開になる。ただし、さっきと違うのは内にいるのが毒島で、外にいるのが新田だという点。ツケマイを打つ新田を、毒島はブロックしながら外へ外へと押し出して、ギリギリでしのいで。
 残り1回のターンを残して、毒島のリードは約1艇身。通常のレースならば、9割がた毒島が勝てるレースだろう。だが、この勝負に限ってはわからない。足元がヨタヨタしながらも、気合だけで二人が殴り合っているような状況なのだから。

 最終コーナー。毒島が先にターンマークを回る。1周2マークのターンほどはヒドくはないが、やや置きにいったような旋回にみえた。そこに「さっきの仕返し」とばかりに、新田が鋭い差しを入れてくる。
 併走状態のまま最後の旋回を終え、内に新田、外に毒島の形でゴールへと向かう。外にいた毒島が内を絞りにいく。ガツンと艇がブツかったとき半艇身前にいたのは……毒島。二転三転するマッチレースを最後に制したのは、新鋭卒業期の毒島誠であった。

2010_0124_r12_0945_2   今年の新鋭王座決定戦優勝戦は歴史に残るマッチレースであった。たしかにミスは頻発した。荒削りだった。泥臭かった。でも二人が、プレッシャーや混乱のあまり、平常心でいられないということも含めた上で、全力を出し切ったマッチレースだった。だからこそ、あれだけ面白かったのだ。

 新鋭王座決定戦は若手の目標であるが、ただの通過点でもある。新鋭戦を走る選手たちに完璧などは求めない。失敗を重ねながら、勝負に執着しながら、できるだけ大きく成長して、将来の競艇界を担ってくれればいい。小さくスマートにまとまろうとする選手よりも、そんな荒削りな若手に私は魅力を感じる。

(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/姫園淀仁)
 


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