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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――若武者たちの感情

   普段はとびきりに陽気な西山貴浩の表情が、沈痛なものになっている。その西山とはしゃぎ合っている福岡勢は、全員が深刻な顔つきでボートリフトに走っていた。
 まさかの3艇F。そのうち2艇が、福岡の若武者だった。しかも、だ。
_u4w3378 全国スター候補・岡崎恭裕。
 デビュー以来1379走スタート無事故・渡辺浩司。
 ペナルティの重い準優Fに、あるいはF自体に、重い重い意味のある二人が、スリットオーバーしてしまった……。身近な人間でなくても顔を曇らせる事態に、仲間が傷つくのは当然である。
_u4w3419  一足先にピットに戻ってきた岡崎と渡辺は、さすがに表情を硬くしていた。Fを切った選手は、すぐに競技本部に呼ばれて説諭を受けるわけだが、渡辺にとってはそれ自体が初めての経験である。岡崎とともに駆けだす姿は、どこか戸惑っているようにも見えたのだった。
_u4w3386  もう1艇のF、松田祐季も言うまでもなくこわばった表情でピットに戻ってきている。5日目というのはレース終了後にボートを洗剤で洗浄するのだが、スポンジで艇底をこする姿もどこか弱々しい。準優1号艇のFの重さに、98期の若者は必死で耐えているようだった。
 あぁ、なんという事態……。
 それからの時間、エンジン吊りでピットに姿をあらわすたびに岡崎と渡辺が肩を並べて行動しているのは、偶然だったのだろうか。松田の足取りが重いように見えたのは、錯覚だろうか。もちろん時間が経つにつれて、次第にほぐれていく様子も見て取れたが、しかし気分が完全に晴れるはずがない。同県同期の永田啓二に声をかけられて苦笑いを返した岡崎の顔は、まるで泣き顔のように見えていた。心からの笑顔を浮かべることができない……それはこちらの先入観がそう見えさせているわけではあるまい。

 レースでの敗者の表情も、実に痛々しかった。
2010_0122_0481  10Rで3着だった平本真之はレース後、まるで何かに憤っているかのように、とがった表情で過ごしていた。カポックを脱ぐときも、着替えを終えて整備室に向かうときも、ふだん見せている優しい表情が完全に消えている。こんなにも怖い顔をする男だったのか、とあらためて笑顔の奥の勝負師魂に気づかされたのだった。
 声をかけると、浮かんだのはひきつった苦笑いだ。「行き場所がなかった……」。展開が向かなかった不運を、しかし自分の責任として捉えているようだった。それでも、それから数分の会話ののち、平本は両手の拳をグッと握り締めて、「よし、頑張ろう!」と前を向いた。ひとつひとつの経験を即座に糧とできるのも、若者の特権なのである。
2010_0122_0454  11R3着の古賀繁輝は、本当に泣き出すのではないかと思えるほどの渋面を、一瞬だが見せている。ピットに戻ってきた直後は、スタート遅れの苦笑いを見せながら、仲間とともに溜め息をついていたが、控室に戻ろうとした際、やはり仲間に囲まれながら、眉間にシワを寄せ、唇を尖らせていたのだ。12R時には、整備室で麻生慎介と並んでモニター観戦している姿を見かけている。その表情は、まるで能面のように活力がなく、視線もどこかうつろであった。
_u4w2661  12R、道中で揉まれて3着争いにも敗れてしまった西川真人は、ボート洗浄の輪を真っ先に離れている。ポツンと一人歩きだしたとき、西川はまるで電池が切れたかのように、ガクリとうなだれた。360度どこから見ても、激しい落胆の様子、である。西川は垂れた首を持ち上げることなく、やや速足で控室へと向かっていった。悔恨をいっさい隠そうとしない後ろ姿は、だからこそこの一戦に懸けていた思いの大きさをあらわしていたのだった。

 勝者はただただ笑顔であった。
 6人、一様に笑顔。
2010_0123_0435  そう書いて、稿を締めたって成立するのではないかと思うほど、とにかくみな笑っていた。特に、小坂尚哉の笑顔が印象的だった。ひとときも笑みが消えないほど、笑い続けていたのだ。まるで、笑顔が地顔であるかのように、小坂は長い時間、笑っていた。……そう書いてみて、ちょっと心配になってきたな。超抜モーターで、準完全ペースのピンラッシュ。ある意味、勝って当たり前の状況だというのに、もっとも嬉しそうに笑っているということは、小坂は非常に重いものを心の中に抱えていたのではないか。
「明日はいつも通りの精神を保ってレースに臨みたい。でも、気合を入れていきたい」
 会見で、小坂はそう語っている。たどたどしく。言葉を選びながら。
 改めて言うまでもないかもしれないが、小坂にとってもっとも大きなポイントとなるのは、プレッシャーとどこまでうまく付き合えるか、であろう。
2010_0123_0330  面白かったのは、6人中4人が、「とにかくアシはいい」と力強く断言していることだ。毒島誠、大峯豊、今井貴士、新田雄史だ。小坂が含まれてない? もちろん小坂も相当な手応えを感じているが、強い口調で「出ている」と断言したのは、小坂と馬場以外の4人なのだ。ちなみに新田は「相手が失敗して、自分がミスしなければ、差し切れるアシ」と言った。なんだか意味深である。
2010_0123_0361  馬場ももちろん、好感触ではある。ただ、4日目にやや調整が合わず、今日は「まずまず戻っていた」とパワーを表現している。そして「周りも出してきたので、初日2日目ほどの差はなくなってきた」とも付け加えた。ネガティブとは言わないけれども、言葉の方向性が先の4名とはやや違っているのが、少しばかり気になるのである。
2010_0123_0381 そういえば、毒島、大峯、今井、新田は新鋭王座優出経験者でもある。予選道中を牽引してきたのはまさに小坂と馬場だが、ここに来てのメンタルの仕上げ方には、4名に一日の長があるのかもしれない。
2010_0123_0428  ともあれ、いよいよ優勝戦だ。明日は誰が最高の笑顔を見せ、誰が見るのもツラい落胆を見せるのか。いずれにしても、この若武者たちは明日もきっと、瑞々しい感情をナチュラルに表現してくれるだろう。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=岡崎、渡辺、松田、西川 TEXT/黒須田)


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コメント

もう優勝戦の6名が決まりましたね。
さてこの6名がどう燐としたレースを見せてくれるのか
逃げ差しまくりまくり差し あるいは...恵まれ

はやく12Rが見たいですね~!
記者さん、お疲れ様です\(^O^)/

投稿者: 7号艇 (2010/01/24 9:21:25)
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