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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――勝負駆け悲喜こもごも

2010_0122_0243  ハッキリ言って、めちゃめちゃ混乱していた。18位以内から落ちる者、18位以下からランクアップした者、そんな計算をゴチャゴチャとしていたら、勝負駆けの状況がよくわからなくなっちゃったのだ。地上波放送のレポーター・高尾晶子さんが「今のところ5・50がボーダーですよ」と教えてくれたのは12R前。なるほど、と整理してみると、その5・50で18位は藤岡俊介。えっ、藤岡!? 初日の大敗からよくぞ立て直して、ここまで這い上がってきた! そうか、11Rで激スタート決めたのは、このあたりも想定していたうえでのことだったのか。正直、ノーマークだっただけに、ちょっと驚いた。

2010_0122_0144  藤岡が2着になったことで、予選落ちを喫してしまったのは吉川喜継だ。2着なら5・80で、結果的には準優当確。3着で5・40となり、レースでも準優争いでも藤岡の後塵を拝することになってしまった。劇的な2番手争いだったのだ。昨日の転覆がなければ……と考えてしまうのが人情。ピットに戻って来て、表情を硬くする吉川の姿が痛々しく思えた。
 それでも、吉川は淡々とふるまってもいた。着替えを終え、整備室に向かう表情には、もう痛恨は浮かんでいなかった。10分後くらいに整備室に様子をうかがいに行く。吉川はなんと、本体を整備していた。勝負駆けに敗れ、しかしすぐに整備に取りかかる姿は、SGでは時折見かけられるものである。戦う舞台はどこになろうと渾身を尽くす吉川は、その姿勢において、SGクラスに近づくことのできる存在だと確信する。

2010_0122_0618 姿勢に感心したのは、毒島誠もそうだった。10Rを3着で終え、いったんリフトに乗ってピットに戻ると、なんたることか、即座に試運転用の艇旗をつけて、ふたたび水面へと飛び出していったのだ。いや、実を言えば、まさかそんな行動がありうるとは想定してなかったため、水面に降りていく姿は見逃している。中尾カメラマンに教えられて水面を見ると、毒島は進藤侑をパートナーに足合わせを繰り返しているところだった。
 この試運転は、11Rの試運転可能時間ギリギリまで続けられている。係留所では、延々と走る二人を金子拓矢と土屋智則が見つめていた。彼らは先輩の懸命さに何を思っただろうか。
2010_0122_0635 「レースで気になるところがあったので、試運転したんですよ。手応えを掴んだか? いや、明日になって気候が変われば、また変わってきますからね。ただ、方向性は掴みました。レース後すぐに試運転に行ったのが珍しい? いや、僕はけっこうあるんですよ、こういうことが。ここまでしないとダメな選手ですから(笑)」
 最後の言葉はもちろん謙遜。こちらとしてはただただ、その姿勢に感服する。本人が言うとおり、今日の手応えが明日も同じとは限らない。ならば、足合わせ自体にどこまで意味があるかはわからない。しかし、毒島は「納得したかった」のだ。敗れてしまった悔恨を、そのままにしておくわけにはいかなかった。その思いと行動こそが、毒島をここまで成長させ、さらに強くさせる原動力となるだろう。

2010_0122_0320  12R、仁義なき戦いがあった。ボーダーを知っていたのかどうかはわからない。若林将は、3着で5・50、着位差で藤岡を超えることになっていた。1Mを回って2番手争い。2Mで渾身のターンを放ったとき、突っ込みぎみに先マイしてきた平本真之と艇が合った。これで若林は4番手に後退。平本と若林は96期、同期生である。
 平本も、果たしてボーダーを知っていたのかどうか。自分の状況はもちろん、同期生の状況を認識していただろうか。結果的にいえば、平本は4着でも18位内をキープできていた。しかし、4着条件だからといって4着でいいと考えるトップレーサーはいない。平本はひとつでも上の着順をとるべく、コーナーを攻めた。相手が同期生であろうと。最終的に、平本は2着に浮上。平本に強者の資格があることを証明する結果と言えるだろう。
2010_0122_0463 レース後、平本は歓喜をあふれさせることもなく、比較的淡々としていた。安堵の思いはあっただろうが、勝負駆けうんぬんとは別に、勝利を渇望する勝負師として当然の走りをしたのだというような、貫禄を感じさせた。
 一方の若林も、あまり表情を変えてはいなかった。平本にごめんと言われても、二度ほどうなずいてみせただけで、冷静にふるまっている。胸中に悔恨がないはずがないが、しかし平本との真っ向勝負の結果である。レースを終えた直後の高揚した顔は赤く染まり、激戦を物語るものではあったが、若林としてはやることはやったと納得できるところもあっただろう。今日は眠れぬ夜を過ごすのかもしれないが。

 控室に消えていく若林を見送ったあと、藤岡を探す。もちろん、18位に残った歓喜の表情を見たかったのだ。西川真人のエンジン吊りを手伝っていた藤岡は、整備室の水道で手を洗っていた。表情は……あくまで淡々。歓喜の様子などどこにもない。整備室を出ても、予選突破の喜びをあらわすことなく、いつもピットで見ている顔である。ちょっと不思議だったけれども、その後仲間に囲まれれば、最高の笑顔になることだろう。
2010_0122_0009  それよりも、憮然としている庄司孝輔が印象深かった。8R4着で予選落ちとなったのだが、それからすでに4レースが経過し、今日のすべてのレースが終わっている。選手班長としての仕事をこなしながらも、まるで機嫌が直っていない厳しい顔つきに、むしろ彼の将来性を感じたのだった。「残念だった……」、そう声をかけると、無言でひとつうなずく。今節、彼に声をかけて、笑顔を向けてこなかったのは、これが初めてのことだった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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