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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――コメント泥棒!?

 クロちゃん、暑いな~。ほんと、暑いっすね~。ピットで長嶺豊さんと顔をしかめ合う。暗くなって気温は下がっているのに、湿度は逆に上がっているから(昼は55%、夜は73%)、かえって蒸し暑くなっているのだ。しばし、暑い暑いと言い合って、長嶺さんと酷暑を嘆き合う。
 それにしても、長嶺さんにはお世話になりっぱなしである。ここでも長嶺さん絡みの情報を何度も書かせてもらってきたし、今日などは……もうコメント泥棒のようなものである、まったく。
2010_0826_0926  あ、ウオちゃんや、話聞かな、と早足で魚谷智之のもとに向かう長嶺さんを、こっそり追跡するワタクシ。何食わぬ顔で長嶺さんのそばで、整備室内をチェックしているフリをする。長嶺さんが魚谷に声をかける。
「一人で乗ってるときには、ええ感じなんですけどね~」
 魚谷が爽快に笑って、長嶺さんに応えた。ふむふむ。魚谷は今日、1R1回乗り。その後、延々と試運転を続けており、切り上げて陸に上がったのは10Rの直前だった。勝負駆けを前に、納得のいくまで走り続けたのである。その結果、「ええ感じ」まで持っていくことができたようだ。そのせいか、これまでに比べてだいぶ顔つきが明るくなっているように見えた。
2010_0826_0032  まくったな~、と次に長嶺さんが声をかけたのは上瀧和則。水道で手を洗う上瀧に、長嶺さんはすかさず歩み寄ったのだ。
「アシはええと思うんですけどね」
 上瀧が柔和な表情で応えた。ふむふむ。上瀧は7Rでなんとカドまくりを決めた。誰もが声をあげた、ダッシュ戦からのまくり勝ち。これもまた、上瀧和則のひとつの側面だ。長嶺さんは、俺も芦屋でまくられたもんな~、さっと落としたところをがーっと、と思い出話を振っていく。上瀧は、そんなんありましたっけ、とにこやかだ。もし聞き間違いではなければ、こう続けていたはずだ。本当は嫌いなんですけどね、個性が消えるから。鳥肌が立った。上瀧和則はなぜ前付けするのか、その理由がここに詰まっている。もっとも、そう言いながらも、上瀧の表情は明るい。イン屋ってのは、差すのが嫌いなんや、と上瀧が去ったあと長嶺さんが言った。
2010_0826_0540  今節はどうなの、と上瀧が去ったあとに水道にやってきた池田浩二に長嶺さんは声をかけた。
「足はいいですよ!」
 えっ? あなたはたしか、泣きコメントで有名の池田浩二ですよね? だというのに、その強い口調でのポジティブ発言はいったい! にこにこと笑いながら、長嶺さんと会話を交わす池田。だが、意外な池田浩二の様子に、僕はすっかり我を忘れて、会話の中身などまるで耳に入ってこなかった。まだ1着が出ていない池田だが、勝負駆けの明日はもしかして……。そんなことを考えているうちに、池田はにこやかに笑いながら控室へと去っていった。足取りはたしかに軽かった。
 ……というわけで、クロちゃんのコメント泥棒でした! すみません、ズルしちゃって。それにしても、声をかける選手が皆、心やすい表情になるのが長嶺師匠の人徳というもの。SGのピットには欠かせない人だよなあ。ともかく師匠、失礼しました!

2010_0826_0017 「ナオちゃんはエンジン出てるようやな。出てないときは、うつむき加減で歩いているのに、今日は胸張って歩いてるもんな」
 長嶺師匠が言う……って、また師匠頼みか!? 師匠、すみません。たしかに、秋山直之の雰囲気が、今節は非常にいい。おとなしささえ感じることもある秋山の立ち居振る舞いが、特に今日などは実にイキイキとしているのである。足取りも非常に軽く、弾むように歩く秋山。最近はあまりこうした秋山を見ていなかったのはたしかだ。
2010_0826_0779  夜も更けてきて、秋山は艇番艇旗の準備に取り掛かった。これは本来、支部のもっとも後輩がやるべき仕事。そのとき毒島誠は、試運転で水面を駆け回っていたのだった。もちろん、これを終えたあとにその仕事をやるつもりだったのだろう。秋山はおそらく、後輩が明日の勝負のために努力している姿を見ていた。だから、雑用をかわりにこなすつもりになったのだろう。毒島が試運転を終えて陸に上がってくると、ちょうど秋山はその仕事を終えて控室に戻ろうとしていたところ。それを見つけた毒島は、慌てて秋山に駆け寄った。
「OKOK、やっといたから!」
 秋山は後輩が頭を下げるのを制して、笑顔で語りかけた。それでも毒島は恐縮し、何度もすみませんと言った。秋山はそんな毒島に気にするなと右手をあげて、笑って控室へと入っていったのだった。
2010_0824_1493 「松井は本当に姿勢がええな~」
 長嶺師匠が……って、どこまで師匠に頼りっぱなしなんだ! 本当にごめんなさい。でも、松井繁は背筋をピンと張り、胸を張って歩いているのはたしかなのだ。もちろん、これはいつものこと。松井は、その歩く姿までもが王者なのである。
 9Rだったか10Rだったか、エンジン吊りを眺め、記者室に戻ろうと歩き出したときのこと。出走表を見ながら、考え事をしていた僕はけっこう遅いスピードで歩いていたと思う。そのとき、後ろにとてつもない威圧感を覚えた。背筋が凍るような、圧倒的な迫力。松井だろうな、と思った。もちろん僕は振り返れない。そのまま考え事をしつつ(するフリだったかもしれない)、スピードを変えずに歩を進めると、僕を追い抜いていったのはたしかに松井だった。後姿も迫力たっぷり。威圧感どっしり。王者のたたずまいは、いつ何時でも王者のそれである。後ろから見た松井の背筋は、やっぱりピンと張られていた。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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