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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――見返り美男子?

 蒲郡ピットの選手控室は、ピットの奥も奥。対岸側、だいたい150m見透し線の延長線上くらいのところにある。150m見透し線とは、2マークと150mの看板を結んだ線ですね。対岸をすぐにご想像できる方は頭に思い浮かべてください。ピットの屋根が切れたあたりに2階建ての建物がありますね。あれはピット記者席なのですが、まさにそのすぐ隣の奥のほう、である。
 で、出走ピット(展示ピットも)は、ご存知の通り、いわゆる2マーク奥。福岡はピットが対岸、出走ピットも対岸という独特の造りであることは有名だが、蒲郡はピットは対岸だが出走ピットはオーソドックスな2マーク奥。というわけで、控室から出走ピットに向かおうとすると、けっこうな距離を移動しなければならないのである。
2010_0825_0325  データをひも解いてみると、出走ピットから2マークまでは150m。2マークから対岸までは、いちばん短いところで86mほどだから、控室まではおおよそ100mといったところか。最短距離を歩くわけではないから、控室⇔出走ピットは300mといったところか。不動産情報であれば「徒歩4分」とでもなるだろうか。これ、おそらく24場中最長距離だと思う。だから何だってわけじゃないけど。
2010_0825_0443  11R発売中、岡崎恭裕が控室から青いカポックをもってピットにあらわれた。12Rの展示準備に向かうのだろう。これから約300m、徒歩4分をかけて待機室へと移動することになる。岡崎の代わりに展示ピットのほうに目を向けると、うーん、やっぱり遠いぞ、なかなか。
 途中、岡崎は立ち止まり、水面のほうを振り返った。そのままじーっと水面を見つめ続ける。見覚えのあるシーンだった。あれは総理杯の準優勝戦だったか。岡崎は試運転係留所にひとり座り込み、水面を見つめ続けていたのだ。レース後、何をしていたのかと聞くと、「風を見ていたんですよ。今日はコロコロと変わってましたからね」。一人になって精神集中している……なんて予定稿があっさり削除されたわけだが、岡崎にとってこれはレース前のルーティンなのであろう。岡崎が去ったあと、立ち止まっていた場所から視線の方向を見てみた。目に入ってきたのはまず、100mポールにたなびく吹き流し。さらに空中線。やっぱりだ。ここで風をチェックして、待機室までの長い道のり、戦略を頭に思い浮かべながら歩き、レースに(展示に)臨んだに違いないのだ。
2010_0825_0732  その直後、山崎智也も控室から出走ピットへと歩きはじめた。こちらは11R出走だから、いったん控室前にある喫煙室で一服しつつ作戦を練るため、戻ってきていたのだろう。出走ピット周辺には立ち入ることができないから、その様子を知ることはできないが、喫煙所はないんですかね。その直前、同じく11R出走組の服部幸男もここで、ひとりタバコをくゆらせているのを見かけている。
 不思議なことに、智也もまた途中で立ち止まった。そしてゆっくりと振り返った。水面のほうではなく、控室のほうだ。2~3秒、後方を見つめると、ふたたび前方に視線を向けて歩き出す。こっそり智也の視線のほうを確認するが、そこには変わったものは何もなし。いったい智也は何を確認したのだろう……。
2010_0825_0370  その智也で印象的だったのはレース後だ。服部には逃げ切られたものの、鮮やかなまくり差しで2着となっている。今節、ようやく飛び出した智也らしいレースだったと思う。ここでも何度も何度も何度も書いてきたが、智也は敗戦後に笑う。悔しさを押し隠すべく、絶対に心中を悟られたくないと心に決めているがごとく。むしろ笑っているときほど胸の奥に悔恨の炎が燃え盛っていると、僕はそう決めつけている。11R後の智也は、まったく笑っていなかった。凛々しい表情を変えることなく、真摯な顔つきのままでエンジン吊りをしていた。2着だから、心から満足しているということはありえないだろう。だが、もしかしたら今のレースはある程度納得のいく、手応えを得られたレースではなかったのか。
 そんなふうに考えていたら、智也と目が合った。智也は両目を思い切り見開いて、小さく1、2度うなずいた。ハッキリ言って、それで智也の心中がわかったなんてことはない。目と目で会話した、なんてこともまったくなく、そう表現したとしても、その会話は成立していない。だが、悔しい負け方をしたときの智也でなかったことは確かだ。それだけは確信できる。
2010_0825_0334  12Rの展示が終わって、出走選手たちが工具などを置きに出走ピットから装着場へと戻ってくる。おっと、岡崎がやけに速足だぞ。先頭を歩いている吉田俊彦にどこかで追いつくのではないか、というスピードだった。伸びは超抜? 結局、吉田が先頭で装着場に到着したのではあったが。
 その吉田は11R発売中に1周だけ試運転をしている。道中のアシを確認したというよりは、スタートの起しをチェックしているようであった。150mのあたりでいったんスローダウンしていたのだ。もちろん、大時計は回っていないから、いわゆるスタート練習ではない。やはり起こしの確認と見て間違いないだろう。で、吉田はレバーを握り込む前に一度、後ろを振り返っているのだ。いったい何を確認したのだろう? スタートする際に、後ろは重要だとは思えないが……。モーターあたりを確認した姿が、遠目からははるか後方を確認したように見えたということだろうか。だとしたら、おそらく何の意味もないんだけど……。要するに僕は、今日はやけに立ち止まって後ろを振り向く選手の姿をよく見かけるなあ、とどうでもいいことを考えていたのだった。うん、本当にどうでもいいな。
2010_0825_0196  12R出走組で、いちばん最後に工具を置きに装着場に着いたのは、山口剛だった。しかも、ただ工具を置いただけ。整備室入口の前に工具をそっと置くと、いったん整備室のほうを振り返って(またか。おそらく整備室にいた辻栄蔵の姿が視界に映ったのだと思う)、すぐに出走待機室へと向かうために、今来た道を戻っていった。その後ろ姿が消えるまでずっと見ていたが、山口は最後まで振り返ることはなかった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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