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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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優勝戦 極私的回顧

49歳の進化形

12R優勝戦
①今村 豊(山口) 17
②濱野谷憲吾(東京)25
③中島孝平(福井) 14
④仲口博崇(愛知) 16
⑤今垣光太郎(石川)16
⑥平本真之(愛知) 14

2010_0829_r12_0828  レースの途中で、涙が溢れてきた。零れはしなかったが、目の奥にゆっくり液状のものが溜まっていくのがわかった。
 あれ、なんでだろ。
 そんな自分にびっくりする。舟券が外れた悔し涙ではない。もう、そんなのは慣れっこだ。泣くほどの今村ファンだったか。尊敬はしているが、追っかけをするほどのファンではない。書いている今も、その理由はよくわからない。
 私が競艇とまともに付き合うようになった14年前から、すでに今村豊は伝説の男だった。
「今村はなぁ、競艇をひっくり返したんだ。全速ターンっちゅう必殺技でな」
2010_0829_0396  私がまだ初心者だと見てとると、競艇場前の酒場のドロドロオヤジたちが自慢げに話しはじめる。その昔、選手たちは全員減速してターンマークを回っていた。スピードを落として捌きあうのが競艇だった。そんな中、大外から猛スピードでベテラン選手を一気にまくってしまう新人レーサーが現れた。その破壊力満点の戦法は「全速ターン」と呼ばれるようになった。そして、その新人はデビューから1年ちょいで記念を獲り、1年半でSG優出し、3年でSGを制覇した。そして……。オヤジたちの話は尽きることがなかった。
 へえ、今村ってそんなに凄い選手なのか。
 そう思いつつ、「でも、全速ターンって今じゃ普通にみんなやってるじゃないですか」なんて生意気な反論をして総すかんを喰ったりもしたな。
「バカ、お前はな~んもわかってねえ、教科書どおりのことなら誰だってできるわ、アイツは教科書を変えちまったんだ、本物の天才なんだって」
 そんなことを、いろんなオヤジに言われたっけ。
 やがて、全速ターンの進化形ともいうべきモンキーターンが主流になった。が、しばらく今村は正座したままでモンキーをやろうとしない。いつだったか、なぜ、と聞かれて、今村はこう答えたことがある。
2010_0829_r12_0649 「モンキーの本質って全速ターンと同じだから、別にやる必要はないんですよね。できないわけじゃないんですよ、やって見せましょうか?(笑)」
 要は重心移動がいちばん大事なのであって、スタイルにとらわれる必要はない。そういう意味なんだろうけど、当時の私は全速ターンを生み出した男の自負、プライドだと感じていた。
 さらに時が過ぎ、今村のレーススタイルは明らかに他の一流選手と違うものになっていく。
 コースに頓着せず、どのコースでもスロー発進、1コース以外はターンマーク起こし、スリット全速、少しでも覗けば自力まくり。
 このスタイルを頑なに貫きはじめた。6コースでもスローだから、他の選手は戸惑いつつオールスローを余儀なくされる。今村が出るレースだけが、特殊なシバリの中で違う輝きを放つ。私が今村の天才をはっきりわかりはじめたのはこの頃だ。
 この人、他の選手の常識とはまったく違う次元でモノを、レースを考えている。ずっと、新人の頃から。
 本人は「40歳も後半になるといろいろ面倒になっちゃって。同じスタイルじゃないとわからなくなるから」なんてお茶を濁すが、この頑固なスタイルそのものが実は斬新なエポックメイキングなのだ。
2010_0829_r12_0740  今節も、今村はそのスタイルを徹底的に貫き通した。どのコースからでもターンマーク起こし、スリット全速でぶん回した。その引き波に、20代の若者たちがものの見事にハマっていった。そして、まくりにきた中島孝平を張り飛ばすような気迫で、6年ぶりのSG制覇。ゴールを過ぎて、49歳の今村は山口剛や岡崎恭裕よりもはるかにド派手なガッツポーズを見せた。夜空に激しくコブシを突き立てる。若い。若すぎるって。

2010_0829_r12_0807  今、とりとめもなく書いていて、気づいたこと。今村豊は、ここ30年の近代競艇そのものだ。私はドロドロオヤジからその歴史を学び、また今村と同時代を歩みながらその進化を感じ取ってきた。今日の優勝も、今村自身がある進化形態を自分の手で完結させた。斬新に頑なに柔軟にスマートに、今村は今日また蒲郡の水面で新たな教科書を作ったような気がする。まあ、そんな深いことを考えて涙が出てきたんじゃないとは思うけど。
 今村豊さん、おめでとう。同い年の私は、胸を張って言っておきます。あなたはオバマやノーザンダンサーより、はるかに偉大な1961年生まれのスーパースターだ。そして、艇界で後にも先にもいない不世出の天才レーサーだ。今日の、いや今節のあなたを見ていて、改めて心の底からそう実感した。
 さ、今村豊の足元にも及ばないけど、私も人生、もちっと頑張ろっと。(photos/中尾茂幸、text/H)


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受信: 2010/09/12 15:56:07
コメント

現役の競艇選手の中で『天才』と言えるのは今村選手と服部サマだけだと思います。

数年前、初めてレースを見た女子大生は目の前を走り抜ける選手がどこの誰かも知らないまま、そのレーススタイルに惹かれ大ファンに。以来最近まで続いた『おっかけ』生活。

彼女もまた、かつてはとある競技で『天才』と言われる選手でした。

『天才は天才に惹かれるものなんだな』と感じたものです。

まぁ私の場合、若かりし頃の服部サマの映像を見て、その超素敵なルックスに惹かれてファンになっちゃったと言う軽さなんですけどね( ̄▽ ̄;)

今村選手が優勝してくれて本当に良かった。

私も1周2マーク完全に逃げたと思った頃から目がうるうるしてましたよ!

おめでとうございます

そして…ありがとうございました。

投稿者: 月ちゃん (2010/08/30 1:28:45)