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ボートレース特集 > THEピット 勝負駆けの午後
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット 勝負駆けの午後

2010_0927_0834  今垣光太郎が顔をしかめる。
「ここ何年かでいちばん悪いかもしれません」
 たしかに、ここまで成績が悪い節はあまり記憶にない。今日は1号艇でも着外に飛んでしまったのだから、ショックは大きい。その原因として、機力はもちろんなのだが、精神的に守りに入っていることが大きい、と今垣は言う。賞金王が確定している身で、すでにF持ち。先々のことを考えると、F休み前のここでは無理はできなかった。だがそれが、と言うわけだ。
「地元の人とか、東海地区の人とか、みんなスタート行ってますもんね。僕も三国の記念だったら、ゼロ台を狙っていきますけど……。今節は1艇身くらいで、と思って、勘も合ってないわけじゃないんだけど、エンジンがめちゃくちゃ出ているならともかく、それではやられてしまうんですよね」
 つまり、気持ちを強くもっている選手のほうが強いのだ、ということを今垣は言っているわけだ。彼ほどの実力者でも、気持ちが守りに入れば、攻める選手に負けてしまう。ボートレースというのは、精神力の競技でもあるのだ。
 勝負駆けというのは、まさしく精神力が大きくモノを言う局面であろう。
2010_0927_0851  9R、勝てば予選1位が当確になる佐々木康幸がまくって出たところを、2着ノルマの吉田俊彦が差した。予選1位というのも相当なモチベーションだが、崖っぷちから生還しようとするパワーも凄い。バックで舳先を突っ込み、いっさい引かなかった吉田のガッツは、どちらがより強かったかということではなく、佐々木を押し返すに充分のものだったということだ。レース後の吉田は、わりと淡々とエンジン吊りをこなし、佐々木にも丁寧に挨拶をしていたが、控室へと戻る途上に同期の柳沢一を発見すると、力強く左のこぶしをグッと握り締めてみせた。勝負駆けを成し遂げた喜びを、同じ釜の飯を食った仲間には見せつけたのだ。それこそが、吉田の素直な思いであっただろう。
2010_0927_0857  一方の佐々木は、2着にも悔しい表情を見せていた。よくよく考えれば、佐々木が「勝てば予選1位」を知っていたかどうかは微妙なところだ。選手たちは、得点率の細かい状況を知っているとは限らない。というより、順位の上下や他選手との関連性などは、ほとんど知らないと考えていいと思う。ということはつまり、佐々木の渋面は単純に敗れたことへの悔恨、であろう。今垣の言う「心の強さ」あるいは「地元意識」というのは、勝負駆けウンヌンを超えた場所でも、こうして発露されたりするものなのだ。
 もちろん、気持ちの強さが結果に結びつかないこともある。
2010_0927_0813 昨日想定した5・80のボーダーなら2走7点。6・00でも2走8点でOKだった赤岩善生が、6点しか取れないとは、誰が想像しただろうか。10Rはまさかの5着。6号艇だったとはいえ、昨年のあの賞金王勝負駆けを成功させた赤岩が、4着条件を外すとはあまり予想できないことだった。
 レース後の赤岩を一言で言うなら、憤怒の塊、だろうか。表情はコワばったまま硬直し、ぐっと唇を噛み締めて他者を寄せ付けない。隣を歩いているのが勝った大賀広幸だったりして、その飄々とした表情とはあまりに対照的であった。カポック脱ぎ場からもあっという間に姿を消している。というより、カポックを着たまま保管室に飛び込み、それから姿をあらわすことがなかったのだ。普通は、外のカウンターのような場所でカポックを脱ぎ、洗濯係の方に渡すのが普通だから(昨日の11R後は赤岩ももちろんそうしていた)、室内にカポック姿のまま入ってしまったこと自体が、赤岩の心中を表現している。保管室は反対側にもドアがあるので、おそらくはそちらから出ていったものと思われるが、まるで人の姿を避けるように一人その場を抜け出したとするなら、やはり赤岩の悔恨は察するにあまりあるというものだ。そして、言うまでもなく、こういう姿を見せられるから、この男は強い。残り2日間なのか、次節のダービーなのか、100倍返しの激走が見られるものと確信する。
 そうそう、大賀広幸を見ていると、強い決意がなくても結果が出るときは出る、などとも思ってしまうな。先述したとおり、飄々としたふるまいからは、とても予選1位の猛者とは想像しにくいのである。いやいや、まったく気合もなくレースをした、なんてことがあるはずはない。大賀もまた闘志をあふれさせて水面を駆けたのは間違いない。だが、それが表にあらわれないというか、空気として発散するのを良しとしないというか。スリット写真を見ながら、「へなちゃこスタートじゃ~」と笑う大賀の味わいは、勝負のまた別の側面を教えてくれているような気がする。というより、こうした姿を見せられることもまた、気持ちの強さということなのかもしれない。
2010_0927_0577  といったところで、<本日の峰竜太>。今日はついに一度も言葉を交わさなかった。チャンスがなかったわけではないのだが、朝も午後も、悲壮感が全開だったからだ。午後は特に。それはこの男の場合、ギリギリの勝負を全力で戦おうとしている証。実際は11R1着でも準優はほぼ絶望だったが、最後まで諦めない姿は峰竜太らしいものであった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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