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ボートレース特集 > THEピット――ノーサイド
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――ノーサイド

2010_0924_0157 「すみませんでしたっ!」
 顔を真っ赤に紅潮させながら、峰竜太が11Rを戦った選手たちに頭を下げて回っていた。インから先マイしただけの峰、しかも2着に敗れているのだから、謝る必要はまったくないのだが、これは選手たちにとってはレース後のノーサイドの符丁みたいなものだ。なにしろ、峰がもっとも丁寧に頭を下げていたのは、自分を差し切った大賀広幸に対してだったのだから。
 大賀は、こちらこそ、といった感じで渋く片手をあげて応えたあと、峰に何事か話しかけていた。「僕もけっこういいですから、大賀さんのは……」なんて声が漏れ聞こえてきたから、おそらく互いの機力についての情報交換だったのだろう。たしかに峰は快パワーに見えるし、大賀も節イチクラスだろう。
2010_0924_0626 「ごめん、ちょっと引っかかっちゃった」
 花田和明が合流すると、大賀はすぐに花田に頭を下げる。スタ展は枠なりだったものの、本番は強烈なピット離れで6号艇ながら4コースを奪った大賀。内に動いていく際に、少しばかり花田に接触してしまっているのだった。
「いえっ! すみませんでした!」
 花田が太く快活な声で、大賀に返す。明るい顔で、すみません、と。もちろん花田はただまっすぐ走っただけなのだが、これも「何も気にしてないです」の符丁と考えていいだろう。実際、花田は笑顔も見えていたし、お互いに因縁など何も感じられなかった。
2010_0923_0412 「どうもすみませんでしたっ!」
 最後に合流した、石橋道友が直立不動で頭を下げた。大賀と峰の前で立ち止まってのアクション、大先輩に対してだから当然そういう口調になるわけで、しかしもっとも大きな意味は1コース=峰をまくって攻めたことに対してではなかったか、と思われるわけである。もちろん結果的にだが、それを張ったことで峰は大賀に差し場を提供することになったのだから。もちろん、それとて謝る必要などないのだ。それがレース。それが展開の綾。石橋も自らの勝利を懸命に模索していたのだから、悪いところなど皆無である。言うまでもなく、これもノーサイドの符丁。同じ九州の先輩の挨拶に、峰もすぐに恐縮しつつ頭を下げ返していた。
 円形トラックを周回するのではなく、セパレートコースでももちろんなく、2つのターンマークを180度旋回し、しかもひとつひとつのターンマークに複数の艇が突っ込んでいく、というボートレースの性質上、水面では接触を含めたいろんな展開が起こりうる。時には感情を刺激する展開もあるだろう。しかし、それも「すみませんでしたっ!」の一言でノーサイド。そうして彼らは年間200も300ものレースを戦うのだ。さまざまな意味が詰め込まれた、同時に非常に爽快な「すみません」。その交換があるからこそ、真っ向からぶつかり合うこともできる。
2010_0924_0957 「ありがとうございましたっ!」
 ドリーム戦終了後、元気一杯の辻栄蔵が、エンジン吊りに出てきた前本泰和らに頭を下げる。おっと、レース後、珍しく微笑を見せた服部幸男が、やはり大声で「ありがとうございます」とエンジン吊りを手伝う後輩たちに声をかけている。それもまた同様の符丁であろう。先輩だろうと後輩だろうと、常に相手をリスペクトする姿勢が選手たちにはある。それは、水面で激しいバトルをともに戦い、しのぎを削り合う「戦友」だからという意識が根底にあるからだと思われる。

2010_0924_1037 「ヒューッ! ヒューッ!」
 ドリーム戦の後、6選手を出迎える選手たちの輪から、はやし立てるような声が聞こえてきた。声の主は菊地孝平。坪井康晴の枠の前に立って、坪井が陸に上がってくるまで、「ヒューッ!」とからかい続けていた。
2010_0924_0894  なんだなんだ。何があったというんだ。その謎は、貼り出されたスリット写真を見て、解けた。全艇がゼロ台の踏み込みをみせていたのだ。しかも坪井はタッチ!(コンマ01)それを知った菊地が、同期がキワどいレースをしたことを面白がって、からかったわけだ。
「やっぱりそうかぁ~。速いと思ったんだよな~。やっちまったか、と思ったもんな~」
 カハハハハ!と笑い飛ばしたのは辻栄蔵。こちらもコンマ01で、坪井や吉川元浩とおかしそうに振り返っていた。赤岩善生はクスリとも笑っていなかったけど。
 おそらく、ドリーム組はスタートに注意するよう訓示を受けただろう。それは当然だし、そういうものだと選手たちは皆、わかっている。でも、一方でそれはナイスチャレンジでもあるわけで、それを菊地をはじめとする選手たちは、からかったり笑い合ったりするかたちで称えているのではないか。いやいや、フライングを肯定しているってことじゃなくてね。むしろ「Fには気をつけなきゃ」という意味も、笑みのなかに溶け込ませているといってもいいだろう。
 この舞台に立っている52名は、それぞれにとって全員がライバルである。誰もが、自分が頂点に立つことを願っている。相手を蹴落として。だが、そのガチンコ勝負のなかに、お互いを尊重する思いがこめられている。それが発露されたシーンを見るのは、実に心躍ることなのだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)

2010_0924_0863 ※11R後、「今節はやれそうです!」と笑顔を見せた峰竜太。意識しているのはもちろん、地元チャレカで、現在は賞金ランク120位前後だ。ここは賞金を上積みするチャンスなのだが……「チャレカの締切っていつですか? 10月31日? SGって3カ月くらい前にメンバーが決まりません? チャレカは違うんですか? ああ、よかった。ダービーも入ってるんですね。今節が最後かもしれないと思ってて」……選手と話していると、データ的なものや出場条件的なものに疎かったりして(一走入魂タイプが多いことの証左でもある)、驚くことがあるのだが、峰リューもまさしく。チャレカの締切を知っても気合は変わらないが、肩に力が入るようなことはなくなったかも。優勝すれば、一気にチャレカ圏内ですよ、ミネリュー選手!


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コメント

ピットでの選手たちのやりとりは私たちが目にする事のできない世界〜

あの服部サマでさえエンジン吊りを手伝う後輩の面々に『ありがとうございます』って声をかけるなんて…意外です。

いいなぁ、取材班…

そんなシーンを垣間見れて(-.-;)

投稿者: 月ちゃん (2010/09/24 23:24:31)
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