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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――若武者たちの勝負駆け

2010_1009_0273 「よーしっ! 攻めぇぇぇっ!」
 整備室に隣接された選手休憩室から声が響く。記憶が確かなら、これは上瀧和則の声だ。僕は休憩室の隣の検査員室のモニターを装着場から覗き込んでいる。モニターには、峰竜太が激しく2番手を争っているシーンが映し出されていた。
 峰がいったん2番手をうかがう位置に。「よしゃっ!」。上瀧の声のトーンが跳ね上がる。番手は下がっても、3番手はキープ。「よしよしよしっ!」。結果、3着でゴール。「よーしっ」。上瀧は満足そうに一声あげた。振り向くと、休憩室からボートリフトへと向かう上瀧の姿があった。
2010_1009_0713  ボーダー6・00なら、峰は2着が必要だった。だが、8Rの4艇Fなどでボーダーは降下気配にあり、実際、計算してみるとその時点で峰は17位となっていた。それを上瀧は知っていたのだろうか? 陸に上がった峰を、上瀧は嬉しそうに祝福する。本当は、その時点で(9R)予選突破は確定ではない。残り3レースで逆転の可能性を残す選手は五指に余った。それでも、初戦の転覆減点から一時的にでも準優圏内に突入した峰竜太を、上瀧は誇らしく思ったのだろう。優しく笑う上瀧に、峰も上気したように何度も頭を下げていた。
「でも、まだ決まりじゃないですよね」
「大丈夫、大丈夫」
2010_1009_0286 上瀧は信じているようだった。隣で三井所尊春も笑顔でうなずく。峰は両手を合わせて、「どうか残れますように」とでもいうふうに、頭を上下させた。たまたま目の前に池田浩二がいるのを見つけた上瀧は、峰の肩を叩きながら言った。
「池田を応援しておけ」
「池田さん、よろしくお願いします」
 12Rに出走する池田は、1着でもボーダーには届きそうもない位置だった。つまり、もし池田が1着になれば、19位以下から圏内にジャンプアップする選手が減る、のである。まさしく、上瀧一流の気の利いたウィットだった。峰に頭を下げられ、池田もニコニコニコッと相好を崩す。峰はその後も、何度も池田に対して両手を合わせて頭を下げていた。
2010_1009_0597  結果……峰竜太、16位! 予選突破! 初戦の減点にも諦めることなく全力で走ったことが、この壮挙を呼んだ。本番はもちろん明日だが、しかし誇ってもいい準優進出である。おめでとう!

 峰が準優進出を確定させたのは、実際は12Rの結果によるものである。だからそれまでの間、報道陣は何度も峰を取り囲んでいたし、峰も報道陣のもつ得点表を何度も覗き込んでいる。
2010_1009_0809  10Rの展示を終えて戻ってきた岡崎恭裕が、その様子に気づいて目配せを送っていた。岡崎にとっても、盟友の一人と言うべき峰の健闘は嬉しいことだったのだ。ただし、当の岡崎も10Rは勝負駆け。6・00なら2着が必要で、結果的には3着でも18位には届いていなかった。機力上々なだけに、それなりの確信をもって臨んだはずなのだが……。
 5着で戻ってきた岡崎は、思い切り顔を歪めていた。
 こんなに悔しそうな岡崎を、これまで見たことがあっただろうか。
 総理杯の優勝戦で敗れたときには笑っていた。もちろんそれは、悔しさをひた隠しに隠すための笑顔だったのだが、とにかく岡崎は笑っていた。丸亀の新鋭王座、準優で敗れた岡崎は、陸に上がって真っ先に、やはり同じ準優で敗れた稲田浩二の肩をポンポンと叩いて慰めていた。自分の敗戦より、同期の敗戦を気遣ったのだ(稲田は一瞬2番手を走っていたこともあったのだが)。
 僕は、岡崎は簡単には感情をあらわにしない男なのだと、そう思ってきた。だが、今日の岡崎は、思い切りストレートに悔恨を表情に出していた! 岡崎がさらに強くなった証だと僕は確信する。
2010_1009_0421  悔しさの最大の原因は、スタートにあったようだ。スリット写真が貼り出され、覗き込んだ岡崎は叫んだ。「だせーっ!」。コンマ18。4カドの鳥飼眞がまくって出たのは、むしろ3コースのS後手にあったと言うべきだが、たしかに岡崎も抵抗しうる踏み込みとは言えなかった。そして、岡崎はそれをおおいに悔いた。
 それから数十分後、モーター返納を終えた岡崎と顔を合わせた。お疲れ様です……岡崎は爽やかに笑顔を向けてきた。だが、すぐに笑顔は消えた。お疲れ様っす……それ以上、岡崎に声をかけることはできなかった。

2010_1009_0822_2 「腕が足りないっす」
 平本真之は言った。でも、本当にそうだろうか。勝負駆けに臨んだ9Rは6着大敗。突きぬけられるかもしれない展開もあっただけに、平本は相当に悔しそうだが、それは本当に腕の問題なのだろうか。
「1マーク、もっとグッと舳先が返ってくれば……。やっぱり、腕が足りないっす」
 モーターボート記念では、SG初出場で初優出。2度目のSGでも、3日目終了時点では準優圏内。腕が足りないのだとすれば、これほどの活躍の原動力は何だというのだろう。
 おそらく、平本はSGで走った10何走かで、大いなる気づきを得たのであろう。たしかに結果は悪くはない。しかしそれ以上の「自分に足りないもの」に直面したのではないだろうか。それを象徴する言葉としての「腕が足りない」なのだと僕は思った。
2010_1008_0418  そうして自分と向き合っている若者を見ると、つい煽りたくなるのが僕の悪いクセである。「これからはSG常連だもんね」「チャレンジもシリーズも出られるし」「今月の常滑の記念を優勝して、総理杯もね」「あ、チャレンジ優勝して賞金王に出て、ベスト6に残れば総理杯は当確か」。そのたびに、苦笑する平本。アホなおっさんのイヤな煽りにも笑顔を絶やさないのは彼らしいが、しかし迷惑だっただろうなあ。
 最後の煽りは「ともかく、あと2日、意地を見せて!」。平本は今度はにっこりと笑って、力強く「はいっ」と言った。今晩はレースを思い出して悔恨にまみれるかもしれないが、平本はすでにしっかりと前を向いている。

 冷たい雨が降る、秋の夜長に若武者たちがそれぞれの勝負駆け!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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