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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――トライアル後

●トライアル第3戦 11R後

 静かなアフターバトルであった。
_u5w9361  逃げ切った池田浩二は、すでにほぼ終戦。4着だった山口剛も、望みが断たれたも同然。反対に、シンガリ負けを喫した石野貴之は、それでもファイナル当確である。今村豊は1着なら想定ボーダー21点に届くか、2着では1点足らず。しかし、そうした点について感情をあらわにする人ではない。
 勝った喜び、敗れた悔しさ、それぞれにあるけれども、ファイナル最終章にまつわる明暗のようなものは、比較的少ない結果に終わっているのだ。
_u5w9782  だから、もっとも胸の内を表情に出していたのは、岡崎恭裕ということになると思う。選手たちがどこまで知っていたかはわからないが、ピットでは「21点ではファイナル進出は厳しいのではないか」とささやかれていた。僕自身がピットでできる計算などタカが知れているので、僕にはどこまで正確なのかがさっぱり掴めなかったのだが、しかし5着で21点に届いた岡崎が「やっちまった」という表情をしていたのを見て、この点数は決してファイナルを保証するものではないのだと思うしかなかった。
 初戦で、展開を作りながら後退して4着に敗れたときも岡崎は悔しさを露骨に表に出していたが、その度合は今日のほうが大きかったように思う。それは4着と5着という着順の差ではあるまい。もし着順がひとつでもふたつでも上ならば、ファイナルへの手応えをその場で感じることができたのに、それがかなわなかったこと。トライアル最終戦というのは、それが感情の分水嶺になりうる。もちろん、大敗を喫してしまったこと自体への悔恨も胸に迫ってはいただろう。
_u5w9853  では、3着でファイナル進出を確定させた湯川浩司はどうだっただろうか。昨日一昨日に見せた、やるせない表情はいっさいあらわれていなかったが、しかし決してすぐれた顔色とは言い難かった。これは単純に、敗北に対する落胆だと思う。得点的には、実はこの時点で少なくとも1号艇はなくなっていた。石野と同得点だが、上位着順差で石野がまさっていたからである。では、それを知っていたかというと、これは怪しいところ。ただし、もし1着であったなら、初戦と2戦目のリベンジとなる白カポックが近づいたことは確かなので、それをかなえられなかったことへの思いはあったかもしれない。

●トライアル第3戦 12R後
2010_1222_0613  昨日と同じ6着である。だが、菊地孝平は笑みすら浮かべていた。やるだけやった笑みなのか、2回連続シンガリに笑うしかなかったのか、そのあたりは判然とはしなかったけれども、昨日のような怒りに震える菊地孝平はどこにもいなかった。もちろん、今夜は眠れぬ夜を過ごすのではないかと想像するけれども。
2010_1222_0174  笑みといえば、もちろん濱野谷憲吾である。あれだけの激戦をくぐり抜けて2着。それがファイナル1号艇への約束手形となったのだから、笑っていなければおかしい。もちろん、レース直後にそれを認識していたかどうかは怪しい。だが、エンジン吊りにあらわれた須藤博倫がトビキリの笑顔で出迎えていたあたりで、何かを察していた可能性はある(得点を教えられていたかもしれない)。何しろ、須藤と別れてから、濱野谷の笑みはグッと深くなったのだから。
2010_1222_0204  一方で、中島孝平にはそうした柔らかい表情はいっさい見当たらなかった。もともと淡々としている……とはもう何度も書いているが、まあ、そういうお人柄ではあるのである。ホッとした思いがあったとして、それがファイナルの切符をつかんだことに対してなのか、進入争いから激しくなった戦いをインから制し切ったことに対してなのか、それも微妙なところであろう。ともあれ、中島は賞金王初出場にして、ファイナルの切符をつかんだ! 淡々としたなかに、我々には見つけづらいけれども、歓喜がなければウソだろう。
 そこで気になるのは、もちろん松井繁である。松井がファイナルに乗らないなんて! 松井が賞金王で順位決定戦回りになるのは、実に13年ぶり。11回連続でファイナルに駒を進めていたのである。これは、やはり事件と言うべきであろう。
2010_1222_0336  松井に関しては、レース中の出来事も記しておきたい。昨日もおとといも、もちろん今日も、トライアルが始まるとボートリフトの付近に選手が集結する。賞金王決定戦をナマで味わうには最高の場所なのだ(ピットの中では)。この12Rの1マーク、リフトからは大音量で「あぁ~……」と悲鳴のような声が巻き起こっている。まさに溜め息の大合唱。それは、松井が放った差しが濱野谷憲吾のふところに届いたように見えて、しかしその刹那、引き波にハマってずるりと後退した瞬間だった。そこには大阪支部や近畿地区の面々ばかりがいたのではない。あらゆる支部、地区、期の選手たちが、松井が敗れたことに無念の声をあげたのである。
 レース後のピットの重苦しさは、松井が敗れたことによって、すべて作り出されていたのではないか、とすら思った。つまり、選手も関係者も報道陣も、周囲の人たちが戸惑ったのである。
 しかし松井自身は、いつもの敗戦後の松井繁であった。ひとり悔しさを噛み締める。表情に出すことをグッとこらえる。いや、こらえているわけではないかもしれない。松井はそうすることを自ら規定しているのだろう。つまり、松井が自ら積極的に重苦しさを発散していたわけではない。何度も対岸ビジョンに映し出されるリプレイを立ち止まって振り返りながら、ファイナルに進めないという現実を静かに真っ向から受け止めているようだった。
 ありきたりにまとめる。だからこそ、松井繁は王者なのだと。

●さあ、ファイナル!
 優勝戦の枠順は別項のとおり。ポールポジションには、濱野谷憲吾がすわることとなった。
「いつか賞金王を獲れると思っている」自分のテクニックの鋭さを知り尽くしている濱野谷は、そう信じ続けてきた。その日が、いよいよ明日、来るかもしれない!
 だが、いつか獲れると信じるがゆえに、本人いわく「ガツガツするところがない」というキャラになった濱野谷。明日も同様か……と思いつつ、もしかしたら、とも思いたくなる。
「前にいちど、1号艇で乗ったことがあるけど、(スタートが)コンマ22でしたからね。今回はそんなことのないように」
 その賞金王は2003年。7年も前の話だ。あれから2000日以上が経ったというのに、濱野谷はいまだにその“遅すぎる”スタートタイミングの数字を覚えていて、それを自らへの戒めとしているのだ。それは、執念と呼ぶべきものではないか。
2010_1222_0469  湯川浩司は、3度の賞金王出場で3度優出。凄い。ただ、今回は湯川にとって、お初が二つもある。1、1、1、3。3、2、2、3。1、1、3。何の数字かおわかりだろうか。湯川が今日まで戦ってきた賞金王のトライアルと優勝戦あわせて11走の枠番である。そう、内枠しか引いたことがないのだ。この優勝戦が初めての外枠。そして、内枠ばかりで走ってきたがゆえにすべてがスロー発進だった湯川にとって、初めてのダッシュ戦(が濃厚)なのである。会見で湯川自身が口にして初めて気づいたが、明日は新鮮な湯川浩司を目撃できるというべきであろう。ちなみに、アシ的にはダッシュ向きだと本人の弁である。そして「湯川に伸びでやられた」が濱野谷の弁だ。
2010_1222_0481  今垣光太郎は、神妙な表情で会見に臨んでいたが、頬がほころんだ瞬間があった。3号艇が石野だと知ったときのことだ。
「石野くんから離れません(笑)。石野くんが攻めてくれれば、展開があると思います。明日は攻めてもらってまくり差せるようなアシに仕上げたい」
 100%他力本願宣言(笑)。実は、似たようなことをモーターボート記念の優出会見でも語っていて、5号艇の自分は4号艇の仲口博崇がまくってくれればまくり差せるから楽しみ、と言っていたものだった。レース前には場合によっては何百通りも展開をシミュレーションするという光ちゃんらしいといえば、その通りなのだが。ただ、MB記念との違いは、今回はやけにニコニコしながら語っていたこと。MB記念よりずっと気楽そうなのだ。

 さて、以上の決定戦経験組に対し、あとの3人は賞金王初出場組が占めることとなった。
2010_1222_0529  昨日の段階で当確を決めていた石野貴之は、変わらず凛とした顔つきで、ハキハキと、また理路整然と、会見で質問に応えていた。また、中島孝平もまた、変わらず淡々と、また丁寧に、回答を繰り広げていた。ともに賞金王ファイナル進出の興奮も、恐れも、緊張も、ひとつも見せないのだから、豪胆である。もちろん、明日になってどうなるかは、本人たちですらわからないだろうけれども。
 岡崎恭裕は、決定戦6人のなかでは唯一と言っていいほど、ネガティブな言葉ばかりを口にしていた。「アシは全体的に弱いまま。それは変わらない」「意気込み? そこまで考えていません」「6号艇が得意? でも今回のアシでは6コースから狙えるようなものではない」。字面にすれば、白旗宣言にも見える。
 だが、岡崎はそう言いながらも、まったく表情を暗くしていなかったし、むしろ「それがどうした」的な空気を醸し出していたのである。「アシは弱いけど、だから?」というか。それを自分のハンドルと気合でなんとかしてやる、いや、なんとかできるかも、といった雰囲気なのだ。そういえば、初戦は3コースからツケマイ、2戦目は3コースからまくり差し、今日は届かなかったけど5コースからまくりと、3戦すべて攻め込むレースを見せているのである。12人の中でもっとも激しく握って勝利をもぎ取りにいったのは、岡崎であろう。明日も、最アウトから全速で迫る若武者の姿が見られるかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸=12R、湯川、今垣、石野 池上一摩=11R TEXT/黒須田=事情により、アップが遅れてすみませんでした)


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『しげ爺の賞金王決定戦予想 (最終日)』 2010/12/23 【しげ爺の競艇予想】
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