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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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賞金王決定戦ファイナル 私的回顧

限りなく逃げに近い……

12R賞金王決定戦ファイナル
①濱野谷憲吾(東京)26
②中島孝平(福井)  17
③石野貴之(大阪)  17
④今垣光太郎(石川)12
⑤湯川浩司(大阪)  15
⑥岡崎恭裕(福岡)  19

2010_1223_r12_0955  1年の集大成が、イン逃げのような「まくり」で終わった。
 3対3の枠なり。12秒針が回り、まずはいつもの習慣で憲吾の起こし位置を見る。110mを切ったあたりで憲吾は発進した。
 まあ、楽インか。
 そう思ったとき、私の目にはちょっとした違和感があった。発進のタイミングが後方のスロー勢と同じに見えたのだ。これはもちろん、どちらかのタイミングがおかしい。憲吾が早すぎるのか、2・3コースが遅いのか……そんな違和感を尻目に、私の目は外に向く。

 2010_1223_r12_0957 湯川のアタマ舟券で勝負している身の上、あくまでダッシュ勢が主役なのだ。湯川が自力で行くか、今垣の攻めに乗るか、どちらにせよスタートを決めなければ話にならない。スリット、今垣がわずかに覗いている。
 まくり宣言をしている光ちゃんなら、ここから絞るかも??
 スタンドは騒然としている。
「イマガキィィ~行け~!!」
 という絶叫も聞こえた。が、なんかスタンドの騒然ぶりが、ちょっと変な感じだった。まだ今垣が絞ってもいないのに、悲鳴のような断末魔の叫びのような、悲壮感に満ちた騒然ぶりなのだ。
2010_1223_r12_0961  ここでやっと内の隊形に目をやった私は、もうビックラこいてしまった。
 憲吾がいない?
 いや、最内に確かに憲吾はいた。いたが、それはもう中島の1艇身ほども後方だった。 な、なぜ?? あんなに2・3コースより前にいて、同じようなタイミングで起こしたのに、なんでこんなに遅れてるっ??
2010_1223_r12_0965 もう、今垣を見ている場合ではなかった。中島がスッと静かに内にハンドルを入れる。すぐには絞らない。しっかりマイシロを確保してから、中島は憲吾をいたぶるように引き波に沈めた。冷静沈着な判断であり、このじわじわまくりが賞金王への決め手になった。今垣の攻めをブロックした石野が、凄まじい切れ味のまくり差しを打っていたのだ。もうコンマ1秒でも早く中島がまくっていたら、あるいはもう少し中島が強めに握っていたら、石野の割り差しがズッポリ突き刺さっていたと思う。冷徹なまでの「落としマイまくり」が、石野の花道を遮蔽した。そして、その絶妙な塩梅の2コースまくりは、私の目にはまくられない差させない、完全無比な逃げに見えた。

2010_1223_r12_1033  1年間、頑張って頑張って頑張って走り続け、ここまで生き残った栄光の6戦士に最後の光陰が刻まれた。真っ先にゴールを通過した中島が高々と右手を挙げ、シンガリで通過した憲吾が深く深く頭を垂れた。今節のふたりの足取りは似ている。トライアル初日のセンター枠で重い着を背負い、2・3日目の1・2号艇で枠なりの着順をゲットした。どちらも賞金王を獲るに相応しいテクニックとパワーと強運を有していたが、その2本の足跡は180度に分断された。

2010_1223_r12_0901  憲吾の敗因はスタート。それのみ。私が勝手に思うに、早めに起こした憲吾は同じく早めにアジャストしながら、全速で行くタイミングをきっちり捉えようとしていたのではないか。そのアジャスト(補正)に失敗し、いくら握っても取替えしのつかないほどの遅れになった。そんな気がする。まあ、理由はどうであれ憲吾本人の過失であり、「智也が頑張ったのに、情けないぞ!」という多くのファンの叱責は甘んじて受けなければならない。

2010_1223_r12_0904  そして、その大本命のドカ遅れに舞い上がって攻め急ぐことなく、外の艇の攻撃を巧みに殺しながら逃げきった、いやまくりきった中島は黄金のヘルメットに値するレースを魅せてくれた。「メンタルが弱い」と本人は公言するが、もうそれを口にするのはやめた方がいい。本当に心の弱い人間に、あんな簡単そうで難しいターンはできない。SG初Vが賞金王決定戦。その事実だけで十二分にタフなヒーローだと思う。おめでとう、北陸の孝平クン!(photos/中尾茂幸、text/H)


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