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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――憲吾が……

2010_1222_0120  賞金王決定戦は、濱野谷憲吾に尽きる。
 勝ったのは中島孝平だが、それでも濱野谷憲吾なのだ。
「前に1号艇で乗ったときにはコンマ22だったので、今回はそういうことがないように」
 たしかに昨日、そう言っていたはずではなかったか。03年賞金王で踏んだ轍を、その数字まで記憶に刻んで、戒めとしていた濱野谷なのだ。
 コンマ26。まさか、あのとき以上にタイミングを失しようとは誰が想像しただろうか。
 痛々しかった。こんなに痛々しい濱野谷を見たことがない。
 SG優勝戦で敗れても、ここまで硬直した表情の濱野谷は見たことがないのだ。悔しがってはいても、笑っていた。苦笑いであっても、笑っていた。だが、今日は苦笑いすら見えない。カポックを脱ぐとき、ともに戦ったメンバーと顔を合わせたとき、少しだけ笑ったのは見えた。だが、それは明らかに無理に作った笑いで、それこそコンマ26ほどで消えた。どうしたって、笑えなかったのだ。
 濱野谷の心中をもっともよくあらわしていたのは、飯山泰である。モーターを運びながら濱野谷の左側に寄り添い、今にも泣きださんばかりに顔をしかめていた。濱野谷は硬直だが、飯山は顔のフォルムが完全に崩れてしまっている。勝敗は時の運。だが、こんな敗れ方をしてしまうなんて……。飯山の顔を見ていると、こちらも涙が落ちそうになってしまった。
2010_1223_0356   モーターを返納している間も、濱野谷は黙々と、表情を変えずに手を動かしていた。はっきりした記憶があるわけではないが、こうしたときでも濱野谷は周囲と笑顔でレースを振り返り合ったりしていたのではなかったか。つまり、今日は誰もが濱野谷に声をかけるのをためらっていたのだろう。それほどまでに、濱野谷の姿は沈痛すぎた。こんな濱野谷憲吾はもう二度と見たくない、そう思った。
 だが、一方で初めて見る濱野谷憲吾を歓迎している自分もいた。敗北にまみれたとき、こんな姿を見せる濱野谷憲吾を望んでいたのではなかったのか、と。見たくはないが、こんな濱野谷であってほしい……大きな傷を負った濱野谷は、そんなふうにこちらを混乱させたのだった。
 新たな一面を見せた濱野谷が、今度はポジティブな方面で新たな面を見せる2011年であってほしい。ひとまずはそんなふうに締めくくろう。ともあれ、2010年最大の決戦は濱野谷に尽きた。それだけは間違いない。

2010_1223_0605 「アシは凄かったなあ」と湯川浩司はつぶやいた。相当に仕上がっていたようだ。10R前、すべての調整を終えた湯川が、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「おっ、そのニヤニヤは!」
 こちらが煽ると、湯川はふふんと笑って、おどけた口調で言った。
「何もないよ」
 何かあったのだ。実際は。しかし、その足を活かせる展開にはならなかった。「4なら面白かったのに」というのは、本音中の本音だろう。
2010_1223_0603 「アシは良かった……」と石野貴之は悔しそうに唇の端を上げた。やはり石野は噴いていたのだ。ボート変更があったが、それにも完全にマッチングさせていたそうだ。もしかしたら、1マークでは快哉を叫んでいたかもしれない。ひとつ左がまくっていったのだから、展開は充分にあったはずだった。だが、その流れを活かし切れなかった。男前の甘いマスクがゆがむのは、当然のことだっただろう。
2010_1223_0621  湯川と石野は、モーターが噴いていたからこその悔恨。しかし、今垣光太郎はそうではない。何しろ、2番手を走って福井支部ワンツー態勢を築きながら、石野に逆転されてしまっているのだ。それはやはり、機力の差。今垣はもちろん、悔しさに顔をしかめてはいたけれども、妙にサバサバしていたようにも見えたのだった。悔しさをぐっと噛み締めたあとには、後輩の快挙が思い出されたことだろう。今垣にとっては、やるだけやった賞金王決定戦ということになるのかもしれない。ちなみに、最終的な獲得賞金ランキングでは、福井支部がワンツーを決めている。
2010_1223_0403  岡崎恭裕もまた、機力に泣いての敗戦である。だが、本人にとってそれは、実はいいわけにはなっていないようである。というより、機力的な部分など、自分の力でなんとか乗り越え、道を切り開こうとする思いが強いのではないだろうか。岡崎のレース後のコメントは「6コースが遠かった」である。もちろん機力も含めてのコメントなのだろうが、それを強調しないところが、岡崎らしさだと思う。
 モーター返納のあと、整備室から出て、対岸のビジョンに流れるリプレイを見ている姿があった。ターンマークごとに顔をゆがめ、最後に溜め息とともに立ち上がったのは3周1マークが映し出された直後。つまりは、自分の航跡において、反省点があるということである。思えば、今節は岡崎の悔しがっている姿をずいぶんと見た。あの総理杯、敗れて笑っていた岡崎が、今は悔しさを隠すことがなくなっているのだ。そんな岡崎は間違いなく、来年もSGの顔になっていく!

2010_1223_0041  さて、勝った中島孝平である。この人の淡々とした様子の変わらなさといったら! ウィニングランを終えて戻ってきたとき、それが賞金王ウィナーだとは、一瞬思えなかったほどである。それほど、中島は笑顔を爆発させることもなく、淡々と動いていたのだ。まあ、今垣がモーター返納中、石田政吾もそれにつきっきりという状況、同支部勢がそこにいなかったという状況も、中島の笑顔を引き出さなかった要因かもしれないけど。
 ただ、もちろん淡々としているだけの男ではない。後手を踏んだ濱野谷を、迷うことなくまくっていった1マーク。「MB記念の二の舞だけは嫌だった」と中島は振り返っている。そう、スタートでのぞき、まくる態勢でありながらも、今村豊の伸び返しに差しを選択し、失敗したあのレースだ。あのとき2コースで後手を踏んだのも濱野谷だったな。まさしくあのときと同じ隊形がコースこそ違え現出し、今度はあの悔恨を味わうまいと果敢なジカまくりを放ったのだ。本人は「メンタルが弱い」とも言っていたけど、芯のある男だからこそ、できる芸当である。
_u5w3215  ともかく、おめでとうございます、中島孝平選手! SG初優勝を賞金王で果たすなんてスゴイぞ! ということで、もちろんあります、水神祭! 会見後、ピットに戻った中島は拍手で出迎えられて、満面の笑顔。そして、水神祭が執り行われたという次第であります。
_u5w3235  本当は、JLCの番組収録もあったのだ。太田和美が「先に水神祭をやっちゃうと、寒くて風邪ひいちゃうからな。先に収録してもらおう」とも言っていたのだ(優しいぞ、太田和美!)。しかし、本人も先にやる、ということで、さっそく行きましょう、水神祭。集まったのは今垣光太郎、石田政吾の福井支部に、松井繁、太田和美、湯川浩司、石野貴之の大阪勢。うはあ、よく見れば、賞金王ファイナルに出てた選手が4人もいるぞ。今年最多優勝で、シリーズ優勝戦に出てた人も。そのうえ、王者に怪物くん! なんと豪華な水神祭。近畿って、ほんと強いな……。
 ウルトラマンスタイルで持ち上げられた中島は、キラ星のごとき仲間たちに漆黒の水面へと投げ込まれてドッボーーーン! きっと冷たい水だったと思うけど、しかし中島はどこまでも深い笑顔を絶やさず、カメラに向かって水の中からガッツポーズを見せるのだった。
 2011年も、淡々と強い中島孝平を見せてください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)


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コメント

競艇(敢えてこう書きます)を見始めてから最初の賞金王が、4カドから上瀧がマクり、6コースの信一郎が抜きで勝ったレースでした。
それ以来、毎年賞金王を見続けてきましたが、今までで一番つまならかった決定戦だと言わざるを得ません。

濱野谷が今回の敗戦を重く受け止めているという事が分かって、ほんの少しだけ救われた気がしましたが…
今日の所は二度とお前の舟券買ってたまるか!という心情しかありませんが、いつの日か今日を糧にしてくれるレースを見せてくれるのか…

JLCの放送で決定戦が終わった直後に「面白かった」と言っていた解説者、あなた方は本当にそう思っているのですか?
それが本心なら、ボートレース界の未来は危ういと思います。

投稿者: レオ吉 (2010/12/23 20:03:40)