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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――淡々としていた理由

 こんなにもレース後が淡々としているのは、これが名人戦だからだろうか。
 キャリアの分だけ、敗戦も重ねている彼らは、もっとも悔しい場面でも己との向き合い方を心得ている。そういうことなのか。
2011_0423_0223  いわゆる感想戦の類いをこんなにも見かけることの少なかった優勝戦後というのは珍しい。モーター返納の際、SGなどでは優出選手同士、あるいは同支部の心安い仲間と、レースを振り返りながら渋面を作る、というのはお決まりの光景である。それが今日は実に少なかった。返納は各選手淡々とこなし、寄り添う仲間ともあまり言葉を交わさない。印象に残ったのは、北川幸典が真っ先に叩くことになった岡孝に駆け寄って、「岡さん、ゴメン!」と朗らかに謝った場面くらいか。岡は左手をあげて応え、それっきりで終わったのだが……。
 もちろん、それぞれに表情の違いはあった。たとえば、北川は笑っていた。「やっぱ2着か」と自嘲気味に笑って、おそらくそうした言動が、悔しくてたまらない気持をクールダウンする彼なりの方法なのではないかと察せられた。もちろん、5カドからまくって展開を作り、2マークでも先頭と接触するくらいまで肉薄したのだから、全力を尽くしたという満足感もあるだろう。しかし、本来は栄冠にもっとも近づいた者こそ、もっとも悔しさも大きいはずなのである。それを北川は笑うことで癒そうとしているのではないか。裏読みだけど、そう思った。
2011_0423_0346  岡も、わりとサバサバしていた。何しろ、レース直前は怖いくらいの表情だったのだ。闘志あふれる、なんて言葉がその場で浮かんでくるようなたたずまい。歩様も、妙に遅かった。一歩一歩、気合を地面に叩きつけるかのような歩き方。展示準備に係留所に向かう際など、30mほど後ろを歩いていた大嶋一也にあっという間に追い抜かれたりしていたのだ。そうしたパンパンの闘志は、レースが終わった瞬間に消化されたようだった。準優後に見せたような眉間のシワはほとんど見られず、ただ時々浮かぶそのシワが、内心の悔恨をほんの少しだけあらわしている程度だった。
_u5w2631  新良一規は、穏やかに微笑んでいた。スタート展示で動き、本番では入れずに6コース、それでいて北川のまくりに乗っていったんは2番手争いのシーンもあった。これも、やるだけやったというレースであろう。それもあってか、表情の優しさは新良が抜けていた。優勝戦の敗者には見えないほどに、新良は静謐な笑みを浮かべていたのである。
2011_0423_0336  中村裕将と森脇徹は、淡々としていた。何と言うか、表情の変化や特別な思いの発散や、そういったものをいっさい感じることがなかった。いや、見逃した可能性は否定しないが、正直に言えば返納作業を手伝う仲間たちのなかに紛れて、姿を一瞬見失ったりもしたほどだ(その間に見落としていたかもしれないっすね)。つまり、それほどまでに優勝戦に出場した者に独特なメンタルの発露を見つけられなかったのである。
 やはり、これが名人戦なのだろうか。敗戦との付き合い方を知り尽くし、それをごく自然に次戦への糧とできるだけの手管を身につけた、匠たちだからこその表情なのだろうか。

 あるいは、と思う。
 勝ったのが今村豊だったから、そうなった。
 そんなことはなかったのだろうか。
_u5w2924  誰もが思っているだろう。「勝つべくして勝った」「優勝すべき男が優勝した」。大本命の堂々たる優勝。たしかに唸らされはしたけれども、驚きのような感情は浮かんでこない。
 今村が先頭でゴールし、ピットに戻ってきたとき、仲間は誰ひとり出迎えなかった。バンザイもしていなかった。言っておくが、今村が嫌われてるとかではない。むしろ、先輩後輩分け隔てなく、話題の中心にいることが多い男だ。もちろん、森脇と新良が出走していたから、高田悌二と吉本正昭の山口勢はそちらのエンジン吊りをしなくてはならない。今村はすぐにウィニングランに向かうのだから、出迎えるべきは森脇と新良だ。だが、そうしたときでも、SGやGⅠでは、たとえば試運転係留所まで駆け降りて、祝福のバンザイをする選手の姿が見られる。それをしないのも名人戦だから、という部分もあるだろうけど、同時に「勝ったのが今村豊だから」という部分も少しは含まれるのではないかと思った次第だ。
 しかし、今村は言う。
「エンジン出ていて、勝てると思うときほど負けるんです。もしあのとき同じくらい出ていればもっと楽に勝てたのに、ということばかり。特にSGで、勝てると思って勝てたことは一度もない。逆に、出ていなければ、それをカバーしなくちゃいけない。展開を突くとか、スタートで勝負するとかね。そういうときに勝てたりする。平和島の周年で優出したときに、(白井)英治に言われましたもん。『今村さん、出ていないときのほうがいいんじゃないの』って。今節も、序盤は正直、優勝はないな、やすやすと優勝はできないぞ、と思いましたからね」
 これ、かなり重い意味のある教訓ではないだろうか。そして、今村豊がそれを口にすることに、かなり深い意味があると思う。今村はこんなことも言う。
_u5w3245 「僕はファンの人に、1着を走ってるところを見てほしいとは思ってないんです。それよりも、6、5、4着を走っている時に、ひとつでも前の着順をとろうと諦めない姿。それを見てほしいんです」
 もちろん、どちらも優勝会見での言葉。おそらく今村だけが「勝つべくして勝った」とは思っていないし、今村豊の役割を単にスーパースターとして勝ち続けることだなどと思っていない。
 でも、だからこそ強いんだろうな、とも思う。というより、そういう今村のスタンスが、勝つべくして勝つ今村豊を築き上げている。
 と、なんだか話が堂々めぐりしてきたところで、会見で飛び出した今村ギャグだ。昨年の賞金王のとき、30年間走り続けてきて、やり残したことがある、と言った。今年もそれを目指すのか、と問われた今村は即答した。
「もう、達成しましたよ」
 報道陣が目を丸くする。
「名人戦ですもん。やり残したことって、名人戦ですよ。黄金のヘルメットだと思ったでしょ? 名人戦なんです」
_u5w3975  そんなことを半分真顔で言ったりするから、報道陣は大爆笑するしかない。言うまでもなく、ジョークですよ、皆さん。やり残したこととは、もちろん黄金のヘルメットだ。そして、おそらく今回の名人戦で、黄金のヘルメットを現実的に目標にしていたのは今村豊だけだろう。本人は絶対に否定するが、やはり勝つべくして勝ったというしかない。

 昨年もやはり大本命として出場し、優勝戦で敗れた今村が、今年は大本命を背負ってしっかり勝った。これで、名人戦はまた新たなステージを迎えたのかもしれない。新良も岡も「来年が楽しみ」と語っている。ということは、今村を打ち破る気マンマンである。強い今村が優勝し、しかし来年こそはと燃える匠たちがズラリ揃う。来年の名人戦も、きっと最高! 僕もまた、来年の4月が今から楽しみで仕方がない。(PHOTO/中尾茂幸=北川、岡、森脇 池上一摩=新良、今村 TEXT/黒須田)


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