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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――風の優勝戦

1_4   優勝戦レースを走り終えた選手たちがピットに戻ってくる。揚降機にボートを入れた白井英治、池田浩二、飯山泰が何かを話しながら苦笑いを見せつつ、水面のほうに視線を送った。まったく手に負えない奴だな! とでも言うような表情で空中線のほうに目をやる。朝からずっと北に頭を向けていた吹き流しが今、南に向きを変えて激しく尻尾を振っていた。
「英治のために(風向きが)変わったんだよ!」
 白井を出迎えるために揚降機まで来ていた今村豊がいう。
「これレース終わったらたぶん風が止むんじゃないですか(笑)!」
 気まぐれな風に振り回され続けた飯山泰がいう。
 優勝戦はほんとに誰も予想できないような水面状況になった。

2011_0705_0032  今日は比較的安定した風が吹く一日だった、11Rまでは……。昨日までと変わって追い風になったとはいえ、水面が波立つほどではない。5Rでは石野貴之が1分47秒5で走っている。池田浩二が4日目9Rで出したタイムをコンマ1秒更新する今節ベストラップだ。水面コンディションは良好だったといえる。
 追い風=イン有利の定説もしっかり当てはまっていた。11Rまでにイン逃げが7本。今節のイン1着本数は初日から順に4本、3本、6本、6本、2本だったから、今日が最もイン優勢だったことになる。
 優出メンバーたちがスタート特訓でしきりに内へ入って練習していたのも自然な流れだった。⑤大嶋一也は当然スローの練習しかしてい2011_0705_0059なかったし、①飯山泰もイン死守を想定してかなり深めの位置からも練習をしていた。②平石和男も、④池田浩二も、⑥重野哲之も、イン水域から練習している姿を見た。この風なら多少深くなってもインが有利。誰もがそう考えていたに違いない。

 ところが12Rの展示が終わった直後に突如として風向きは変わった。このタイミングで変わったのでは選手はどうしようもない。頭の中でスタート勘を修正しつつ、いたずらな風に苦笑するのみだ。
 向かい風は次第に強くなっていった。係留ピットにとまっているボートの艇底が波を受けてバシャッ、バシャッと音を立て始める。昨日の準優のときに聞いたのと同じ音だ。準優と同じコンディションなら、ひょっとしてまたスロー勢のスタートが届かず、ダッシュ勢に飲み込まれるのか。まさにその通りの結果になった。

2011_0705_0073  飯山泰は風に翻弄され続け、浜名湖周年2連覇を取り逃す格好となった。実は優勝戦が始まる前、知り合いのカメラマンが「今日は飯山選手の表情が硬い」と教えてくれた。残念ながら女子リーグ番記者が本業の私には、飯山の様子がいつもと違うことはわからなかったのだが、いつも見ている人からすれば一目瞭然だったらしい。
 そういわれれば、とあるシーンを思い出した。飯山が装着場で作業をしている時、同支部の山田哲也が横を通りかかったことがあった。山田は飯山の姿を横目で見つつ一旦は通り過ぎたが、足を止めて飯山のもとへ戻ってくる。そして声をかけ、笑顔で何なら談笑を始めた。ひょっとしたら山田は飯山の様子がいつもと違うと感じ、リラックスさせるために声をかけたのかもしれない。
 飯山が硬くなっているとしても不思議ではないと思った。というのも近況の飯山はイン戦成績がよくない。前期はイン1着率72%と上々の数字だったが、近況のイン戦着順をさかのぼってみると、①②②②①⑥③③①①着となる。最近10戦でわずか4勝だ。前節の児島グラチャンでは2コースの田村隆信に差され、前々節の江戸川周年でも2コース差しを2発食らって2着を並べている。今期に入ってからのイン1着率は33%しかない。自信満々で優勝戦1号艇を背負える状態ではなかったはずだ。
 浜名湖周年2連覇となれば、97年に43周年と44周年を勝った服部幸男以来で14年ぶりだったが、その夢は潰えた。しかし飯山が浜名湖巧者であることは今節ではっきり証明されただろう。当地では来年に笹川賞も控えている。ちょっと気の早い話だが、来年5月に飯山がここでSGを制覇しても不思議ではないだろうと思った。

2011_0705_0236  さて白井英治である。予選を16位でなんとかクリアし、準優は6コースから、優勝戦は4コースから制して栄冠をもぎ取った。
 朝の原稿でも書いたが、今日早い時間から精力的に試運転とペラ調整を重ねていたのが白井だった。
 その一方で夕方のピットでは、優出組の誰よりも早く9R発売中からペラゲージを片付け始め、真っ先に準備万端のシグナルを出していたのが白井だった。
 朝のスタート特訓やレース間のスタート練習では、他の選手が内寄りに高い意識を持っていたなかで、センターからの練習ばかりを繰り返していたのが白井だった。
 今日一日を通して彼の動きにブレがなかったように思う。自分の進むべき道を貫き通していたのが白井だったように感じた。
 突如として吹き始めた向かい風は、結果的に白井にとって神風だったかもしれない。しかし、と思う。追い風時と向かい風時のイン1着率はデータ的に5%ほどの差だ。風向きの変化は白井のチャンスを5%増したにすぎない。試運転で機力を仕上げ、スタート練習で勘を掴み、それがあったからこそ5%を生かすことができた。コンマ08のカドまくりは、ブレない男が見せた一本気なVロードだった。(PHOTO/中尾茂幸、TEXT・PHOTO(1枚目のみ)/森喜春)


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