この特集について
ボートレース特集 > THEピット――追い風の高揚感
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
ライタープロフィール
カテゴリー
関連リンク
競艇サポーターズ
関連書籍

 ボートレース特集

THEピット――追い風の高揚感

2011_0704_0074  スタンドにある記者席からピットへ向かって歩く。今日はどうも足取りが重い。ここ2日間の疲れが出てきたのか、それとも昨日夜中まで酔っぱらったH記者の説教を聞かされていたからか。どうにも足が前に進んでくれない。
 すると中尾カメラマンがつぶやく。「今日は追い風か」と。はっと我に返った。そうか、原因は風だ。昨日までとは真逆の風が吹いている。真正面からの風を受けていたせいで足が前に出づらかったわけだ。
 昨日までの今節全60レースで、追い風のコンディションなど一度もなかった。右横風が2レースあっただけで、残りの58レースは向かい風だ。よりによって最終日に風向きが変わるとは。昨2011_0704_0099日の準優では強い向かい風がレースに影響を及ぼしたが、今日も風はいたずらを仕掛けてくれた。
 しかも追い風で安定しているわけではないから困ったものだ。吹き流しは昨日まで南を頭にして鯉のぼり状態で気持ちよさそうになびいていたが、今日は急に北枕にされて落ち着かないのか、下を向いてみたり横へ流れてみたりと、むずかる赤ん坊のように寝返りをうっている。選手たちにとっては悩ましい話だ。これでは優勝戦の時にどんな風になっているのか予想もつかない。
 ピットに入ってまずスタート特訓のスリット写真を見に行った。ざっと見て約半分くらいの艇がフライングを切っている。1艇身以上のFで舳先が写真からはみ出している艇も少なくない。追い風に対応して勘を修正する必要がありそうだ。

 さて優出メンバーの朝の様子だが、目立った動きを見せていたのは3号艇の白井英治だけ。残りの5艇のボートは装着場にとまっており、どれもプロペラは2011_0704_0078取り外されていた。
 6号艇の重野哲之がペラ調整室で作業している姿は確認できた。ゲージの山を目の前に置きながら、細かい微調整を繰り返している。眼光の鋭さが増しているように感じたのは気のせいだろうか。
 重野は朝のスタート特訓でスローに入る動きを見せていた。5号艇の大嶋一也が動くなら自分もついて行こうという狙いか。それともピット離れで一気に仕掛けようという構えか。
 今節静岡勢は7人が出場していたが、優勝戦には重野しか残れなかった。ここ7大会連続で2~4人の複数名の優出者を出していただけに、今回は苦しい戦いを強いられた印象だ。それだけに重野の肩にのしかかる期待は大きい。本人もそれは感じていることだろう。
 よく考えれば今節の重野は静岡勢の最若手だった。新兵として先頭に立ってエンジン吊りを手伝ったり、レース後の後片付けをしたりと忙しそうに動き回っていた。他のほとんどの支部は90期台の若手が新兵を務めていただけに、ちょっと重野がかわいそうな気もした。静岡支部の4000番台で現在A1級なのは笠原亮、山田雄太、三浦永理の3人だけ。若手勢の底上げに期待したいところだ。

2011_0704_0354  3号艇の白井英治は1Rのスタート展示が終わった頃に水面へ降りていった。朝から調整を続けていたペラを取り付け、試運転へ出て行く。V獲りを目指して本格準備開始だ。
 ところが3分ほどすると白井はボートを押して陸に揚がってきた。坪井康晴らと足合わせをして数周走ってきただけでピットに帰ってきた。そこで坪井と顔を合わせると、「ちょっと回転が足らん気がする」と大きな声で言いながらプロペラを外して手に取った。ペラ調整室へと舞い戻り、叩き直しの作業に入る。
 微調整程度で済んだのか、白井は1Rが終わると再びペラをボートに取り付け、水面へ降りていった。すると偶然にもちょうどそのとき水面を漂っていたのが坪井康晴。白井と坪井は互いに目で合図を送り、足合わせ第2ラウンドへと向かっていった。
 優出メンバーで朝から試運転を繰り返していたのは白井だけだった。予選が16位だったことを考えると、機力的に一番苦しいのは彼に違いない。白井が乗っている61号機は、先月の女子リーグで浜名湖V歴もある五反田忍が引き、四苦八苦しImg_8493た挙句にまさかの予選落ちを喫したモーターだ。あの機を駆ってGⅠ優勝戦まできたことが驚きに値する。なんとか勝負できる足までもっていきたい。そんな意気込みが伝わってくる朝の白井だった。
 そんなわけで朝の取材を終わらせて、優勝戦独特の高揚感を味わいながらピットを出た。記者席へ帰る足取りが妙に軽く感じる。それは追い風が背中を押してくれていることが原因ではないだろう。きっと心が躍っているせいだ。(PHOTO/中尾茂幸、TEXT/森喜春)


| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
コメント
コメントを書く




※メールアドレスは外部には公開されません