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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――夜の整備室にて

2011_0715_0127   選手御一行様のお成~りぃ~~~。
 11R発売中、控室方面から突如あらわれた一群の選手たち。すわっ、何事!? 一気に数十人の選手が大挙して登場したのを間近で目撃してしまった僕は、一瞬のけぞり、逃げ出しそうになった。(←写真はエンジン吊りです。たくさんの選手、というイメージってことでひとつ)
 10R終了後には帰宿組の第一便が出発する、というレース場は少なくない。蒲郡の場合、宿舎はピット裏にあるため徒歩移動。控室前集合後に管理の方が引率して宿舎に向かうシステムで、控室は2マークの奥のほうにあるから、宿舎への道のりはピットを横切るかたちになる。つまり僕は、帰宿第一便の選手たちに真っ向から遭遇してしまったわけである。
 お疲れ様でしたの挨拶もそこそこに選手の背中を数えると、これが16人。数十人と書いたが、ウソでした。でも、出会った瞬間にはそれくらいの迫力を感じたんですよ、これが。
2011_0715_0481  大急ぎでメモを取る。手帳に書きなぐることのできた選手名はというと、市川哲也、森秋光、平尾崇典、田村隆信、興津藍、坪井康晴、吉川元浩、丸岡正典、石渡鉄兵……あぁ、たったこれだけ。今、出走表を見ながら16人を必死で思い出そうとしたのだが、アタフタしてたんだろう、新たに思い出せる選手はいなかった。たぶん中里英夫、井口佳典、重成一人あたりはいたんだろうけど。ただ一人、はっきりと覚えているのは今村豊。一群のど真ん中で、後輩たちと大声で笑っていたから、忘れようがない。そう、その一群はいわば、今村豊と愉快な仲間たち、にも見えたのである。

2011_0715_0002  第一便で帰ってもおかしくないのにピットに残っていた、という選手のなかに、松井繁がいる。本体整備をしていたのだ。松井の姿を見るのは圧倒的にペラ室が多いから、これはなかなかレアな光景といえた。本体を割り、組み立て直すときには「検査さーん」と声をかけて、検査員さんのチェックを受けながらモーターを組み上げていく。これが12R発売中まで続いていて、勝負駆けを前に渾身の整備を施した様子だ。
2011_0714_0241  同じく、瓜生正義も居残り組で、こちらはペラ調整。ただ、自身の調整が切羽詰まっているというよりは、川上剛ら後輩にアドバイスを送っているシーンが目についた。長嶺豊さんもそんな瓜生に感心しきりの様子である。その後には、須藤博倫と並んでペラを叩いている姿もあって、この人の人望は支部を軽く超えるものがあるのだなあ。それでいて、こんなに強いんだから、もう……。
2011_0714_0802  篠崎元志が残っていたのは、調整作業のためだけではなく、新兵の仕事があるからだ。結果的に予選トップに押し上げた9Rの逃げ切りのあとも、ギアケースの調整をしていた篠崎だが、何しろ今日は11Rに平本真之、12Rに岡崎恭裕と峰竜太が出走していたから、遅い時間帯の雑用系の仕事は必然的に篠崎に大きな負担がかかることになる。山田哲也と手分けしてテキパキと動き、一段落つくとギアケース調整という行動を繰り返していた。九州イケメン三銃士の中にいるときも魅力的だが、単独でもやっぱりカッコいいわなあ、この人は。
2011_0715_0664 で、山田哲也も新兵仕事のかたわらに自身の作業もしていて、こちらはペラ調整。ペラ室を覗き込んでみると、近くに濱野谷憲吾と飯山泰の姿もあった。こちらも一便で帰ったっていいのに、ペラ調整を続けていたわけだ。しばし濱野谷を遠目に眺めていたが、笑顔をまったく見ることができなかったなあ……。
 10Rに出走した今村豊が一便で帰ったのだから、この人だって帰れないことはなかっただろう。森高一真だ。6号艇でイン強奪。基本枠なりのレースが多い森高にしては、珍しい「勝負駆け」だった。しかし実らずに4着。レース後は当然、思い切り顔をしかめており、実にわかりやすい悔しがり方であった。結果にこだわる男なので、何を言っても「勝たなきゃ意味がない」と言うであろうことはわかっていた。だが、あえて聞いた。想定通りの言葉が返ってきた。さらに、これも返答は想像がついたが、やはりあえて質問をした。ダービー勝負駆けを意識していたか、だ。やっぱりだった。
「クロちゃん、これはオーシャンカップやで。オーシャンカップの準優に乗るために前付けしたに決まっとるやろ。これまで前付けしなかったのは、1着勝負という局面ではないときや。今日はそういう局面だった。だから動いた。そういうことや」
2011_0714_0843   明日、準優勝負駆けを戦う選手の中に、ダービーのボーダーも懸かっている選手はいるだろう。だが、明日はそれよりもまず、予選突破なのだ。まあ、予選を突破できればダービー勝率は上昇する選手が多いはずなんだけどね(SGは2点増しだから、予選得点率6・00ならダービー勝率は8・00)。しかし明日に限ってはダービーよりもオーシャンカップ、というのがSGクラスの真実である。
 最後に、やっぱり答えが想像できるけど、聞いてみたことがあった。今日の前付けは、やるだけやったってことにはならないのか。たぶん、勝てなかったら意味はない、という返答だろう。インを獲るだけならだれでもできる。それで勝ってこその前付けだろう、というのはその通り。先マイできたのは意義があると思うが、それでも敗れたら意味がない。だが、森高の答えは少しだけ違った。
「それは一節終わってから、やな」
 愉快な質問でなくてすみませーん、と言って立ち去ろうとすると、森高はニコニコッと笑った。敗者の笑顔とは思えなかった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)


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