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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――予選順位?

_u5w6444  10R発売中の水面を駆けるボートが1、2、……6艇。すでにあたりは暗くなり始めており、かなり遅い時間帯の試運転と言える。それぞれのネームプレートを確認する。
 齊藤仁。山口剛。平田忠則。平本真之。坪井康晴。山田哲也。
 お気づきだろうか。このなかに準優勝戦に駒を進められた選手は一人もいない。明日はいわゆる敗者戦を戦う者たちばかりだ。
 明日、この時間帯にレースを走るのはもちろん、準優組なのである。10~12Rに出走する選手たちのなかには勝負駆けに挑む者もおり、特に10、11Rの選手はもう試運転をするわけにはいかないが、その時点で10人以上の準優当確者が出ており、しかし彼らはすでに陸での作業に専念するか、作業を終えているのだった。
_u5w6563  準優に進出できなかったからといって、モチベーションをガタ落ちさせる選手は、この舞台にはいない。たしかに平本、山口、坪井あたりはダービー勝負駆けも抱えてはいるから、明日は少しでもポイントを重ねたいという事情はある。だが、おそらく彼らはそれを主眼に置いて、遅くまで水面を走っているわけではない。ダービーを頭の片隅に置きつつ、しかし明日の戦いを満足いくものにするため、予選道中と同じように準備を積むのである。なお、この6人のなかで、坪井と平本は11R発売中まで試運転をしていた。それがレースや展示以外で水面を走った選手の最後であった。

2011_0715_0366  11R、佐々木康幸がカドまくりで1着。この2着に続いたのは、興津藍である。これが2本目の2着。健闘は見せているのだが、初1着にはなかなか届かない。それもあってか、ピットに戻ってきた興津に笑顔はなかった。まあ、2着は好成績には違いないが、それを目指して走っている選手はいないのである。
2011_0715_0645  その興津に歩み寄ったのは、まず森高一真だった。ニコニコと笑いながら、声をかける。エンジン吊りの音で声は聞こえないが、励ましているのは明らか。同県同期の田村隆信も寄り添って、森高と興津の会話に笑顔でうなずいている。とどめは井口佳典。「俺も落ちる気マンタンやったんやで!」。水神祭のチャンスは充分にある、そのときは俺も一緒に飛び込んでやる! ということでしょうかね。実際は、絶対に落ちないと思うけど。その一言が、興津の頬をゆるめさせた。にかーっと笑った興津は、またまたぁ、という感じで井口に視線を送った。あと2日、銀河系の強い絆のなかでの水神祭をぜひ見たいぞ!

2011_0716_0473  とまあ、なんだか準優組以外の選手のことを記してしまったが、ピットでは勝負駆けの悲喜こもごも、みたいなシーンはあまりなかったように思う。10Rで峰竜太が6着に敗れ、泣き出しそうな表情を一瞬見せたりもしていたが、峰は無事故完走で当確だったので、これは勝負駆けうんぬんとは無縁のシーンだ。峰は純粋に大敗を悔しがった。一戦一戦にすべてを傾ける峰らしさ満点の場面である。11R6着とまさかの大敗を喫した松井繁が、微笑んでいるような怒りを押し殺しているような、実に微妙な表情を見せていたが、こちらも結果的には予選敗退組である。そのうえ、単に勝負駆け失敗を悔やんでいる、もしくは己を責めているという雰囲気にはとても思えず、そこには王者にしかわからない感情の揺れ動きがあったことだろう。
_u5w6590  実際問題、選手は自身の得点率はわかっていても、予選順位等を把握しているとは限らない。ここで何度も書いてきたように、他人の得点まで細かく計算している選手はほぼいないのである(長嶺豊さんによると、加藤峻二はその計算が早く、質問しに行くと即座にボーダーを導き出したとか)。終盤戦、ボーダーの計算は複雑を極めていた。6・00が5~6人という状態が続き、しかもうち1~2人は19位以下となる可能性が高かった。しかも、出走時6・00だった松井繁が大敗して得点率を下げて6・00の人数が一瞬だけ減っても、同Rで5着の今村豊が6・00に新たに加わる、といった具合で、選手が自身の順位をわかっているとはとうてい思えなかった。6・00組の一人である重成一人は、レンズを向けるチャーリー池上に「撮っても載せるところないんだから、撮るなよ~」などとふざけてきたそうである。重成選手、おめでとう。最終的にボーダーはまさにあなたになりました。
2011_0716_0847  そんななかで早い段階から自分の順位をわかっていた選手が一人だけいる。今日の2走をピンピン、8Rにして予選1位を確定させていた赤岩善生だ。といっても、走る前に「今日ピンピンなら予選1位」ということをまったく知らなかったそうだ。やはり他人の得点まで計算などしない。今日2本目の1着を獲ったときに、この分ならいい枠番が取れそうだとは思ったそうだが、ピットに戻ってきて大嶋一也に1位であることを知らされ、驚いたという。
2011_0716_0887  その後、赤岩とは10数分話した。10Rも一緒に見た。レースを見ながら、話は続いた。話はいろんな方向に発展したが、多くの言葉が収斂していくのは、「今節は自然体で臨めている」ということであった。きっかけは、GⅠ浜名湖賞の途中帰郷。よほどのことがない限りはシリーズを最後までまっとうすることにこだわっている赤岩に、よほどのことが起きたのだ。落ち込んだそうである。3日間ほどは携帯の電源も切っていたそうだ。だが、いま、蒲郡での赤岩は最高のメンタリティで地元SGの舞台に立っている。「服部さんに、浜名湖で途中帰郷してよかったんだよ、って言われた」そうだが、大げさにいえば赤岩は、自我が崩れることで何かを知り、それを新たに立ち上げる際に進化した自分を手に入れたのである。
 ま、そんな小難しい話はともかく、赤岩の表情はじつに透明感のあるものだった。あぁ、本当に自然体でここに立っているのだな、ということが僕にも伝わるくらいに。この状態があと2日保たれるのであれば……メインカードは2夜連続で白いカポックが舞い踊る予感がひしひしとするぞ。(PHOTO/中尾茂幸=興津、井口、峰、赤岩 池上一摩=齋藤、坪井、重成 TEXT/黒須田)


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