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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――いつも通りの優勝戦

_u5w8282  1Rスタート展示直前にピットに入ると、湯川浩司が地上波放送用のインタビューを収録していた。今日も、あまり笑顔は見られない。
 インタビューが終わるのを待って、湯川に挨拶する。「おはようございます」「す~~」これは湯川語で「おはようございます~~」だ。そして……ニヤニヤニヤ。あら、いつもの湯川浩司だ。「がんばって」「ありす~~~」。湯川語で「ありがとうございます~~~」。そしてまた、ニヤニヤニヤ。すべてをまとめて翻訳すれば、モーターは噴いている、リラックスもしている、そして余裕がある、である。
 ピットに入っての第一感。湯川がやっぱり不気味だぞ! 

_u5w8267  1R発売中のピットは、相当に静かであった。選手も報道陣も数少なく、試運転をしている選手もいない。ペラ室も5~6名が席を埋めている程度で、隙間はたくさん見つかる。整備室。いた。赤岩善生だ。今日もギアケース調整をしていて、SG優勝戦ポールポジションの日でも、いつも通りの赤岩善生で過ごしているのだ。その後、いったん試運転に出て、数周で引き上げ、ふたたびギアケースを外して整備室に向かっている。動きは、どの節でも、何日目であろうと見ることのできる、赤岩善生そのものである。
 ひとつだけ違って感じられたのは、挨拶を交わしたとき。普段の赤岩は、無言で会釈を返すだけのことが多く、それは作業に集中しているがゆえの、あるいは闘志を燃やしているがゆえの赤岩らしさ。今節も昨日まではそうだった。しかし、今日ははっきりと「お疲れ様です」と言葉を発している。たいした違いではないようだが、一節を通して接していると、こちらの感覚としては意外な赤岩を見たような気になるものだ。
_u5w8222  装着場。佐々木康幸が自艇のもとで作業をしていた。まずはボートをしっかりと磨き、続いてペラを取り外す。向かった先は整備室で、ペラを叩くというわけではなかった。整備室内のペラ磨き用のテーブル。佐々木はここに向かって、コシコシとペラを磨き始めていた。いつの間にかそこには白井英治もいて、SG初制覇を目指す二人が、ペラをピカピカに磨き上げながら、談笑をする。ともに妙なカタさは見当たらない。
_u5w8142  そのとき、物陰から瓜生正義が登場! どうやら瓜生も死角の位置でペラを磨いていたようだ。「こんにちはっ!」とじつに爽やかに声をかけてきた瓜生は、今日も穏やかで優しくて余裕があって、素敵だ! 今日のベスト6はそれぞれに普段通りの表情を見せていたけれども、もっとも変わらないのはやっぱり瓜生だ。ほんと、もはや最強モードだよなあ。
_u5w8277  係留所からエンジン音が聞こえてきた。がらんとした係留所に、イエローカラーのボートが1艇。今垣光太郎だった。この時間帯に着水していたのは、今垣のみ(赤岩の試運転はそのあと)。今垣はひとりエンジン音を響かせながら、回転数の調整をしていたのだった。
 やがて、今垣は係留所を離れて、ゆっくりとボートを動かし始めた。いったんピットに引き上げるのだろうか。違った。別の係留所に向かったのだ。蒲郡の係留所は、まず対岸にあって、その奥が装着場や整備室などがある、いつも我々がうろうろしている場所。最初、今垣はここで調整をしていた。もう1カ所。出走ピットや展示ピットの並び、つまり水面を長方形とすると短い辺の部分にも係留所がある。この奥は選手控室で、我々はまず立ち入らない場所。係留所自体がそもそも取材禁止場所なので、こちらの係留所はいつも遠くで眺めるのみだ。今垣が向かったのはこちらである。
「係留所の高さが違うんですよ。だから、どちらの調整でいくのか、考えるんです」
 そうなのだ。係留所の高さが微妙に違うのだそうだ。素人目にはまるでわからないが。そして、高さが微妙に違えば、調整も微妙に変わってくる。レースではどちらに合わせるのが正解なのか、それを探り出すために今垣は2カ所で調整するのである。手間のかかる作業だ。それをまるで厭わないのである、今垣光太郎という人は。
_u5w8164  光ちゃんの話を聞き終えて、白井英治が装着場にいるのが見えた。白井は、モーターを研磨剤を使ってコシコシと磨いていた。その直前にはペラを磨き、今度はモーターを磨く。
 レースや試運転の前にモーターを磨く光景というのは、なかなか珍しいものである。これから水につける、大げさに言えば汚しに行くわけですからね。しかし、白井のモーター磨きは珍しい光景どころか、しょっちゅう見るものなのだ。白井はレース後にボート磨きも常にしており、つまりレースに登場する白井英治はすべてを磨き上げて登場していると思ってもらっていい。
「まあ、ヒマだからね。何もやることがないんですよ」
 と白井は笑った。これはレース場から借りてるものなんだから、きれいに使うのが基本でしょ、とも。相棒を大切にするという気持ちもあるようだ。
 それにしても、優勝戦の日にヒマということは……そう、モーターが出ているということに決まっている。
「時間に余裕がなければ、磨いているヒマなんかないからね。だから、こうしているってのはいいことだよね」
 白井がもうひとつ笑った。その笑顔はあまりに爽やかすぎて、今日も僕はめまいがした……。あ、気づけば隣の隣で光ちゃんもモーターをピカピカに磨いているぞ。ちらりと振り向いてこちらに笑顔を見せた光ちゃんも、やっぱり爽やかで僕はただただくらくらしていたのだった。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)


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