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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――蒲郡の夜。笑顔と悔恨。

2011_0718_0328  10Rで今村豊が6コースまくりを決めた。ミスター、あなたは阿波勝哉ですか! しかもスローからのスタートなのに。ピットでレースを観戦したものはみな声をあげ、浮かれた気分になっていた。
「3連単250円くらいだろ!?」
 おどける今村豊に、もっとも笑顔を向けていたのは、やはり白井英治だ。師匠が自らの走りで弟子に送ったエール。そう言葉にしたわけではないけれども、白井はきっとそう受け取ったはずだ。
「気持ちいいでしょっ! あれは最高に気持ちいいっ!」
 白井が弾んだ声で師匠を讃える。その笑顔の輪はモーター返納のあいだもずーっと続いていて、白井は優勝戦を前にして最高のパワーを得たようだった。

2011_0718_0070  今のを優勝戦で見たいなあ。
 湯川浩司にそう声をかけた。こちらの言葉の意味に気付いた湯川は「ダハハハハハハハ!」と大笑い。言葉の意味とは、優勝戦6号艇の男に6コースからまくり切ってほしい、という意味では実はない。いや、それをやってくれたらめっちゃ盛り上がるのは必至、ぜひ見てみたいとも思ったけれども、真にこめた意味とはそれではない。それを察した湯川は、めちゃくちゃおかしそうに頬をゆるめて、笑ってくれたのである。

2011_0718_0214  だから……。
 ピットに戻り、顔をゆがめて悔しさを隠そうとしない白井の表情には、ただただ切なさだけがあった。今村もなかなか声をかけられないようで、白井のボートを運ぶときには10R後の笑顔がウソのように、沈痛な顔つきであった。
 モーター返納作業をしながら、池田浩二ら同世代の選手と話しているうちに、白井も少しはほぐれてきたようである。苦笑と言うのが正解だとは思うが、仲間に笑顔を向け始めていたのだ。服部幸男には「康幸によろしく伝えてください」と力強い口調で声をかけている。リベンジの機会はすぐにでもやって来ると信じたいが……。
2011_0718_r12_0683  湯川に至っては、すぐにピットに戻ってきてもいない。2周2マークの転覆。関係者がにわかにざわめき、担架までもが用意されたことから、ピットには異様な緊張感が走る。結局、自力歩行で医務室に向かっていることから、大きなケガではないと察せられたが……。
「クロちゃん、無念じゃ……」
 モーター返納作業のため、ピットに姿をあらわした湯川は、こちらを見つけるや、そう言って顔を歪めた。無念の意味は2つだと思う。もちろん転覆。そして、優勝に手が届かなかったこと。首を少し痛めたようで、肩をすくめたような体勢で固まっている湯川は、首の部分もそうだが、何より抱いた悔恨が痛々しく感じられた。ともあれ、まずは傷を癒して、次の舞台で元気に会いましょう!

2011_0718_0160  それにしても、瓜生正義は優しい男だ。今村がまくり切った10Rの後のこと。川上剛が瓜生のペラゲージを控室に運ぼうとして、瓜生に声をかけている。瓜生はまだボートを着水しておらず、展示ピットに移動させなければならなかった。川上はそれを気遣ったのだ。
 大先輩で実績もはるかに上位。川上の申し出通りに、片付けなど後輩に任せても何も差支えない瓜生である。しかし瓜生は、「ああ、いいよいいよ」と川上を制し、それでも川上が自分がやっておくことを主張すると、「じゃあ」と一緒にゲージを片付けはじめた。控室への運搬はさすがに川上が譲らなかったのだが、すると瓜生は「お願いします!」。九州の精神的支柱になるわけである。
 優勝戦の展示から戻ってきた際には、装着場に落ちていたゴミを見つけて、整備室の屑入れに持っていく場面もあった。優勝戦で対抗人気を背負う選手とはとても思えない行動に、僕はただただ感動していたのだった。
 そんな瓜生でも、敗戦後はさすがに顔をしかめる。そのギャップがまた、カッコいいのだ。瓜生の、レース前もレース後も含めて、こうした場面は何度も何度も見ているはずだが、「心優しき勝負師」ぶりが、ここへ来て相当に目立ってきているように思えてならない。
2011_0718_0256  心優しき、という点では、今垣光太郎も同様。昨日からやけにテンションが高い光ちゃんをここに記してきたが、それは優勝戦を目前にしても変わらなかった。だが、レースが近づけば近づくほど、ブリンカーをかけたように、集中力がましていくのが光ちゃん流でもある。11R前だったか、整備室にもろもろを運搬していた光ちゃんが、タオルを落とした。それに気づいていない様子だったので、僕は落ちたことを伝えて、拾いに走った。すると、光ちゃんは僕の言葉も行動もほとんど目に入らず、なのに「ありがとうございます」と言って通りすぎたのだ。僕が激励の言葉でも投げたと思ったのだろうか。タオルを拾ってふりむくと、光ちゃんの背中がどんどんと遠ざかっていく。追いかけて手渡すと、あ、そうだったのか、と目を丸くして、優しい笑顔を向けてくれたのだった。
 もちろん、レース後には思い切り顔をしかめていた今垣。ただ、テンションはやはり下がっていないのか、中島孝平にレース展開を延々と話しかけていた。こちらに気付いた中島が「お疲れ様でした!」とあいさつをしてくれたのに、光ちゃんはかまわず中島に話しかけていたほど。でも、僕はそんな光ちゃんが大好きだぞ!

2011_0718_0472  さて、赤岩善生だ。今日、いまこの時、世界でもっとも大きな悔恨を噛み締め、身悶えするような思いに襲われているのは、この男だろう。
 赤岩自身も語っていたが、今日一日は最高の精神状態で過ごしたそうだ。それは、ピットで見ていても、存分に伝わってきた。さすがに地元SG優勝戦の1号艇に緊張感はあったものの、それを受け止められると信じて、レースに臨んだという。
 だが、結果は頭に思い描いたとおりにはならなかった。ピットに戻った赤岩は、大嶋一也に「すみませんでした」と頭を下げた後、唇をかみしめるように口を真一文字に結んで、ただただ己への怒りに耐えていた。
2011_0718_0186  だからこそ、思いはあふれて止まらない。赤岩はその後も延々と悔恨を味わい、たくさんの悔やむべき点について、思いを馳せていた。実はその言葉もたくさん聞くことができたのだが、今は記すのを勘弁してもらおう。「宿題が残りましたね」と振ると、赤岩は「そうだね」とうなずいている。その宿題を果たした時にこそ、その思いは明らかにされるべきだと思うからだ。
 ただし、宿題が残ったということは、赤岩にまたひとつ、強い強い決意が生まれたということである。明日からF休みに入る赤岩だが、休み明けの赤岩はさらにパワーアップして我々の前に姿を見せるだろう。

2011_0718_0295  最後になったが、佐々木康幸、優勝おめでとう!
 昨日、佐々木のSGへの思いを記しているが、だからこそ佐々木が夢を現実にしたことは、感動的と言うしかなかった。「願えばかなう」。それを体現したのだから、多くの人にパワーを与える優勝だったと思う。
 ゴールインしてピットに戻ってきた佐々木は、坪井康晴や重野哲之、今坂勝広の祝福を受けながら、服部幸男が悠然と歩み寄ってくるのを見て、矢も楯もたまらずに駆け出している。間近で撮影していたチャーリー池上によれば「抱き着いていいですか」と言ったとか。断わる理由など何もない、いや、むしろそれを待っていたかもしれない服部は、両手を広げて佐々木を迎え入れた。佐々木ががっちりと服部に抱き着き、まるでドラマのような大団円が生まれていた。
「服部さんにはデビューのころからお世話になってきた。でも、恩返しが何もできないんですよ。せめて、成長した姿を服部さんに見てほしかった」
_u5w8661  僕は昨日、佐々木からそこまで引き出し切れずに、話を聞き終えていたのだった。だから、あの熱すぎる抱擁を見た瞬間、佐々木の思いがこちらの考えていたより、あるいは知ったものより、さらに大きいのだと改めて感じたのだった。
 間違いなく、獲るべくして獲ったSGタイトル。実力者が、その思いを花開かせた蒲郡の夜、だった。水神祭で仲間に投げ込まれ、水につかりながら見せたガッツポーズは、あまりにも輝かしく、まぶしかった。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=表彰式 TEXT/黒須田)


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コメント

皆々様、暑い中、お疲れ様でした。
ファミリーが増えて良かったですね!
(貧乏、子だくさんになりませぬよう)

神様は、自らが背負うことの出来ない
試練を与えることは決してしないそうです

本当にありがとうございました!!!

投稿者: ぺちこ (2011/07/18 23:31:51)