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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――6・00

2011_1008_0246  ボーダー争いは熾烈を極めた。いや、その言い方は正しくないか。通常なら勝負駆け成功を意味することが多い6・00に多くの選手が並び、その全員が予選突破とはなりそうにない情勢が続いたのだ。
 今村豊、今垣光太郎、松井繁、原田幸哉。どえらいメンバーがボーダーラインを挟んで同率で並ぶ。登番順に書いているが、上位着順回数による順位もこの通り。9Rで今垣が5着、さらに原田が4着に敗れて6・00となり、18位は今村。残り3レースの結果によっては、原田まで準優進出の可能性はないわけではなかったが、その可能性は針に糸を通すがごとしであった。ちなみに、11Rで寺田祥も6・00となっており(同率選手中では最上位となった)、結果的に5人が同率でボーダーの悲喜を味わっている。
2011_1008_0347  しばし次点の位置にいなければならなかった今垣は、やや不機嫌モードであった。エンジンはいいのだという。だというのに、6・00まで得点率を下げてしまった自分を責めているようであった。レース後はいつも通りにモーターをしっかり点検し、ボートを丁寧に丁寧に磨き上げていたが、声をかけてみると、明らかに普段の光ちゃんとは様子が違ったのだ。言葉遣いは丁寧で、笑みも見せていたが、言葉のセンテンスがかなり短い。明らかに、話しかけられることを避けている雰囲気である。結果的に、18位に滑り込んだ。12Rが終わって、それが確定すると、安堵の笑みを見せてもいる。しかし、そうした状況に追い込まれてしまった自らの不甲斐なさが、許せないようだった。珍しい光ちゃんを見たような気がした。
_u5w4913  松井繁は、レース直後からこの事態を受け入れているようだった。11R発売中だったか、選手喫煙所には“松井教室”のような光景があった。喫煙所のベンチに、左から池田浩二、寺田祥、白井英治、原田幸哉、中澤和志がすわり、松井がその正面に立っている。原田を中心に後輩たちに語りかけており、それが松井のご託宣を聞く若者たちといった風景に見えたのだ。チャーリー池上カメラマンは「誰も松井先輩にベンチを譲らないんですねえ」などと笑っていたが、松井自身はそんなことを少しも気に留めず、後輩たちと笑顔で語り合っていたのだった。
  2011_1008_0538  もちろん会話の内容は聞こえてはこないが、ひとつだけ耳に届いた言葉があった。「乗られへんねん」。大阪弁が間違ってたらすみません。でも、この言葉は明らかに「準優には」が頭につくもののはずだろう。最終的には松井は次点。何か起きていれば滑り込みの可能性はおおいにあった。だが、その時点では6・00のなかでは下位であることを悟った松井は、がっちりとその現実を受け止めているようだったのだ。
2011_1008_0069  原田幸哉は、さらにサバサバしているようにも見えた。なにしろ1着のない6・00。同率のなかでもっとも不利であることは、ハナから覚悟していただろう。それでも、9Rでは3番手争いを演じており、これを制していれば、余裕の準優進出となっていた。
「惜しかったね~」「惜しかったよ~」
 モーター格納作業の際、本体整備をしていた白井英治にねぎらわれて、原田もさすがにしみじみと悔しがっていたが、そのあとは深い落胆や悔悟を表にあらわすことなく、淡々と残りのレースのゆくえを見守っているようであった。

2011_1008_0661  実を言えば、6・00が全員予選落ちという可能性もゼロではなかった。終盤レースには、出走時点では19位以下ながら、上位着順で6・00を上回ることができる選手が何人もいたのである。ところが、そうした選手たちがことごとく敗れた。その代表といえば、やはり瓜生正義ということになるだろう。
 瓜生は11R、2着で6・17。2連対を確保すれば、6・00を一気に素通りしてベスト18入りが決まっていた。しかし5着。最強戦士のまさかの予選敗退は、事件といえた。レース後には、勝った峰竜太を囲む報道陣よりも、瓜生を囲む報道陣の数のほうが多かったほど。近況絶好調の瓜生が予想外ともいえる予選落ちを喫したことは、誰もが関心をもたずにはいられない出来事だったのだ。
 瓜生自身は、普段の様子とそれほど変わった雰囲気はなかった。勝っても頭を垂れる瓜生は、負けても微笑んで感情の起伏を表には出さない。もちろん、胸の奥では相当に悔しがっているには違いないが、それを自然体で包み隠せるのが瓜生の優しい人徳なのである。
 そんななかで強さの秘密の一端を目撃した。ボートの底にできた、見落としても何ら不思議のないささくれのようなものを、瓜生は一瞬で見つけて艇修理係の方に修繕を依頼していたのだ。こっそり近寄ってのぞいてみたが、ほんと、気づかないほうが普通というくらいのもの。そうした微細な部分に目を配り、またこだわることが、瓜生の強さを支えるもののひとつであろう。ただ最強になれたわけではない。さまざまなものの積み重ねが瓜生をここまでの男にしたのである。
2011_1008_1055  12Rでは、横澤剛治が1着で6・40。2着で6・00だったが、1着がないため、ここは勝利がノルマの勝負駆けであった。ところが、コンマ34とスタートでドカ遅れをやらかしてしまう。これは悔しい。スリットで勝負駆けを終わらせてしまったということは、力を出し切るすべを自ら断ち切ってしまったということ。ピットに戻ってきた横澤の表情は、さすがに精気がなかった。
 井口佳典のエンジン吊りに参加しながら、横澤の様子に気づいたのか、原田幸哉が横澤にそっと寄り添った。そして、カポック越しに優しく肩を抱いた。ぽんぽん。肩を叩いて横澤を慰める。かたちこそ違え、勝負駆けに失敗してしまった悔しさは、誰よりも理解している原田である。横澤の心も少しは軽くなっただろうか。

2011_1008_0645  最後にひとつだけ、勝負駆けクリアの笑顔を。峰竜太だ。4着で6・00だった峰も、予選落ちの可能性はおおいにあった。しかし、1着で予選クリア! これは気分がいい勝負駆けだ。ピットから上がるや、こちらに向けてガッツポーズを見せた峰は、ヘルメットの奥で本当に気持ちよく笑っていた。実は昨日、峰からある決意を聞いている。それについては実現した時点で書こうと思うが、今日の勝利は確実に一歩近づく大きな白星であった。笑顔も当然、なのである。一時は準優1号艇の可能性もあったが、結果的に2号艇。それを知って「じゃあ2コースで!」とさわやかに笑った峰竜太だ。今日の再現が準優でも充分にありそうだぞ。(PHOTO/中尾茂幸=松井教室以外 池上一摩=松井教室 TEXT/黒須田)


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