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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――平和島に渦巻くそれぞれの感情

_u5w5575 「賞金王を狙える位置にいるからには、狙いたいですよね。そのためには、10月と11月でSG優出かGⅠ優勝。それをひとつの目標にしているんです」
 3日目に峰竜太から聞かされた決意というのは、これである。共同会見でも口にしていたこの“ノルマ”。岡崎恭裕と話す中で出てきたものだそうだが、峰は目の前の一戦一戦に全力で臨むのはもちろん、もうひとつ先の目標も見据えながら、水面にすべてを叩きつけているのだ。
 だから、優出を決めた峰の喜びようといったら、ハンパではなかった。「2マークを回った瞬間、やったーっ!て叫んじゃいました」と嬉しそうに笑う。優出で満足したというわけではもちろんないが、胸に秘めた目標に手が届いたことは、やはり素直に嬉しい。それを包み隠さずに発散させる峰のピュアさは、いつ見ても気持ちのいいものだ。
2011_1009_0272  対照的に、篠崎元志はクールな表情であった。出迎えた峰のほうが篠崎の優出に興奮していたほどで、まくり一撃という爽快な勝ちっぷりでSG3連続優出を果たしながらも、篠崎はクールな笑顔を見せているのみだった。
「初動のかかりとか、体感とズレてる。今も、先頭を走りながら、思ったようなターンができなかった」
 そのあたりの不満、疑問も喜びを抑制したか。それでも、伸びは節イチクラスだと言い、「自分が攻めていける位置から、悔いのないレースをしたい」と、すでに今日の再現を頭に描いているようでもある。ひとつSG優出を重ねるたびに、望むべきもののハードルも高くなっているのであろう。
_u4w1758  ちなみに、篠崎からも岡崎恭裕の名前は出ていて、平和島に入る前に電話で激励を受けたとか。九州イケメン三銃士の一人がしばしSGから不在になるが、峰も篠崎も盟友として岡崎の分まで、いや、それ以上に飛躍しようとしている。それだけに、明日のキーマンとなるのはこの二人の若武者だと断言したい。間違いなく1年後にこの舞台に帰ってくるはずのもう一人の若武者とともに紡ぐ壮大なるストーリーは、MB記念とこのダービーが序章となって、大きな盛り上がりを見せていくであろう。
2011_1009_0298  それにしても、須藤博倫の好青年ぶりといったら! BOATBoyでのコラム連載以来、その人柄には何度も接してきたが、SG初優出となって改めて感動した!
 共同会見に登場するのは、もちろん初めて。驚かされたのは、ひとつの質問に対して先々を読んで回答を返していく姿勢だ。当意即妙とよく言うが、須藤の場合はそれ以上。常に期待以上の言葉が、丁寧な口調で返ってくるのだから、本当に素敵すぎるのだ。
「思い切りハンドルを入れて、思い切りハンドルを戻して、思い切りいくだけです」
 もしかしたら、若武者二人よりも若々しいチャレンジャーのレースを見せてくれるのではないか。そんな期待感をもたせるたたずまいが印象的であった。忘れてはならない。つい1カ月ほど前の多摩川周年優勝戦も、須藤は6号艇であった。そして準V。その経験もふまえて明日は調整すると言うし、緑のカポックだからといって決して侮ってはならないのである。

 12R、太田和美が2着に敗れた。誰もが認める節イチパワー。盤石の1号艇かと思われた12Rだったが、篠崎の強烈なまくりが太田を飲み込んだ。それでも2着に残したのは凄いと言うしかないが……。
_u5w5629  その瞬間、多くの選手が池田浩二のもとに歩み寄っている。原田幸哉は腰のあたりをぽんと叩いた。丸岡正典も何か耳打ちしていた。言うまでもなく、「1号艇だぞ」がすべての言葉や行動にこめられていたはずである。そんな仲間たちに池田は、苦笑いを見せていた。太田の敗戦が1号艇をもたらしただけに、複雑な思いはあっただろう。準優12Rで1号艇が敗れたときに、よく見かける優勝戦ポールポジションの表情でもある。
「優勝する気はあるけど、そこまでガツガツせずにリラックスしていきたい」
 12Rの結果が出る前に、池田は会見でそう語った。1号艇が回ってきたことが、池田の心境にどんな変化をもたらしたのか、現時点ではわからない。だが、その思いをキープできれば、池田のイン戦はさらに強固なものになるだろう。それにしても、瓜生正義が予選で消えたと思ったら、池田が優勝戦1号艇。今年はやっぱり、この二人の年なのだな。
2011_1009_0045  太田は、敗戦をサバサバと受け止めていたようだった。「いちばん負けるパターンだったかな、篠崎くんが引いた場合にはね」。篠崎の伸びは警戒していた。今垣光太郎が前付けに来て、起こしが深くなる可能性も想定していた。その両者が、篠崎にとって最高に噛み合い、太田にとっては最悪の展開をもたらしてしまった。それでもしっかりと2着なのだから、やっぱり凄い、のである。
 スタートはダッシュのほうがいいだろう、という。アシ的にも少しのぞくだろう、と語る。ならば、4号艇は太田から優勝の可能性を削ったことにはならない。もちろん勝って1号艇が理想だったには違いないが、太田のテク、経験、メンタリティをもってすれば、これもひとつの想定内だろう。今節通して、それこそ連勝中もそうだったが、勝っても負けても泰然とした太田の姿は本当に頼もしいもの。レース展開のキーを握るのは、間違いなくこの怪物くんだろう。

_u5w5471  そして井口佳典。いやはや、まったくもって、壮烈な雰囲気なのである。ピットでの雰囲気が結果に直結するなどとは思っていないが、もしピット節イチというものをあげるとするなら、まずは中野次郎。そして昨日あたりから、井口のとびきりの気合がヒシヒシと感じられて、中野が優出を逃してしまったことで、「井口=節イチ!」と思うのである。
 レース後、ピットに引き上げてきた井口を東海勢が次々と祝福している。井口はそれに対して力強くうなずくのみ。笑顔はなかなか見られなかった。勝って兜の緒を締め直しているのか、あるいは気迫の炎がレース後も鎮火していなかったか。圧倒的強さで優勝した賞金王決定戦のピットでの様子を思い出させる、井口の凛々しい表情。やはり井口佳典はこうでなくちゃ、と思う。
 会見が終わったあと、井口は屋外ペラ調整所に向かっている。少しの時間も無駄にはせず、すでに明日への臨戦態勢を整えようとしていたのだ(峰も隣でペラを叩いていた)。そこに、井口の決意があらわれているように思う。隣の喫煙所にいた森高一真や原田幸哉に声をかけられ、笑顔を見せる井口。やっと見ることのできた笑顔は、最高に輝いて見えたのだった。

_u5w5782  最後に中野次郎。レース直後は、敗者も勝者も比較的淡々としていたように思えたが、歓喜を隠さなかった峰と、悔しさを隠さなかった中野だけは、強く印象に残った。陸に上がってからはそうでもなかったが、リフトにたどり着き出迎える仲間の顔を見た瞬間、激しくうつむき、激しく天を仰いだのだ。激しく、と書いたが、動き自体は実にスローであった。実にやるせなく、おおいに溜め息交じりのそのアクション。それが、激しい悔恨の表現に見えたのである。できることならやり直したい、そんな風情にも見えて、そんな次郎がとてつもなく悲しく胸に迫った。あまりに月並みではあるが、この悔しさを味わったことが、次郎をさらに強くするように思えてならない。この敗戦と、それを率直に悔しがった姿を見て、僕はむしろ暮れの12ピットにこの人がいるのではないか、という妄想をより強くしたのであった。(PHOTO/中尾茂幸=篠崎<単独>、須藤、太田 池上一摩=それ以外 TEXT/黒須田)


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