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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――2011年、幸せな賞金王決定戦

2011_1225_0458  展示が終わったあと、重成一人がメモを取っている姿があった。この最高最大のビッグバトルを前にしても、おそらくルーティンであろうデータ収集は欠かさない。感心して見ていると、重成がこちらに気付いて、視線を合わせてきた。ぴょこんと頭を下げる重成。その表情は……明らかに緊張している人間のものだった。
 やはり展示が終わったあと、それもけっこう時間が経ったあと、佐々木康幸が一瞬だけ、装着場に姿をあらわした。覆面姿で。F1レーサーなどもかぶっている、目の部分だけが開いているレーサーマスクだ。展示後、ずっとその恰好をしていた? まだ本番レースまでは間があるのに。ゆえに表情はうかがえないが、それもある種の緊張感ではなかったか。あるいは緊張の表情を隠すため?
 賞金王決定戦初出場で優勝戦に駒を進めた二人が見せた、レース直前の表情。緊張して当たり前だ。この特別な舞台を前にして、初体験の者が平常心でいられるほうがおかしい。
2011_1225_0099  結果はそろってゴンロクに名を並べてしまった。緊張が原因などとは思わない。展開や機力やさまざまなものが彼らには流れを作らなかった。そういうことだと思う。そして、レース後には、解き放たれたような表情に見えたことは印象的だ。重成は持ち前の爽やかな微笑を浮かべてもいたし、佐々木も笑みこそないがどこかスッキリとした顔つきになっていた。悔しい気持ちがないわけはないし、もちろん初出場での快挙を狙ってもいたはずだが、この独特の空気のなかで戦ったことが、彼らの心中に何かを生んだのではないか。佐々木の初戦の快勝、重成の昨日の感動を含めて、一節間彼らを追い続けられたことは、外野の観戦者としても幸福なことだったと思う。

2011_1225_0383  では、すでに賞金王を3度も制し、この舞台に馴染んでもいる松井繁と田中信一郎が、平常心で戦えたのかといえば、決してそうではあるまい。田中は変わらずテンションが高めだったし、松井も時間を追うごとに表情がどんどんと迫力を増していっていた。賞金王の戦い方をよく知っていたとしても、やはり特別な舞台だし、もっとも勝ちたい一戦であることには変わりはない。「いつも通りに戦うだけ」という言葉を用意していたとしても、見ているこちらがため息をついてしまうくらいに威圧感を覚える雰囲気をまとっていくのは、当然であろう。
2011_1225_0298  実際、松井も田中もレース後には強烈な悔恨をのぞかせている。レース前より恐ろしく思えるくらいに。ただ、今日は、と言えばいいのかなんともわからないところだが、そうした表情は意外なほど、長くは続いていなかった。松井は仲間らに対してちょっとおどけたポーズを見せたりもしたし、田中もおそらくは不本意な思いを胸に秘めながらだろうが、わりと淡々とレース後のさまざまな作業をこなしていた。そういえば松井にとって今年は苦しい時期のあった1年だったし、田中は昨日の優出会見で「SGにほとんど出ていなかったから、一時はチャレンジとか賞金王とかもまるで意識になかった。だから、ここにいるのが不思議な気持ちもある」と語っていた。そうしたなかで、ファイナルでここまでの戦いを繰り広げられたことは、満足とは程遠くても、少しくらいは充実感を与えるものになったのだろうか。
 私情込みで言わせてもらえば、やはりこの二人(太田和美や今垣光太郎も)に目が奪われることが多かった一節だったと思う。彼らの濃厚な戦いをファイナルまで堪能できたことは、やはり幸せであった。

2011_1225_0506  瓜生正義については、正直に言って、優勝戦から3時間近くが経った今でも、確たる言葉を見つけられないでいる。もちろん、悔しそうな表情は見せた。モーター返納後には、いつもの優しい笑顔も見えた。報道陣には、実に丁寧に物腰柔らかくこたえていた。いつもの瓜生といえば、まったくもってその通りなのだ。
 しかし、二強体制=瓜池時代をことさらに煽ったほうとしては、その先入観をどうしても捨て去ることができない。しかもその一方が、我々の恣意的な書き方としては、「二強対決を制して」年間チャンピオンに輝いたことを、瓜生にとっても特別なことだとして考えてしまう。そうすると、瓜生の表情がやや力弱く映ってしまったのである。それが、本当にそうだったのか、単に先入観がこちらの視界にフィルターをかけたのか、結論が出ない。単なる推測として、じわじわと“瓜池”の“池”が日本一になったことの悔恨が湧いてくるのかもしれない……と無難にまとめておく。
 ともかく、この1年を通してめちゃくちゃ強い瓜生を見ることができ、さらにはこのスーパーステージで二強の直接対決を見せてもらったことは、どう考えても幸せだった。また来年も強くてどうしようもない瓜生に、その幸せをさらに感じたい。

2011_1225_0199  というわけで、二強体制と言われるようになってから初めてSGの優勝戦で実現した瓜池対決を制し、さらには王者&ミスター賞金王を寄せ付けずに、圧倒的な強さで優勝したのは、池田浩二だ! 今年はこれでSG3V。松井ですら達成していない、02年の植木通彦さん以来の偉業を、圧勝で達成したのだ。まずは、強くて強くてどうしようもない池田浩二を最高のかたちで目撃できたことは、絶対的にハッピーなことである。
 池田は、ふだん見せるクールな表情とは裏腹に、ピットでは実に茶目っ気のある男である。後輩には「そんなことしてるSGウイナーなんて見たことないですよ」なんて言われるほど、はしゃいだりふざけたりしているのだ。ピットで見かける池田は、感覚としては5割くらい、笑っているように思う。
 だから、こうした勝利のあとには、出迎えた仲間にオーバーアクションで応えることが多く、池田がゴールした瞬間は「今日はどんなパフォーマンスが見られるのか」と期待したほどだった。だが、これが意外なほど淡々。いや、ボートの上に立ち上がってガッツポーズをしていたから、淡々ってことは本当はないのだけれど、こちらの想像よりはずっと下回る、勝利後の様子だったのである。
_u5w1113「実感がないんですよね」
 共同会見で池田はそう語っている。そう、もしかしたら、あの池田浩二にとっても、賞金王決定戦を勝つということは、巨大な結果だったのではないか。無意識のうちに、かもしれないが、猛烈な感動が腹の底にズシンと溜められたのではないか。
 だとするなら、この味を知った池田浩二が2012年にどんな池田浩二であるのかは、おおいに注目される。そして、期待するのは今年よりもっと強い池田浩二だ。それが見られるとするなら、2012年はさらに大きな幸せを我々は味わえるだろう。
 池田浩二、おめでとう。いろいろあった今年は、あなたの年だった。来年、我々をもっともっと幸せにしてくれることを信じているぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)


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