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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――アクシデントの明暗

 9R発売中に行なわれたトライアル11Rのスタート練習。その2本目、にわかにピットが騒然となった。
_u5w6608  峰竜太が落水!
 波乱万丈のレーサー人生を送ってきたこの若武者に、この大舞台でも災難が降りかかってしまった……。レスキューで戻ってくる峰竜太、体のほうは大丈夫だろうか……。
 着替えを終えた峰は、ボートの引き上げ作業にダッシュ! ひとまずケガはなかった様子だ。「大丈夫?」と問いかけるこちらに、峰は満面の笑顔。「これで今節はイケますよ!」と顔をほころばせて、ボートリフトのほうへ駆けて行ったのだった。
 そうか。昨年のダービー、初戦転覆でSG初準優。今年の笹川賞、初戦転覆でSG初優出。峰にとって、この手のアクシデントは不吉どころかゲンがいい。しかも今回はレースでの事故ではないから、減点はつかないし、得点も0点ではない。体が無事なら、落水ということでエンジンも水をかぶっていないなら、むしろ厄落としのようなものかもしれない。というより、これは緊張気味だった峰をほぐすものになるはず。昨年のダービーも、初戦の転覆で肩の力が抜けたことが、その後の好成績につながったのだと峰も言っていた。
_u5w6278 「田村さん、すみません!」
 一緒にスタート練習に参加していた田村隆信への謝罪も、元気いっぱい。「寒かったやろ?」とおかしそうに笑う田村に返した照れ笑いも、実に爽快なものだった。
 それが11R2着の原動力だったとは言わないが、峰はたしかに平常心に近い状態でレースに臨めたようだ。そのメンタルは、間違いなく峰にとって武器のひとつとなるだろう。

 11Rのスタート展示を、木村光宏が水面際に陣取って見守っていた。重成一人の様子が気になったのだろう。その5mほど左には吉田徳夫。こちらは池田浩二が気がかりだったか。さらに15m左には、銀河系軍団with太田和美。湯川浩司、井口佳典、森高一真は田村隆信への声援で、太田は松井繁に念を送っていたか。シリーズ組は、己の戦いをまっとうしたあとは、仲間の応援団となる。もちろん、決定戦組でも、自分のレースでなければ、身近な存在に勝ってほしいと願うだろう。
2011_1222_0294  そうした一群の20mほど右のほう、ピットのいちばん端では、佐々木康幸が地べたに座り込んで、この様子を眺めていた。佐々木は重野哲之の様子に注目していたか。いや、佐々木の場合はもしかしたらそれだけではないかもしれない。というのは、スタート展示が終わった後もそこに留まり、水面を眺めつづけたのだ。
 さらに佐々木は、展示準備のため係留所のほうに移動したあとも、今度は角度を変えて水面を眺めつづけた。ポツンとひとり、柱の土台に腰掛けて、じっと見つめていたのである。
 それが12R快勝の原動力だったとはもちろん言わないし、佐々木自身もそうは思っていないだろう。だが、今日の午後の時間帯にもっとも「この舞台で戦う特別性」が伝わってきたのは佐々木だった。水面を眺める行動も、これまでに見た記憶はない。何かを胸に秘めるかのように強い視線を下に向けて歩いている姿も、ふだんの佐々木とは違うように思えた。賞金王取材をするようになって6年、僕は「普段通り」では賞金王は勝てないのではないかと思うようになっている。むしろ緊張気味のほうがいいと思ったりもするし、強く勝ちたいと願う気持ちも必要ではないかと考えたりする。これまでの勝者には、常にそうした“ただならぬもの”を感じてきたのだ。今日に関しては、それは佐々木にいちばん強く見えたような気がした。別に佐々木の勝利を見通していたなんて言うつもりはまったくないけど(舟券は大外れだし)、佐々木康幸がウイナーにふさわしいたたずまいを見せていたことだけはたしかなことである。

2011_1222_0660  敗者の表情で印象的だったのは、まず太田和美か。1マーク手前で行き場をなくした太田は、事故を回避する意味もあったか、自らもみ合いから引いているのだが、全力を出し切れたとは言えないレース展開に、憤然とした表情を見せていたのだ。敗れて苛立つのは勝負師として当然のこと。そんな雰囲気を隠していなかった太田を、僕はカッコいいと思う。田中信一郎もレース後の目つきは戦慄を感じさせるほどのものだったが、それもまた同じ意味で、素敵である。賞金王決定戦という舞台に立つ者は、そうであってほしいのだ。
2011_1222_0700  松井繁は、そうした憤りをあらわすことはなかったが、ぐっと悔恨を噛み締め、孤独に耐えているような表情に、王者の色気を感じずにはおれなかった。敗戦後にこうした松井を見るのは、いつ以来だろう。強い松井繁は、敗れたあとにも象徴をそうしたかたちであらわすのである。
2011_1222_0563  初戦の1号艇を活かせなかった瓜生正義は、さすがに顔がひきつっていた。これは悔しい一戦だろう。「不甲斐ないです。実力が足りないですね」。それは瓜生のいつもの“謙遜”にも聞こえるが、今日ばかりはそれだけではないだろう。そう言葉にするしかない、というか。そうとでも言わなければ、自分を納得させるすべはない。もちろん、そう言ったとて納得などできるはずがないのだが、やや吐き捨てるようなニュアンスが彼には珍しく見えたことは、悔しさのやり場を見失っていることをあらわしていたのだと思う。

2011_1222_0799  なお、H記者の見立てはどうか知らないが、節イチは池田浩二だとピット班は思います。あの池田が機力の手応えを問われて「いいと思います」と言ったのだから。BOATBoy1月号の池田インタビューでは、“泣きコメントの秘密”が明らかになっている。それをふまえれば、池田が「いい」と言ったということは、「最高」に近い意味が込められているのである。足合わせをした瓜生も、直線では完全に分が悪かったそうだ。それなのに、「どっちかといえば出足型」と池田は言う。すべての足がいいとしか思えないのだ。

 さて、12R終了後には、第2戦の枠番抽選会が行なわれている。これが半公開のようなかたちで行なわれるのは、すっかり恒例となった。今年も多くの報道陣、テレビカメラを集めて、行なわれた。
_u5w6979  まずB組から行なわれた抽選会。トップバッターは12R1着の佐々木康幸で、神妙な表情で祈るように引くと、出てきたのは白玉。会場にどよめきが巻き起こる。佐々木は表情を変えずに、ひとつふたつうなずくのみだったが、おおいなる流れを実感したことだろう。2番手の峰竜太は、緑玉。平静を装っているかのように笑いが引きつっていたのが気になった。ここはおどけるように悔しがるくらいのほうがいいような気がする。毎年、抽選運に泣く松井繁は、2号艇! 例年、6号艇を引いたときには苦笑くらいはするが、それ以外では淡々とふるまっている松井。今日も特に表情は変えなかったが、満足感はあったはずだ。
_u5w7029  A組では、池田浩二がトップバッターで2号艇をゲット。なかなか出なかった白玉を引いたのは、ラストで引いた今垣光太郎! 初戦転覆を喫してしまった今垣に、誰もがほしがる1号艇が転がり込んだのだ。しかし今垣は、抽選会場に着いたときからカタかった表情をいっさい緩めることがなかった。もし6着であっても完走していたら、笑顔も出たのだろうが……。まだ完全に終戦したわけではない。明日しっかり今日の借りを返して、笑顔の光ちゃんを見たいぞ。(PHOTO/中尾茂幸=佐々木、太田、松井、瓜生 池上一摩=峰、田村、抽選会 TEXT/黒須田)

_u5w7017 3号艇ではあったが、残っていた白玉を引けなかった田中信一郎はガッカリ……。


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