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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――重い最終戦

2011_1224_0503  明日の優勝戦がどんな結果となろうとも、第26回賞金王決定戦のMVPは重成一人である。
 その尊き前付けについてはH記者が書いているはずなので割愛するが、その瞬間に住之江のマンモススタンドを揺るがしたであろう大歓声は、ピットにも大音響で届いていた。ナイター照明に光る緑のカポックを見、ファンの熱狂を肌で感じ、僕はこの場にいることができたことの幸せをただただ感じていた。立ちまくっていた鳥肌は、寒さのせいでは絶対にない。
 それでも、レース後の重成は歓喜や“してやったり感”をあらわにしたわけではない。出迎えた香川支部の面々の祝福に小さく応えたあとは、まず5選手すべてに頭を下げて回っている。特に、1号艇の今垣光太郎に対しては入念であった。
_u5w9213_2  ようやく喜びを爆発させたのは、同期の鎌田義の祝福を受けたときだ。それはもちろん、渾身の勝負駆けを成功させて、優勝戦のイスを手にしたことへの喜び。だが重成には、ファンの熱狂を呼び起こし、絶叫を満身で受けたことも同時に誇りに思ってほしい。とにかく、カッコ良かった。感動した。

2011_1224_0068  レース直後から歓喜を隠さなかったのは、田中信一郎だ。11Rは2着と敗れはしたものの、それが優勝戦進出を意味するものをはっきりと自覚していたのだろう。ヘルメットの奥に光る目はただただ力強く、マイクを持って待ち構えていた長嶺豊さんへ向けたガッツポーズは強い思いががっちりとこもっているものだった。
 1号艇となった池田浩二以外で、はっきりと優勝を意識しているのは、田中だと思う。
「(新記録となる賞金王4Vは)僕と松井さんしかできないことなんで、12人に入ったときから意識している」
_u5w8971_2  こうした質問には、「別に意識していない」と本音を隠して言葉を濁してもおかしくないし、むしろそうした回答のほうに出会うことが多いと思う。しかし田中は違う。てらいなく、確たる口調で「意識している」と表明したのだ。有言実行は、プロフェッショナルの証。たとえそれが実現できなかったとしても、そう言葉に出して見る者の心に何かを植え付けるのが、真の勝負師のプロである。

2011_1224_0412  トライアル最終戦、歓喜らしい歓喜は、その2つだけと言ってよかった。1号艇をゲットした池田浩二は、原田幸哉らに祝福された時こそ、おどけた表情で大喜びしていたが、会見ではなぜか仏頂面を貫いた。そのギャップはちょっと謎だった。ただ、原田が「キてるよ!」と興奮気味に口にしていたことにはまったく同感で、今回の賞金王のテーマのひとつを「瓜池時代の賞金王」とするなら、その直接対決でアドバンテージを握ったのは、間違いなく池田のほうだろう。
 その他の選手については、優勝戦に進んだ者にしても、痛い敗戦を喫した直後。優出を逃した者はもちろん、ひたすら悔恨にまみれるのが当たり前である。それもあってか、ピットにはやや重々しい空気が生まれている。もっともそれは、トライアルがすべて終わった直後には、毎年のように感じるものでもある。
_u5w8957_2  先に優出選手について触れておくと、松井繁、瓜生正義、佐々木康幸らは、レース後はむしろ痛恨のほうを強く感じさせていた。松井は4着に敗れており、明らかに納得していない様子。原田幸哉が寄り添って話しかけたときには、どこか脱力感が見える表情になっていた。王者には珍しいことだ。控室への道中、服部幸男が歩み寄って、松井の尻をポンと叩く。それでやや表情に精気が戻ったか。そんなかたちで松井を癒せるのはやはり服部しかいない。ちなみに、会見で見せた様子は、昨日の会見時とよく似ていたように思う。
2011_1224_0494_2  瓜生の場合は、結局1着がないままの優出である。勝利を手にできなければ、満足など得られようもないのが勝負師の本性。最高の人格をもつ瓜生にしたって、先頭ゴールのない3日間を過ごさなければならないことは、目を吊り上げさせ、頬をひきつらせるものなのだ。
2011_1224_0284_2  佐々木の場合は、11Rが終了した直後には優出が確定していなかったのだから、強気でいろといっても無理な話か。完走当確だったはずが、相手待ちの時間を彼に強いることとなった6着大敗。結果的に優出したとしても、会見での声が弱々しく聞こえるのは当然だった。なにより、1着→3着→6着という軌跡は、勝負師を陽気にさせるはずがない。
 ただし、松井にせよ瓜生にせよ佐々木にせよ、もちろん優出を喜んでいないわけがない。手にしたチャンスを活かすべく、3人ともに明日の健闘を誓う言葉を会見でも語っている。おそらく池田に人気がかぶる優勝戦となろうが、外枠勢を、重成を、田中を、侮ってはならない。

2011_1224_0620 順位決定戦に回らなければならない者たちは、それぞれに沈痛であった。太田和美はうなだれたように視線が下を向いていたし、重野哲之は表情をバリバリにカタくしていた。田村隆信は逃げ切って溜飲を下げたものの、大きな歓喜はとても伝わってこなかったし、今垣光太郎からはついに憂鬱な表情が消え去ることがなかった。とりわけ今垣は、1号艇ながらインを奪われているのだから、最後まで悔いの残る賞金王決定戦となってしまったことだろう。
2011_1224_0483_2  篠崎元志は、表情はそれほど大きく崩れてはいなかった。だが、強い悔恨が渦巻いていることは明らかだった。着替えを終えて、帰りのバスへと向かい際のこと。篠崎はやはり平静を装うように淡々としていたが、視線が落ち着きなく中空をさまよっていたのだ。目が合って、お疲れさまでしたと頭を下げても、篠崎の視線は定まることなく、小さく会釈を返すことしかできなかったようだった。力を出し切ったとはいえない3日間に、さまざまな後悔が心を埋め尽くしていたのだろう。
2011_1224_0452_2  峰竜太は逆に、悔しさをまったく隠していなかった。仕方ないことだ。ただでさえ感情の動きをあらわにする峰である。いったんは2番手を走り、そのポジションをキープすることさえできていれば、優勝戦に名を連ねていたのだ。届きかけていた栄光を寸前で逃すことほど、悔しいことはない。レース直後にはガックリとうなだれて、瞳は潤み、時折ぎゅっと目を閉じる。峰のような負け方をすれば、きっと誰でもそんな悔しがり方をする。着替えたあとの峰は、本人は否定するかもしれないが、懸命に涙をこらえているように見えた。峰の涙を、もしかしたら誰よりも多く見てきた僕である(僕の前でだけ泣いたこともあった)。峰が涙をこぼしてしまわないよう耐えるときに出る仕草をたしかに僕は見た。こうして全身で悔しがることができることは、ある意味で才能だと僕は思っている。
 やまとの若武者にとって、この賞金王決定戦はどんな経験になっただろうか。彼らにとってはこの挫折が、未来へはばたくためのクリスマスプレゼントとなるように、この巨大な悔恨をしっかりと心に刻んで、月並みだが来年のこの舞台にまた帰ってきてほしい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)


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コメント

MVPが重成?侵入で動いたから?はぁ~?
あなた、数年前の名人戦で大嶋がスタート展示で動かず、本番でイン強奪したらめっちゃキレてたし。枠なり進入が好きなんでしょ?重成をもっと責めたら?なんでスタ展と違う進入なんだ~!って。侵入で動きが欲しいなら大嶋に謝れ~!!!

投稿者: キレた (2011/12/24 23:23:10)

強奪じゃない。他艇は迷ったが彼は迷ってない。
『進入で見せ場作りました』でもない。
深いのに全速トップST~影踏ませず先頭でゴール切るまでを、この舞台でやってのけたこと。
しかも前もって断固前づけする旨TV全国放送で明かしてること。
(専門チャンネルじゃなく誰でも見られるチャンネルで言ってる)

ここまでやっちゃう人、しばらく見てません。
荒らして終わりじゃなく、起承転結を、一人でやってのけたこと。

全部興奮しました。先人達が、『トライアルは殺し合い』と言っている事に頷けました。

特にこのご時世ナケナシで夢買ってるから、尚更でした。

『折り合い』しすぎな昨今のレースじゃ応援する気も失せるけど、重成は久しぶりに、信じたくなるレースをしたと思う。

投稿者: nya- (2011/12/25 2:39:33)
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