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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――いいなあ、名人戦

2012_0424_0999  整備室の一角にある、リードバルブ調整用テーブル。壁際に細長いテーブルが設置されており、調整時には整備室内には背を向けるかたちとなる。
 岡孝が整備室のほうを向いて、つまりテーブルを背もたれのようにして、すわっていた。時に目を細め、整備中の選手を見つめている。なんだか、縁側でのんびりしている姿にも見えてくる。時は11Rを目前とした頃。岡にとっては、選手の中に身を置いて、何をするわけでもなく時間を過ごすことが、精神統一の手順のようなものなのだろう。
 その隣に、村田孝雄が並んで座った。村田は岡に出走表を示し、指でなぞるような仕草を見せていた。指先は出走表に隠れて見えないが、雰囲気としては「将棋の図面を指でなぞって、どう指されたかを説明している図」。だとするなら、村田は展開を推理しているのであり、岡はそれを興味深く眺めている、というふうにも見えるわけである。村田が岡にアドバイスをしている? いや、それにしては、岡の表情はあまりにも穏やか。後輩の言葉を耳に入れるというわけでもなく、ふんふんとうなずいているようにも思える。
2012_0424_0569  やがて、村田が立ち上がって、整備室内を巡り始める。新兵として参加している名人戦初出場の村田には、当然、いわゆる雑用の任務があるわけだ。その背中を、やはり穏やかな表情で見守る岡。時折、ふっと目元が緩む。
 う~ん、なんとゆったりした時間の流れ。なんと優しく柔らかな空気。名人戦は、時にベテランならではの余裕ある雰囲気をピットに醸し出させることがある。若造には作り出せない空気。長年、勝負の世界に身を置いたからこそ、湧き出てくる穏やかさがある。ヒリヒリした緊張感はもちろんボートレースの魅力だが、こうした和みを肌で味わうのも、また楽しいものである。

2012_0423_0302  などと言いつつ、やっぱり水面は激しい! その数十分後にピットアウトした11R、岡は6コース回りながらも、展開を突いて3着。その展開を作り出したのは、西田靖と新良一規だ。逃げ込みをはかる西田に、新良が怒濤のツケマイ! これを西田が張って、開いたふところに井川正人が飛び込んでいる。さらに平岡重典、岡が差し続いたというわけだ。ここぞという場面では果敢な攻撃を繰り出すのも、名人世代の迫力。スピードやテクニックもボートレースの魅力であるのは間違いないが、闘志が水面から力強く伝わってくるようなガチンコ勝負こそ、やはりボートレースの醍醐味であり、我々が心惹かれる部分のはず。そうした、相手をねじ伏せんとするハートの部分を色濃く表現してくれる名人戦は、やっぱり最高なのだ。
2012_0424_0603  ピットに戻ると、西田はすかさず新良一規のもとに駆け寄っている。「新良さーん、すいませんっ!」。新良に抵抗したことで共倒れになってしまったことを、詫びたというわけか。しかし、西田の顔つきは決して暗くはなく、新良も笑顔で右手を挙げ返していた。古い青春マンガなどによくある、ケンカの果てに友情を結ぶなんていうシーンはちょっとクサいなんて思ったりするわけだが、真っ向勝負はたしかにお互いに信頼感を生んだりするものだ。まして、そうした戦いを何十年も繰り広げてきた同士が戦う名人戦なのだから、インを潰すためにまくることも、インがまくりを張ることも、何の遺恨にもならない。もちろんそれは名人戦に限らないけれども。
2012_0424_1038  その二人のもとに駆け寄った井川も、勝者の符丁ともいえる「すみません」を口にしている。いや、口にまではしてなかったかな。しかし、口にしなくても思いを伝えるために、とりわけ展開を作った西田と新良には真っ先に駆け寄った井川だったわけだ。
 こうしたシーンは、言うまでもなく、SGなどでも頻繁に見かけられる光景。しかし、名人戦の舞台では、また違った意味を見出したくなるのはなぜだろう。ともあれ、今年もそんな名人戦の戦いを間近で味わうことのできる幸福を感じまくった初日である。

2012_0424_0761  村田の話を少し書いたが、その村田は名人戦初参戦。それで登番が若いわけだから、新兵の仕事をしているわけだ。村田以外にも、高橋淳美や大川茂美が忙しく動いている姿は目にしていて、倉谷和信もドリーム戦出走ということで午後は自分の作業を優先していたが、場面によってはスーパー新兵として走り回る様子が見られるだろう。で、もう一人、名人戦3年目の日高逸子もまた、昨年や一昨年と同じように、駆け回っているのだ。この人の気の回し方は本当にすごい。まさしくグレートマザー。特に今年は女子選手の後輩も参戦しているのだから、しかもドリーム戦に出走するのだから、そこまで動き回る必要はないのに(と第三者には思えるのに)、日高は高橋とともにあかくみ(スポンジ)を配って回ったりしているのだ。
 ま、アシに余裕があるから、かもしれませんけどね。ドリーム戦は今村豊との競り合いを制して2着。明らかに気配は上回っていましたな(でしょ、H記者?)。水の上では強く、陸の上では尽くすグレートマザーは、本当に魅力的なのであります。さすがに女子王座でここまで雑用っぽいことをすることはないから、これも名人戦の楽しみのひとつ、なのかな。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)

2012_0424_0299 原ユッキー由樹夫のこんな笑顔に会えるのも名人戦の楽しみ!

2012_0424_0749 そして、こうした真摯な表情とのギャップもまた、素敵なのであります!


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