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ボートレース特集 > 徳山・新鋭王座ファイナル 極々私的回顧
この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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徳山・新鋭王座ファイナル 極々私的回顧

背中

12R優勝戦
①佐藤 翼(埼玉・105期)+07
②茅原悠紀(岡山・99期) 10
③西村拓也(大阪・98期)  12
④黒井達矢(埼玉・103期) 11
⑤船岡洋一郎(広島・98期)13
⑥青木玄太(滋賀・100期) 19

2012_0930_r12_1135  ちょっと、おかしい。
 スリットのはるか手前から、そんな予感めいたものはあった。インの翼が、ずっとずっと上体を起こしている。1マーク付近にいた私には、翼と他の選手たちとの位置関係はよくわからない。目に映るのは、ひたすら直立し続ける翼の上半身のみ。明らかに起こしが早すぎて、必死にアジャストする姿。
 これだけ放り続けたら、茅原の餌食か。

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 まず、そう思った。が、どんどんこちらに向かってくる艇団を見て、私は驚くしかなかった。翼が、茅原らを1艇身ほども引き離していたのだ。
 んな馬鹿な。あれほどアジャストし続けたのに、なぜまだ、こんなに前にいる??
 咄嗟の思考回路ではあったが、ふたつの選択肢が浮かんだ。翼があまりにも早すぎたのか、他があまりにも遅すぎたのか。そのどちらかしかないのだが、それは、どっちだ??

2012_0930_r12_1187  圧倒的なアドバンテージを利して、翼が1マークを難なく先取りした。見た目には、圧巻の逃げきり。だが、その直後の茅原のターンが、明確にそれを否定した。茅原は、翼の航跡をなぞることなく、3コースから握った西村に飛びつき、ブロックしたのだ。つまり、1マークで翼の存在を無視した。
 やはり、そっちなのか!?
 バック中間、観衆が静まり返る。翼が、外へ外へと寄れ、2マークに向かう気配がない。
「え、うそ、フライング??」

2012_0930_r12_1169_2  そんな声が、あちこちから漏れた。徳山の向こう正面には、電光掲示板も巨大モニターもない。実況も聞こえなかった。誰もが翼の後姿で、大惨事に気づいた。半信半疑だった私も、その力ない後ろ姿で“正解”を知った。
 同時に、ある光景が私の脳みその全部を覆い尽くした。まるで、同じ光景。新鋭王座の白いカポック、1マークを回ってブッチギリの独走、艇団から離れていく後ろ姿。守田俊介の背中。俊介を追っかけ続けていた私は、あの前日、深夜バスで京都に行った。寒い寒い早朝、京都から大津に向かい、ただその瞬間だけを待ち続けた。そして、何年も待ちわびた光景に、私はびわこの片隅で万歳した。わずか、10秒ほどの幸福だった。後に残ったのは、哀しすぎる後ろ姿。

2012_0930_r12_1171  今日のその後のレースを、私はほとんど見ていない。ピットへと向かう翼の背中をぼんやり見つめ、押し寄せるフラッシュバックをやり過ごすことができないでいた。だからどうだ、とかいうこともなく、翼に涙するでもなく、ただいきなりやってきたその状況に身動きがとれないでいた。レースから2時間過ぎた今も、翼にかけるべき言葉が見出せない。あのときも、そうだった。
 まったく締まらない観戦記で申し訳ないが、あれっきり思考がフリーズした今日の自分を、ありのままお伝えしておく。と言うより、何かを適切に表現すべき言葉がうまく見当たらない。勝者に対してさえ。(photos/シギー中尾、text/H)

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