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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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THEピット――特別な……

   ピットの空気が変わっていた。一気に緊張感が高まったような気がした。
2012_1221_0893  10Rが終わった頃、丸岡正典とすれ違った。昨日は、背後から声をかけてきた。今朝は、鋭い視線で挨拶を返してきた。そしてこのとき。丸岡は視線を下に向けたまま、こちらに一瞥もせずに通り過ぎた。巨体のハゲに気づいていたかどうかは知らない。だが、丸岡は明らかに考え込んでいた。あるいは精神統一をはかっていた。レースが近づけば誰もが緊張に包まれるのは当然だが、この24時間ほどのなかでの彼の変遷を思えば、この舞台の特殊性は否が応でも実感させられる。
2012_1221_0615  いったんそんなふうに思ってしまえば、馬袋義則の表情も、なんだかカタく見えてしまおうというもの。馬袋については、今朝も普段とは違った雰囲気と思っていたが、レース前には闘志と緊張がごちゃ混ぜになったような、険しい顔を見せていた。その人柄を思えば、やはりここが特別な舞台だと改めて感じる。
 2012_1221_1838そうしたなかで、松井繁の笑顔を見てしまうと、やはりこの人にはかなわないのか、と唸ってしまう。装着場の真ん中あたりには選手が集う喫煙所があって、喫煙者でなくともここを休憩所のように使っていたりするので、選手の姿は多い。展示ピットにボートを移したあとに松井はこの部屋に入っていき、森高一真、湯川浩司らと談笑。賞金王の戦い方を誰よりも知っている男は、きっとメンタルのコントロールの仕方も知り尽くしているのだ。この感想は、決して12Rの結果を見て言っているのではない。

Uu5w6500  11R、もっとも悔しい負け方をしたのは峰竜太ではなかったか。ピット離れで飛び出した今垣光太郎が入ったのは、結局4カド。今垣自身は深くても内に入ることを考えていたらしいが、「峰くんが少し緩めていたので」無理をせずに、峰のひとつ内を選んだ。峰はただ緩めていたわけではないだろう。今垣が内に潜り込んでいくことを想定し、内枠の動きも見たうえで、カドを獲れると思い込んだ。つまりカドを譲ってしまったかたちになって敗れたのだから、不完全燃焼極まりない結果である。
 レース後の峰は、岡崎恭裕や篠崎元志に、まるで愚痴でもこぼすように語りかけ、顔をひきつらせながら歪めている。端正な童顔が激しく崩れる様子は、この敗戦がどんなものだったかをハッキリと物語っていた。
Uu5w6479  白井英治も、敗戦を重くとらえていたようである。前付けの意思もありながら、結局は6コース。そして4着。コースを獲れていれば、1マークに展開があれば、エンジンがもっと仕上がっていれば……数々の悔恨が白井の胸には去来しただろう。ヘルメットの奥の目は、白井が大一番で敗戦を喫したときに見せるものと同じ様相。それは泣き顔にすら見えるほど、深く眉間にシワを寄せたものだ。賞金王トライアルが、単なる予選ではないということを、白井の表情が教えてくれている。白井はすぐに師匠に駆け寄って、言葉をかけ始めた。こんなときに頼りになるのは、この舞台も知り尽くしている師匠。今村も真剣な表情を浮かべて、白井に言葉をかけていた。
2012_1221_0063  12Rでは、坪井康晴のレース後が気になった。勝った松井は悠然と歩き、報道陣が塞いでいる行く手をゆっくりと掻き分けて、貫録タップリに控室に向かっている。井口佳典は目に悔しさを称えながら、やや速足の歩き方で控室へ。平尾崇典はなんとも淡々とした様子で、もちろん歩いて控室へ戻る。丸岡正典と山崎智也は、お互いに何事か語り合いながら、ときに笑みさえも浮かべて、やっぱり歩いて控室へと向かっている。
 ところが、坪井は走ったのだ。全力疾走とは言わないが、決して小走りではなく、走ったのである。表情を見る間もないほど、疾風のように去ってしまったため、その真意はまったくわからない。リプレイを見たかった、という可能性もある。ともあれ、坪井だけが見せた“伸び”はとにかく印象に残った。ま、特に意味などなかったのなら、すみません。

 さて、トライアル初戦が終われば、枠番抽選! 今年も抽選会場を多数の報道陣が取り囲み、その中に選手の姿もちらほら。西村拓也が「3戦しかないんだもんなあ」とその特別性について嘆息すれば、今村豊が「俺は5、6ばっかり引いてたんだよ! 昔、6号艇がインを獲りやすかった時代には1ばっかり引いて、それが今のように変わったら5、6ばっかり!」と愚痴なのか自虐なのかを声高に語って、周囲を笑わせている。何にせよ、枠番抽選にはみなときめいている。これもまた、賞金王の醍醐味なのである。
Uu5w6645  で、ベスト12の表情を見ると、なんだか神妙だ。和気あいあいとした雰囲気で行なわれてきたという記憶があるのだが、今日はなぜか空気が凛としている。見ると、松井繁が気合のこもった表情をしており、これが方向性を決定づけているのか。
 その松井が抽選1番手で(B組)、黄色い球を出すと、特に表情を変えずに会場を去っている。抽選運の悪さは例年通りだが、そのことに苦笑も落胆も見せず、だからこそ気迫を感じさせられる。
Uu5w6665  続く今垣光太郎が1号艇をゲット! 白い球が出た瞬間、どよめきが起こった。
Uu5w6684 一方、A組の一番手は太田和美。ガラポンを回すと、出たのは緑色。今垣のときとは違う意味でどよめきがあがり、立会人の田中信一郎(選手班長)は同期の運のなさに苦笑しながらうなだれていた。
Uu5w6698  こちらの1号艇は山崎智也! 目尻をすっと下げた程度の喜び方だったが、内心、テンションは上がったであろう。穏やかな顔で、フラッシュを浴びながら会場を去っていく智也は、やっぱり気になる存在だぞ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)


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