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この特集では田中工業「黒須田守」をはじめとした5名のライターから競艇にまつわるさまざまなレポートをお届けします。
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新たな地平へ――菊地孝平⑤

 優勝戦、坪井康晴を出迎える輪の中で、菊地孝平は誰よりも嬉しそうに笑っていた。同県同期の大親友が、SGを制覇した。それを心からの笑顔で、祝福したのだ。
「正直、少し気持ちが落ちるところがありましたね。でも、ツボが頑張ってたから、そんなことはどうでもよくなった。今日、ツボが優勝して、その勢いに乗って僕も行きますよ!」
Cimg0443  優勝戦の1時間ほど前に、菊地はそんなことを言っていた。自分が優勝できないのなら、坪井に勝ってもらいたい! 菊地はただただそれだけを願って、今日という日を迎えていたのだ。優勝戦のスタート展示が始まるとき、菊地はじっとボート上の坪井を見つめていた。本番の前にも、坪井がピットアウトするまで、佐々木康幸と並んで見守り続けた。ツボ、頑張れ! そんな念を、送っていたのだろう。今日の菊地はひたすら、坪井の応援団に徹していたようだった。

 もちろん、レーサーとしての菊地も、今日は意地を見せつけている。8R1回乗り、道中で三嶌誠司を逆転して、1着を獲った。最後まで緩めなかった調整の末、今日は絶好の機力になっていたそうだ。だから、自分のレースをしなければ、と思った。それが、最終戦での1着という最高の結果につながった。ひとまず、いい形で地元SGを締めくくることはできた。
 先述したとおり、菊地に声をかけて話をしたのは、優勝戦の1時間ほど前。まず会釈をした僕に、菊地はニッコリと微笑んで、「お疲れっした!」と返した。それを追いかけて、会話を始めたのだが、今日のレースについては、満足げな様子を見せていた菊地である。
 しかし……。
Cimg0464 10分ほども話し込んだだろうか。菊地の表情は、言葉をひとつ吐き出すごとに、苦しいものになっていった。当然、こちらが振った話は「今節を通して」だ。「後悔はない」と言った。「一節間、充実していた」とも言った。「やることはやった」と胸を張りもした。だが……「悔しいなあ……うん、やっぱり悔しいなあ……」、そう呟いたのが彼の心の堤防を決壊させたようだった。それからは、時間を追うごとに、苦渋の表情が色濃くなっていった。
 途中、山崎智也がふらっと近寄って、冗談っぽく声をかけたときには、明るい表情を向けたが、智也が通り過ぎると、すぐにまた真剣な目つきになって、胸の内に意識を傾けていった。そして、自分と向き合いきった結果、「やっぱり後悔はありません。でも、すっごく悔しい……」、そう言って、頬をゆがめた。
 坪井が勝ったことへの喜びは、言うまでもなく、建前とか自分の心を静めるためとか、気を紛らすための方便ではない。本気で歓び、本気で坪井と幸福を分かち合った。それは間違いない。それでも、いざ自分に意識を向けたとき、そこにあるのは身が引きちぎられるような悔恨しかない。勝負師として当然の辛酸であり、地元SGに懸けたからこそ必然の苦吟が、菊地を襲っているのである。これこそ、菊地がトップレーサーである証だ。選ばれし者のみが味わえる苦しみにあえぐ菊地は、だからこそ超一流なのだと僕は思う。
 そう、やはり菊地は確実に大きくなった。一皮剥けた。
「今回を経て、次からは違った心持ちで臨めると思いますね」
 大きくなったということですね、というこちらの問いには言葉を濁したが、しかし菊地は内なる変化をたしかに自覚できているはずだ。
 彼には申し訳ないが、辛い表情の菊地孝平は、だから最高にカッコ良かった。絶対にこれを糧にするであろう菊地は、次のオーシャンカップでは一回り大きくなって、若松競艇場に現れるに違いない。

Cimg0484  オーシャンカップは、静岡82期三羽烏と呼ばれる菊地、坪井、そして横澤剛治の3人で参戦する。この3人がSGで揃い踏みを果たすのは、これが初めてだ。
「今日ツボが勝って、オーシャンはヨコが勝って、MBは僕が勝って、そうすればずっと3人でSGに行けますからね!」
 菊地の顔がパッと明るくなった。未来に目を向けたとき、すでに菊地は敗者ではなかった。そう、戦いはこれからだ。いや、階段を一歩上がった菊地の戦いは、始まったばかりと言うべきかもしれない。
 菊地孝平。彼は地元グラチャンを経て、たしかに新たな地平へと旅立ったのだ。(TEXT&PHOTO/黒須田守)


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新たな地平へ――菊地孝平④

 拍手が響いた。12Rが終わったばかりのボートリフト。地元・静岡から唯一の準優進出となった坪井康晴が、勝利という結果で背負った期待をすべてかなえてみせた。真っ先に出迎えて、手を打ち鳴らしたのは、菊地孝平。本来なら、自分がこの舞台にと心に誓ってグラチャンに臨んだ男だった。
 坪井が先頭でゴールしたとき、まず頭に浮かんだのが、菊地はどんな心境で仲間を迎えるのか、ということだった。自分がくじけたとしたら、この男に勝ってもらいたいと思うはずの存在が、坪井であるのは間違いない。82期の同期生。登番も1番違い。言うまでもなく、同県の親友。誰よりも気にかかる存在の一人であるのが、坪井なのだ。だが、グラチャンが開幕する前、まさか「ツボが勝てばいいや」などと考えていたはずがない。自分が静岡の代表として、地元SGで堂々と凱歌を奏でることだけをイメージして、通い慣れたピットに入ったはずだ。その野望が挫折してしまった翌日、菊地は何を思い、坪井のレースを見るのだろう。そして、勝利した坪井を祝福するのだろう。ひょっとしたら、余計な詮索かもしれないが、僕はそんな思いにとらわれてしまっていた。
 坪井の勝利を、誰よりも早く祝福したのは、菊地孝平、その人だった。坪井がピットに近づくと、両手を挙げて、喜びを表わす。坪井は当然、にこにことそれに応えていたが、気になったのは、菊地の表情。これも当然と言っていいだろう、菊地は心からの笑みを坪井に向けていた。本当に、本当に嬉しそうだった。
 服部幸男、野長瀬正孝、佐々木康幸の静岡勢も、それ以外の表情など世界のどこにもないというほどに、目を細めて坪井の健闘を称えた。輪の中心にいる坪井は、時に頭を下げながら、穏やかに笑っていた。もともとが派手なアクションをするタイプではないだけに、ひたすら静かに顔を上気させていた。そんななか、菊地はいつまでもいつまでも、笑っていた。ただただひたすらに、坪井の快挙を自分のことのように歓んでいたのだ。

2006_0623_01_417  9R前、カポックを着ている菊地に装着場でバッタリと会った。その時間まで、試運転を繰り返していたのだ。今日は不本意な成績に終わってしまっただけに、意地を見せつける瞬間は明日に持ち越し。そのために、菊地は今日も、パワーアップに必死だった。まだグラチャンは終わっていない。そこにレースがある限り、精魂を傾けなければいられない。
 お疲れ様です。そう声をかけると、菊地は同じ言葉を弾むように返した。何かを吹っ切ったような笑顔とともに。もしかしたら、昨日の痛手が一皮剥ける契機になったのではないか、と思った。負けて覚える将棋かな、という。あの瞬間、世界一の悔しさを噛み締めていた菊地は、それによって新しい何かをまとい、不要になった殻を脱ぎ捨てたのだ。そうでなければ、あんなに爽快な笑顔を、フライングの翌日に見せられるはずがない。
 坪井に向けた笑顔を見て、僕はさらにその意を強くした。優勝して、それがかなえられたら、いちばん良かった。それはかなわなかった。だが、タイトルにした「新たな地平へ」飛び立つ助走は、この5日間で果たしてみせた。実際は、菊地自身はそんな思いを抱いたはずがないし、どこかにまだFへの悔恨をくすぶらせているだろうが。

 坪井のモーターを、インタビューなどで忙しい彼の代わりに整備室へと運びながら、菊地はなおも涼やかな笑顔を見せていた。それを見ているうちに、なんとなく「今日は声をかけるのをやめよう」と思った。最終日の明日、菊地はどんな心を抱えて迎えるのか。それを改めて明日、確認してみたいと思う。……などと考えながらピットを出ようとしたら、宿舎へ帰る菊地が突き抜けた笑顔を向けてきたのだった……。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守) 


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新たな地平へ――菊地孝平③

 痛恨。
 この一言しかない。
 菊地孝平、フライングに散る――。
 まさかの勇み足で、菊地のグラチャンは終わった……。

 ざっと、事態を説明しておこう。昨日の減点が響いて、ボーダーを6・00とすると、今日は2回乗り=2・3着の勝負駆け。前半4Rを3着で終えて、後半8Rは2着条件での出走となった。艇番は、2号艇。枠なり進入となり、2コースからの発進だった。
 これぞ勝負駆け、ということになるのだろう。全員がスタートを踏み込み、全艇がかなり速いタイミングでスリットを通過していった。菊地はインの池上裕次よりも覗くスタート。誰よりも早く、スタートを切った。まさに渾身の勝負。魂のスタート。しかし……コンマ01、そう、たったコンマ01だけ、菊地の舳先は正当な領域を超えてしまっていた。アウトから菊地をマクリ差した湯川浩司は、逆にコンマ01だけ残す幸運。スリットを境にして、天国と地獄がそこにはあった。
 繰り返す。痛恨。あまりにも痛いフライング。この瞬間、菊地は準優のラインを目前にしながら、立ち止まらなければならなくなった。それはすなわち、終戦を意味した。

2006_0621_01_205 「悔いはないです」
 12Rが始まる直前、菊地はそう言って、笑った。わかる。やることはやった。勝負を懸けた。何もできずに、勝ち星を掴み損ねたのではない。精魂こめた勝負をして、単に結果が悪いほうに転がっただけだ。だから、わかる。悔いはなくて当然だし、笑える心境も理解できる。しかし……本当だろうか? 僕はそう思うしかなかった。
 単純に、その笑みが心の底からのものには見えなかった、ということもあるが、それだけでもない。心を磨き、研ぎ澄まされた気合を抱き、ここが最大の勝負と臨んだグラチャンを、その一言だけで表現し切れるわけがない、と思ってしまったのだ。しかも、ただの敗退ではない。フライング、である。笹川賞で中村亮太がFを切ったとき、彼は素直に後悔を露わにした。誰もが亮太のように振舞うわけではないし、むしろ亮太タイプのほうが稀のようにも思えるが、それでも腹の底にズドンと響く悔しさは絶対に同種のもののはずだ。それが思い入れをもって臨んだ舞台ならば、なおさらのことである。
 8R後の菊地は、12Rの発走時間ギリギリまで、ペラ室にこもっていた。僕は「明日も勝負、ということですよね?」と、それについて問いかけた。
「(ニヤリ)当ったり前ですよ!」
 菊地はそう言ってもう一度、笑った。もちろん、それは本音に違いない。明日もあさっても、闘いのステージが菊地を待っている。失敗があったからといって投げ出すわけがないし、むしろ意地を見せたいと願うのが普通の心境でもあろう。だが……これは深読みの謗りを免れないかもしれないが、僕にはペラを一心不乱に叩き続けることでしか、心の平静を保てなかったのではないか、と思った。菊地は、悔しさを紛らわせる、あるいは発散するために、むしろ“仕事”に没頭したのではないか。その過程のなかで、明日への闘志を再び搾り出したのではないか。僕は、そんな気がしてならなかった。だとするなら……菊地の笑顔はあまりにせつなかった。そして、本物のプロフェッショナルの顔を見た。菊地は、おそらく今年一番の辛酸から逃げなかったのだから。

 いずれにしても、だ。菊地は大きな悔恨をひとまずリセットして、ファイターのスイッチを入れた。明日は4R6号艇。1回乗りで、しかも骨っぽい相手が揃った。なかなか厳しい戦いには違いない。しかし、きっと菊地はプライドを水面に立ち上らせるだろう。むしろ、明日からの走りにこそ、菊地孝平が何者であるかが表現されるのかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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新たな地平へ――菊地孝平②

 まさかの減点――。8R、菊地孝平は4着に敗れ、さらに不良航法を取られてしまった。昨日まで予選ベスト3を気持ちよく走っていたのに、一気に23位までランクダウン……。決して気合が空回りしたわけではなく、まさしく展開の綾としか言いようがないが、それでも昨日と同じ心持ちでいられるはずはない。
2006_0621_01_049  11R前だったか、顔見知りの記者さんに「明日は頑張って」と声をかけられ、足早に歩きながら、「はいっ」と笑顔を見せた菊地。それが開き直りの笑みなら、明日はきっと渾身のレースを見せてくれる。無理に作った笑顔なら……。残念ながら、それを確認することはできなかった。
 ただし菊地は、それでも勝負師としての飽くなき追求心を捨ててはいない。菊地のTシャツの背中に大書された、「勝利」の二文字。
「MB記念の祝勝会で、ファンの方にもらったんです。僕と、ツボ(坪井康晴)とヨコ(横澤剛治)に、お揃いでね」
 静岡82期三羽烏と呼ばれる、菊地、坪井、横澤。3人に共通の思いを託して、そのファンはプレゼントしたのだろう。

 勝利二文字の為ならば
 この身惜しまず捧げます
 たとえ我が身を削ろうと
 勝者の喜び消えぬまい
 我勝利永遠不滅

Cimg0345  そんなふうに記された、Tシャツの背中。
「それが僕の……」
 そう言って、いったん言葉を止めた菊地に、「モットー、ですね?」と問いかけると、彼は弾けるような笑顔でうなずき、顔を上げるとさらに笑って見せた。
 明日の菊地は、きっとその心境でレースに臨むだろう。最低のノルマであるはずの予選突破のために、菊地はただただ勝利を目指す。
 今は、明日の朝の表情に注目したいと思っている。きっと、気持ちを切り替えたうえで新たな魂を注入した姿が見られると信じている。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田守)


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復活!特注選手 新たな地平へ――菊地孝平①

   突如復活、特注選手のコーナーである。
 取り上げるのは、菊地孝平だ。
 今節、立ち上る闘志がひときわ目立つのは、なんと言っても菊地孝平。ピットに行くたび、絶対に目が止まるのが、彼なのだ。ピット情報には、毎日登場してもおかしくないくらい、とにかく際立っている菊地の気合。だったら独立させてしまえ、ということに相成った次第である。

2006_0621_01_049 菊地孝平の最初の印象は、陽気な好青年、であった。昨年の笹川賞からピットに入るようになって、当初の菊地はそれほど目立つ存在でもなかった。好素性のモーターを引いていなかったということもあっただろうが、レース後に同僚選手を出迎える際の明るさが気になる、というくらいでしかなかったのである。
 そんな菊地の印象が変わったのは、MB記念。初めてのSG優出に、前半の時間帯は震えるような緊張感が漂っていたのだが、優勝戦が近づくにつれ、それが逞しい闘志に変換されていくのを目の当たりにして、「この男、ただ者ではないかも……」と驚いたものだった。そして、優勝。一気に大仕事を成し遂げてみせた菊地に、新星の誕生を見たと思った。
 チャレンジカップでの優出時は、実にリラックスした表情を見せていて、この男、一皮剥けたかも、と思った。今年の総理杯での優出も、平常心のなかに艶やかな闘志を覗かせていて、大物感すら覚えた。
 そんななか、陽気な好青年という印象が残り続けているのもすごいことで、『BOATBoy』で連載してもらうようになり、顔見知りになってからはなおさら、彼の好青年ぶりは強く胸に残った。
 成長を続けながらも、芯の部分は揺るがない。すごいことだ。

2006_0620_02_166  そんな菊地だけに、今節も好青年ぶりは少しも変わらない。しかし、何かが違う。いつもの菊地との明らかな差異が、強く胸に届いてくるのだ。それが、冒頭に書いた、ひときわ目立つ闘志、だ。他のレースでは闘志を欠いているわけではない。だが、地元SGをドリーム戦選出=静岡代表という立場で迎えた責任感は、菊地の心の中に付加価値をもたらした、ということなのだろう。遠目に見ても伝わってくる、強い強い決意と魂。おそらく、菊地は今節の主役を担うべき自分を真剣に意識しているはずである。
 午後4時頃、だろうか。自分の作業をすべて終え、やや時間に余裕が生まれた頃を見計らって、声をかけた。今節は、明らかに気合が違うように見えますが?
 菊地は、ニヤリと清涼な笑みを見せた。
「気合?………………(ニヤリ)入ってますよ」
 空回りしないように。菊地は前検日の共同会見で、そう言っている。自分を追い込んでいきたい。そうも語った。大丈夫。菊地は、2日目にしてすでに、それを実現している。ニヤリ。それがその証明だ。菊地は、意識して心に闘志を注入しているのであり、だからこそそれを気負いなどには変換しないようなストッパーを持っている。ニヤリ、はその無意識な表現なのだ。

 菊地孝平、27歳。明日はどんな闘志を見せてくれるのか。ひとつ言えるのは、彼は今節、もう一皮剥けようとしているということだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ⑥

 やはり今日も、意地とプライドを見せてくれた。
 今節の特注選手である服部幸男。予選落ちでのんびりムードになりがちな昨日、今節初勝利を含む好成績を挙げ、空いた時間は常にペラと格闘している姿から立ち上る、“艇界の大スター・服部幸男”の意地とプライド――。よりのんびりムードが強くなる最終日だったが、今日もそのオーラを発散した服部が、水面にも陸上にも存在していた。

DSC00364  2回乗り、前半の4R。1号艇で出走だったが、上瀧和則が前付けを見せ、服部は2コース。上瀧と服部が好スタートから飛び出し、3コースの別府昌樹が遅れたために、外からのまくりが2コースを飲み込むかに思えたが、服部は素早く差しにかまえてバックへ。そこから伸びてそのまま押し切った。これで今節2勝目である。
 後半の8Rも、5コースから快ショット・スタートを決めて、1Mでまくり差しの態勢に入っている。画面で見た限りではとてもきれいな航跡を描いていたが、いかんせんコースが遠く4着。ただ、スタートを決めて、レースを作った上での敗戦であったのは大きい。大スターであった服部は、何より自分でレースを作っていたのだから。
 これで服部の総理杯は終わった。5日目からの着順は1、2、1、4着。もしこれを予選道中に置き換えたならば、5回乗りなら準優当確という好成績である。もちろん、5日目には準優組も、今日は優出組はいないわけで、そんなことを言ってもただただ虚しいことは承知している。しかし、この場面でしっかりと好成績を残さなければ、ファンにもライバルにもナメられてしまうではないか。情けない姿を見せてしまうのはスターではない。勝った前半レースでも負けた後半レースでも、服部に笑顔はなかった。そこには服部幸男の意地とプライドが、今日も透けて見えていた。
                            ★
DSC00373  後半のレース直後、選手入口の近くに服部の姿があった。スーツに着替えをすませ、帰り支度を急いでいた。以前、賞金王シリーズにて今垣光太郎を追いかけた折りも、今垣は賞金王決定戦を見ることなく早々と引き上げてしまった。静岡勢では菊地孝平が優出していたわけだが、「自分の出ていない優勝戦など見ない」のも意地とプライドの現れ……などと考えていたら、いつのまにか服部が隣でタクシーを待っていた。思わず出た「お疲れ様でした」の言葉に「はい、お疲れ様でした」と振り返った服部と、当然目があう。そこで、今回の総理杯で解明するはずだった「静岡勢の躍進と服部幸男」に付いて聞いてみた。突然の質問に、んっ?という反応を見せつつも、質問に関して服部は考える間もなく、とても流暢にこう話した。
「まあ、若手が頑張って成績を残しているわけだし、それは僕も刺激になりますよね」
 おそらく何度も聞かれて、何度も答えているというやりとり。服部はタクシーに向かおうとしており、ここで「では頑張ってください」などと言ってもなんの意味がない。失敗した。そう思った瞬間に、服部はもう一度口を開いた。
「刺激にしないといけない。僕が頑張らないといけないからね」
 僕も、ではない。僕が、なのである。自分が大スターだと自覚し、だからこそ頑張らないといけない。5日目から始まり、そして最後まで、服部に笑顔はなかった。でも、その精悍な顔つきとオーラは、まさに艇界の大スターであった。
 服部幸男が(あえてこう書くが)復活したとき、競艇はもっとおもしろくなる。そして、その日はきっと遠いことではない。そう思いながら、平和島を後にする服部のタクシーを見送っていた。(松本伸也)

DSC00054 ←前検日、モーター抽選にて。5日目、最終日を思うと、もう少しいいモーターならば……


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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ ⑤

DSC00329  今日と明日、黒須田から「特注選手」を引き継ぐことになった。改めて書くまでもなく、今節の特注選手は服部幸男である。
 SG2勝の相性のいい平和島水面ながら、服部は予選落ちを喫した。初日、黒須田に「(平和島でのSG制覇を)再現できる手応えはまだないね」と語ったままの結果になってしまったが、「結局モーターが出なかった」などということより気になっていたことがあった。他艇とラップ状態になると、簡単に抜かれていってしまう服部が、目の前の水面を走っている。たしかにモーターは出ていないようではあった。しかし、これが服部幸男なのか。90年代後半、艇界の大スターだった服部なのか。寂しさを感じながら眺めていた服部を、改めて追いかけるべく、朝のピットへ向かった。

 5日目、1R。服部は4号艇でこのレースに出走した。準優勝戦がある日の1Rに出走することも寂しさに拍車をかけたが、そんな寂しさを吹き飛ばすような意地を服部は見せてくれた。4コースのカドからトップスタートで飛び出した服部は、先にまくった吉田徳夫とイン中野次郎の間にハンドルを入れ、そのままバックへ突き抜けた。“ズバッ!”っという音が聞こえるような、大スター時代を思わせるまくり差しだった。
DSC00330  これが今節嬉しい初勝利だが、ピットに戻ってきた服部に当然笑顔はない。5日目の1Rに出走し、それで勝ったからって喜んでなんていられないことは、自分自身がいちばんわかっている。こんなことで少し嬉しくなってしまったことのほうが申し訳なく感じるほどの鋭い眼光のまま、服部はカポックを脱いでいた。。
 レース後、いちど控室に入った服部は、2R終了後にペラ小屋に入ると、ボートの引き上げ以外、そのまま後半7Rの準備まで出てこなかった。厳しい目でペラを見つめ、調整を続ける。5日目以降、一般戦回りとなった選手は比較的のんびりムードになるが、服部は決してそんなことはなかった。“俺は服部幸男だ”という意地とプライドが、ペラを叩き続けていたようだった。
 後半の7R、2号艇で出走した服部、1周バックで2番手を追走。そこに3番手の伊藤誠二が詰め寄ってきた。昨日までなら、逆転を許していた2M勝負で、服部は伊藤を振り切っていた。結果は2着。そして服部は宿舎へ帰るバス便の時間まで、再びペラ小屋にこもっていた。

DSC00343  5日目の2走。そしてペラを叩き続けた時間。意地とプライドを発し続けた服部は、明日もその姿を見せてくれるのだろうか。いや、見せてくれるに決まっている。なぜならそれが大スター・服部幸男だからである。(松本伸也)


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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ ④

 姿が見えない。ペラ室、整備室を覗いてみるが、あの整った顔は見つからない。
 そもそも、今日はピットに人影があまり見当たらない。2日目に引き続いての強い向かい風。途中、池上裕次がスタート練習に出ようとする選手たちを制止する局面すらあったほどの、荒れ水面である。レース間の試運転はほとんど行なわれず、ペラやモーターを調整しても成果を確かめる術がない。そんなこともあって、ピットは閑散としていて、もっともよく目撃するのは、もろもろの調整に飛び回っている選手代表の長岡茂一、そして池上であった。
 だから、服部幸男の姿も見えない。3Rに予選最終走を終えてからは、ほぼ終日、選手控室で過ごしていたようである。静岡勢のレースが終われば、ボート引き上げのためにちらりと現われるが、目を離した瞬間に、もういなくなる。予選終了、大荒れの天候と水面、のんびりするしかない状況にあったということだ。

2006_0317_01_059  といっても、午前中の服部は、違う顔を見せていた。3Rに向けて、必死のペラ調整。予選突破は絶望的な状況にありながらも、決して手を抜かず、最善を尽くそうとする気概にあふれていた。
 レースでも、見せ場はあった。6コース発進の服部は、進入で思い切り後ろに艇を引いた。助走距離は、ゆうに200m以上はあっただろう。そこから全速で水面を疾駆し、スリットを超えてからは内の艇に伸び勝って、1マークは自力で攻めていった。形としてはまくり差しを狙った走りとなったが、展開待ちのまくり差しではなく、握りっぱなしで艇間を突こうとするものに見えた。結果は6着だったが、間違いなく意地を見せるレースだったと言えるはずである。
 ピットに引き上げてきた服部は、昨日と同じだった。ゆっくりとした歩様、カポックを脱ぎながらの強い悔恨。準優の目があるかないかという違いは、外野からはモチベーションを左右する大きな要件に思えるが、勝負師にとってはまず「負けた」という事実への悔しさが大きいのだろう。昨日と何も変わりなく、敗戦と向き合っている服部を見て、これが一流のレーサーの姿なのだろうと、改めて実感した。

 9R終了後、ほんの一瞬だけ、服部が姿を見せた。足早にペラ室に入り、いつもの彫像のような表情でペラを睨んでいる。ゲージを当てて、チェックすると、手際よく片付け、足早にペラ室を出て、小走りでいったん控室に戻ってから、帰宿バスの第一便に駆け込んでいった。こうした一連の動きのスピードは、相変わらず素早い。これもまた、一流のたたずまいなのだろうか。
 その直後の10Rで弟子の笠原亮が負傷。帰郷することになったが、その報を宿舎で聞いたであろう服部が何を思ったか、それが少し気になったが……。(黒須田守)


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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ ③

DSC00321   我ながら、なんたるサゲチンか、と思う。新鋭王座で特注にあげた金田諭、そして今回の服部幸男、ともに3日目で予選突破の目がなくなってしまった……。松本が担当した場合には、取り上げた選手がほぼ準優に進出している。賞金王シリーズの今垣光太郎は予選落ちしたが、繰り上がりでトライアル3戦目から決定戦に出走し、2着を2本並べた。それなのになぜ……。なんだか、服部に申し訳なくなってしまった。
 5R、1号艇がまわってきたここは、得点を積み重ねるチャンスだった。しかし、まくった井口に抵抗し、結果6着……。はからずも勝負駆けとなってしまった11R、5号艇から敢然と前付けに出て2コースを奪取するも、道中で着順を落として4着……。2等の目がある局面もあっただけに、なんとも口惜しい敗戦となってしまった。

SANY0054 5Rのレース後、服部は足早にペラ室へと入っていった。昨日までと動き自体に変化はないし、表情も落胆を感じるようなものではなかったが、その足取りはとにかく速い。
 7Rが終わった頃、ペラ室を飛び出した服部は、やはりスピーディな歩様でボートに向かい、手早くペラを装着して、素早い動きで水面へと飛び出していった。
 とにかく、動きが早い。テキパキと、というよりは、それが自然体のスピードなのだろう。女子王座決定戦のあと、ほんの10日ほどで迎えた今節、まず感じたのは、まさしく選手たちの素早い行動だった。女子選手たちがモタモタしているということではない。ただ、SG戦士たちはピットでの動きがすでにスゴイのだ。速いのはターンスピードだけではない。すべてのムーヴがスピーディなのである。ただ、今日の服部の動きは、そのなかにあっても目立つほどに早い。1走目を終えたあとの服部には、そんな形で圧倒されっぱなしだった。
 ところが……。
 4着に敗れ、ピットに上がってきた服部の歩様は、明らかに緩やかだった。静岡の仲間がボートを引き上げ、装着場に運ぶ。普通は、出走した選手は同じスピードで後を追うのだが、服部はゆっくりゆっくり、歩いていた。ボートが装着場に運ばれて、モーターが外されてもまだ、服部はボートに追いつかない。時間にすればほんの数秒のことだが、明らかに異様な光景だった。そこにあったのは落胆、だったのだと思う、間違いなく。
 カポック脱衣所でレースの装いを解いている間、服部は誰とも声を掛け合わない。ひたすら無言。ひたすら無表情。自分の世界の中で、悔しさを噛み締めているに違いなかった。
 表情が一瞬変わったのは、カポックやレース用カッパを脱ぎ終わって、控室の入口を跨ごうとしたときのことだ。顔つきが、修羅のようになった。何かに苛立つかのように眉間にシワが寄り、目にケンが立つ。くそっ。言葉にはしていないが、しかしそんな声がたしかに聞こえたような気がした。

 その後の服部は、またもや素早くモーターを格納し、早足でペラ室へ。そしてついに、帰宿のバスが出るまで調整を続けたのだった。この懸命の仕事ぶりが、明日以降、実ってほしいと願う。平和島でSGを優勝する、その再現は絶望的ではあるが、しかし服部らしいレースを見たい。必ず見たい。バスに乗り込む直前、なぜか山崎智也が服部に抱きついてハグ、服部はやや苦笑い気味、というシーンを見かけたが、智也の陽気なパワーが服部に注入されていてほしい、とちょっとだけ思った。(黒須田守)


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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ ②

2006_0317_05_038  昨日、服部幸男にほんの短時間、話を聞いているとき、実は鳥肌がじゅわっと立っていた。
 か、かっこいい……。
 痺れていた。心の底から、痺れていた。
 クール・ガイ。服部を、表題でそう記した。ここで言うクールは、冷たいとか冷静とか、そんな意味ではない。カッコいいとか、イカしているとか(死後か?)、そんな思いを込めたものだ。イッツ・クール! 服部幸男ほどその言葉がハマる男は、そうそういない。本気でそう思う。
 昨日、服部の言葉を反芻する。
「特に意識はないね」
「再現できるだけの手応えは、まだないね」
 表情をほとんど変えないまま、しかしぴしゃりと言い放つ。確かな口調、聞き取りやすい声質、声量。言葉は短いが、決してこちらをあしらっているわけではない。その風情は、あまりにもクールだった。クラクラした。
 ちなみに、服部は僕よりも年下である。そして僕は、ハゲでヒゲのオッサンである。それなのに、服部と話していると、自分のほうがはるかに年下のように感じてしまう。40歳まではまたかなりの時間を残していながら、服部はすでに惑うことなし、なのだろう。日々揺らぎっぱなしのオッサンは、だから憧れる。そのクールなたたずまいに、倒れそうになる。
 チョイ不良オヤジ? そんなもんは、服部幸男が凌駕する。表層的なものだけではなく、心の泉から四六時中あふれ出るソウルこそが、真のカッコ良さってもんじゃありませんか。チョイ不良オヤジなんて目指してどうする。中年男たちよ、服部幸男を目指せ! ま、まずはワタクシ自身が目指さなければならないのだが……。

2006_0316_4_002w800  さて、今日は恥ずかしながら、服部に話を聞くことができなかった。1回乗りの3Rは4着。トップスタートで攻めたものの、瀬尾達也の強烈な二段まくりに4着敗退。昨日と似たような展開となってしまった。ただ、向かい風12mという極限の非日常水面でのレースだっただけに、服部に限らず、どの選手も今日は参考外と捉えられている様子。レース後は比較的緩やかな空気がピットに漂っており、服部も同様であった。レース間には、服部の姿はほとんどピットで見かけられなかった。
 服部を発見したのは、10R終了後。ペラ室からダッシュで整備室に移動していた。5分後くらいだっただろうか、今度は整備室からペラ室へダッシュ。ひとしきり作業を終えると、小走りで帰宿バスに駆けていったのだった。最初にペラ室から整備室に向かう際、一瞬だけ僕のほうを振り返ったので、気にはかけてくれていたようだったが(気のせいかもしれない)、すでに宿舎に帰る時間が迫っていて、こちらが声をかけるのをためらってしまったところがある。今日もバスに向かう道すがら、話を聞くこともできたのだろうが、昨日と同じような会話になっても意味がないと考えて、今日は黙って見送ってしまった。本当に申し訳ない。
 ただ、決して表情が硬いわけではなかったことは報告しておきたい。長嶺豊さんと会話をしているところを見かけたが、非常に柔らかい表情に見えた。1号艇が回ってくる明日こそは、勝利の笑顔を見たい。そして、そんな服部に声をかけ、また間近でそのクールさに陶酔したい。ともかく、今日もまた消化不良になったことは、お詫び申し上げます。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)

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服部幸男――絶好調・静岡軍団を率いるクール・ガイ

2006_0316_3_110  総勢8名。この数字だけを見ても、この支部の勢いに戦慄を覚えざるをえない。
 静岡支部、である。
 昨年は菊地孝平、笠原亮という新たなSGウィナーを誕生させ、その2人を賞金王決定戦に送り込んだ静岡支部。そして、この総理大臣杯には、8名が乗り込んできた。静岡最強支部化計画。昨年のMB記念で菊地孝平が優勝した際、まことしやかに存在を噂されたその言葉が、今節はまさしく現実味を帯びて、我々の前に大文字で出現している。
  その静岡支部において、大将と言うべき存在は、やはり服部幸男である。
 まず、実績が突出している。SG4V、GⅠ14V。1997年には賞金王決定戦をも優勝、当時の年間獲得賞金額の記録を更新。SG初優勝となった全日本選手権では、21歳9カ月7日というSG最年少優勝記録を更新。これは現在も破られていない(ちなみに、総理杯最年少優勝の記録も持つ)。紛れもなく、歴史に残るスーパーレーサーである。
 さらに。『スポーツYEAH』で笠原亮にインタビューした際、彼は「服部さんの存在が大きかった」と言った。もちろん、昨年の総理杯制覇である。二人は師弟関係にあり、昨年の総理杯には揃って出場。SG初優勝の歓喜を分け合っている。「服部さんは、いつも僕のことを見ていてくれる。それが大きいんです。いてくれるだけでいい。そういう存在ですね」。昨年のニューヒーローの精神的支柱が、服部幸男だったのだ。そう、服部は若き駿府軍団を温かく見守り、メンタルの面からも支えている。今節は金子良昭や野長瀬正孝という先輩も参戦しているが、間違いなく静岡勢の大黒柱となっているのが服部なのだ。
 もしかしたら、現在の競艇界を語るうえで、服部はキーマンの一人ではないのか。少なくとも、静岡勢の勢いに服部の力が大きく及んでいる。服部のもとに足を向けたのは、そんな思いからだった。

2006_0316_3_192   初日の服部は、とにかく忙しそうにしていた。9R1回乗り、しかしレース前はひたすら調整に時間を費やしており、話を聞くタイミングもなかなかつかめない。モーターを格納した後、ようやく今回の主旨を説明し、服部も快諾してくれたのだったが、そのままペラ室に入っていって、木槌を振るい始める。9Rはトップスタートから2着、しかしその結果と足色に満足しなかった服部は、調整の手を緩めようとしなかったのだ。こうなると、服部の手が空くのを待つしかない。時々ペラ室を覗きながら、研ぎ澄まされた表情でペラを覗き込む服部に、恐れ入るしかなかった。
 作業を終えた服部をようやくつかまえた。ただし、帰宿バスの発車が迫っており、もはや事細かに話を聞いている時間はない。バスのほうに歩きながら僕の話に耳を傾けた服部に、用意していた質問のひとつを手短に聞くことにした。
 平和島のSG。服部は過去、2度の優勝をしている。初優勝のダービー。11年前の総理杯。服部にとっては相性のいいレース場であり、舞台であるはずだ。
「いや、特に意識はないね」
 服部は、こちらの目を見ながら、ビシッという音が聞こえたと錯覚してしまうくらいに、キッパリと言った。予想していた答えではある。
 しかし服部さん、我々としては、やはりその再現を期待してしまいます。こちらのその言葉に、服部はうなずき、そして一瞬立ち止まった。
「ただ、再現できるだけの手応えは、まだないね」
 少しだけ、声のトーンが上がっていた。そして再び、服部の視線が、こちらに向いた。
「うん、だからまた明日から。徐々に」
 それだけ言って、服部はバスに乗り込んだ。

2006_0316_3_109 今日、することのできたやり取りは、たったこれだけである。消化不良で申し訳ない。静岡大進撃のヒミツなど、ひとつも聞くことができていないではないか。本当に申し訳ない。ただし、はからずもひとつのテーマのフリにはなったかもしれない、と思う。それは……。言うまでもなく、大黒柱・服部自身の復活、だ。97年の賞金王以降、SG制覇からは遠ざかっている服部。私事ではあるが、僕を決定的に競艇に引きずり込んだのが、その97年賞金王での服部だった。
「再現できるだけの手応えは、まだないね」
 この手応えが、明日以降どう変わっていくのか。あの日の感動を、甦らせてくれるのか。服部がSGを制してこそ、静岡支部の勢いは本物になるのではないか。そんなもろもろの服部への思いを手に、明日からもこのクール・ガイを追いかけたいと思う。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田守)


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!⑥

IMG_0033  最終日、優勝戦に出場しない選手はのんびりムードが漂っている。もちろん気を抜いているわけではなく、一般戦であろうが特選A戦であろうが選手は全力で臨むのだが、やはり優勝戦とはプレッシャーが違う。そんなことは何百回と経験してきている大ベテラン、鵜飼菜穂子ものんびりとした最終日を過ごしていた。
 こちらがピットを訪れた直後の5Rでは、3号艇から指定席のインに入り、スタート同体からの1M先マイ、さらに相手にスキあらば突進を仕掛けるなど(まあ、そのために3番手から結果4着に落ちてしまったのだが)、昨日同様に気迫溢れるレースぶり。昨日まで何度も書いた「全盛期の鵜飼菜穂子」が水面を走っていたが、ピットに帰ってくるとそれは一変。内田和男アナウンサーとワインについて長く話し込み(ちなみに鵜飼プロフィールの“宝物”には「ワインセラー」、“健康法”は「ワインを飲むこと」とある)、ときには爆笑もしていた。こちらの姿を見付けたときも「いまのレース、チルト上げたら全然モーター出なかったんですよ。早く下げなきゃ下げなきゃ。あははは」と笑顔で教えてくれた。あと1走、11Rが残ってはいたが、完全にリラックスムードであった。
                            ★
 さて、今回の特注選手に鵜飼を選んだときに、「これは聞いておかなければ」と思ったことが二点あった。ひとつは3日目に聞いた46歳という年齢に25年のキャリアのこと。
 もうひとつ。それは「引き際」である。
 年齢も女性に対してとても失礼な質問だという自覚はあったが、「引き際」というのも相当失礼な質問である。最後のレースも4号艇からインを取り、寺田千恵を振り切って2着に入るというまずまずの締めくくりをした後、覚悟を決めて話しを振った。
――鵜飼さん、引き際を意識されること、ありますか?
 まったく考えてないですよ、というような答えを筆頭に、いろいろな答えを想像していた。しかし、ほぼノーマークの答えが返ってきた。「それは、私がいちばん稼いでいたころ……それこそ15年以上前から意識してますよ」と言った後、終始穏やかな表情で鵜飼は話し続けた。しかも4日目と同じ、相槌しか打てないほど饒舌に。
「そのころというのは、私にはボートしか見えなかった。仕事も趣味もボートに乗ることで、覚悟として『競艇で死んでもいい』と思ってたんです。だからこそ、そう思えなくなったとき、それにはいろいろな要因があると思うけれど、年齢など関係なく、私は辞めようと常に思っていました。で、いつごろからか競艇以外のいろいろなことにも興味が出始めているんですよ」
 ここまで聞いて、「というわけでそろそろ引き際……」という寂しい続きにならないことを祈ったが、それを見透かしたように鵜飼は笑顔を浮かべた。
「そうしたら、仕事の競艇がつまらなくなるどころか、もっと楽しくなってしまった。そう感じな がらやってきて、いまに至るわけですね」
IMG_0179 ホッとしていると、「でもね、やっぱり成績面で考えてしまうこともありましたよ」と、一転して寂しげな表情を見せた。それはトップ級の選手だっただけに当然だろう。
「もしも、女子リーグをずっと走っていたら、ずーっとA級ではいられると思う。それは男子が強くて……という話ではないですよ。私が“女子選手のパイオニア”だと思うからこそ、女子戦ではそう簡単に負けられません。それが混合戦だと、私も“ひとりの女子選手”なんです。これ、楽だったんですよ。そうしたら成績がガクッと下がってしまった。そのときは少し考えました……」
 鵜飼は以前、女子リーグ卒業直後、勝率4点台に急降下したが、次期には5・71と巻き返しA2級に復活を果たしている。「そこで楽をしないように思い直して、成績も巻き返したんですね」との問いかけに、「そうそう」と答えつつ、「でもそう思い直したりするためには目標が必要ですよね。だから新しい目標を立てたんですよ」と続けた。
「あと2年で、名人戦に出られます。ありがたいことにこんなレースができたんですから、いまはこれが目標です。ただ、出るためにはやっぱりA級を維持しなければならない。だからこそ、これからも負けてはいられません」
 実は「名人戦出場ですよ!」と、最後にハッパとしてかけようと思っていたが、すでに鵜飼の目標には入っていた。“女子のパイオニア”として、女子初の名人戦出場へ。「負けてはいられません」。「!」が付くトーンではなかったが、静かなだけに迫力があった。今日唯一の陸上での「全盛期の鵜飼菜穂子」がそこにはいた。一節間を思い出していた。涙が出そうになった。
 ところが、最後に鵜飼はこうも付け加えた。
「で、名人戦に出たあたりで50歳……まあ、さすがにそこは区切りもいいころかも……」
――いや、そのころにお会いしたら「55歳ぐらいが区切りがいい」って鵜飼さんは言っていると思います!
 慌ててこう切り返した僕に、「ははは、そうですね。きっとね」と、もう見慣れた笑顔を見せながら、鵜飼は閉会式が行なわれるスタンドへ向かった。
 その姿を見ながら、来年の女子王座を飛び越え、2年後の名人戦で鵜飼菜穂子が走っていることを確信していた。(松本伸也)
(PHOTO/山田愼二=上の2点 松本=最後の1点)

DSC00234←「若い選手が自分を乗り越えていかないのは寂しくないかって? 何を言ってるんですか、レース場にいる以上はみんなライバル。乗り越えられるなんて冗談じゃありません!」。鵜飼さん、失礼しました!


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!⑤

「いちばん悪いところに入っちゃいましたねえ」
 準優勝戦を前にした午後のピット。ボートの傍らでプロテクターを装着していた鵜飼菜穂子が、こちらの姿を発見するなりこう言った。
 今日の準優、鵜飼は12R5号艇で出走する。同じレースに出走するのは、1号艇の日高逸子、2号艇・淺田千亜希、3号艇・定野久恵、4号艇・山川美由紀、6号艇・寺田千恵。数年前の女子リーグの優勝戦のようなこのメンバー。鵜飼にとって勝手知ったる相手ではあったが、もちろん相手にとっても鵜飼の手の内は解っているし、なにより1号艇の女王・日高がインを簡単に手放すはずがない。準優18人の組み合わせとしては、まさに「いちばん悪いところ」であった。
2006_0304_12r_002  こんな枠順になるのを読んでいたかのように、枠順未決定時に聞いた「準優でのイン取り作戦」に対して、「相手がいるし、前付けは厳しいかも……」と厳しい表情を浮かべていた鵜飼。不幸にも読み通りになってしまったが、ここでもう一度「コース取りはどうしましょうか?」と聞いてみた。
「うーん、そうですねえ。まあ、私ひとりでレースをするわけじゃないですからね……(インコース奪取は)厳しいかなあ。まあ、枠が外ですからね、当然動いてはみますけれどね」
 2日目の12R“歴代女王決定戦”では、1号艇山川、2号艇鵜飼という枠順で、すんなり2コースに入っている。その際にも「イン取りは難しいかな……」とハッキリ言っており、そのときと同じだとすれば、今日もインまでは動かない。こちらとのやりとりの最中も笑顔を絶やさず、ふと現れる「全盛期の鵜飼菜穂子」を感じさせない鵜飼を見て、そう思っていた。競艇とは進入だけが勝負なのではない。それは解っている。でも、どこか寂しい気持ちを持ちながら12Rを待った。
2006_0304_12r_063 ところがである。これまで毎日毎日ではあったが、またも小僧っ子の思い込みは裏切られる。12Rのスタート展示、黄色いカポックは敢然と前付けに動き、いち早くスリットへ舳先を向けた。鵜飼のインコース、2コース日高の隊形だった。この展示ならば本番で鵜飼は確実に動く。そして日高が2コースを簡単によしとするとは思えない。昨日の予想通り、死闘が始まった。寂しい気持ちなど吹っ飛んでいた。僕は興奮していた。
 レース直前、遠くのほうにスタート展示のスリット写真をジッと見つめる鵜飼の姿からは、あの「全盛期の鵜飼菜穂子」の気合いが立ち上っていた。これはインを取る、と確信した。
 12R発走。真っ先にピットを飛び出したのは4号艇の山川だったが、小回りブイを回って鵜飼が一気に前付けに動いた。ともに深い進入になったが、展示同様に鵜飼がインコース、日高が2コースとなっていた。そして鵜飼は.06のタイミングでスリットを通過し、1マークを先マイする。
 勝った。
 一瞬そう思ったが、残念ながらレースはここで終わる。鵜飼のボートがやや流れたところを見計らって、淺田千亜希や寺田千恵、そして2コースを選んだ日高の差しが決まっていた。鵜飼は4着のゴールだった。
 正直に書こう。スタート展示、本番でのイン取り。そしてスタートを決めての1マーク先制。気合い溢れるレースだった。これで充分……などとは僕が言っていいはずがない。でも、胸が熱くなっていた。興奮を通り越して、グッと来てしまっていた。
「レバーを落として回ったはずなんだけど、流れちゃったね。残念だなあ」とレース直後の鵜飼は笑いながら言った。「気合いを見せてもらいました」とだけしか言葉が出なかったが、それに見せた満面の笑顔。素晴らしい笑顔であった。
 優出は逃した。しかし「鵜飼を追いかけ続けてよかった」と、レースが終わり静かな浜名湖競艇場のピットで僕は思っていた。(松本伸也)
(PHOTO/中尾茂幸=鵜飼、レース 松本=展示ピット)

DSC00222 ←12Rの展示ピットにて。もう何年も戦っている4号艇山川美由紀、6号艇寺田千恵


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!④

2006_0303_4_105  とにかく、明るい一日だった。
 今日は予選最終日。鵜飼菜穂子は2走で6点なら得点率6・00に達する位置につけていたが、準優ボーダーは平均的な6・00より高くなる公算が大きかった。
 取れるものなら6点と言わずに、7点でも8点でも取っておきたい。正直に書いてしまえば、若手と比べるとターンスピードは見劣ってしまうし、コース取りが激しくなって深インになったりしたときには「いつ大敗を喫してもおかしくない」と、この3日間ずっと思っていた。それだけに、たとえ6点に落ち着くとしても決して気を抜けるような条件じゃない。そう考えると、なぜか僕のほうが朝から緊張してしまっていた。
 ところが、こんな小僧っ子の緊張は女子レーサーのパイオニア、大ベテラン鵜飼には誠に失礼千万であった。勝負が懸かる1走目、3Rに4号艇で出走した鵜飼は、当然のようにインコースを奪取。4カドから.15のスタートを決め、スリットから伸びた大山博美には先制されたが、抜群の回り足からターンマークを小回りして2番手をキープ。そのまま危なげなく2着でゴールした。8点獲得。この時点で決定ではなかったものの、一発でほぼ準優当確まで辿り着いたのであった。
 いや、おみそれいたしました……こう思いつつ、東海地区の後輩が鵜飼のボートを片付けているのを眺めていたら、当の鵜飼がすーっと控室のほうへ向かっていくのが見えた。後ろをついていくと、レース後にカポックを脱ぐ場所でこちらと目があった。その瞬間から、見事なまでに鵜飼のワンマンショーだった。
「お疲れ様です。いやあ、(1マークを)クルッと回れてよかったですよ。(「準優おめでとうございます! で大丈夫ですよね?」)いや、あまりおめでたくないですよ。2着だと点数足りないかもしれないんですよ。平気そう? でも私ねえ、フタを開けたら19位ってよくあるのよねえ、あはははははは。まあ、上も落ちてくるだろうし平気なのかな。乗れればいいですけどねえ」
 こちらが相槌を打つ程度でいるところを、こう一気に話して控室に消えていった。その直後、整備場前にいると、着替え終わった鵜飼がニコニコとやってきた。
「いま得点表を見てもらったら、たぶん大丈夫だって。(胸に手を当てて)ホ~ッ、よかったよかった。あはははは。次のレースは明日の枠に関わるから、なんとかいい結果を出したいですよね」
DSC00171  圧倒されつつ、最後に「頑張ってください!」と伝えると、「はい、頑張ります!」と整備室のモニター前に陣取った鵜飼。隣にきた倉田郁美に笑顔で話しかけている様子や、こちらへの話しぶりなど、そこらへんの井戸端にいるお母さんそのものであった。モニターを見つめる様子を改めて見ながら、昨日感じた「全盛期の鵜飼菜穂子」の表情と、いまの明るい表情とのギャップというか、スイッチのオン・オフが、“女子選手のパイオニア”でありながら“お母さん”足り得るのだと思った。
 とにかく、明るい一日だった。
 後半の10R、もちろんインコースに入ったが、ここは5着に敗退。最後に得点を落としたおかげで、準優は外枠濃厚――。レース後に「最後は残念でしたね」と声をかけると、「うーん、でもやっぱり回り足はいいから、明日頑張りますよ」とここでも笑顔だった。しかし、「外枠のほうが、存分に前付けへ動きやすいのではないですか?」との最後の問いには、笑顔はなかった。今日唯一の「全盛期の鵜飼菜穂子」が顔を出していた。
「うーん…………(少し沈黙)。まあ、相手がいることだから、厳しいかもしれないけども、ひとつでも内がいいですね」
2006_0303_10R_013  このときまだ、枠順は決まっていなかった。相手がたいていの若手ならば外から一気に前付けへ動けるだろう。しかし、明日の準優、鵜飼が組まれたのは12R5号艇。その1号艇は日高逸子だった。ベテランの勘がこの相手を予想したのかもしれない。絶対にインを譲るはずがない相手を前に、鵜飼菜穂子が優出へ勝負をかける。明日はスタート展示から死闘が始まる。その果てに、明日も明るい一日があることを僕は願っている。(松本伸也)
(PHOTO/中尾茂幸=鵜飼、レース 松本=倉田との写真)


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!③

 今節、初日から4日目までの12Rには、“企画レース”が設定されている。初日はおなじみドリーム戦で、2日目は昨年の女子王座優勝戦と同じ選手・枠番によるリベンジ戦だった。そして今日は歴代の優勝者による女王決定戦が行なわれる(4日目は昨年のリーグ戦優勝者限定の“リーグチャンプ決定戦”)。
 平成2年から平成4年まで、無敵の3連覇を成し遂げている鵜飼菜穂子は当然このレースに選ばれており、今日はこのレース1回乗り。モーターの仕上がりは出足を中心に上々の模様だけに、昨日同様、12Rまで慌てず騒がずという雰囲気で、ベテランの余裕を漂わせていた。
2006_0302_1012r_003  3R終了後にピットへ向かうと、すでにモーターとプロペラが装着された状態で鵜飼のボートが置かれている。各レースの発走直前になると、控室からモーター整備場に姿を見せて、後輩たちとモニターでレースを追い、ボートを引き上げる。そして再び控室へ。このローテーションで、整備も試運転もまったくしない。完璧に「レースを待つのみ」という態勢であった。

 動きがあったのは8R終了後のこと。いったん控室に引き返した鵜飼だったが、すぐにカポックとヘルメットを手にピットへ戻ってきた。それをササッと装着、水面に出ると、数周の試運転の後にピットへ繋留する。昨日や今日の午前中とは違い、力の入った表情でアクセルレバーを握り、念入りにモーターの調整を行なう。その様子は、失礼ながら「本当に46歳?」と思ってしまうほど、まったく年齢を感じさえないものであった。
DSC00148  そんな雰囲気のまま、ピットから控室に向かいかける鵜飼に声を掛ける。こちらに気が付くと、「そういえばniftyの競艇取材なんでしたよね。私もniftyのID、持ってますよ(笑)」と余裕の表情に戻って言った。「昨日から余裕を感じますね」と続けると「まあ、久しぶりにいいエンジンですし、幸先もよかったですからね」と笑顔を見せる。足を止めてのやりとりだったので、このまま話しを聞くこともできたが、なにせ今日は1回しかないレース前。続きは12R終了後ということで、再び控室に向かう鵜飼に、慌ててひとつだけ聞いてみた。
――鵜飼さん、今日もインですかね?
「いや、今日は難しいかな……」
                      ★
 12R。2号艇の鵜飼に対して、1号艇は山川美由紀。それこそお互い20年近く戦ってきた勝手知ったる相手だけに、山川もそう簡単にインを譲るはずもなく、また鵜飼も取るつもりがないようだった。スタート展示、本番とも、何事もなくイン山川、2コース鵜飼で折り合いが付いた。そしてレースは.04の超スタートから谷川里江が一気のまくりを決め、差した鵜飼は山川との2番手争いに持ち込んだが、2マークで山川、展開を突いた海野ゆかりに交わされて4番手。さらに後ろから迫るのは岩崎芳美。若手とのターンスピードの差は残念ながら歴然とあるだけに、息を飲む4番手争いとなったが、最後の最後に鵜飼は凌ぎ切っていた。4着。明日2回乗りの予選最終日に向け、大きな4点獲得だった。レースを終えた鵜飼は記者に対して「今日はさすがにインは取れなかった。明日は取れそうだし、頑張りますよ」とコメントし、最後に「でも気が弱いからねえ」と付け加えて爆笑を誘いつつ、自分も豪快に笑った。素晴らしい笑顔であった。
DSC00155 レース後。先の話しの続きは、昨日書いた「キャリアや年齢のこと」だった。こんな話、どうやって切り出そうかと考えていると、1日の仕事が終わって宿舎へ戻る選手が集合しつつあった。その状況で鵜飼も焦りつつこちらを発見する。時間はなかった。直球である。
――僕が3歳の頃から鵜飼さんは選手をされているんですが、この25年というのは……
 ここまで聞くと「あら、見た目よりも若いのね」というように、エッ!という声を挙げつつ、一気にこう言った。
「まあ、キャリアも25年だし、年齢も年齢ですけどね(笑)。でも、女子選手のパイオニアは自分だと私は思っていますし、それに対してプライドがあります。そして、どの選手もそれを認めてくれています。選手をしている以上、私はそのプライドに負けないように、全力でレースに臨みます。当然ですよね。娘みたいな年齢の選手もいっぱい出てきたし、みんなもお母さんのように思ってくれていますが、やる以上はね」
 自分がパイオニアであると自覚し、それを他の選手も認めてくれるからこそ、常に全力で戦いに挑む。そんなレースを続けている、とんでもなくすごい“お母さん”の表情は、初日にも感じた「全盛期の鵜飼菜穂子」そのものであった。
 最後に笑みを浮かべつつ、「今日は2コースだったけど、明日はインが取れそうなメンバーですからね。全力で行きますよ」と言って、娘のような選手たちの輪に鵜飼は向かった。「勝負ですね!」とこちらが掛けた言葉に「そう、勝負」ともう一度笑顔で振り返った。

 明日は3R4号艇、10R3号艇。いざ準優へ、女子選手のパイオニアであり、お母さんの勝負である。(PHOTO/中尾茂幸=レース 松本=ピット TEXT/松本)

DSC00157 ←12R終了後。“お母さん”のモーターを運んでいるのは、まさに娘のような年齢の細川裕子


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!②

 本日の鵜飼菜穂子、幸先のいい滑り出し、そしてベテランの貫禄か、とにかく“余裕”のようであった。
 出走は5R5号艇の1回乗り。前日のインタビューで「今節は全部イン逃げをするつもりで!」と宣言したとおり、1号艇が自分に次ぐベテラン・佐藤幸子(3140)でも迷いなく前付けし、インコースを奪取した。
2006_0228__006  100mポール辺り、やや深インからのスタートは.23のタイミング。4カドから.10と飛び抜けて早いスタートを切った淺田千亜希にはまくりを許したものの、鵜飼の艇もスリットから強烈な行き足を発揮し、3番手以下を押さえて1マークをターンしていく。最内を差した宮本紀美が追いすがったが、ガリガリ締めていったうえで2マークを先取りして勝負が付いた。3戦オール連対となる2着のゴールだった。
 揺るぎないイン取りに、激しい攻めのレース。全盛期の鵜飼菜穂子を想像させる強いレースぶりを見せたうえで、モーターも快調とあっては、やはり修羅場をくぐっている最ベテランの貫禄なのだろうか。慌てず騒がず、レース後にモーターを早々に格納したうえで、さーっとピットから気配が消えていた。
 愛知の後輩である細川裕子の水神祭で輪の中心におり、その直後に細川のプロペラを見るべく一緒にプロペラ調整室へ入っていくなど、ほとんどその姿を現さない。レース後のボート引き上げ時にはいつもいるはずなのだが、いつも煙のようにいなくなってしまっている。一度だけ気配を感じたときもあったが、そのときも細川と話しつつ選手控室に消えてしまった。その表情は好成績ももちろんあるとしても、やはりベテランの余裕と見受けられた。

DSC00117 ←11R、垣内清美のボートの片付けにて。このあと、細川と笑顔で話しつつ控室へ

 それにしても最ベテランの鵜飼が、今日いつも一緒にいるようだった細川裕子は、対照的に最若手(4123)。年齢も24歳と最年少であり、冗談ではなく“お母さんと娘”でもおかしくない年の差である。
 鵜飼を特注とするならば、やはり聞かねばならないのはこんな「キャリアと年齢」のこと。今日は結局話を聞くことすらできなかった分、明日は思い切って(思い切ってですよ、やっぱり)そのことを聞いてみたいと思う。明日は12Rの1回乗り。時間はあるが、その分ずっと余裕かもしれないので、なによりも気配からチェックしなければ。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO=開会式 松本=ピット TEXT/松本)


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逃げろ! 鵜飼菜穂子!!①

 登録番号2983。この女子王座で唯一の登番2000番台がこの人である。鵜飼菜穂子、御年46歳の大ベテランだ。
2006_0227__237  女子競艇界の大功労者である。平成2年~4年の女子王座決定戦を3連覇するなど、得意のイン戦を駆使して女子戦では敵なしの強さを誇り、男子相手のSGレースにも21回出場(準優進出2回)。参戦し始めた平成2年当初は、いまのようにSGに女子選手が出ることなどあまりなく、ほとんどが鵜飼ひとりという時代。それはそれは厳しい戦いだったそうである。「現在のSGならば、女子選手も普通に枠番を主張したり、レースにもなる。しかし、鵜飼がひとりSGに来ていた時代にはそんなこと考えられなかった。いまSGで走れる女子選手は、先駆者である鵜飼に感謝しないといけないですよ」と、MB記念で海野ゆかりを特注として追いかけたとき、評論家の長嶺豊さんがそう言っていたくらいであった。
 選手としてのキャリアは25年。僕が3歳の時に走り始めた鵜飼だったが、僕が競艇を覚え始めた平成11年頃は、男子のSGレーサーはもちろん、台頭してきていた女子の若手選手にはやや分が悪くなってきていた。そしてそれに輪を掛けて、キャリア16年で女子リーグを卒業する規約もできてしまった。
 女子リーグ卒業で、男子との混合戦中心(オール女子戦には出場できる)になってしまえば、成績も徐々に……いや、一気に低迷していくのかと思われたが、ここで鵜飼は踏みとどまる。A1級からはさすがに陥落したものの、勝率5.5前後はたいていキープしている。今期こそ勝率4.64と低迷したが、以前4点台に落ちた際は、次期5.71でA2級に返り咲きを果たしたほどなので、今後だって侮れない。5点台でこの女子王座に選出されている選手が多いことを物差しにすれば、鵜飼菜穂子、女子戦ではまだまだ一筋縄ではいかない相手なのである。
 その鵜飼が1年に1度の大舞台である女子王座にやってくる。自分の子供でもおかしくない年齢の登番4000番台が6人もいる舞台で、いったいどんなレースを見せてくれるのか。引き当てたモーター37号機も上位級機であるだけに、一暴れしてくれるのではないか? そんな期待をしつつ迎えた初日。
 1R1号艇。鵜飼は得意のイン戦で押し切り、見事オープニングカードを勝利する。その勝利者インタビューでは「今節は全部イン逃げを決めるつもりで頑張ります」と力強く宣言し、その通りに後半の7Rは6号艇から果敢に前付けを敢行。「作戦はイン逃げ」と言っていた1号艇の松瀬弘美が抵抗する間もなくインを取り切った。結果こそ2着だったが、全盛期の鵜飼を彷彿とさせるレースぶりだった。
2006_0227_6r_7r112 2回のレース後、モーターには不安がないのか早々に格納し、あまり姿を見せていなかった鵜飼へ、宿舎への帰り際に声を掛ける。今節追いかけますので、お話を聞かせてください――
 実はこのとき「えっ、私?」という反応もあるかと少しだけ思っていたのだが、それはまったく失礼な思い込みであった。快く引き受けてくれた姿から感じたのは、好スタートを切って「やってやるぞ!」という意気込みだけだった。ひょっとしたら、そこには全盛期の鵜飼がいたのかもしれなかった。

 明日は5Rの5号艇。淺田千亜希に田口節子など、イキのいい若手が立ちはだかる中、まずはインコースを狙って鵜飼、動く。(松本伸也)
(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO) 


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はばたけ!金田諭⑥

SANY0805 「いやぁ……落ちますよ、気持ちが。もう、日々、だんだんと落ちていった感じです。……立ち直るのに、時間かかるかもしれないなあ」
 最後のレースを終えて、モーターの返納を終えた金田諭は、僕の顔を見るなり、そう言った。2Rは5着。節間の成績は、5・5・3・6・6・4・6・5着。3連勝式に絡んだのは一度だけで、まさに「這った」と言うべき8走だった。
「最後の新鋭王座だから、このままじゃいけないって思ってきたんですけど、はぁ……」
 溜め息が出た。すべてのレースを終えた安堵もあるからか、決して暗い表情ではないのだが、しかし口から出るのはツラい言葉ばかり。僕が毎日、話を聞きにきたのが妙なプレッシャーになってました? 思わず、意味のない質問をしてしまった。いえいえいえ、それはないですよ。金田は否定したが、もしそうだったとしても、「はい」なんて言うわけがない。「はぁ、最後の新鋭王座だったから……」、金田はその言葉を繰り返した。
 金田は、おそらく本気で新鋭王座を獲りに来ていた。引いてしまったモーターが苦しく、優勝戦線からは3日目の段階で脱落してしまっていたが、それでも来年からは二度と走ることのない新鋭王座の舞台で、結果を残そうと苦心してきた。ラストランとなった2R、金田はピストン2本とピストンリング3本を交換して、レースに登場していた。最後の最後まで、全力で勝利を奪い取ろうとしていたのだ。こんな成績で終わらせたくない。晴れやかに最後を迎えたい。金田諭の戦いを、新鋭王座の歴史に刻み付けたい。そんな思いで、彼は決して投げ出すことなく、今日を迎えていたのである。
 だとするなら、やはり直接ぶつけるしかないだろう。“あの日”「新鋭王座は無理」と言ったこと、それが引っかかっていたこと、今回は2年間で大きくなった金田諭に注目していたのだということ。
「あぁ……、あの頃は、記念に出られればいい、って時期でしたからね。あれから変わった? うん、こうして頑張っていれば、獲れるかもしれないって思えるようになりました。大きくなった? そうかもしれませんね……少しは、ですけど(笑)」
SANY1003  やはり金田は、ハッキリとした成長と、それを自覚できるだけの手応えを掴んでいたのだ。そこで僕は、もうひとつ突っ込んだ。金田は3期前に、勝率4・49という信じがたい凋落を経験している。7期続けたA級からの陥落。どう考えても、頓挫としか思えなかった。
「あれは、事故点がいっぱいになっちゃって。それでレースができなくなっちゃった。フライングが怖くなっちゃったり。先輩にも相当怒られました。だから、調子を落としたとか、そういうことじゃなくて、仕方ないって思えることではあったんですよね」
 それでも、その経験がひとつのきっかけになった。屈辱を受け入れたことで、金田は強くなるための足がかりを手に入れたのだ。事実、その直後の期では6・52にまで勝率を戻し、あっさりとA1に復帰している。苦しい戦い、消化不良の日々を乗り越えたことが、金田の心に化学変化を起こさせ、逞しい男へと脱皮させたのである。
 新鋭王座への勝算をハナから持てなかった2年前。それからひとつのつまずきを経験し、そして再びA1級に戻ってきて、今節、ハッキリと王座獲りを意識できるだけの金田諭になった。そんな彼を、一節間通して見ることができたのは、幸せだった。
「まあ、これを糧にして、さらに頑張りますよ」
 金田は、そう言って顔をほころばせた。今節の成績は落胆するものだったかもしれないが、立ち直るにも時間がかかるかもしれないが、決して彼は折れてはいない。へこたれてはいない。そして、さらなる成長を自身も確信している。今日、1月29日の溜め息は、間違いなく彼が“記念級”へとのし上がってきた証なのだ。
 金田さん、次はSGで会いましょう! 僕は、最後にあることを確認したくて、そう言った。もちろん、それが実現することを本気で期待している。だが、金田がそれにどう応えるのか、知りたかった。
“あの日”、「新鋭王座をイワしてください!」に、金田は「無理」と応えたのだ。そのときから何も変わっていなければ、「SGで会いましょう!」にもネガティブな言葉を返すのかもしれない。僕はすっかり“あの日”に意識を戻して、金田に「SG」という言葉をぶつけたのだ。
 金田の顔が、力強く光った。ニッコリと笑った。
「はい! そうですね! 頑張ります!」
 6日間追いかけて、金田がもう「無理」なんて言うことはない、それはわかっていた。そうだ、予想通りの答えだ。しかし、僕の心は自分でも想像していなかったほどに、弾んだ。「はい!」の瞬間に発せられた強烈なオーラ。その眩しさに、ただただ圧倒されるばかりだった。
 金田諭よ、次に会うのは、SGの舞台だ。そのとき、もう一度言わせてもらおう。
「金田さん、SGイワしてくださいよ!」
 僕は信じている。今日の笑顔がもう一度みられることを。もう「無理」なんて言うことのない金田諭に会えることを。(黒須田守)


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はばたけ!金田諭④

SANY0712 「カーァァァァァッ! もぉうっ! カーァァァァァッ!」
 金田諭が、僕の顔を見た途端、雄叫びをあげた。ヘルメットを脱ぎながら、もう一度、「カーッッッッ!」と叫ぶ。
 翻訳すれば、「悔しいぃぃぃぃぃっ!」か。それとも、「チクショーッッッッッッ!」だろうか。レースから引き上げてきて、ここまで悔しさを爆発させた金田を初めて見た。

 今日は7R1回乗り。そして、1号艇である。「1本でも(1着を)取らないといけませんよね」と言った、その絶好のチャンスが今日、巡ってきた。金田が、自分の言葉をどこまで意識していたかはわからないが、とにかく有言実行を果たす格好の場となったことは間違いない。レーサーだったら、胸をたぎらせて当然の場面と言えた。
 ところが……トップスタートを切りながら、1マークで流れて、中村有裕の差しを許してしまう。それどころか、内にズバズバと入られて、最後は昨日に続くシンガリ負け。結果を出すべきところで出せなかった……自分を責めなければいられない、そんな結末であった。
「カーッッッ!」。もう一度言って、金田は身をよじらせる。並んで歩いていた僕に、体が触れる。そうして吐き出さなければ、とても心の安定は取り戻せない。そんな風情で、金田は己への不満を表現し続けた。表情は暗くはなく、むしろ苦笑いといった顔つきではあるが、それが余計に悔しさを際立たせている。悔しいっすね、言わずもがなのことを思わず口にした僕に、金田はクイッと首を縦に振った。

SANY0716  やるだけやったのだから、悔いはない。この常套句は、もちろん真実である。しかし、「悔い」と「悔しい」は違う。名詞と動詞の違いではない。「悔しい」を「悔しさ」としても、同じことだ。悔いとは、後から思い悩むこと。そして悔しい、悔しさは、結果が出た瞬間の、その結果に対する思いである。そして、悔いと悔しさは両立しない。悔いのないときにこそ、悔しいという思いが生まれるのだ。やるだけやった、だからこそ悔しい、のである。
 金田も、この7Rにやれるだけのことはすべて注ぎ込んだ。
「スタートもメイチ行ったんですけどねえ!」
 コンマ03。黄色いベスト確定のスタート。金田は、インからトップスタートで飛び出し、外の艇を完封して、勝利を奪おうとしたのだ。そして、スリットを超えた瞬間、それを現実のものとしかけたのである。金田は本気で、「1本でも取らないと」を実行した。ただ、そこから先が思うがままにいかなかっただけだ。
 失敗の要因は、いろいろとあるのだろう。そして、その失敗については、彼なりに検証もしているはずである。だが、僕は金田の“本気”を肯定したい。悔しさを全開にした金田を、称えたい。結果などどうでもいい……などと言ったら、金田に対して失礼にあたるが、そもそも結果はいつだって僕らの思いのままにはなるとは限らず、むしろ手をすり抜けていくことのほうが圧倒的に多いのだ。だからこそ、そこまでの課程、そして込められた思いを大事にしたい。GⅠの場で、自分の不足を徹底的に嘆くことができる金田であらば、なおさらである。“あの日”の金田だったら、ここまで自分を責めなかっただろうと思えば、やはり今日の金田は美しかったのだ。
 あと2日、リベンジを! そう言った僕に、金田は、心の奥底に溜まっているパワーをすべて込めたのではないかと思えるほど力強く、「ハイッ!」と応えた。今節、金田を追いかけようと決めた僕の引っかかりに対しては、もう答えは出ていると思う。あとは、望むべき結果への笑顔。これを見たい。最後の新鋭王座、まだまだ戦いは終わらない。(黒須田守) 


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はばたけ!金田諭③

 首を傾げた。何度も、傾げた。黄色いカポックを着たまま、ヘルメットも脱がぬまま、金田諭は何度も何度も、首を傾げた。
 8R、スタートで遅れを取った。それでもカドから外をまくったが、届かず3番手。道中、順位はさらに下がり、ゴールではシンガリ。肩が落ちて当然の結末……。ヘルメットの隙間から、溜め息が漏れたような気がした。

SANY0523  今日のファーストバトルは2R。3着と、ようやく複勝圏内に入る着順で、やや明るい兆しが見えた戦いだった。
 レースを終えて、ピットに引き上げてきた金田は、やや興奮ぎみに、言葉を並べた。思いが溢れて止まらない、そんなふうでもあった。
「良くなってますよ……(よく聞き取れず)……かかりもいいし……(やはり聞き取れず)……このあとペラやって、後半に……」
 ここまで言うと、足早に控室の中に消えていく。明るくはあった。昨日までの金田と、それほど変わった様子も見受けられなかった。ただ、言葉の端々からは、どこか悔しい思いを抱いているようにも思えた。
 着替えを終えて、ボートに向かう金田は、僕の姿を認めると、改めて言った。
「足は来てます。かかりもいいですしね。やっと、いい足になりました」
 ハキハキと語りながら、プロペラを外す。「これからプロペラをやって、8Rに臨みます」。そういえば、あまりペラ室で見かけなかった気がするのですが。僕がそう返すと、金田はひとつ頷いてから口を開いた。「ここまでは、モーター(が問題)だと思ってましたからね。ようやく、ペラに集中できる足になりましたから。この後は、ペラに専念しますよ」。
 悔しさも一段落して、レースで得た手応えへの期待感が大きくなってきたようだった。これで戦える! 少しばかり高揚しているようにも思える、弾むような口調だった。
 ただ、実際はもはや、後のない状況になった。3走10点。予選5回乗りの金田は、あと20点を獲得しなければ、ボーダーと想定される6・00には届かない。20点……2連勝がノルマなのだ。あまりプレッシャーをかけたくない。そう思いながらも、そこを避けて通るわけにはいかない。
 しかし、金田はさらに声を弾ませた。
「うん、そうですね。でも、この足なら、楽しみはありますから」
 逆境にありながら、少しも心は折れていない。果たして、8Rは……。
 そして、冒頭に戻る。

SANY0531  着替えをすませてから、僕のもとにやって来た金田は、いきなり「厳しいっす」と言った。声に、結果への苛立ちがクッキリと浮かんでいた。
 それから、金田は自らの走りへの不満を、ひとしきり語った。コンマ28のスタートについても、悔しさを露わにした。暗くはない。ハキハキとした口調。苦笑い八分ながらも、消えることのない笑み。それでも、明らかにやるせなさが彼の心を支配していた。その思いを留めることなどできない、とばかりに、ふぅ、と息を吐き、「でも、まだ3日ありますから」と、自分に言い聞かせるようにピシャリと締めた。
 このままじゃ、終われないですよね。僕はそう追撃する。金田は、きっと僕の顔を見据えて、笑顔を絶やさぬまま、「はい!」と頷いた。これもまた、自分への叱咤のように思えた。

 4走11点。事実上、新鋭王座への道は、今日で断たれた。あまりにも早い終戦。最後の新鋭王座を、ここで終えねばならぬという辛酸。なんだか、僕も金田とともに、ひとつの戦いを終わらせてしまったような気分になってしまった。
 そこで、再び“あの日”のことを、ふと考えてしまった。2年前、「新鋭王座は無理」と言った金田。その言葉が引っかかりとなって、2年経って大きくなったはずの金田を、僕は追いかけた。結果として、金田は一度も好ましい結果を出すことができないまま、彼は新鋭王座を終えてしまう……。“あの日”の“あの言葉”は、ただの……あえて言おう、“ただの真実”としての意味しか持たなかったというのか……。“ただの真実”ほど、つまらないものはない。
 10R終了後に、宿舎へ帰るバスの第一便が発車する。金田は、これに乗って、競艇場を後にする心積もりらしかった。10R、中野次郎のボート引き上げに出てきた金田を、僕は思わず、強引に呼び止めてしまった。どうしても、「厳しいっす」で今日を終わらせるわけにはいかなかった。
 たしかに、予選突破は厳しくなりました。でも、明日からの3日間、金田さんは何を我々に見せるのでしょうか。
 金田は、快く足を止めて、僕のその質問を笑顔のまま聞いた。返答に時間はかからなかった。
「とにかく、1本でも(1着を)取らないといけませんよね」
 それは、自分の存在をアピールしたいということですか、と続けると、金田は即座に「そうですね」と答えた。僕は、さらに突っ込む。
SANY0535  今回の新鋭王座でアピールしたい、というだけの意味ですか? あるいは、今後のGⅠ、そしてSGに向けて、という意味ですか? 
“あの日”の“あの言葉”が、“ただの真実”に過ぎないのだとしたら、少なくとも後者の質問は何の意味ももたない。“あの日”の地点に今もいるということになってしまうからだ。もちろん、僕はそれを否定したかった。金田からは、その後者の質問に対して、肯定の言葉をもらいたかった。
「もちろん、GⅠやSGに向けて、というのはありますよね」と、まずはこちらの期待に応えた金田。ところが……次の瞬間、彼は突如として声のトーンを落としたのだった。笑顔が消えたのは、僕と話している間に関しては、これが初めてだった。どうやら、この質問が金田の心の奥の何かに触れたようだった。
「本当は、今年の笹川賞を目標にしていたんですけど……」
 笹川賞は、彼の地元・戸田競艇場で行なわれる。ファン投票で出場選手が選ばれるこのレースは、金田にとってもっとも近いSGかもしれなかった。ところが、今期の金田は、ファン投票の名簿に名前を連ねることができなかった。A2級に陥落したからである。金田の中にある大きな悔恨。それが、金田の顔から笑みを奪った。
 だが、僕の心は弾んでいた。金田には申し訳ないが、ひとつの真理をもらったと思えたからだ。“あの日”、「新鋭王座は無理」だと言った金田が、SGを射程圏に入れていたのだ。A2に落ちているとか、そんなことはどうでもいい。金田の心の中に、SGへの思いが現実感を伴って芽生えていた、そのことが重要なのだ。テンションが一瞬下がったことが、“現実感を伴って”いた証である。
 そう、やはり金田はでっかくでっかくなっていた。たくましくなっていた。間違いない、彼はさらに上のレベルで戦いうる資格を、手に入れたのだ。
 だからこそ、「1本でも取らないといけませんよね」の決意も、本物のはずである。優勝戦線うんぬんはもはや望むべくもないが、しかし明日からも決して目を離せないだけの闘志を、金田は持っている。そんな金田の熱い戦いを、さらに追い続けなければ、と思った。(黒須田守)


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はばたけ! 金田諭②

 人生はままならぬ。
 いや、それほどまで大げさに捉える必要はないのかもしれないが、昨日の意欲は空回りしてしまった。2R、金田諭は5着に敗れた。2日目を終わって、得点率は2・00。予選順位は51位で、同県・石塚久也と仲良く下位を独占してしまっている。石塚は減点があるから、実質最下位。明日は一日早い勝負駆けとなり、早くも崖っぷちに立たされた金田である。
「自分が主役になりたい」
 昨日、たしかに金田はその決意を表明した。僕は、そんな彼に心沸き立つような期待感を覚えた。だが、成績的には、抱いた思いとは程遠い結果。やっぱり人生はままならぬ。そう言うしかない。

SANY0434 ピットに帰ってきてボートを降りた金田は、ピンクのズボンの上から右大腿部あたりを押さえている。何度も何度も気にするようにさわり、数m歩いては、またさわる。ケガでもしたのだろうか……着順よりも、まずはそれが心配になった。
 ふとボートを見ると、ややサイドの部分がやや破損していた。密集状態となった1周1マークで、他艇との接触があったようで、ボート交換しなければならないほどの大破ではないものの、洗浄されたあとのボートは修理室へと収められた。どうやら、金田は不運にもつきまとわれているようだった。
 森定晃史の水神祭を撮影し、揚降機のあたりにたたずんでいると、控室のほうからこちらに歩いてくる金田の姿があった。やや早足で僕のほうに近づいてきて、10mくらい離れたあたりに達すると、僕と目が合った瞬間に苦笑いを見せた。どうやら、レース終了後すぐに話をしようと、わざわざ僕を探してくれたようだった。
「ちょっと打っただけですから、大丈夫ですよ」
 右脚部については、特に問題はないようだ。たしかに、足を引きずっているような様子はない(その後のピットでも、すたすたと普通に歩いていた)。とりあえずは、安心する。それよりも、問題は5、5着となってしまった成績のほうだ、とばかりに、金田は口を開いた。再び苦笑いが浮かぶ。
「足は、だいぶよくなったんですけどねえ……。スタートも勘通り行けているし、スリットから置いていかれるようなこともない。進入がちょっと深くなった?(5、6号艇が前付けに出て、ややもつれた進入)いや、それは気にならなかったし、想定内です。それだけにねえ……」
 展開が向かなかった。おそらく、ミスをして負けたとか、機力が及ばなかったということより、悔しいはずの負け方。5、5着という成績もあいまって、表情に翳りがでるのも仕方のないところだろう。
 だが、金田は決して落ちてはいない。苦笑いも「まいりました……」というよりは、「いやあ、やっちゃいました」という感じの、少し悪戯っぽい雰囲気であった。冬の陽がさんさんと注いでいる水面に目をやった金田は、心に気合を注ぎ込むように小さくうなずいて、そしてにっこりと笑った。
「あとは、やる気だけでしょう。はい。もちろん諦めませんよ」
SANY0411  明日は3R、8Rの2回乗り。ここで好着順を取れば、グッと楽になる。足が上向いたのであれば、あとはメンタルの問題。ここまで巡ってきていないツキは、きっと心の底に溜める闘志が磁石のように働いて、引き寄せられるものだ。「諦めませんよ」、そう言った顔つきの明るさからは、ひたひたと蓄積され始めている心のパワーが感じられた。何より、暗くなっていないのは明らかな好材料だろう。
 やる気出して頑張りましょう。そう言った僕に、金田は力強く、「はいっ!」と応えた。さらに「あとはリズムを良くするだけですね」と投げかけると、もう一度「はいっ!」と言ったあと、さらに自分に言い聞かせるように頷いた。
 リズムに乗るための妙薬こそ、まさに諦めずに立ち向かう“やる気”であろう。金田の心のモーターは、明日、きっと唸りをあげる。
「今日はこのあと、本体をじっくり見てみます」
 さらに足を上向かせるべく、今日も忙しい時間を過ごすと宣言して、金田は控室へと戻っていった。実は、着替えもまだしていなかったのだ。やや恐縮しながら、僕は金田の後姿を見送った。その足取りは、決して揺らいでいなかった。明日の快進撃を信じたい。(黒須田守)


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はばたけ、金田諭!

kanedanakamura2  この新鋭王座で特注として取り上げる金田諭とは、ちょっとした縁がある。今から2年前のちょうど今くらいの時期、彼と話をする機会に恵まれたのだ。同県の後輩・中村尊(昨年の新鋭王座に出場)とともに現われた金田は、実に礼儀正しく、ハキハキと喋る青年で、僕ら(奇しくも取材班の3人で彼らと会った)はいっぺんで金田のファンになってしまったのだった。当時は成績も上昇中で、「最近は、ありがたいことに、初日12Rに組んでもらえるんですよね」と顔をほころばしていた。そんな彼を、僕らは頼もしく見つめたものだ。ダッシュからの強烈な伸びマクリは実に印象的で、近い将来のブレイクを確信もしていた。(写真は、そのときの金田=右&中村)
 ただ、そのときの会話のなかで、ちょっと気になる一言もあった。今くらいの時期、ということは、新鋭王座の直前(たしか2週間ほど前だったと記憶している)。関東地区選手権への斡旋も入って、GⅠ出場への歓びも語っていたのだが、「じゃあ、その前のGⅠ、新鋭王座をイワしてくださいよ」と僕らが言うと、金田はややくぐもった声で、そして即座に「新鋭王座は無理」と言ったのだった。
 たしかに、その新鋭王座は80期が最上級生で、先輩が5期分もいた。さらにSG・GⅠクラスも揃っていた。記念に呼ばれ始めた、という段階の金田にとっては、かなりレベルの高い相手ばかりに見えたとしても当然であろう。しかし、だとしても、戦う前から「無理」と言ってしまうのは、果たして……。ハナから諦めていたとも思わないし、だからこそのチャレンジャー精神も心に満ち満ちていたと信じているが、それにしても「無理」という言葉を口にした金田に、僕は声を失うしかなかった。そこまで自分を低く見積もる必要はないだろうに……。彼のレースを何度も見てきた僕らには、金田が「新鋭王座は無理」というレベルの選手だとは思えなかった。
 実際のところ、金田はその新鋭王座で予選突破も果たせず、1着1本2着2本のほかはゴンロクを並べた。結果的には、自身の予言通りの成績に終わってしまった……。僕らの見立てよりも、彼自身の自己分析のほうが圧倒的に正しかったというのか……。
 あれから2年。金田は最後の新鋭王座を迎えた。昨年は出場していないから、この舞台に帰ってきた、とも言える。金田はあれから、どう変わったのか。強気な言葉を口にできるほど逞しくなったのか。それとも、まだ自分を卑下してしまうのだろうか。再会を祝しつつ、しかしちょっと複雑な心境で、僕は金田に声をかけた。

SANY0248 金田は、すぐに僕のことを思い出したようだった。「あぁっ! はいはい。そのときはどうも」。ただでさえ優しい目が、さらに優しく笑った。あのときの好青年ぶりは、少しも変わっていなかった。ひとつ意外だったのは、実はけっこうな長身であることだった。身長172cm。僕が173cmだから、ほぼ同じである。あのときは、立って並ぶこともなかったからわからなかったが、ピットで話しかけてみると目線が同じ高さである。今節は53kgでの参戦。身長は変わらないのに、体重は僕の2分の1。僕の体をタテに真っ二つに裂いたら、金田諭が二人、出来上がり……アホなことを考えて、勝手に笑いそうになっていた。午前11時半。金田はこちらの取材依頼を快諾して、ひとまずレースの準備に向かった。
 今日は7Rの一回乗り。5着と敗れた金田は、レース後は整備室にこもっていた。本体を割って、ずいぶん長く整備室で時間を過ごしている。モーターを組み直して、整備室を出たのは、11Rの発走直前。洗面所で手を洗って、たまたま居合わせた同期の湯川浩司に「(ドリーム戦)頑張れよ」と声をかけた。
 僕の姿を見かけると、開口一番「いやあ、よくないですねえ」と言った。とにかく、回った後、押さない。回り足の優れたペラをつけても、まったく改善しない。直線の足も、伸びきればいいんだけど、という程度の足で、どうにも満足できるパワーではない。機歴を見ると、頻繁に部品交換を繰り返してきたモーター。そこで、思い切って新品のリングに換えて、大化けを狙ったそうだ。「明日、急いで試運転で乗ってみて、なんとか直したいですね」。今日のところは、やることはやった。そんな充実感からだろうか、表情は決して暗くなかった。
 モーターの調子の話が一段落して、僕は次の質問を少しだけためらっていた。あのとき「新鋭王座は無理」と言っていたこと、いきなりそこに切り込んでいくべきかどうか……。もし、今日の結果やモーターの調子が上々であれば、そのパンチを繰り出していたかもしれない。しかし、今後へのメドが立ち切っていない今日、最初からフィニッシュブローを出すのはふさわしくないのではないか……。
 結局、僕は妥協して、ジャブを放ってみることにした。今日のところは、様子を見てみよう……ところが、これがラッキーパンチになった。
SANY0330 質問は、「最後の新鋭王座ですね」。卒業期の選手たちには、きわめて当たり前の質問だった。
「そうですね。これまでの新鋭王座は楽しんで参加してましたけど、今回はそれだけではダメでしょうね。まあ、84期の先輩や、85期の同期は(新鋭王座卒業期)、みんなそう思ってるでしょうけど。そのなかでも自分が主役になりたい? はい。もちろん。そのためにも、明日は頑張らなきゃいけませんね」
 言うまでもない。「新鋭王座は無理」と言った金田諭は、2年経った今、もうどこにもいない。初めて会ったあの日から、金田は明らかに変わった。技術はもちろんだろうが、精神的にも大きくなっているのだ。
 2年前に会った後、金田は一時期、不調に陥っている。勝率が4・49にまで落ちた期もあるし、決して順調に成績を伸ばしてきたわけではないのである。そんななかでも、金田は少しずつ逞しくなったのだろう。そして最後の新鋭王座決定戦を迎えて、「自分が主役になりたい」と、衒いもなく言い切れるまでになった。間違いなく、金田諭は強くなった、のである。
 その原動力となったものは何か。そして、この新鋭王座でここまでの努力や精進が結実するか。明日からは、そのあたりをさらに突っ込まねばなるまい。大きな目を思い切り細めて控室に向かった金田の後姿に、僕はなんだか頼もしいものを感じずにはおれなかった。(黒須田守)


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決定戦は全員が特注!④~勝負師の12戦士~

 トライアル終了から一夜が明けた今日のピット。11Rの順位決定戦、そして12Rの優勝戦に向けて、賞金王決定戦組の11選手(今垣光太郎は別項)が思い思いに時間を使っていた。
20051223_2_052「明日にになれば驚くほど吹っ切ってピットに現れる」と昨日書いていた、順位決定戦に出走する5選手が、それぞれ目の前を通りかかった。やはりもう吹っ切れていることは一目で分かった。5選手とも初日、二日目と同じような表情で、こちらの質問に答えてくれた。この5選手への質問は「来年の賞金王へ向けてひとこと」である。恐ろしく気が早い質問だったが、今節最後のレースとなる順位決定戦を終えれば、目はもう来年へのリベンジに向く。そう考えての質問だった。

瓜生正義「そうですねえ……今度は自力で決めたいですね(笑)。まあ、来年もボチボチやりますよ。あ、これ(手を挙げてガッツポーズ)、できるように頑張りますよ」
山本浩次「別に……いまはないです(微笑)」
山崎智也「また戻ってきますよ(ニッコリ)」
上瀧和則「(無言で数メートル進んでから)別にないです。ひとつひとつやるだけです」
菊地孝平「来年こそ、リベンジ!」

 実は菊地孝平の場合は、今日のレース前は「その前に次こそ1等!」と言っていたが、終了後に、整備室前でこちらを見て「リベンジ!」と叫んでくれた。菊地を含めた5選手とも、今日は吹っ切れた様子とコメントを残して住之江を後にした。瓜生のマジメさ、山崎の笑顔。そして昨日、怒りが頂点に達していた上瀧も、今日は粛々と答えてくれていた。やはり、“勝負師”たちがそこにはいた。昨日の繰り返しになりますが、また来年、賞金王決定戦に出てきてください。お疲れ様でした。

 そして優勝戦の6選手。こちらは「明日は厳しい表情へ」と書いていたが、6選手ともこれまでと変わらぬ冷静な、リラックスした表情である。7、8Rの合間のことだったが、それに驚いているときに、前から江口晃生が変わらぬ穏やかな表情でやってきた。挨拶をして、顔を合わせると、「今日も何かあるのかな?」という目をしていた。そこでやや焦った僕が「今日の優勝は誰に捧げますか?」という質問をした。そしてこれが今日の全員への質問となった。

20051223_1_041 江口晃生「家族です」 
濱野谷憲吾「家族かな」
仲口博崇「家族」
笠原亮「家族ですよね」
太田和美「家族です、はい」
辻栄蔵「家族!」

 江口の「家族です」を聞いた瞬間に、これは「家族が並んでしまうな」と気が付いて、「他には?」と付けることにしたが、江口の「では女房。やっぱり同じです(ニッコリ)」と太田の「家族と地元のファン」以外は、考えた末に「でも家族」だった。それを受けて、最後の最後に苦し紛れに、全員へ「そのご家族へ捧げる言葉を、優勝された後に聞きに来ます」と付け加えて、優勝戦を待った。6人が6人、大事な家族を背負った優勝戦を。

 優勝したのは辻栄蔵だった。大一番を終えた安堵の空気が流れる中、敗れた選手たちには「お疲れ様でした」としか言えなかったが、仲口と太田が悔しそうに、濱野谷は変わらない淡々とした表情だった。こちらに気が付いた江口が微笑み、笠原が「うーん……」と言いながらもにこやかに通り過ぎていった。本当に、お疲れさまでした。

 優勝した辻栄蔵に最後の話を聞くべくピットで待っていたが、戻ってきてからも表彰式や共同会見が詰まっている。共同会見後に「ちょっと待ってて」と手で合図をされ、待っていると、すぐに辻が戻ってきた。
「なんかまだいろいろあるらしいので……」と言いながら辻は話し出した。
「昨日は勝ったとしても……でしたけど、実際に勝っても、まだまだ挑戦です。来年の賞金王に向けて挑戦です!」
 それだけ言って、辻栄蔵は次の用事へ向かった。来年またSGで、賞金王決定戦で辻に会いたいと強く思っていた。

20051223_12r_108  12人の“勝負師”がここにはいた。「全員が特注!」であることが間違っていなかった。それが賞金王決定戦。賞金王が終わった。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO TEXT/松本伸也)


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1着あるのみ!今垣光太郎!!⑥

2005_12_21_11r_017   植木通彦のリタイアという想定外の事態も起こり、シリーズ戦から決定戦へ編入された今垣光太郎だったが、当初の「優勝しか意味がない!」というテーマには実はあまり変化がなかった。決定戦のファイナリストには絶対になれないルールである以上、「優勝しか意味がない!」ではなくなった。しかし、失意の住之江の舞台で今垣らしさを出すには、こんどは「1着しか意味がない!」だと考え直したからである。
 昨日出走したトライアル。優勝戦線は圏外なので「6等でもよかった……」ということだったが、その結果は6コースから2着。大混戦の間隙を突く、まさに今垣らしいターンで2着に入り、「今垣ここにあり!」を見せていたが、やはり寂しかったのは6号艇から黙って6コースに入った進入だった。今垣らしいレースならばコースを取りに動かないと……もちろん、コース取りよりも重要なのは結果なので、進入で動いてくれればいいというものではないことは解っている。でも、優勝戦へのトライアルが終わった以上、順位決定戦では他の5選手とも対等な立場。そう考えて、進入からいつもの今垣らしいレースを見せてほしかった。
20051223_10r_126 そして迎えた11R・順位決定戦。今垣はコースを取りに動いてきた。スタート展示から内のコースを狙い、本番ではキッチリ2コースを取りきった。そして、インの上瀧和則を差して追走し、結果は2着。「1着」でこそなかったが、この進入だけで、充分に今垣らしさを見せてくれていた。
「ひとつひとつの積み重ねで賞金王に復帰する」。最初に声をかけたとき、今垣はこう言っていた。しっかり積み重なった、今節最後の“ひとつ”だった。
 そして最後の最後に、今垣は“勝ち師”らしいところを見せてくれた。11Rが終わり、続くは賞金王決定戦というとき、今垣は一足早く競艇場を後にしていた。優勝戦に自分が出ていない。その悔しさを来年に繋げるべく、今垣は住之江を去った。
 次節、三国の正月開催から、今垣光太郎の平成18年が始まる。賞金王の12人に復帰するために、今垣はまた「ひとつひとつ」、自分らしいレースを見せていってくれるはずである。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO、松本伸也<下の1点> TEXT/松本)

DSC00205 ←2日目、宿舎へ帰る直前の写真。この後、「(シリーズ戦)優勝できたら最高ですね。頑張りますよ」と言いながらバスへ向かった今垣でした


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決定戦は全員が特注!③~トライアル終了後に直撃~

20051222_1_070 「ダメでした……」
 11Rの賞金王トライアルが終わった直後、モーター整備室前をウロウロしていたときだった。3走目のトライアルで4着に敗れ、決定戦への進出が絶望的になった菊地孝平がモーター格納のためにこちらへやってくる。
 昨日までであれば、このシチュエーションで声をかけ、「あなたにとって賞金王決定戦とは?」などと聞いていた。そして、今日もそうするつもりでその場にいたのだった。しかし、目の前の菊地は昨日「ほしいもの」で語ってくれた1着を取ることもできず、決定戦も絶望的。明らかに意気消沈している姿に、「お疲れ様でした……」としか言葉が出なかった。そこで菊地は「ダメでした……」とひとこと。続けて「明日こそは1等、取りたいです」と残して整備室へ消えた。
 このやりとりの後、トライアルが終わって、勝ち残りの6人と順位決定戦に回る6人とで、昨日一昨日のような同じ質問には意味がないと思った。栄光の決定戦に向かう6人、そして順位決定戦に向かう6人。それぞれの思いの丈に意味がある。そう考えて、今日は質問を決めずに、トライアルをすべて終えた選手を追いかけた。そして、驚いたことに決定戦進出組は、昨日までの質問と答えを受けて、自ら口を開いてくれた。

 まずは、順位決定戦に向かうことになった菊地のほか4選手たちに「お疲れ様でした……。どうでしたか?」と声をかけた。
20051222_12r_085 山崎智也「うーん…………でも江口さんに頑張ってもらいます。はい」
山本浩次「別に……しょうがないです」
上瀧和則「(とても低い小声で)邪魔だからどいてください」
瓜生正義「まだまだということですね。これからも頑張りますよ」
 4選手とも、レース直後に見せていた怒りや意気消沈したものではなく、吹っ切れた表情をしてはいたが、この一言を残して、立ち止まることなく去った。いつもの“江口フレーズ”である山崎智也も、これで納得しようとしているようであり、声のトーンこそ変わらなかった瓜生正義にも、いつもの饒舌さはなかった。ここ2日間、最後に謎の微笑を浮かべていた山本も、口を開いてくれていた上瀧も、まっすぐ前を向いたまま宿舎行きのバスに向かった。
 勝負に敗れた直後に、悔しさを露わにするのは当然だと思う。そのうえで翌日、驚くほど吹っ切ってピットに現れることを、このSG取材では何度も見てきた。そんな勝負師の5人に、明日会えることでしょう。明日、そして来年の決定戦に向けて、頑張ってください。

 そして、栄光の決定戦に向かう選手たち。
仲口博崇「夢の舞台になんとか上がることがができました。上がったのですから、あとは踊り方を間違えないようにしないと(笑)。みなさんが綺麗だな、カッコいいな、と感じてくれるように舞えれば、結果は付いてくるでしょう(断言)。頑張ります!」
辻栄蔵「いや~、毎日ありがとうございます。挑戦、挑戦と思って過ごしましたが、優出まで来れましたね。ただ、この賞金王という挑戦が終わらないように、すぐに明日が来てほしくない。まだまだ道の途中。明日、勝ったとしても終わりのない挑戦だと思います」
20051222_11r_009濱野谷憲吾「この前も話したと思うけど、勝ちたいというより勝たなければ意味がないと思っているのが賞金王ですからね。トライアルをクリアした以上、あとは勝つだけ。うん、勝つよ」
太田和美「賞金王に出ることを目標に毎年やってきて、そして今年は優勝戦にも進めたんですからね。レースですから、終わるまでなにが起こるかわからないとは正直、思います。でも、やっぱり勝ちたい。勝ちます」
笠原亮「優出しちゃいましたね。でも、やっぱりいつもと一緒。一般戦の優勝戦、SGの優勝戦、賞金王決定戦、全部一緒ですよ。あ、でもそれだけじゃつまらないですね…………あ、6号艇ですからとにかく思いっきりいきます。僕も6コースから勝った(平成9年賞金王決定戦)服部さんみたいになりますよ!」
江口晃生「(あまりにも穏やかに)僕の選手生活の中で、明日は間違いなく最高の思い出になるレースになります。頑張ります。応援してください」

 当然のように気持ちはは弾んでいる。しかし「勝者」の側も、明日になればより厳しい顔に戻る。優勝戦までに“最高の舞”を探し続ける仲口。優勝戦へ、そしてその先へ挑戦し続ける辻。勝つと断言して臨む濱野谷、太田。あまりにも自然体のまま、師匠・服部の栄光を探す笠原。穏やかに“選手生活最高の思い出”で臨む江口。それぞれが明日、勝負師としてピットに戻ってくる。
 
 勝者も敗者も光り輝くレースが明日、行なわれる。さあ、賞金王決定戦だ。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO TEXT/松本伸也)

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1着あるのみ!今垣光太郎!!⑤

20051222_11r_102 (PHOTO/S.NAKAO)

 昨日、植木通彦が途中帰郷したことで、今日から決定戦メンバーへ編入された今垣光太郎。シリーズ戦では賞典除外で、今日も明日も一般戦回りが決まっていたところに、今日は賞金王トライアル、明日は1着ならばシリーズ戦優勝と同額の1600万円が手に入る順位決定戦へ出られることになった。
「たしかに今日と明日は決定戦の方に入るわけですけど、優勝戦に出られるわけではないですからね。やはり最初から出なければいけないことを思い知らされました」
 優勝戦への道は最初からなく、しかも植木が負傷しての編入である。当然ながら複雑な心境で、今垣は新しい決定戦用のモーターを調整していた。
「しょうがないですが、決定戦用とはいえ予備のモーターですからね。決定戦の人たちと併せるとやっぱり弱いです。それに整備も昨日まではされてないんですから……」
 繋留しながらモーターを調整する今垣だったが、その隣にいた濱野谷憲吾も、ピットに現れる他の決定戦メンバーも、もはやモーターの整備や調整など必要としていなかった。明らかに分が悪かったが、そこは“整備の鬼”であり、諦めずに最後まで勝負をする今垣である。「今日も頑張りますよ。“できる限りのこと”はしたいと思います」との言葉を残して、ずっと調整を続けていた。
 今日、今垣で注目だったのはトライアルでのコース取りである。11R6号艇での出走だったが、普段の今垣なら6号艇で黙って6コースに入ることはありえない。11Rの他の5人は優勝戦への勝負駆けだが、自分だけは完全に圏外という状況でも、今垣はコースを取りに動くのか? 今節の「ひとつひとつ、いいレースを積み重ねて」という言葉や、“勝ち師”としての今垣を考えれば、「動くのでは?」と想像はつく。そして、先の“できる限りのこと”という言葉で、コースを取りにいくことを確信していた。
 ところが、実際にはスタート展示の段階から、まったく動かず6コースを選択。こうなると本番でだまし討ち的に動いたりはしないだけに、本番も6コースでほぼ確定だった。「“できる限りのこと”はモーター調整のことだったか……」と勝手に思いつつ迎えた本番も、やはり何事もなく6コースへ。ただ、大・大・大激戦となった道中で、間隙を突いていつの間にか2番手に今垣がいた。“できる限りのターン”をして2着という好成績を残していたのだった。
DSC00265  レース後、モーターを格納した直後に6コースのことを直撃すると、「いや、すみません。さすがに今日は最初から6コースと考えていました。他のみんなに迷惑をかけないように、って思ってましたから……」と、すまなそうに答えた今垣。それでも2着なんですから、さすがです! とこちらがフォローすると、「いやいや、6等でも今日はいいと思ってましたから……」と、ファンにも他の決定戦選手にもすまなそうなのであった。「やっぱり、決定戦に出られないといけませんね。トライアルの2着なのに『申し訳ない』って思ってしまうんですからね」と続けつつ、ここでも苦笑いの今垣だった。
 最後に、「今日は」と連発していたことを受けて、今節初めてレースに関する質問をぶつけてみた。今日でトライアルでは終了した。そこで2着という好成績があるのなら、明日からは遠慮は無用では?
――今垣さん、明日は動きますか?
「いやー……(ちょっと考え込んで)、ピット離れが他の人と一緒なら、6コースですよ」
 他の人と一緒なら……もう一度だけそう言って、管理棟へ去った今垣。繰り返したのは別に含みを持たせたのではなく、“勝ち師”が無意識に言ったのだとそのとき思った。
 明日、最終戦となる11Rで、6号艇の今垣光太郎は動くか否か――?
「絶対に動く。いや、動いてしまう!」そう信じて明日の11Rを迎えようと、僕は思っている。それでこそ今垣光太郎だと、5日間追い続けた僕は、勝手に決めつけているのだ。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO、松本伸也<下の2点> TEXT/松本)

DSC00304 ←大型映像装置に流れる11Rのリプレイを坪井康晴と眺める今垣


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決定戦は全員が特注!②~Q「いま手に入るとしたら○○がほしい」~

2005_12_19__053  決定戦出場の選手全員(予定です)にひとつの質問をする特注選手スペシャル。
 トライアル2日目の今日の質問は「いま手に入るとしたら○○がほしい」の“○○”を答えてもらった。金品からメンタル面、競艇に関することまでなんでもいいということで、昨日の「あなたにとって賞金王決定戦とは?」に続いて抽象的ですが(辻栄蔵にツッコまれました)、選手のパーソナリティーやどんなことを考えてトライアル前に作業をしているのか、少しでも伝われば幸いです(掲載はコメントがとれた順です)。
 ではどうぞ。

上瀧和則「(あの、上瀧選手……?)<低音の小声で>はい、なんですかあ!? ……ほしいもの? ないです。別にありません。(じゅ、12R頑張ってください!)<普通の声量で>はぃ、当たり前です」
植木通彦「そうねえ……今日のこととか、明日のこととか、たくさんあると思うんですけど、いまは今日の1着ですよねえ。ファンの人もそれを応援してくれてるんやろうしねえ」
仲口博崇「うーんと…………“時間”。今日の12Rまでの時間、この決定戦にいるという時間、それにプライベートの時間。こんなふうに全部の時間がほしい」
菊地孝平「昨日の晩なら“伸び”ですけど、いまは1等!」
瓜生正義「やっぱりターンや整備の技術ですよね。ずっと言っていますけど、まだまだ足りませんから。それでも今日は一号艇ですから、なんとかいいところを見せたい。頑張りますね」
2005_12_21_11r_098 濱野谷憲吾「そうだなあ……“時間”かな。あ、普段の時間ね。やっぱりいつも忙しいから。でも、この時期に普段の時間は取りたくないけどね(笑)」
笠原亮「いや、なにもいりません。いまこうして決定戦に出ていることも、普段ボートに乗れていることも楽しいですし、幸せなんですよ。いつも普通にこうして……あ、僕の言っていること、つまらないですね。ちょっと待っててください。(ボートを水面に降ろし、ピットに繋いだ後、戻ってきて)1着ですかね、やっぱり(ニコニコ)」
江口晃生「開会式で言った“気合い”をもっとほしいかな。応援が伝わってきますからそれで気合いを入れますよ」
辻栄蔵「昨日に続いての質問ですね(笑)。うーん、そうだなあ……うーん……いい成績は当然残したいですから、ほしいとはちょっと違いますねえ……うーん、でも結果を残すということで、1等で!」
太田和美「そりゃ優勝ですよ(即答)。お客さんにも宣言してますからね。そのためにも今日明日、精一杯やるわけですから」
山崎智也「賞金王(即答)」
山本浩次「別に……ないですね(微笑)」

2005_12_19__408“回り脚”とか“優勝”なんて答えが多いのか……と思いきや、各選手らしい答えではありませんか? 昨日に続いて上瀧と山本の“虎視眈々”組が同じ答えですが、上瀧の「はぃ、当たり前!」は「賞金王だ!」とやっぱり言っていませんでしょうか。あと太田の優勝との即答は重々承知ですが、山崎智也の即答。こりゃメチャクチャに気合いが乗っているのではないですか!?
 ところで、このコメントはすべてトライアル前にいただいたのだが、レース後に「(落水失格に)やっぱりまだまだです」(瓜生)、「明日は1等」(菊地)、「1等にはなれましたから……プライベートの時間もほしい(笑)」(辻)という補足も。ありがとうございます。
 それにしても、笠原亮は凄いリラックスぶりです。昨日に続いて「うーん……」と考えを探していた辻ともども、大好きになってしまいましたよ。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO TEXT/松本伸也)


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1着あるのみ!今垣光太郎!!④

2005_12_21_11r_075 (PHOTO/S.NAKAO)

 賞金王シリーズ予選最終日。ピットには元気な今垣光太郎の姿があった。
 昨日の10R、1周2マークで赤岩善生のエンストを招いたとして妨害失格。さらに首のあたりを痛めたようで、「大丈夫です」と答えつつも、辛そうな表情を浮かべていただけに、欠場となったりしないか心配だったのだが……。他の選手のボートを引き上げる際には毎回、室田泰史と談笑しながらやってくる姿があった。
 その様子を眺めていると、目の前を通った今垣がこちらに気が付いた。慌てて会釈をしながら「おはようございます。お身体は大丈夫ですか?」と近づくと、「いやあ……」と今垣が話し始めた。今日も世間的なイメージとはちょっと違う、“饒舌な今垣”だった。
「いやあ、なんとか元気に朝を迎えましたね。なんとか、ですけどね(笑)。昨日(10R)は準優の1号艇を取ることだけを考えてレースを、ターンをしたんですけどね。結果は妨害ということになってしまって……まあ、それはもうレースですから仕方がありません。でもそのときに(首のあたりを指差し)、ここのあたりに相手のボートが来ていましたからね。大ケガをする寸前だったわけですから、そこはツイていました」
DSC00242  こちらの「無事でなによりです」という相槌を一回挟んだあと、「そうですよね。まあ、昨日のレースでもう区切らないといけません。今日のレースからひとつひとつ積み上げていって、来年の決定戦に出られるように頑張りますよ」と、モーター装着場から選手管理棟まで100mほど話し続けた今垣。元気そうではあるし、なにより“昨日のターン”が、なんとかして上位を狙うという今垣らしいレースの結果だと、本人も思っていることが嬉しかった。“勝ち師”今垣は、賞金王シリーズの最後レースまで、ファンの期待に応えるレースを見せてくれるはずだと思った。
 と、ここで……元祖“勝ち師”野中和夫の地元である住之江競艇場の神様は、平成の“勝ち師”に意外な風を吹かせたのだった。賞金王トライアルの11Rにて、植木通彦が負傷して帰郷。賞金王決定戦ではこの場合、選出順位13位の選手が決定戦に繰り上がることになる(ただし、途中編入の場合には翌年のSGへの優先権は発生しない)。つまり、明日から今垣は決定戦メンバーに組み込まれることになったのである。
「まだよく事態が解らないのですが、頑張りますよ」と、決定戦用の新しいボートとモーターを前に語った今垣。決定戦に向けての立場はルール上、圏外なのだが、こういったところで緩めるような選手では、住之江の神が風を吹かすはずがない。
 明日はトライアル11R、6号艇。大注目の今垣光太郎である。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO、松本伸也<下の2点> TEXT/松本)

DSC00249 ←12R終了後、大急ぎで試運転、展示タイム測定へ向かう今垣の決定戦用のボート


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決定戦は全員が特注!①~Q「あなたにとって賞金王決定戦とは?」~

“決定戦は全員が特注!”としてお届けする、特注選手スペシャル。
 まず今日の質問は「あなたにとって賞金王決定戦とは?」である。
 レースに臨む気持ちやイメージでもなんでもいい……まあずいぶんと抽象的ではあるが(現に太田和美には「抽象的ですねえ……」と反応された)、その選手が持つ賞金王の意味が伝われば幸いです。なお、登場順はコメントがとれた順です。

2005_12_20__038 上瀧和則「(あの、上瀧選手……?)はい、なんですかあ! ……ふーん、『とは?』なんて言われても、別にひとつのレースですよ、ひとつの」
瓜生正義「あ、芦屋ではお世話になりました(注・瓜生は芦屋チャレカの特注選手です)。……そうですねえ、芦屋でも言いましたけど、決定戦でもSGでも、勝てるために頑張るだけですよ。2度目の出場ですし、その1ヶ月で急に気持ちが変わったりはしませんから。まあ、モーターもいいようなので、ボチボチと言わずに頑張ってみますね」
太田和美「……まあやはり選手としての目標のひとつですよ。名誉あるレースですし、選手じゃなくなるまで出続けたいですね。それで今年は出られたわけですから勝ちたいですね。地元? まあ賞金王はここでやることが多いですからね。どこでも出たいですが、やはり住之江では特別勝ちたいとは思ってますね」
菊地孝平「やっぱり燃えるレースですよ。勝ちに行きたいと思いますよ!」
2005_12_20_12r_105 笠原亮「試練だと思いますけど……でも、いつもと変わらないですよ。SGでも一般戦でも、いつも一緒ですよ(ニコニコ)」
植木通彦「やっぱり1年の目標ですねえ。連続で出るというこだわりは、途切れたときに(平成15年に途切れるまで10年連続出場)に意識しなくなりましたけどね、お客さんが応援してくれる限り、やっぱりこの場に来られて、いいレースをすることが目標ですねえ」
山本浩次「賞金がいちばん高いレース、かな(微笑)」
江口晃生「うん、目標。(少し間があって)勝つことが、ね」
山崎智也「う~ん、おまつり?(ニッコリ)」
辻栄蔵「そうですね……ひとことでなくても?………………………………………いや、やっぱりひとことですね。挑戦!」
仲口博崇「そうだなあ……夢の舞台。夢が叶うように、応援してください!」
濱野谷憲吾「勝たなければいけないレース。何度か出ていますけど、トライアルでも決定戦でも、走るたびにその思いが強くなってますね。その思いで走りますよ」

2005_12_20_11r_092  いかがでしょうか。「目標」という答えが続出したらどうしようかと思いつつ、やっぱり多かったですが、その目標にしても他の答えにしても、その選手のイメージが出ているのではと勝手に思っております。気にしてなさそうな上瀧や山本浩次にしても、上瀧は12Rの展示で5カドと見せかけて本番はキッチリ前付けに行ったし、山本も5着に負けた11R後に「ペラさえ変えれば大丈夫」と長嶺豊さんに説明するなど、賞金王を狙う気マンマン。まさに“虎視眈々”である。
 しかし、その中でも江口さんの“間”と、辻栄蔵の言葉を探している様にはシビれましたよ!(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO TEXT/松本伸也)


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優勝あるのみ!今垣光太郎!!③

2005_12_17_322 (PHOTO/S.NAKAO)

「やっぱり緊張するんですよね……ファンの人が凄い応援してくれているのは当然感じますから、ヘンなことは言えませんし、ちゃんとしたことも言わなければいけないと思いますから……」
 本日1走目となる7Rで2着に入り、準優ボーダーを6.00とすれば、残り2走で4点というとても楽な条件に達した今垣光太郎。選手宿舎に帰るバスの第一便が10R終了直後で、しかも10Rのメンバーは猛ダッシュでそのバスに乗り込んで帰ってしまう――昨日まででその流れを掴んでおり、ならば後半が10Rの今垣は猛ダッシュと読んで、7R後に近づいてみた。すると、後半を残してまだ臨戦態勢の雰囲気は保ちつつも、リラックスした表情で応じてくれた今垣。その表情を見て、つい「今垣さん、開会式やインタビューででのイメージと違いますね?」なんてことを聞いてしまった。
 ファンが抱く今垣のイメージといったら、開会式やインタビューでの「そうですね……うーん……」というような“シャイな光ちゃん”だと思う。しかし、実際は違う。昨日の「賞金王メンバー来る!」という悔しさなど、こちらの話を遮って悔しさをバーッと語り出しているのだ。おおっ、饒舌なんだ……そう感じていたことを、普通に聞いてしまった。それくらいのリラックスした話しだったのだ。
DSC00218  冒頭の答えをそれこそ恥ずかしそうに語ってくれた後、「まだ10Rもありますので」と去っていった今垣。そして、その後半の悪夢をこのときは思いもしなかった。
 10R、今垣は妨害失格を喫してしまう。ペナルティーは賞典除外である。
 一気に終戦を迎えたばかりか、妨害の被害者である赤岩善生の艇と交錯して、首のあたりを負傷した様子の今垣。悔しそうに、苦しそうに戻ってきたその姿を見て、もはやどうすることもできない後悔の念が浮かぶ。僕がつきまとったからなのか、あんなことを聞いたのが原因ではないのか……?
「大丈夫ですか?」としか声が出なかった。「はい、大丈夫ですから……」と答えた今垣の後ろ姿を見つめることしかできなかった。

“優勝あるのみ!”だった今垣の賞金王シリーズは、最悪の形で幕を閉じてしまった。しかし、昨日の今垣の言葉を思い出してほしい。この寂しさ、悔しさを胸に、明日以降も最高のパフォーマンスを見せてくれることを信じている。この住之江にいる限り、今垣光太郎はシリーズ戦の特注選手である。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO、松本伸也<下の2点> TEXT/松本)

DSC00221 ←10R後、身体はもちろん事故後だけにモーターも気になる……


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決定戦は全員が特注!~明日から特注選手スペシャル~

2005_12_19__007  シリーズ戦同様、考え込むことになった。
 賞金王決定戦の特注選手は誰にしたらいいのだろうか?
 これまでの特注選手は毎回ひとりの選手を追いかけてきており、同じように展開するとしたら、12名からひとりを選ばなければならない。ひとりにこだわらず、たとえば「同県初出場コンビ! 頑張れ菊地孝平&笠原亮!!」などと新展開にするにしても、ピットを見渡せば、賞金王史上最多の4勝目がかかる植木通彦がいる。昨年のリベンジに燃える上瀧和則もいる。ケガをものともせずやって来た唯一の地元、太田和美。悲願のSG制覇へ向けて走る仲口博崇に瓜生正義。もちろん山崎智也も濱野谷憲吾も江口晃生も山本浩次も辻栄蔵も……。「あの選手を取り上げよう」という材料は全員に存在するのである。
 ほかのSGではありえなかった。つまりは全員が特注選手。これが賞金王決定戦というものなのだ。
 そこで今回はガラッと趣向を変えてみる。特定の選手を決めることなく、全員を特注選手とする。そして、全員にトライアルがスタートする明日から、賞金王決定戦に関する同じ質問を毎日ひとつぶつけ、その答えを選手の思いとしてお届けしていこうと思う。
2005_12_19__009  最高の栄誉が掛かっている賞金王決定戦。その中心にいる12人の選手たちだけに、どこまで切り込めるか一抹の(いや、かなりの)不安はあるが、懸命に12戦士の大舞台に対する熱い思いや意気込み、闘志などを伝えていく所存です。乞うご期待(……に応えられるよう頑張ります)!

(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO TEXT/松本伸也)


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優勝あるのみ!今垣光太郎!!②

2005_12_17_302 (PHOTO/S.NAKAO)

 今日の午後に行われた野中和夫選手会長のトークイベントにて、賞金王史上最多タイである3回優勝の記録を持つ野中会長がこんなことを言っていた。「初日はともかく……まあ、初日もすでに感じてはいるとは思うんですが、今日になると決定戦出場の選手がやってきますよね。そうなるとシリーズの選手はキツイですよ。注目も取材もみんな決定戦に行ってしまいますしね。そうなると、賞金も安いことに気が付いちゃったりするんですよ(笑)」
 今日、平日だというのに決定戦のモーター抽選に詰めかけてた多くのファン。ピットにいても、決定戦選手がモーター整備室やペラ室から出てくると、ザーッと報道陣が集まってくるし、なにより12選手の共同インタビューはシリーズのレース中にも容赦なく行われている。言葉は悪いが、シリーズ戦は完全に“前座”扱いとなってしまっており、参加している選手にとっては確かにキツイ、寂しい戦いになっていることだろう。
 ただ、野中会長はこうも言葉を続けていた。
「ただね、キツイと思えないようでもいけませんからね。キツイと思わないことでヘンなプレッシャーがかからず、勝ち負けになることもあるでしょう。しかし、勝ち続けるためには、キツイと思いながら“よし来年こそ!”とレースに臨む必要があります」
 この考え方が野中和夫が最強選手であった何よりの証明なのだろうと思うが、それではシリーズ戦での特注選手、今垣光太郎はどう感じているのだろうか。昨日は賞金王の12名に残れなかったことを「情けなくて情けなくて……」と語っていた今垣だが、今日12名が来たことについてはどうなのだろうか?
 本日2回乗りの後半(9R)を2着で終え、カポックを脱いだところで近づいた。「お疲れ様です!」と先に声を掛けてくれた今垣に、「今日賞金王の12人が……」とまで言ったときに、もう今垣は話し始めた。
DSC00196 「いやー、もう(決定戦)選手の姿を見たり、試運転をしていたり、どんなことを観ても悔しさでいっぱいです。胃が痛くなるほど寂しいし、悔しいですよ。ただ、それだからこそ来年は決定戦に出ないといけないと思いますから、明日も明後日も、いいレースを積み重ねていかなければなりません。寂しいし、悔しいということを忘れないで、今回のレースに臨むことが、来年の決定戦に繋がるのですから」
 野中コメントとまるっきり同じなのであった。もちろん、のほほんとしているとなどはまったく思ってなかったし、当然キツイと思っていると想像していたけれども、今垣には完全に“勝ち師”(野中会長はバリバリの選手時代に「“勝負師”という言葉には“負け”が入っているが、わしは負けたくない。だから“勝ち師”なんや」とインタビューで語っている。ちなみにインタビュアーは黒須田だった)の魂が宿っていたのであった。
 このタイトル通りの「優勝あるのみ!」が今垣の心に強く根ざしていると確信した。次の瞬間、「では」と去っていった今垣は、モーター整備室に消えていった。そして10Rが終わるまでガッチリ整備していた。
 賞金王の12名が来たって、目の前のレースに対するモチベーションの低下などありはしない。今垣光太郎が決定戦にも負けず、シリーズ戦を最後まで引っ張っていくことは、もはや間違いなかった。(PHOTO/SHIGEYUKI NAKAO、松本伸也(下の2点) TEXT/松本)

DSC00184 ←JLCのインタビューに答える今垣。おなじみ長嶺豊さんは、マイクを持ってお手伝い


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優勝あるのみ!今垣光太郎!!①

DSC00181  賞金王シリーズの特注選手は誰にしたらいいだろうか?
 これまでのSGの場合、特注選手が「優勝」という最高の結果にならなくても、自分の中では“嬉しい結果”を迎えることができたと思っている。それはたとえ優勝しなくとも、「健闘してくれた」ということが次回のSGに繋がると考えられたからである。たとえば前回の芦屋チャレンジカップで、瓜生正義が賞金王決定戦に進むことができたこと。桐生オーシャンカップで西島義則がかつてのように縦横無尽な進入・レースを見せてくれ、さらにはレース後に語ってくれた「進入から競艇をおもしろくする」という熱い思いが西島の復活は近いのでは?と思えたこと。津ダービーで準優に進んだ赤岩善生、予選落ちはしたものの若松MB記念で予選最終日まで踏ん張った海野ゆかりにしてもそうである。
 しかし、この賞金王シリーズの場合、健闘だけで次回に繋がるかといったら微妙だ。賞金を上積みしても来年の賞金王レースへ反映されるわけでもないし、なにより上位12名はそっくりいないメンバー構成なのである。優勝すれば翌年のダービーまでは優先出場権が得られることも含めて、言い切ってしまえば「勝つことにしか意味がない」のがこの賞金王シリーズではないだろうか?
 そう考えたとき、追いかける選手がふたり思い浮かんだ。ひとりは田中信一郎である。昨年の賞金王覇者にして、史上最多タイの決定戦3勝。それが地元・住之江の大舞台に今年は立てずに、失意のシリーズ戦出場……。こう考えて向かったピットにて、その田中信一郎が残念ながら辞退したことについてはピット情報に任せよう。そして浮かんでいたもうひとりの選手にアタックした。
 今垣光太郎である。
 この「競艇特集」でもおなじみの“整備の鬼”・今垣光太郎。平成11年の総理大臣杯で初SG優出、初優勝の快挙から以後、整備に次ぐ整備で必ず噴き出すモーターと、外の艇番なら必ず動いてくる妥協のないコース取り、そして道中で後方でも最後まで諦めないシビレるターンで、SG通算5勝。優出に至っては20回を数え、初出場の平成11年以後、決定戦進出を逃したのは1回のみ(平成15年)。完全に常連である今垣が、今年はフライングによるGⅠ出場停止もあったとはいえ、賞金順位13位で決定戦出場を逃してしまった。田中信一郎と同じように、今垣にしてもここは勝つしか意味がないシリーズ戦のはずであった。
「はい、どうぞよろしくお願いします」。インタビューなどで見せる通りに、ちょっと考えたような表情で話し出した今垣。「賞金順位13位でシリーズ戦となってしまいましたが……?」という問いに、
DSC00185 「いや、今年はもう情けなくて情けなくて……いつの間にか時間が過ぎていくうちに、情けないレースも多くしていたと思うんですよ。ですから、これからひとつひとつレースを積み重ねていって、ファンの方にも観てもらって、来年は賞金王に出たいと思います」
 プロペラの入ったカバンを手にしていたので、歩きながらではあったが、こちらを見ながら話す今垣。そのため「今回優勝してなら最高ですね」と言いつつ、前の柱に当たりそうになったが、それを避けた後に気を取り直して、「頑張りますよ」とドリーム戦への準備へ向かった。
 ドリーム戦は1号艇、1コースから難なく逃げ切った今垣光太郎。レース後、「これもひとつの積み重ねですね」に笑顔を見せて帰りのバスに向かった。明日へ向けて、来年の賞金王に向けて。視界良好の1走目であった。(PHOTO&TEXT・松本伸也)

DSC00163

←北陸の仲間、室田泰史(福井)と。


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦⑦~

SANY0937  今日の11R2号艇。瓜生正義は1着なら賞金王決定戦出場が当確。それ以外は優勝戦の“結果待ち”……。
 準優進出がかかった一昨日、優出なら賞金王当確だった昨日と、連日“結果待ち”となっていた瓜生だったが、今日は自力で決めることができる。“結果待ち”とは相手の不幸を願うことになり、たとえ最良の結果となったとしても、素直に喜べるものではない。さらに「自力で決めることが瓜生にとってまた一段ステージが上がることになるのではないか」と考えて、「自力で賞金王出場だ!」などとイレ込んでいるわけである。
 なんとか自力で当確を。午前中のピットで顔を合わせた瓜生も、その意気込みは強かった。「おはようございます。今日は1等だけですね。気合いを入れていきますよ」。もちろん、1等じゃなくとも優勝戦の“結果待ち”ではあるが、そんなことはまったく頭にないようだった。今節初めて聞く「気合いを入れて」という言葉も、イレ込んでのものではまったくない様子。自力で決めてくれることを確信した。しかもその言葉を聞いた直後に行われた6R。5号艇で出走した瓜生は、1周バック3番手から2マークで2番手へ浮上。さらに、2周1マークで先行していた秋山直之の内をすくい、一気に先頭へ躍り出た。この驚異の逆転劇を見て、さらに意を強くしていた。
SANY0955  しかし。その確信は一昨日、昨日に続いて三度裏切られる。11Rの特選A戦、横一線で飛び出したスリットから、2コース瓜生はまくりを放ったが、大きく流れてしまった。バックで5番手から渾身のツケマイ、差しなどを繰り出すが、順位は変わらなかった。5着敗退。ピットで待ちかまえた鳥飼眞、さらに同じレースに出走していた植木通彦など福岡の仲間が、気を紛らわすように「(賞金順)危ないなあ!」と話しかけ、苦笑いの瓜生。モーターの返納作業が終わり、僕を見かけると、「決めたかったあ~! やっぱりモーターボートは“差し”ですねえ(笑)」と明るく振る舞いつつ、「まあ、もうしょうがない」と続くいつもの“瓜生スタイル”だったが、やはり結果待ち、しかも同期の原田幸哉や、九州の仲間である上瀧和則が対象だけに表情は浮かなかった。僕はこのときでも瓜生が賞金王の12枠に残ることを確信していたが(転落条件も限定的であったし)、そんなことを言うわけにもいかない。そんな様子を見てか、「まあ、優勝戦の後にまたですね」と言って管理棟に向かった瓜生。その後ろ姿に「何とか残ってくれ」と願わずにはいられなかった。
 そして、その願いは届いた。優勝戦、上瀧が堂々のイン逃げを決めた。上瀧が優勝の場合は、問題なく瓜生の当確が決まる。ピットへ走り寄ってくる瓜生に、福岡の仲間はもちろん、烏野賢太なども祝福の言葉をかける。
「瓜生、おめでとうな!」
「ありがとうございます!」
 決まった以上は結果待ちもなにもない。満面の笑顔で答える瓜生に、帰ってきた上瀧が「おまえと一緒に行けるなあ!」と手を差し出し、握手をする瓜生。うれしい、あまりにもうれしい光景だった。
                      ★
「今年こそはなんとか自力で決めてやろうと思って今節やってきて、昨日も今日も自力で決めてやろうと思ってたんですけどもね。うまくいかなかった(笑)。まあ、結果は結果でしょうがないから、優勝戦は落ち着いて観てましたよ。上瀧さんが勝って、一緒に行けるのはうれしい。握手したときは、思わず泣きそうになりましたよ。危なかった(笑)。でもやっぱり、僕が自力で決めて、それで観ていたかったな……」
 優勝戦のあともなにかとバタバタと走り回ったため、多くの選手が競艇場を出てから自分の帰り支度を始めた瓜生。彼自身も「自力で決めたい!」と思いながら、すべて他力での結果となったのは、とても瓜生らしい。しかし、結果は他力でも、「今年こそ!」と思って成功したことはたぶん大きい。これまでの瓜生らしさはきっと変わるはずだ。
「まあ、賞金王でどうかというのは、特にありません。賞金王でもほかのSGでも、勝てるためになんとか階段を上がり続けますよ。いまどれくらいか? うーん、それは自分では解りませんが、ターンもなにもまだまだまだまだ頑張らないと」
SANY0997  いまだってみんな勝てると思ってますよ、という言葉に「ホント、頑張ります」と笑顔で返してくれた瓜生。最後に今節最後の写真をお願いし、「結果待ちでの決定ですから、今回は控えめなガッツポーズとか……」とお願いした。そして、以下が今回の特注選手・瓜生正義との最後のやりとりである。
「いや、ガッツポーズはやめておきましょう。SGを勝ったときにします。そのときは必ずまた撮りに来てくださいね」
“優しき天才・瓜生正義”。最後の最後まで優しかった彼は、12月の賞金王決定戦に2度目の出場を果たす。次の賞金王こそ、瓜生に勝たせてあげたい。いや、瓜生が勝ってくれる。今節何度目か解らない確信。それが住之江で当たることを胸に、僕は芦屋競艇場のピットを後にした。(松本伸也)

SANY0981 ←優勝戦後、ピットで上瀧和則を迎える瓜生


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦⑥~

DSC00329  準優勝戦が行なわれる5日目。昨日は長い長い“相手待ち”の末に準優進出が決まるという、あまりにも瓜生正義らしい展開であった。しかし、肝心な賞金王決定戦12枠は、今日優出さえ決めれば自力でクリアすることができる。10R5号艇で出走する瓜生。今度こそは自力で決めてもらいたい。いや、決めてくれないはずがない。昨日までと同様に勝手に期待しながらピットへ移動すると、相変わらずピット内を走り回りつつ、ペラ調整を続ける瓜生。「おはようございます。頑張りますよ!」と言う表情に、硬さもよけいなイレコミもない。なにも変わらぬ瓜生が「決めて」くれることを、さらに確信していた。
 ところが。物事はやっぱり思うようには進まない。勝手な期待は二日続けて裏切られることになったのだ。大勝負がかかった10R。スローの5コースから発進した瓜生は、単騎のダッシュ戦となった森高一真が.12の好スタートを決めて絞ってくるのを受け止めながら、1マークに入っていく。そこからレバーを握って外マイするが、森高に付き合った分、内側の艇は遠くなっていた。原田幸哉、菊地孝平に続くバック3番手。まだ望みが持てる位置だったが、2マークの全速ターンが菊地に届かなかったとき、大勢は決した。準優3着、優出失敗。昨日、瓜生が4Rで準優進出が微妙なままの4着でピットに戻ってきたときは、気を楽にさせるように笑顔を振りまいていた福岡勢も、当然ながら複雑な表情だった。もちろん、瓜生の顔も初めて見るくらい沈んでいた。
 レース後に顔を合わせると、「まったく情けない……」に続いて、こちらの質問を読んだように「まあ、これもしょうがないです。明日もしっかりやりますよ」とだけ言って、ペラの入ったカバンとともに整備室に向かった。
 と、これで今回のチャレンジカップでの瓜生の挑戦は終わったわけだが、肝心なのは賞金王出場へのボーダーである。そこであらゆるケースをピットで計算してみると、これがまたまた、しかも昨日以上に長い長い“相手待ち”になることになったのである。
 今日現在、賞金順位12位の瓜生だが、明日、特選A戦と一般戦の2回乗りになったことで、一般戦2走の11位・今垣光太郎とは確実に入れ替わる(今垣が2勝、瓜生が6着2回でも)。 しかも、たとえ賞金下位がゾロゾロ優出しても、あるひとりをのぞけば全員ピン勝負。瓜生が実質11位である以上、準優11Rに出走するある選手が優出さえしなければ、その時点で賞金王決定戦出場が当確となる。
DSC00407  そのある選手とは、上瀧和則である。
 上瀧と瓜生の賞金差は1318万2000円。つまり、原田など賞金下位の選手が優勝して4000万円を加算。さらに上瀧が2着で1700万を加算すると、賞金11位と12位が転落してしまうこととなる。
 つまり上瀧が準優敗退という結果以外は、明日の優勝戦まで延々と“相手待ち”なのである。僕の頭には上瀧の準優落ちが当然頭をよぎったが、もちろん瓜生がそんなことを思っているはずがないので打ち消した。「まあしょうがないですよ」と瓜生のように思いながら、その後の準優勝戦を注目していた。
 結果、上瀧は優出した。そして最終的には「優勝戦で原田、向所浩二、倉谷和信が優勝し、上瀧が2着ならアウト」という条件の“相手待ち”が決定した。
 宿舎に引き上げる直前に瓜生に声を掛けた。ゴチャゴチャと“条件”など言っても、そんなことは望まない瓜生に「上瀧さんが会見で『瓜生と賞金王に出たい』と言ってましたよ」ということだけを告げると「僕もです。でも、さっき(原田)幸哉くんとも同じ計算をしていたんですよね」と瓜生は言う。3人揃っては不可能なのだが、そんなことを説明してもしょうがない。上瀧、原田、いずれかと一緒に行けることだけを念じて、ピットから引き上げた。
 明日、瓜生正義が賞金王決定戦の12人枠に残っていますように。ただ、今日は「幸運を!」とは言わないし、思わない。実は瓜生、特選A戦を勝ちさえすれば、賞金400万円を加算して、優勝戦前に当確を決められるのである。
 特選A戦(11R)は2号艇で出走する。今節も、過去3年間も、他力に甘んじてきた瓜生が、明日、最後の最後に自力で賞金王決定戦出場を決めてくれることを、信じている。(松本伸也)
DSC00387 ←優出を決めた上瀧和則のボートを片付ける瓜生。上瀧の結果が賞金王決定戦の行方を大きく左右する……


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦⑤~

DSC00328  瓜生正義が自力で賞金王決定戦出場を決めるためには、予選突破が第一関門となる。今日の予選最終日、4R2号艇で1走の瓜生は4着で平均的な準優ボーダーラインの得点率6.00となる。ただ、3日目終了の時点で準優ボーダーは、「6.00の上位着順者」となっていたため、4着だと予選落ちの不安は残る。なんとか3着以上がほしいところだった――。
 今日は、若松MB記念での“特注選手”(海野ゆかり)でお世話になったこの方に、再び登場いただこう。評論家の長嶺豊さんである。ピットにて「今回も誰か追いかけとるんですか?」と声を掛けてくださった長嶺さんに、瓜生選手ですと答えると、「ほぉぉ~、今節注目の選手やなあ」に続けて、話し始めた。
「今年で4年連続(ボーダー上)、か……。4年のうち、僕がいまの解説者の立場で身近に、そんな瓜生を見たのは去年の児島と今年だけなんやけどね。ただね、去年とは違うな。今年は大丈夫だと思うで。なぜか? 雰囲気が違うんよ。最初の2年は僕には解らないけど、去年の児島は明らかに緊張していた。でも、今年は余裕があるというんか、ね。僕のやっているインタビューにも2回来てくれたけど、そのうち1回は原田幸哉くんと一緒の、ちょっとおもしろい系のインタビューだったんよ。去年なら断わっとったと思う。地元福岡ということもあるんやろうけど、今年はええと思うよ」
 こう教えてくれた後、笑顔で去ろうとした長嶺さんは、一度僕を振り返ってこう繰り返した。
「今年は大丈夫や。心配せんでええよ」
          ★
 しかし、物事は思うように進まなかった。4R2号艇。昨日1着を取ったレースと同じ艇番だけに、「ま、負けたとしても3着には来るだろう」と勝手に期待していた。だが……それは裏切られる。スタートは2コースから.12を決めたものの、インの室田をまくるまではいかず、差しに構えた瓜生。ところが、1マークに殺到した外の艇の引き波に乗り、ズルッと5番手におかれてしまったのである。その後、うまく捌いて4着まで浮上。3番手を行く丸岡正典との差を詰めてはいたが、0.3秒届かず結局は4着でゴール。これで肝心の得点率は6.00。今後の展開によっては、上位着順や最高タイムで予選落ちもあり得る状況で、「ここでも“相手待ち”とは瓜生らしい……」と思わずにいられなかった。
 レース後、選手管理棟から出てきた瓜生は、ひとり待っていた僕を見るなり苦笑いを浮かべた。
「いやあ、ヘタを打ってしまった。スタートも早いかな、と思って放ってしまって……。ただ、さっきのペラはいいから、これからそのペラを煮詰めて試運転です」
 この後は結果待ち……。“結果待ち”とは人の不幸を願うことであり、“優しき天才”がそれを望んでいるとは思えない。とはいえ、僕が勝手にそう思うのは問題ない。瓜生がここで運悪く敗退するのは耐えられなかった。
 言わないつもりだったが、ペラ小屋にダッシュの態勢を見せる瓜生に、思わずこう言っていた。「瓜生さん、幸運を!」
 瓜生はすでに走り出していた。そしてここから、長い長いシビレる時間が始まった。
 ドンドンとレースが進むなか、他の選手や勝負駆けの成功や失敗で瓜生の順位は14~16位くらいをウロウロしている。そのうち9Rで植木通彦が勝負駆けに成功したのを見て、いてもたってもいられずに記者席からピットへ移動した。ピットで改めて得点計算をすると、暫定18位となっていた瓜生は10~12Rの展開によっては厳しいことが判明した。愕然としているうちに発走した10Rで、事件は起きた。
DSC00335 10R、瓜生より上位だった白水勝也、鳥飼眞が6、5着に大敗し、思わぬ圏外に去った。ご存じの通り、この二人は瓜生と地元の仲間である。「幸運を!」などと口走ったことで、とんでもないことが起きてしまったのでは……。そう思うと辛さばかりが溢れたが、瓜生はもっと辛いはずだった。望むはずのない出来事が起きてしまったのだった。
 ただ、これによって瓜生の順位自体は暫定16位に上昇していた。残り2レースで、瓜生より下位の逆転候補は4人おり、全員勝負駆けが成功すれば19位に転落するが、全員成功の条件は「11Rで森高一馬と山崎義明が1、2着に入り、かつ12Rで坪井康晴が1着、今垣光太郎が2着」という非常に限定されたもの。一気にほぼ当確まで状況は一変したのだった。
 そして11R、森高一真は2着で勝負駆けを成功させたが、山崎義明が6着。この瞬間、瓜生正義の準優当確が決まった。
 自身の当確に大きな影響を及ぼした福岡の二人が目に浮かび、僕のややトーンの低い「おめでとうございます……」に、やっぱり複雑な表情を浮かべ続けた瓜生は、「まあ、とりあえず、ですね。明日、頑張りますよ」と控えめな笑顔で去っていった。4R終了からすでに約4時間が過ぎていた。
 他力にはなってしまったが、第一関門である準優に進出した瓜生正義。実質次点の上瀧和則をはじめ、今日現在で瓜生より下位の賞金額の選手が11人も準優出しているが、なにも気にする必要はない。
 明日10R5号艇。自力で2着までに入れば一気に賞金王当確、なのだから。(松本伸也)

DSC00305 ←4R終了後、岩崎正哉と


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦④~

DSC00208  競艇王チャレンジカップ3日目。初日、2日目に充分な得点を稼げなかった選手にとっては、一足早い勝負駆けとなるこの日。瓜生正義も初日の5着大敗が影響して、準優当確まで、3走であと20点が必要(準優ボーダー6.00と想定)。今日の2走、大敗は許されない状況だった。
 ……状況だったが、昨日、瓜生の“優しさ”に魅せられ、「勝ってもらいたい」としか思えなくなっていた僕には、今日で予選落ちが決定するような大敗などするわけがないと、朝から勝手に確信していた。それどころか「連勝で一気に当確だな」と思っていたぐらいである。
 そしてその結果。連勝こそならなかったが、思った通りの好成績。前半1着、後半3着という結果で、準優ボーダーまであと4点。得点率6.50で、10位までジャンプアップした。
 前半の4Rは、艇番通りの2コースから.09のスタートを決め、一気のまくりで1マークを先制する圧勝。インの丸岡正典が遅れたにも関わらず、絞ることをせずに1マークをターンする瓜生らしいレースで、今節の初勝利を上げた。勝利者インタビューで「スタートは.10を目標に行ってますから、.09なら勘通りですね」と、頼もしいコメントを残した瓜生に「おめでとうございます!」と声を掛けると、まず僕を見て頷いた後、「ありがとうございます!」と答えて、すぐ駆けだした。向かった先は整備場とは逆の競技本部の方向。その後は昨日以上に、競技本部と整備場の周りを走り回っていた瓜生。もともとしなければならなかった仕事なのか、この1勝で余裕が生まれてしている仕事なのかは判らなかったが、とにかく今日もダッシュを繰り返していた。
DSC00280  そんななか出走した後半の8Rは3着。5コースから、6コース矢後剛の絞りまくりにあってしまい、バックでは5番手だったが、うまくさばいて3着。「前半はスタート勘通りでしたけど、8Rは放ってしまいましたね(.16のタイミング)。だからまあしょうがない。見事な追い上げ? いやいや、まだまだ。スタートにしたってまだまだなわけでして」とはレース後のコメント。明日の1走、2号艇で4着条件ですね?と声を掛けると、「いやいや、そういうことは考えないでボチボチいきますよ」と、これまでとまったく変わらない言葉を残して去って行った瓜生。物足りない言葉……なのではなく、ここで「気を抜かずにいかないと!」とか「気合いを入れていきます!」という頼もしい言葉が出ないほうが瓜生らしい。なにも変わらないまま、明日も今日と同じように瓜生はレースを走る。そしてそれが金王出場決定への道を拓く、今節の予選突破への道なのであると、僕は信じている。(松本伸也)

DSC00272 ←今節初勝利となった4R終了後。ここでプロテクターを外して、勝利者インタビューへ


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦③~

DSC00210 「なぜ瓜生正義は毎年11月、賞金王決定戦出場のボーダー上にいるのであろうか?」今回「特注選手」で瓜生を取り上げている理由。それは“今年もボーダー上だから”、これただひとつである。
 それにしてもなぜなんだろうか。4年連続で「チャレンジカップ時点で賞金ランク 12位前後」というのは、本当は凄いことである。並の選手だったら、この位置にいること自体が不可能なのだ。ハッキリ言って、最強クラスと言ってもおかしくはないのだ。しかしながら、なぜ1回も「チャレンジカップ時点で賞金王当確」まで突き抜けられないのか。――今日はそれを瓜生自身に確認するために、ピットへ向かった。
 予選2走目となる1R、4号艇ながら大外6コース周りとなる予想外の展開ながら最内差しで2着を確保。 得点率を5.00にアップして、今日の1回乗りを終えた瓜生。その後の午前中は整備や試運転をせず、他の選手のボートを上げては競技棟までダッシュで去っていくことを繰り返していたが(理由は不明。ただ、地元・福岡の選手では登番も若いので、今節はいわゆる“若手仕事”をこなしている)、午後になって試運転や整備に走り回っていた。
「あ、すみません。ちょっと試運転をしますんで、(自分の)ボートを上げたときまた声を掛けてください」
 最初に声を掛けたとき、こう返した瓜生だったが、8Rで同県の鳥飼眞がエンストし、その帰りを待つなどしているうちに時間が流れてしまった。
「すみません。試運転やペラを叩きたいので、12Rが終わったらでも大丈夫ですか?」
 10R直前に僕を見つけて、瓜生のほうからこう断わってきた。「もちろんです!」と答えると、瓜生は笑顔で試運転ピットに向かった。
 そしてその12R後。2走目となった鳥飼のボートを引き上げた瓜生は、整備室から離れて立っていた僕を見つけるなり、瓜生は「すみません! お待たせしました」と駆け寄ってきた。こちらが恐縮するくらいのダッシュだった。
「うーん、まあ先日も言いましたけど、安定はしていると思っているんですよね。今年だけで言えば、記念も勝っていないのに12位まで来ている。満足はしていませんが、これはこれでしょうがないかな、とは思っているんですよ」
 毎年この時期にボーダー上にいることについて、ご自身はどう感じられていますか? という質問に、歩きながら瓜生はこう答えた。瓜生自身からは強がりも弱音も感じない。淡々とそう思っているようだったが、でも、今回、“自力で賞金王進出だ!”と勇ましいタイトルを付けた人間としては、諦めているようでちょっと寂しくはある。それだからこそ、こんな質問をぶつけてみた。
DSC00202 ――ボーダー上になる理由についてはどう思われてますか? これはSGでいまだに優勝されていないことも、ひょっとしたら同じ理由かとも思うのですが……?
「いや、まだ足りないんですよ、全然。ターンも整備もペラも、なにもかも。それだからボーダーだし、SGも勝てていない。だからまだこれから。これからだと思っています」
 これは謙遜なのか、本気なのか。もし本気だとしたら……僕の中に思い当たることがあった。というより、僕の中にはすでに想定されていた疑問があったのだ。
 瓜生のレースというのは非常に綺麗なレースだというイメージがある。無理な前付けはいかないし、絞りまくりよりはハコまくり。道中の突進などもってのほか。そんなレースで勝てないのは、きっと自分のターンがまだまだと思っている。だから……
「瓜生さん、優しすぎるんじゃないですか?」
 そう聞く僕に、瓜生は「あ、よく言われます」と答えた後、立ち止まってこう続けたのだ。
「変えるつもりはありません。いえ、変えてはいけないと思います」
 真剣な目でありながら、瓜生は笑顔で言った。
 今節、たった3日間でも、僕が見てきた瓜生はあまりにも優しかった。他の選手に見せる笑顔や気の遣いよう(もちろん、僕にも優しくしてくれた)。賞金王決定戦に向けて、自分の座を脅かすだろう上瀧への賞賛……。すべて瓜生自身の純粋な優しさから発せられているのである。
“優しき天才・瓜生正義”。僕は、彼に勝たせてあげたい。賞金王の座をつかんでもらいたい。その思いでいっぱいとなったピットからの帰り道であった。(松本伸也)

DSC00228 ←76期の同期・原田幸哉とツーショットで、長嶺豊さんによるインタビューへ登場


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦②~

「いやあ、素晴らしい!」
 12R発走直前のピットにて、今回の主役・瓜生正義がある選手を褒め称える。
 いやいや瓜生さん、そんなこと言ってる場合じゃないんですよ!
                ★
DSC00163  ただいま獲得賞金順位12位。賞金王決定戦出場のためにも、下位からの逆転は絶対に阻止しなければならない瓜生のチャレンジカップが始まった。
 本日、瓜生の出番は2R3号艇。地元期待の選手であり、勝率6点台の好モーター、それにしては出番が早すぎるような気もしたが、深読みすればそれこそが地元からの瓜生への期待、ということだろう。自力での賞金王決定戦出場(最高なのは、チャレンジカップ制覇で、だろう)へ向けて、地元や僕らの期待を乗せて、瓜生の第1走目が始まった。
 ところが。艇番通りの3コースに入った瓜生だったが、5コースの向所浩二が放った.11の好スタートに絞り込まれ、1マーク前に行き場がなくなってしまう。まさに最悪の展開。為す術なく5番手順走……のはずが、道中6番手になっていた向所とのしんがり争いにまでもつれ込んだ。最終的には5着でゴールしたものの、展開だけでなくモーターやプロペラの不調も感じられる内容。「これはまずい」。誰よりも本人がいちばんそう感じたはずである。
 今日の瓜生のレースはこの1回。となれば今度は作業の時間はたっぷりあるわけで、瓜生は試運転にモーター調整にペラ調整にと動き続けた。なかでも中心は試運転ピットと水面の往復で、他選手のボート引き上げのために試運転ピットからやって来たかと思えば、終了後はまっすぐ試運転ピットへ戻り、その直後にはもう水面で試運転中……。これまでのSGでは、“陸の上によくいる瓜生”というイメージがあったのだが……。
DSC00110 12R発走直前までプロペラ調整を続けていた瓜生だったが、すべての作業を終了したところで近づいた。「はい、お疲れ様です」と始めた瓜生は、今日のレース、作業についてこう話し始めた。
「今日は全部失敗ですね。調整からペラまで全部。ホントに何もできませんでしたよ。だから、レース後にはペラも叩いて、試運転もして、調整もして……やっとよくなってきました。上瀧さんにいろいろと教えてもらったりしましてね」
 上瀧和則。九州地区の仲間として、瓜生など福岡勢と一緒にいることが多いのだが、この上瀧が今日2連勝。しかも上瀧の賞金順位は14位と、13位の松井繁が不参加だから、実質次点にいるのである。もしも瓜生が予選落ち、上瀧が優出なんてことになれば、12位逆転という最悪の結果になりかねない(ちなみに、今日現在の瓜生と上瀧の差は約1300万円。優出2着の賞金は1700万円!)。
 その上瀧さん、連勝ですね……と話を振って出たのが、冒頭の「いやあ、素晴らしい!」。でも……と僕が話を繋ぐ前に、瓜生はちゃんとこう切り返した。
「でも、それってまずいんですよねえ(笑)。でもしょうがない。今日は今日でしょうがないですから、僕がその上に行けばいいだけですよ。明日から、また頑張ります」
 奮起ですね! そういう僕に「はい、もちろんです」といつもの笑顔を見せた瓜生。思い起こせば前回の津ダービーも5、6着から3連勝しての優出である。
 明日は1R4号艇。今日に続いてまたまた前半&1回乗りだが、よくなってきたモーター&ペラを武器に、ここで一気に巻き返してくれるはずである。(松本伸也)

DSC00167 ←初日連勝の上瀧。瓜生に立ちはだかることになるのか!?


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自力で賞金王進出だ!~4年連続ボーダー上、瓜生正義の挑戦①~

DSC00092  なんと4年連続、である。
 11月末時点での年間賞金上位12人のみが出場できる暮れの大一番・賞金王決定戦。男子も女子も新鋭も名人も、すべての競艇選手がこの12人を目指して1月からレースを走っているわけだが、その12枠へのラストチャレンジとなるのが明日から始まる競艇王チャレンジカップである。
 11月中旬までに賞金順位が12位より下でも、ここで一発好成績を残せば12位以上に浮上できるチャンスがある。……ということは、チャレンジカップ前に10~12位に位置する“ボーダー上”選手の場合は、下位の選手が自分を上回れば取って代わられてしまうピンチなのである。この、常に“勝負駆け”で、しかも“相手待ち”という、チャンスどころか崖っぷちというポジションにて、なんと今年で4年連続参戦となったのが、今回の特注選手・瓜生正義だ。
 3年前(平成14年)に10位でチャレンジカップに参戦したのを皮切りに、過去2年も10~12位。そして今年も12位と、もはや“11月の風物詩”とも言える瓜生のこのポジション。また、そうであっても、過去3年連続で賞金王の12枠を守ったというのならともかく、賞金王に駒を進めたのは平成15年の1回のみ。しかも、そこで優出していた原田幸哉が6着以外なら、原田が逆転し、瓜生は13位に転落という崖っぷちを、原田がなんと6着に敗れたおかげで救われたという、まさに“相手待ち”の結果……。
 4年連続このポジションというのは、安定して高額賞金を稼いでいるということであるが、瓜生といえば競艇学校時代から素晴らしい成績を上げ、デビュー以来から「いつSGを勝ってもおかしくない」と言われ続けている選手である。4年連続のボーダー上や、“相手待ち”という結果はやはり寂しく感じる。地元で行われるこのチャレンジカップで、やっぱり自力で賞金王出場を決めてほしい。そして決めるだけでなく、初のSG制覇も成し遂げてほしい。今回はそんな応援や期待を込めて、明日から瓜生を追いかけていきたい。
DSC00090   本日午後のピット。今回1節間追いかけるという旨を伝えると、快く了承してくれた瓜生。「チャレンジカップは毎年、瓜生さんが注目を浴びる時期になってしまいますね……」という、あまりうれしくないだろう最初の質問に「ははは。まあ、安定しているとは言えますよね。とにかく1戦1戦やりますよ」と、瓜生らしい笑顔で答えた後、「がんばりましょう!」と言い残して選手控室に向かった。
「がんばりましょう!」。これは瓜生自身のハッパ……いや、1節間追いかけるといったこちらに対して言ったのか……?
 がんばれ、瓜生正義! 僕も負けずに明日からがんばります! (松本伸也)


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赤岩善生がダービーを射抜く!⑥

DSC01678  とにかく毎日、震え上がりながらピットにいた。
 優勝戦メンバー以外はどことなくノンビリムードとなる最終日のピット内。それは取材する側も似たようなもので、ピットにいても優勝戦まではノンビリゆっくり、時間が進んでいるように感じる。これまでのSGでは、僕もそんなムードの中にたのだが、今回の津ダービーではそうはならなかった。理由は今回の特注選手、赤岩善生。
 寡黙で眼光鋭く、そして圧倒的な威圧感。赤岩が“近づきがたい雰囲気の人”であることは100%間違いない。さらに、自分の発言と食い違う記者の発言をキッチリ訂正している様子や、僕が4日目に減量のことを口にしたときの反応などを思い返せば、その思いは倍増する。あ、僕の気が小さいってことも間違いありません。認めます。でも、言い訳になってしまうけど、赤岩を含めてすべての選手は、いいレースをするためにピットで仕事をしている。そこで作業の邪魔になることはもちろん、モチベーションを下げるようなことは絶対にできない。その邪魔であるとかモチベーションの低下がどういったことで起きるかは、その選手の成績であるとか、雰囲気、表情で推し量るしか手はない。
 それが赤岩の場合は、彼のもつ雰囲気ですべてが覆い隠されている。しかも後半になるにつれ、いつもウロウロと自分の周りにいるヤツ(僕だ)がいる気がしてくれば、自然と眼光鋭い眼差しが飛んでくるようにもなる(これは勘違いかもしれないけれども)。となれば、いかに「彼の気を散らさないか」だけに気を遣ってしまう。今日も9R直前、気が付かず目の前に立っていたボートがちょうど赤岩のもので、作業をしにやってきた赤岩が顔を上げるたびにこちらに鋭い視線を飛ばす。いつもならカメラを構えたり、「あの……」と近づく場面だが、そんな余裕はない。ただただ、ここ4日間と同じ“気合い”のオーラを発しながら、ペラを着けている赤岩を見つめていることしかできなかった。前検も含めて7日間、毎日がこの状態だった。
DSC01363  ただ、赤岩善生という選手、そんな威圧感だけでは決してなかった。それこそ毎回書いているが、話すときはもちろん、頷くだけでもこちらをじっと見ている目。そして取材する側が間違っていたり、くだらない質問をしたときの憤り。「勝率トップでA1級に戻る」と誓い、実際に2着でも勝率が下がってしまう(一般戦の場合)8.42という高得点でそれを達成した実行力と腕。これらの“まっすぐな力”が、威圧感を超える大物感のオーラとして赤岩を覆っていた。7日間見続けたその姿はひとこと、カッコよかった。そしてそんな赤岩が初めてGⅠ、そして初めてSGを勝ったとき、はたしてどういう反応を見せるのか、待ち遠しくてならなくなっていた。
 
 今日の2回乗りをそれぞれ6、5着と大敗し、明らかに納得していない様子のまま、最終レース前に津競艇場を後にした赤岩。最後に伝えたかったいつものひとことは、特別戦で優出を決めたレースの直後まで取っておきたいと思う。
「赤岩さん、明日、頑張ってください」
「はい。頑張ります」
 きっとすぐにすることになるこのやりとり。そのときもやっぱり、僕はひとりで震え上がりながら、であろう。(松本伸也)

SANY0447


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赤岩善生がダービーを射抜く!⑤

 準優12R3着、優出失敗――。
 今回の主役である赤岩善生は当然のこと、追いかけている側にとっても、今節いちばん残念な結果になってしまった直後。ピットに戻り、カポックを脱ぐ控室に向かう赤岩を一人追いかけていると、こちらに気が付いた赤岩は振り返り、いつものように目を見据えてこう言った。
「(12Rの)リプレイ、もう終わった?」
 これが今節初めて、赤岩から掛けられた言葉だった。

DSC01581  準優勝戦前のピット。午前中のピット情報にもあるとおり、準優18選手のほとんどがペラ調整に時間を費やす中、今日の赤岩は試運転がメインだった。連日「納得はしている」とのコメントは残しつつも、モーターとペラの調整で時間のほとんどを使っていた感のあった赤岩だが、予選突破で区切りを付けたということなのだろうか。田村隆信と足併せをしたあと、一度ピットに戻って田村と話し込み、 再び水面に出て行って勝野竜司と足併せをし、またピットに戻って勝野の元に駆け寄る。さらに今度は西田靖と足併せ……と、熱心に足併せと試運転を繰り返す赤岩。
 その流れの最中にすれ違った赤岩に、いつものように声を掛ける。集中していたのか気が付いたのは2、3歩過ぎてからだったが、向き直るようにこちらを一瞥して通り過ぎた赤岩。緊張や重圧など、態度や表情で判るような選手では絶対にないとは思いつつも、緊張の色など微塵も感じさせない表情。12R直前、ボートも人もまばらになったピットを一人、レース前控室に向かう赤岩の後ろ姿は、あまりにもカッコよかった。
 肝心のレースは艇番通りの5コースから発進。3コース3号艇の原田幸哉がトップスタートからまくりを放ち、赤岩も展開を突いて上位4艇集団の中にいたが、勝負の1周2マークで結局3番手に落ち着いてしまい、そのままゴール。SGでの初準優進出だった前回の若松MB記念に続き、初優出はおあずけとなった。
DSC01633  ここで、冒頭のやりとりとなる。赤岩に「まだです!」と答えると、赤岩はその場に立ったまま、彼方にある大型映像装置を見つめていた。その目は変わらず鋭かったが、感じるのは“怖い”や“気合い”のオーラではなく、何かがひとつ終わったことへの落ち着いた雰囲気――断言するが、絶対に納得いっていないし、悔しがっていないはずがない。しかし、同じレースで大敗を喫してしまった植木がサバサバと控室から出てきたのと通じる雰囲気が、その赤岩にはあった。大物感の溢れるオーラだった。

 優出はならず、明日は7R4号艇、11R特別選抜A戦(3号艇)に出走する赤岩。最後に掛けたいつもの「明日、頑張ってください」という言葉に、今日は一瞥だけで去っていった。わずかな時間で、明日への“気合い”溢れる赤岩善生に戻っていた。
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 最後に余談。リプレイの会話の後、なかなか始まらないリプレイに「遅いな……」とつぶやいた赤岩。ふと、もしやリプレイはすでに終わっているのでは……と思った瞬間から、放映が開始されるまでの間、昨日に続いて打ち震えておりました。(松本伸也)
 


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赤岩善生がダービーを射抜く!④

DSC01568  昨日の時点で得点率6.25。明日の準優へ進出するためには、本日1走で3着以上の成績を取る必要がある赤岩善生。11R出走ということで、今日も朝から時間はたくさんある。午前中は西田靖となにやら話をしている姿なども見られた赤岩だったが、多くはやはり整備場の中。とはいえ、モーターはボートに装着されたままになっており、今日はペラ調整に取りかかりっきりであった。そして、時折目の前を通りかかる際に見せる鋭い眼差しとたたずまい、そして挨拶を一瞥しただけで通りすぎる様子。昨日同様の“気合い”のオーラが溢れ、その後ろ姿には「“勝負(駆け)”という言葉がここまで似合う選手はいないな」と感じずにいられなかった。昨日も書いたとおり、赤岩の予選突破は勝手に確信していたが、その意はさらに強くなっていた。
 15時50分、勝負の11Rがスタートする。5号艇ながら、スタート展示では4カドを取りに動いた赤岩だが、本番で4号艇の笠原亮がコースを取りきって4カドとし、赤岩は艇番通りの5コース。3着が条件だけにひとつでも内側のコースがいいのだろうが、なにしろ勝手に確信している身としては、何の不安も感じなかった。そしてその通りに1周1マークで差した赤岩はバックで3番手を追走、もつれそうだった2マークをしっかり捌ききって単独3番手をキープし、そのままゴールに入った。勝負駆け成功。外枠にはなりそうだが、SG2回目の準優進出を決めたゴールだった。ピットに戻ってきた赤岩も、ボートを引き上げにきた伊藤誠二など、同県の選手に笑顔をのぞかせていた。
 しばらくして、報道陣に囲まれて、モーターの様子や明日の準優勝戦に向けての取材を受ける赤岩がいた。足を止めた赤岩が報道陣の囲み取材を受けているのを見たのは初めてだっただけに、赤岩自身も今日のところはホッとしているのかと思って近寄ったが、そんなことはまったくなかった。「明日は自分のスタートをして、ターンをするだけ」との赤岩の言葉を受けて、「スタート決めて行くということですね?」と聞き直した記者に対し、「そんなことは言っていない。決められるような行き足はないから、自分のスタートを行くだけ、ということ」としっかり自分の意図が伝わるように訂正する様子を見て、いつものように気圧されつつも、その鋭い目は明らかにもう明日を向いていると思った。
DSC01533  取材の輪が解けた後のこと。赤岩を追って声を掛けた。「おめでとうございます。減量の……」と、ここまで言ったときである。「減量の成果が出ましたね。で……」と続くつもりだったのだが、ここで赤岩は話を遮った。
「あの、減量なんてそんなことは聞かないでくださいよ。誰でもやっていることなんだし、努力でも何でもない。体重がいつもより軽いということは、いつもは怠けているということなんだ。恥ずかしいことなんだよ。努力でも何でもない」
 震えた。こちらの目を見据えてこう話す赤岩に震えた。まったく“!”の付かないトーンであったことが、震えを倍増させていた。しかし、こうなってもなお、こちらの続く言葉を聞いてくれた赤岩に、震えた。
「すみません。明日の準優、頑張ってください」
「はい。頑張ります」
 いつもの言葉を残して、赤岩は整備場に消えていった。

 明日の準優は12R5号艇。明日の最終レース後、赤岩善生の前で僕はどちらの意味で打ち震えているのだろうか。もちろん、打ち震えるようなレースでの優出を信じている。(松本伸也) 

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赤岩善生がダービーを射抜く!③

DSC01344  昨日の4R、イン逃げで今節初勝利を挙げながらもプロペラの調整に勤しみ、2回走りの9Rで5着に敗れた後は、最終12Rの直前までモーターの整備と、“整備の鬼”と化していた赤岩善生。今日の出走は9Rの1回で、朝から時間的に余裕がある。この3日間、赤岩は「モーターやペラは納得している」と言っており、この時間をどんな“調整”に当てるのかを注目していた。体調や気持ちの調整として、のんびりリラックスすることもできると思ったが、やはり赤岩は整備室にいた。午前中はペラの調整に費やし、午後にはそのペラで試運転を行ない、陸にボートを上げてからはモーターのギアケースを外して整備をしていた。そうこうしているうちに9Rの展示の準備、という具合で、今日もピット内を歩いているのは、他選手のボート引き上げのときくらい。その時分に「こんにちわ」と声をかけてみたが、これまでのようにこちらに鋭い眼差しを向けつつ、会釈だけで通り過ぎていった。これまでは無言ということはなかったが、なにも言わずに歩き去った赤岩に感じたのは「気合いが入っている」ということだった。昨日までの“怖い”というのとは違う(怖くないということではないが)、“気合い”のオーラを出しながら赤岩は整備場に入っていった。
 さて、レースまでの間、出走表を見ていて気が付いたが、赤岩のここ3日間の体重は51㎏。公式データによると普段の体重は54㎏で、レースでもおおむねこの体重で出場しているそうである。それが今節に限って51㎏ということは、このダービーを狙って減量を自らに課したことは想像に難くない。ただ、狙ったレースに減量をして臨む場合、今年の桐生オーシャンカップでの江口晃生や、かつての宮島オーシャンカップ (平成12年)の西島義則など、地元SGで、というイメージが強いが、赤岩に関しては地区こそ同じ東海でも、純粋な地元ではない。三重で行なわれるこのダービーに対する思いはどういったものなのだろうか。
DSC01416  整備に整備を重ねて臨んだ9Rは、2コースから差し、インコースの倉谷和信、5コースの辻栄蔵とバックで併走したが、やや伸び負けしたように見えて3着に終わった。この結果に、また最終レース直前まで“整備の鬼”かと思いつつピットに行くと、果たして赤岩はペラの整備中。12R直前、JLCのインタビューが終わった赤岩を追いかけた。昼間の気合いのオーラではなく、9Rの3着という結果もあるのだろう、近付き難いオーラを纏った赤岩だったが、思い切って体重について聞いてみると、いつもの鋭い眼差しを向けつつ「ダービー勝率が1位で、ドリームにも乗せてもらえた。となればどうしても準優には進まないと、と思って」と短く答えた。初日のドリーム戦出場者インタビューでも「前期B1級に落ちたときに(注・低勝率だったのではなく出走回数不足のため)、勝率トップでA1級に戻りたかった」と語っていた赤岩。この勝率へのこだわりが、勝率上位52人が選出され、しかも1位での選出となったダービーへの思い、なのである。地元ではないが、選出1位に掛けて絶対に負けられない、それがこの減量。
「優勝? まずは準優」。そう締めくくった赤岩に、昨日同様に「明日、頑張ってください」と伝えた。その答えもまた、同じだった。
「はい。頑張ります」

 明日、予選最終日は11R5号艇の1回走り。準優ボーダーを6.00とすると3着条件(5点)である。決して楽な条件でないが、今日の結果に納得などいかず、また11Rまで“整備の鬼”と化しているだろう赤岩が、乾坤一擲の勝負を仕掛けてくることは間違いない。そして、毎日声を掛ける前に震え上がっている僕は、「こういう場面をかいくぐってくるのが大物」と、予選突破を勝手に確信している次第である。(松本伸也)

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赤岩善生がダービーを射抜く!②

DSC01394  この『競艇特集』の中で“整備の鬼”といえば今垣光太郎だが、今回の主役である赤岩善生も、今垣に勝るとも劣らない“整備の鬼”かもしれない。
 ドリーム戦1回乗りの昨日も、午前中はモーターの整備、午後はプロペラの整備にそれぞれ付きっきりで、整備室から出てくるのは他の選手のボートを引き上げるときくらいだった。そして、ドリームは4着に敗れこそしたものの「モーター、ペラも納得している」と、整備の成果があったことも口にしていた。
 それを受けての2日目、4R1号艇で出走した赤岩は、インから.15のトップスタートでしっかり逃げ切って今節初勝利を挙げた。引き上げてきたピットでは、チラッと笑顔も見せていたが、基本的にはいつもの鋭い眼差しのまま。公開勝利者インタビューでも「ドリームにも乗せていただいたわけですし、準優勝戦には乗りたいと思います」と、お客さんにも鋭い眼差しを向けていた。余談だが、この連載のタイトルである「射抜く」という言葉から、赤岩のイメージとして「スナイパー」が思い浮かんでいたが、この公開インタビュー中、対岸の横断幕に「格闘家・赤岩善生」とあるのを発見した。なるほど、格闘家はピッタリかもしれない。
DSC01367  納得していたモーター、ペラでの今節初勝利。結果も出たことで、もうあとは後半までノンビリしても不思議ではない。現に「納得した。もうなにもしません」という発言の後、整備場でもピットでもまったく見かけなくなる選手もいる。しかし、赤岩はそうではなかった。公開インタビューからピットへ帰った後のこと。「おめでとうございます、後半も頑張ってください」と声をかけると、「はい」とうなずいた赤岩はそのまま整備室に向かってペラの調整を始めた。後半出場する9Rまでの時間、出てくるのはやはりボートの引き上げくらいで、それ以外はペラ場に入りっきりである。
 そして出場した9R。6号艇で、スタート展示では4コースに入るなど前付けを狙ったが、本番では艇番通りの6コースに回らされた。結果、見せ場もなく5着。この着順も5番手だった西島義則が3周2マークで振り込んだために転がり込んできたものの、実質6着というものだった。
 引き上げてきた赤岩の表情は厳しい。これはいつもと変わらない、とも言えるが、表情が変わらない分、全体に「納得いかない」というオーラが漂っていた。
「やはり6コースは遠い。足色も変わらなかったし、ピット離れでコースを取られることがある以上、今回は取ろうと思っていたけれども」
 これだけを話すと、後は「以上です」と立ち去っていた赤岩。もう少しなにか聞けないか……と、いわゆる“出待ち”のように同じ場所で立ちつくしていると、ほどなくして現れた赤岩。変わらず鋭く漂うオーラに、思わずたじろいでしまい「明日、頑張ってください」としか言えないでいると、赤岩は昨日のようにこちらを見て、言った。
「はい。頑張ります」
DSC01358  そこから赤岩が向かった先は整備場だった。再びモーターを整備し、それが終わると12R直前まで再びペラを調整していた。初勝利を上げた今日一日、赤岩は“整備の鬼”であった。

 3走が終わって、得点率は6.33(19点)。赤岩の予選は5回走りなので、準優のボーダーが6.00とすれば、あと2走で11点が必要だ。厳しくはないが、決して気は抜けないところにいる。とはいえ、赤岩のこと。気を抜くどころか、明日の9R2号艇、1着で一気に当確となりそうな予感がするのである。(松本伸也)


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赤岩善生がダービーを射抜く!①

SANY0882  51回という歴史、そして1年間の勝率上位という実力一本の選考基準から、競艇界でも権威ある一戦とされているのが全日本選手権(ダービー)。第40回のダービーを制した長嶺豊さんは、今節のパンフレットにて「選手にとって、取りたい一番のタイトル」と書いており、あの加藤峻二も「他のSGに出る以上に、やはり勝率をしっかり取ってダービーに出ていたい」と語っている。
 今回、その伝統と権威のあるこのダービーに、選考勝率1位で出場を果たしたのが赤岩善生である。
 今年の前期勝率が8.42で、全選手トップの成績をマークするなど、一躍全国区に躍り出た赤岩。ピットなどで見せる、寡黙で眼光鋭いその様からは大物のオーラが溢れている。これまでのSGでは準優進出が1回で、GⅠの優勝もまだないが、選考勝率1位の実績はもちろんのこと、その大物感からは、この舞台でSG初制覇を成し遂げても何ら不思議ではないと確信する。
 今日一日、赤岩は午前中に複勝率36.6%の27号機の整備、 午後はプロペラの調整と、整備場に入りっぱなしであった。他選手のボートを引き上げる時に出てくるときも、寡黙で眼光は鋭いまま。「気合いが入っている」などと考える前に、とにかく威圧感を振りまきながら作業に没頭している。
 その最中にふと整備場を出た赤岩を追った。そして、今回の特注選手で取り上げること、節間に話を聞かせてほしい旨を告げると、赤岩は立ち止まって、眼光鋭い目でこちらを見た。ひとこと、怖かった。
「別にいいですよ。ただ、今日はちょっと忙しいんで」
 短い言葉だったが、OK、ということである。ホッとして「ドリーム、頑張ってください」と言葉を繋ぐと、赤岩はうなずいて選手管理棟に消えた。もっと時間があれば、整備場に入りっきりでの整備についても聞こうと考えていたが、そんなことを聞かずとも、その後ろ姿には「レースを見ててくれ」というオーラが漂っていた。
DSC01322  そのドリーム戦、6コースから追走し、3番手争いには食い込んだものの結果は4着。3号艇→スタート展示4コース→本番で大外6コース、という展開は思いも寄らなかったのだろう、レース後はピットから対岸にある大型映像装置を、例の眼光でじっと見つめていた。これまで以上に近寄りがたい雰囲気。
 足色は3番手争いでもヒケを取っていなかったし、ドリームなら4着でも7点。充分巻き返せるな、とその後に考えていたときに、赤岩はこんなレース後のコメントを出した。
「4号艇(今垣光太郎)にピット離れでやられた。それがすごく悔しい。モーターもペラも納得している。巻き返すように明日は頑張る」
 4着でも7点、なんて甘い考えをブン殴られたような赤岩のコメント。この結果に納得などしていない赤岩だからこそ、こちらがなんだかんだ考える前に当然のように巻き返すことだろう。明日は4Rと9Rの2回乗り。おそらく明日も、「レースを見ててくれ」というオーラとともに、赤岩はピットにいるはずである。(松本伸也)

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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!⑥~

DSC01202 「ちょっとは自信を持ってもいいんですかね?」
 もちろんです! という言葉に「そうなのかな……うん、じゃあ頑張らないと」と、海野は答えた。
                        
 MB記念最終日。優出6選手以外は総じてのんびりムードの今日、やはり海野ゆかりものんびりムードでピット周辺に現れる。他の選手のモーター格納作業などを手伝っている以外は、ペラゲージなどの荷物を整理して、のんびりのんびり帰り支度という案配だ。
「もうやることないんですよ。あとは広島の応援ですね」。11Rの特選A戦に市川哲也、12の優勝戦に西島義則、辻栄蔵と、海野をのぞく広島支部の3選手が登場する。海野自身はは最終日の2走を終えて、あとはこの3人のレースを待っているというときに、今節最後の話を聞いた。今節のこと、SGに出るということ、今後の“SG覇者への道”のこと……。
「全部終わりましたけど、やっぱり最後までレース勘が戻りませんでしたね……。これで次あたりからは戻ると思いますけど、やっぱり、60日のF休み明けにいきなりSGというのはツライですね。でも、それが“SGでよかった”というのもあるんですよ」
 わかりますか? という海野に、首をひねると、
「SGはホントにレベルが高い。だから、仮に転覆してもみんな避けてくれますから(笑)。ははは、でも冗談じゃなくて本当に。これはレース中の話だけじゃなく、整備もペラもみーんなすごい。さっき、同期の山崎智也選手がペラの話をしていたんですけど、聞いていてもなにがなんだか解らない(笑)。ホントにすごいところですよ、SGは」
 そんな中ではやっぱりまだまだです、なにも変わってないですよ、と溜息をつく海野だが、果たしてそうだっただろうか。
DSC01186  今日も、3号艇で出場した1Rでは、前付けした原田順一を2コースに入れて4カドにし、スタート一気にまくり切って快勝。この“ガッツ溢れる”レース、今なら断言できるが、つまりは“海野ゆかりらしい”レースを、何度も見せてくれたではないか。
「海野さんらしいレースを、このSGの舞台でも何度も見せてもらいましたよ」という言葉が冒頭の問いかけにつながる。そこには、多くのファンから愛されている笑顔があった。

 海野ゆかりの“女子選手初・SG覇者への道”は、ひとまず千里の道の一歩をこのMB記念で標して、次回に続くことになる。しかし、昨日も書いたように今年の残りのSGは絶望的なので、早くとも来年の総理大臣杯となる。
「昨日も言いましたけど、次はいつ出られるんでしょう。……あ、確か今年中に5回優勝で来年の総理杯か……。うーん、今年まだ0勝なのに、3ヶ月で5勝なんてできるんでしょうか(笑)。笹川賞は確実? なにを言ってるんですか! 来期にA1に残れるかもいまわかんないんですよ。そんなことでA1に入っても、忘れられちゃいますよ。だからとにかく頑張らないと」
 そこまで言った海野、ハタと気が付いて、こう締めくくった。
「頑張ればA1キープできるし、3回くらいは優勝できるでしょう。いや、3回はします。それならばあとちょっとで5回優勝もできますよね。もう、頑張ります。あまり間が空いてしまうとSGで勉強したものが、また忘れてしまう。出続けないと、“SG覇者への道”なんて言ってられませんからね」
 最後にもう一度、次のSG参戦がすぐ叶うことを信じて。
 頑張れ!海野ゆかり!!

(松本伸也)

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評論家の山本泰照さんとのツーショット。「いやあ、海野選手のようなべっぴんさんとの写真はテレますなあ」と、ホントにテレまくっておられました。


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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!⑤~

 SG、5日目のピット。準優勝戦に残った選手たちが、翌日の大一番・優勝戦を目指し、最後のモーター、ペラ調整にピットを動き回る中、残念ながら予選落ちとなった選手からは、どこかのんびりムードが漂っている。もちろん、気が抜けているのではなく、結果の無念さはキッパリと割り切ったうえでの、厳しい予選道中からの解放感。だから、どのSG(GⅠ)でも、予選落ちした選手は5日目、こちらが驚くほど笑顔だったり、のんびりとしてピット周辺に現れる。
DSC01112  海野ゆかりもそんなひとりだった。
 今日は4Rの1回乗り。4号艇で絶好のカド位置、しかも内側がF持ちの今村豊、深川真二(F2)であれば、スタート一気でまくり切れると思われたが、アウト6コースの中村有裕がスタートを決めて、逆に一気にまくられてしまった。結果は5着。中村以外の4艇とはスリット同体に近く、これは中村のスタートがすごかったということだろう。
 準優勝戦前のピットで顔を合わし、「(4Rは)しっかりまくられちゃいましたねえ」とサッパリした顔を見せた後は、突然現れた今村豊の「競艇選手と整体」というテーマのマシンガントークに笑顔でやりあっている。そうかと思えば同県の西島義則が出る準優のスタート時には、水面を見ながら優出を願って手を合わせて祈り、その西島の優出を満面の笑みで迎えるなど、とにかくリラックスムードであった。
 広島勢は辻栄蔵も優出を果たず祝賀ムードの中、改めて今日と明日、いや今節以降も含めた「SGでのレース」について聞いてみた。
「昨日までの予選ももちろんそうなんですけど、今日や明日というのは本当に“勉強するレース”ですよね。SGはもちろんですけど、強い選手と一緒にレースに乗っていると、本当にすごいなあ、勉強になるなあ、と感じるんですよ。先頭を走っているときだって、後ろからどんなターンが来るのかと考えなければいけないし、後ろを走って見ていても勉強になる。あ、後ろはあんまり走らないに越したことはないですけどね(笑)。」
DSC01123 昨日まで“ガッツ”溢れるレース、ということを毎日書いてきたが、この強豪男子相手での場慣れもやっぱり必要である。この“勉強”の場を増やすためにも、SGはもちろん、やっぱりGⅠにもどんどん斡旋してもらえれば、と本当に思う。
「GⅠですかあ……出たいというか、出ても結果がどうなるものやら……。(「長嶺さんもGⅠに斡旋してあげてほしい、と言ってましたよ」)そうですか……うん、頑張りますよ。“女子選手初・SG覇者への道”で頑張ります!」
 頑張ってください! そう見送ろうとしたら、「でも……次は私、いつSG出られるんでしょうね??」と海野。
 思い込みで「チャレンジカップは?」と口にしたら、「なにを言ってるんですか! 今年は全然ダメですよ。獲得賞金が全然ダメです」と苦笑い。その通り、今年は獲得賞金も現状で100位以下と、チャレンジカップも賞金王シリーズもおそらく選出されない。となれば、いちばん近いのは来年の総理大臣杯となる。驚いたことに今年は優勝も0ではあるが……。
 今年これから5回は優勝するか、来年の女子王座を勝ってください! やはりリラックスした笑顔で、「頑張ります!」と答えてくれた海野であった。(松本)DSC01111 DSC01121


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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!④~

SANY0095 「えええっ、なにか私に悪いことでもしたんですか!?」
 海野は驚いて顔を向けた。
 今日4日目、準優に向けて1、2着の勝負駆け(結果的には1、1着条件だったのだが)だった海野ゆかり。だが、結果を言ってしまえば、今日の成績は6、6着。前半4Rの6着にて、後半を待たずして初のSG準優進出の願いは絶たれた。
 昨日まで評論家の長嶺豊さんとタッグのようにして、“ガッツ”や“なんとしてでも”と予選突破に向けてハッパをかけてきていたが、このような残念な結果に終わった場合は、改めてどんな声をかけていいものやら……と本当に思う。ふたつのレース内容も、前半は西島義則にインを奪われて2コース差し、後半はアウトから差すだけだったが、どちらも取った手としては最善のものだっただろう。前半は差しじゃなくてまくれ! とか、圏外でも5号艇からインを取れ! などと言うのは明らかに暴論だし、おそらくそういうことが“ガッツ”溢れるということでないことは確信している。
DSC01034  それに、残念なのはもちろんこちら以上に本人、海野である。そんなことを思うと「残念ですね」という当たり前な感想しか、海野と向かい合っても出てこず、思わず「こんなとき、お話を聞くのは辛いですが……」と言ってしまった。そこで冒頭の“驚き”、となる。
 その反応に逆に驚いて、いえ、やっぱり勝負駆けに失敗されたわけで……と加えると、海野は「ああ」と納得したように続ける。
「残念でしたけど、今日のレースもこれまでレースを何千回も走ってきて、そのうちの1回なんですよ。そう思ってます」
 驚くほどあっさり、であった。確かにそうである。強い選手であればあるほど、1回の失敗、しかも準優への勝負駆け“くらい”で引きずらないはずである。しかし、海野が男子選手に混じってSGを勝つようになるためには、「これも1レース」と割り切っていいものなのか……。
「でも、4Rもインに入ろうと思ったら入れたんですよね。8Rも、いつもよりちょっと思い切って、大外に決め打ってレースに行ったら、スタート遅れちゃって(.30の6位発進)。インに入っていたら、スタート遅れなかったら……」
 残念、という表情。初日、いちばん最初に話を聞いたときも5、6着の後だったが、そのときにレース内容を聞いたときにはなかった表情だった。
 少々の間のあと、「まあ、それもレースですから。明日からも頑張りますよ!」と、笑顔を見せた海野。明日からはいわゆる敗者戦である。ただ、SGクラスの強豪に、のびのびと海野らしさを見せられる舞台といえる。 

 今回、「SG覇者への道」は予選敗退でいったん途絶えてしまった。しかし、2日目、3日目までの“ガッツ”と、今日のちょっとの残念が、千里の道の一歩になると、信じている。もちろん、明日の敗者戦もその一歩となるはずである。(松本)DSC01036


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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!③~

DSC00982  ポイントは1周2マーク、だった。

 今日は8R3号艇の1回走り。明日の予選最終日、“勝負駆け”に残るためにも、ここはなんとしてでも上位に入りたいレースである。
“なんとしてでも”。
 初日、「海野がSGを制するにはこの気持ちを持てるかどうか」と言い、2日目の全速ツケマイを見て「あれこそがガッツですよ!」と喜んだのは、評論家の長嶺豊さん。そしてその長嶺さん、今日のレース前にもこう囁いてくれた。
「このレースや。このレースで、海野が今後SGを勝てる選手かどうか判る。進入は3コースか、植木を入れて4コースか……。まくれる展開にはなるはずや。そこで昨日みたいなレースができるかどうか、やね」
 レースは最悪の状態から始まる。ピット離れで遅れた海野は、4コースどころか大外6コースになってしまう。さすがに大外は想定外だったのか、スタートもイン・川崎智幸の.11に対して、.24といちばん遅いスタートとなってしまった。この展開では、1マークは最内を差すしかなく、バックでは伸びていくも5番手。万事窮したかに思えたとき、注目の2マークを迎える。先制した川崎と植木などがターンした直後、超鋭角に差し込み、一気に大外に飛び出してきた赤いカポック。3着争いに加わり、そして2周1マーク、一気に3位へ浮上――
「モーターはいいんだけど、3枚の新ペラが合わなくて、どれを付けてもとにかく乗り辛い。今日のペラはおまけにピット離れまで悪くて。はああ……(笑)。でも、そういうことよりも、私自身が今回は60日のフライング休み明けで、レース勘が全然戻ってないんですよ」
“レース勘”に関しては以前に話をしたときにも言っていたが、今日、海野自身が感じた理由はこうだった。
「ターンする位置とか、まだ勘が戻ってなくて……変なターンをしていると思うんですよ」
 そのターンが1周2マーク。バック5番手から3着に上がることになった超鋭角差しだった。見ていた者、全員が“なんとしてでも上位に”と感じたターンだった。少なくとも、変なターンとは思えなかった。
SANY0902  決してひいき目ではないことは、レース後の長嶺さんの言葉が証明している。
「アウトはボクも想定外やったが(笑)、あの1周2マーク、すごいターンやで。これで明日も勝負ができる。よくやったわ」
 この言葉を海野に伝えると、
「ええっ、あの2マークが?? ホントですかあ(笑)」
 ホントです、みんなそう思っていますよ。そう付け加えると、ネガティブな感想ばかりだからか沈んでいた表情が、パッと笑顔に一変した。

 海野ゆかり、今日のガッツ溢れる3着で、明日の勝負駆けに繋がった。
「(明日)前半は1号艇だけど……」。そう、4Rは1号艇だが、2号艇が西島義則。当確の西島、ここでもインを狙ってくるのだろうか?
 いやいや、西島さんは当確ですから、2コースで同県の後輩のためにカベになってもらいましょう! その言葉に明るい笑顔を浮かべた海野。条件は1、2着、明日は勝負の1日である。(松本)


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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!②~

 やってくれた。海野ゆかり、今節初勝利。しかも昨日書いたとおりのレース、“ガッツ”溢れるレースだった。
 1R4号艇。外の艇が、それほどコースにこだわらない吉川元浩、中嶋誠一郎であることを考えれば、4カドが取れる状況だ。そして、ここでしっかりカドを取ったこともまた大きい。コース取りだって“ガッツ”のうちのひとつなのだから。
DSC00929  レースはカドから.07のスタート。早いスタートだが、インの平尾崇典が.03で、3コース原田順一、5コース吉川が海野と同じ.07。簡単に抜け出せる状態ではなく、センター3艇がほぼ同体で1マークを迎えることになったが、ここで海野の“ガッツ”溢れるプレーが炸裂する。全速ツケマイ。バック先制、まくり差してきた吉川を寄せ付けぬままに、レースは決着した。
 1マーク、同じ場面で同体からレバーを落として差しても、女子戦では差し抜ける、もしくは道中逆転があるかもしれない。しかし、ここはSG。差し抜けもなければ、逆転などもっとないだろう。この全速ツケマイこそが“ガッツ”溢れるレース、そのものだった。
 ピットに向かうと、海野よりも先に現れたのは、評論家の長嶺豊さん。そう、昨日登場し、海野にハッパをかけていった大先輩である。我がことのようにうれしそうに長嶺さんは言う。
「見ましたか、海野選手を。あの1レースこそが“ガッツ”ですわ。しっかり4カドを取って、1マークをまくったのが重要よ。あのレースでたとえ負けていたとしても、内容は大きいよ」
 長嶺さんがアドバイスしたおかげじゃないですか? そう問いかけると、長嶺さんは即座に首を振った。
「なにを言うとるの、全然そんなことはない。選手がすごいんですわ」
 モーター本体はもともとよかったようで、この1勝でペラ調整にいそしんでいる海野。「早くも“ガッツ”見せてもらいましたね!」と直撃すると、
「見えましたか? (長嶺)先輩からもそう言ってもらえているのはよかったですよ。まあ、あの態勢ならば握っていくのが私のレースですしね。そのレースをして、みなさんがそう感じてくれるのはいいことですね」
DSC00936  自分らしい=ファンがイメージしている通りの豪快なレース。そこに海野の“ガッツ”をみんなが感じたのである。みんなが知っている海野らしいレースがSGでも出ることが、海野がSGを勝ち上がっていく早道なのだ。
 この原稿のタイトルを海野に伝えた。
「“女子選手初・SG覇者への道”? いいですねえ(笑)。もちろん自分の夢でもあるし、なにより夢がある(笑)」
 明日につながる1着を取ったことで準優へのプレッシャーを感じるようになったのか、昨日の笑顔よりも少々堅い感じだったが、それでも最後に笑ってそう言った海野。

 楽しみであり、勝負でもあり、「多くの意味で重要(長嶺さん)」でもある明日は、8R3号艇の1回乗り。海野らしいレースが、きっと明日を飛び越え、予選最終日へ繋がっていく。(松本)
 


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女子選手初・SG覇者への道~頑張れ!海野ゆかり!!①~

SANY0268  ファン投票で選出される笹川賞に、6年連続出場。女子最強を決める女子王座決定戦では平成17年に優勝、それ以外の年も当然のように準優出、そして優出という成績を残している。女子の中で人気も実力も確実に3本の指に入っている選手、それが海野ゆかりである。
 海野にとって初のSGとなったのが平成12年の笹川賞。女子戦はもちろん、混合戦でも豪快なまくりを見せる海野のレースならば、予想以上の好成績をあげたり、人気薄でも大穴を開けたりすることがあってもおかしくはない――。実際はそんな期待通りにはいかず、2着すらない成績ではあったのだが、服部幸男と2着争いを繰り広げ、そこでは常に服部へツケマイを放っていたシーンもあったから、海野がSGでも好成績を挙げる日は近い、そう思えたものであった。
DSC00890  ところが、その後9節走ったSGにおいて、海野が残している成績は、とても好成績とは言えない。準優進出はなく、準優進出への“勝負駆け”に残ることすらも希だ。同じく“女子3本の指”に入るだろう日高逸子が、たいてい準優進出を狙える成績を挙げていたり、実際に準優出しているのをみると、これは寂しくもあり、また謎でもある。海野にとって、SGで足りないものとはなんなのか?

「海野選手が初めてSGに出てからこれまで、SGに対してなにか変わったことはありますか?」
 初日の2走を終えた海野に、ピットでこう訊ねてみた。今日の結果は6、5着。前半レースの後、モーター調整室に直行して、白石健や中澤和志のアドバイスなども受けながら行なっていた調整も、結果的には功を奏さなかった。2走の結果に沈痛な表情を浮かべていた海野だったが、この質問に笑みも浮かべつつ、こちらを振り返った。
「それ、前にも聞かれましたよね(※実はSG初出場直後、「SGに出て、なにか変わりましたか?」と聞いたことがあった)。いま思い出しました。ウフフ。でも、そのころからなにも変わっていないんですよ。それはやっぱり結果が出ていないから……はああ」。
 残念ですけど、と溜息をつく海野に、SGでも好成績を挙げる日高逸子の名前を出してみると、恐縮しつつ「いや、日高さんとは違いますよ。やっぱりね、ガッツが違います」と言う。そこに間髪入れず「そうやね、気持ちの問題やろうね」と登場したのは、評論家の長嶺豊さん。
DSC00896 「“綺麗に勝とう”と“なんとしてでも勝ってやろう”の違いよ。海野の場合は素質はすごいあるんやから、なんとしてでも、というガッツさえあればいいんよ。でもな、それはSGやら記念やらに呼ばれんことには難しい。女子戦なら勝ててしまうやろ? いまは男子も、女子と一緒にSGやることが普通になってきとる。昔、鵜飼(菜穂子)がSGに来ていたころなんて、必要以上に“負けてなるもんか!”ってレースをしてたけどな(笑)。いまはそんなことはないんだから、あとは自分次第でどうにもなるで」
 神妙に聞く、というよりは、「まあ、ボクがやれるかと聞かれてもムリなんやけど(笑)」と言う長嶺さんと、談笑しているような雰囲気だった。
「昔、選手をされていた時は会うこともできない先輩だから、怖かったんですけど(笑)」と笑う海野に、「そうやな。でも、いまもSGでしか会えないんやから、頑張れよ。ガッツを出して……って、まあ海野の性格じゃムリか(笑)」と笑って去った長嶺さん。その言葉にズッコケつつ、沈痛な表情とは正反対の笑顔で、明日へ続く試運転へ海野は向かっていった。

 海野が「SGに出てからなにも変わっていない=結果が出ていない」と考えるのは、やはり女子戦ならば結果が出てしまうからだろう。それだけに、「SGや記念にもっと呼ばれれば」と思うが、現状では年に何度もチャンスがない。だからこそ、明日、長嶺さんも言う“ガッツ”溢れるレースを見せてほしい。
 あすは1R、4号艇の1回乗りだ。行け、海野ゆかり!(松本)


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西島義則~最強時代を再び!⑥~

SANY0100 「これからの、というか、ずっと持っている目標は賞金王に勝つこと。まだ勝っとらんわけやしねえ。そのためにはまず、SGに出続けなければならんけえ。まあ、人間にはバイオリズムというか、それこそ競艇ならばペラがいいとか悪いとかあるけど、いいふうにはなっとるんやないかのう」

 11レース、特別選抜A戦。2号艇からインを奪取、今節最後のレースで、代名詞であるイン逃げを決めた西島。前半で5着に敗れたときは、昨日の準優後のような憮然たる表情だったが、最後を勝利で締め、笑顔でピットに戻ってきた。ダッシュでカポックを脱ぎ、ダッシュのまま整備室へ向かってモーターを格納する。その後しばらくして、西島が目の前に現われた。しばらく時間は過ぎたとはいえ、レースを終えたままの状態の西島は、汗びっしょりの状態である。
 正直に書こう。この6日間、西島に声をかける前は、いつも恐る恐るだった。ベテランであり、やっぱりちょっと強面。いつ見ても、親しげに話しかけている人はいない。今日にしたって、1日過ぎてはいても準優後のあの表情は覚えている。勝ったとはいえ、いま話しかけて相手にしてもらえるのかわからなかった。
 通り過ぎようとしている西島に「おめでとうございます。落ち着かれたらでいいんで、お話を……」。覚悟を決めて声をかけた。すると西島は「ありがとう。いまでいいですよ。なに?」と、これまでは歩きながらの中、立ち止まって自分のほうを見ていた。
「西島最強」の時代が面白かった。今回いちばん最初に書いたことを、そのまま西島にぶつけた。今節のことなどではない質問に、少々意外そうな顔をしたあと、西島は話し始めた。それは「そうじゃろう!」と言っているような内容だった。
「このねえ、枠なりばかりのレースだとねえ、お客さんも面白くないと思うんよ。これは進入のルールも関連しているとはいえねえ、進入の推理はわしら選手にも、お客さんにも必要やけえ」
SANY0099  そういうルールであっても、縦横無尽に動いている西島さんが面白いんです。これからもどんどん動いてください! そう繋ぐと「そりゃ動くけえ。ドンドン動きます」と笑った西島。それから冒頭の「賞金王を勝ちたい、そのためにはSGに」と話は進んでいく。その間、西島はずっとこちらの目を見ていた。優勝という結果は出なかった。しかし、今節の仕事をやり終えたという仕事師の目だった。

「応援の記事を書いていた? わしの? それはありがとうございます」。「応援」という言葉にちょっと驚いてから、笑顔で立ち去って行った西島義則。このオーシャンカップでは「西島最強」時代復活の最終章までは辿り着かなかった。しかし、積み上げた4勝の決まり手が逃げ・まくり・差し・まくり差しいう手のつけられなさ加減。さらに最終日に見せた5号艇、2号艇からインを奪うという西島の真骨頂ともいうべきコース取りは、「西島最強」時代復活へ、「つづく」以上の期待感をもたらしてくれた。
 西島の次回SGは1ヶ月後の若松・モーターボート記念。わずか1ヶ月後、九州の地で「西島最強」時代が再び幕を開けることを、確信している。(松本伸也)


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西島義則~最強時代を再び!⑤~

 ひとこと、残念な結果となってしまった。西島義則、準優10レースにて3着敗退。優勝戦進出、そして3年2ヶ月ぶりのSG制覇への道は5日目にして閉ざされた。

DSC00747   その準優10レース。まず注目の進入コースは2コースだった。スタート展示でもピット離れで1号艇の濱野谷憲吾を交わせなかった時点で、無理をしない2コースに入っており、本番でもまったく同じ形で舳先をスタートラインに向けた。そしてスタート。6コースの山本浩次が.03で飛び出したものの、西島を含む内側5艇が.10前後でほぼ同体で、山本のまくりは西島までは届かない。ただ、西島もインの濱野谷をまくるまではいかず、1マークは差し、逃げ切った濱野谷を追走する。これならば2着で優出である。
 そのあと異変は起こった。1周2マーク、他艇の突進を交わすべく握って回った西島の内に、差した山本が並ぶ。昨日のすさまじい伸び足から、ここから突き放して2周1マークで決着と思われたホームストレートで、西島は伸び負けた。逆に1マークで決着を付けられてしまっていた。山本によれば「昨日までは西島さんに負けていた」という。もともと評判がよかったわけではない西島の40号機。山本らが機力を上げてきた中、ここが一杯だったのだろうか……。
 3着のまま、ピットに引き上げてきた西島。艇旗のポールを折り曲げそうにしている指。そしてその顔は、ただただ憮然としていた。
 今日の昼、試運転を1周したあとは、ペラ調整室か選手控え室にいるなど、ほとんど姿を見せなかった西島。夜のスタート練習に参加した後に声をかけた。まずは挨拶をしたところ「はいっ。あ、話は後にして」と立ち止まることも振り返ることもなく控え室に向かった。昨日までとは違う厳しい表情。
DSC00794 この「後に」が準優後であることは、もちろんわかっている。そしてその準優後、厳しい表情以上の憮然たる表情で控え室に去った西島。「3着に負けたのは自分が付きまとったからではないか……」そんなことまで感じつつ、どんな声をかけることができるのか……。
 ピットの2階から、頭をかきむしりつつ西島が降りてきた。「あの……」に無言で通り過ぎたあと、「明日も頑張ってください」とどうにかかけた声に、「はい」という返事とともに左手が上がったように見えて、再び控え室に入っていった。

 明日の最終日、8レースと11レースの特選A戦に西島は出走する。「西島最強」時代の復活は、ひとまずお預けとなった。しかし、「そのきっかけになった」とのちのち言われると信じる西島の桐生オーシャンカップは、まだ終わらない。(松本伸也)


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西島義則~最強時代を再び!④~

  オール連対、得点率9.50のトップで迎えた予選最終日。無事故完走で当確の今日、気になることを発見した。

 DSC00656 それは、前検から今日までの西島の体重である。主催者発行の公式プロフィールによる西島の体重は58キロ。とはいえ、さすがにこの体重で出走することはないようで、前走の徳山周年記念も常に55キロ前後で1節を走り終えている。それが今回は前検時54.6キロから、初日に52.9キロ。2日目52.2キロ→3日目51.7キロときて、今日4日目は51.6キロ。前検日からの5日間(中止になった1日も含む)で、3キロの体重減となっている。

 当然ながら、「自然と体重が減った」なんてことはいまさらないわけで、この体重減は自らの意志による減量だ。普段は重目の西島が軽くなることは、二重のアドバンテージとなる。そして西島で減量、もっと言えばオーシャンカップとなれば、思い出されるのは初回にも書いた地元・宮島のオーシャンカップ。「西島最強」時代の象徴と言っていいレースである。

DSC00654 夜の特別スタート練習を終え、足早にピットの2階へ向かっていた西島に、「体重のことなんですが……」と聞いてみる。「ん、体重? ……ああ、減量ねえ。まあしとるよ。特別になにかをしとるわけじゃないけえ、ちゃんと3食、別に食事を抜いたりはせんで、量を普通より食べとらんのよ」。歩き続けながら西島は言う。「夏は暑かったり、湿度であったり、いろいろあるけえ、軽くないとモーターも出んからねえ。別に今回減量してるとも思うとらん」。そこに「でも、減量でオーシャンカップとなると、宮島を思い出しますよ」と繋ぐと、少し間をおいてから「そうやね」と西島はこちらを振り返って答えた。そしてその後、「ちゃんと3食」の言葉どおり、「食堂」に西島は消えていった。

  DSC00706 今日のレースは7レースの3号艇が3コースから4着。全艇揃ったスタートで、1マークで行き場がなくなった形となり、オール連対が途切れる4着。レースとしては盛り返しての4着とも見られたが、レース後は囲み取材もなく即座にボートに戻り、ペラをはずして調整室へ。それが功を奏したのか、後半の11レースは6号艇から当然動いて3コースに入り、4カドからトップスタートを決めた中澤和志を止めたあと、インの松井繁を差すという大立ち回りで2着。そこでの伸び足はすさまじいものがあった。レース後、1周2マークのダンプを謝りに来たのか(?)、何事か近寄ってきた中澤に、「まあ、みんな勝負がかかっとるけえ」と笑顔を見せた西島。おそらく今日始めて見た笑顔。得点は落としたものの、堂々4位で予選を通過しての笑顔だった。

 明日の準優は10レースの2号艇。「無理はしない」けども「当然インは狙う」という西島。この予選突破が「西島最強」時代復活の第一章。第二章となる明日の準優。またもや体重を減らしてくるであろう西島が、10レースに登場する。 (松本伸也)


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西島義則~最強時代を再び!③~

 予想されたとおり、いや、予定されていたとおりと言ってもいいかもしれない。西島義則、得点率トップで予選3日目に準優当確!(得点率6.00と想定。以下同じ)DSC00526

 本日は8レース4号艇で1回乗り。まずはスタート展示で3コースに入り、展示航走を終えてピットに帰還する。ここから本番までの間、選手はトイレなどへ行くために、目の前に現れることがあり、西島も出場選手控え室から出てきていた。さすがにいま声をかけるのははばかられるな、と思っていると、その西島が「ハッ!」と一言発した。咳払いだと思うが、それはやっぱり気合を入れたように聞こえたのだった。
 そして本番。西島も好ピット離れでインを狙うが、1号艇の菊地孝平がそれをブロック。さらに展示では動かなかった5号艇の木村光宏がインを奪うべく動いてきた。それを阻止しようと菊地がすぐ艇を向け、木村がすぐ隣の2コース。それを見た西島はゆっくりゆっくり、悠然と3コースに入った。うちの2艇は深い。DSC00530
 スタートは内2艇がそれぞれ.17、.20のスタートに対し、西島は.27。助走距離があるおかげでそこから伸びるだろうが、ちょっと差がありすぎるのでは……というのはまったくの杞憂だった。スリットからグングン伸びた西島は、木村をまくりきった後で、インの菊地孝平も鋭角に差し切ってレースを決めた。何度も書いたが「インに入らなくても圧勝の連続」が「最強の西島」の真骨頂。まくり、差しにまくり差しまで加わったこの3連勝は、ここ桐生にいるのが「最強の西島」であることを完全に証明していた。

「無理してコースを取るよりはモーターの伸びを活かしての3コース。ペラを調整してかかりもよくなったけえ、回り足もあるし、あんなまくり差しができたんよ。ペラはもうちょっとやけえ、モーターよりペラやね」

 嬉しい3連勝&準優当確でも、笑顔というより淡々と答えていた西島。で、ありながら、控え室から再び目にしたときには、ウチワを手に余裕の表情で整備控室に座っていた。余裕でありながら、目は明日と、その先にある準優の好枠へ向いている。明日の後半は11レース6号艇。決して緩めることなどない「最強の西島」は、1号艇が松井繁だろうとも、当然のようにインを狙って動いてくるはずである。(松本伸也)DSC00535


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西島義則~最強時代を再び!②~

DSC00402 「西島最強」時代、復活の狼煙は見事に立ち上った!
 今日の5レース5号艇。昨日「当然インを狙う西島が圧勝するようなら……」と、書いたとおりの結果になったのだ。スタート展示でしっかりインを奪取。本番こそインには入れず3コースとなったが、そこからまくりを決めて1着。「すんなりインを取って逃げ切り」も強い西島だが、「インに入れなくても相手をねじ伏せてしまう」西島はそれ以上に強い。まさに「西島最強」時代の西島が登場したのである。

 レース後、ペラ調整室でペラを叩き、そのペラを整備室でずっと磨いていた西島。「モーターは前回も出ていたようじゃけえ、ペラだけよ。まだ合わないけえ」と取材陣に語っていたが、取材陣の輪から離れたあと「ナイターは苦手とのことですが……」と聞いてみた。開会式で波ともうひとつ、ナイターが苦手と言っていたからである。後半は最終の12R。
「ん? いや、波は苦手だけど、ナイターは苦手ってことじゃないんよ。気温の差が激しいけえ、難しいんよ。12Rだって、いけると思うしねえ」
そう語り、調整し終えたペラを付け終えて、西島は控え室へ消えていった。

DSC00401
 その「いけると思う」12レース2号艇。艇番どおりの2コースに座った西島は、インの三角が.07のトップスタートを決め、対する西島は.14。どう考えても三角のイン逃げのはずが、なんとそこから西島の差しが決まっていたのである。2マークを待つまでもない圧勝。前半に続いて、「インに入れなくても相手をねじ伏せてしまう」西島だった。ピットに凱旋し、西島のモーターを運んだ今村豊の「西島ー! 今日の占いバッチリだったな!」の声に、「ドンピシャじゃ!」と笑顔で応える。今日はこれで2連勝、得点率は3位の9.33である。DSC00442
 JLCのインタビューを終えた西島は「連勝おめでとうございました!」の声をかけると「おおっ!」と笑顔で控え室に向かった。予選道中はあと3走。あと8点の得点は明日にもクリアしてくれるだろう。いま桐生には「最強の西島」がいるのである。(松本伸也)


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西島義則~最強時代を再び!①~

平成12年6月~平成14年6月。この丸3年間は「西島が最強」の時期だったと思う。
SG7勝の実績のうち、この期間だけで5勝。戦法は1号艇でも6号艇でも妥協なきイン戦で、結果は圧勝。で、そうかと思えば6号艇で前付けも、巧みにブロックされて3コースに回されたにもかかわらず、豪快なまくり差しで優勝した尼崎笹川賞(平成14年)などもある。インに入れば楽勝、そうでなくても圧勝。手が付けられないとはこのことだった。
なかでも圧巻は平成12年の宮島オーシャンカップ。1ヶ月前の下関グラチャンを制して、地元に戻ってきた西島は、普段58キロ前後(公式データによる)の体重が日に日に減っていき、見事優出した最終日には49キロと体重調整をするまでになっていた。その痩せた顔はあたかもガイコツを思わせるほど鬼気迫っており、その執念は2周1マークでの世紀の大逆転優勝を呼んだ(植木通彦と島川光男の大競りを差す)。さらにその1ヶ月後の若松モーターボート記念も制し、SG3連勝まで達成したのだった。
ところが平成14年6月、やはり宮島で行われたグラチャンの優勝戦。ドリーム3着のあと、準優まで6連勝。誰にも手が付けられない状態だった西島が、まさかのFをしてしまう。これによって西島は向こう1年のSG出走停止。その後、SG戦線に復帰はしたが、優勝はおろか準優進出もままならないことが多く、当時の「西島最強」には程遠いのが現状である。DSC00293
そんな現状である……が! 西島が大活躍していたSGは面白かった! とにかくインを狙う西島に、入れたくない他の選手との駆け引き。うまく外に出しても、豪快にまくりを打ってきたりする西島。枠なりになることが多い現在のレースよりも、「西島最強時代」が断然に面白かったのである。
そんな西島の復活を、大減量の宮島と同じオーシャンカップの舞台で願うものである。

初日の西島は1号艇の4Rを1回乗りで、結果は2着。当然のイン戦で2着となってしまったが、6コースからまくりに来た須藤博倫を弾いたためにヘタすれば4着もある状態で、1周2マークで見事な差しを決めた。「苦手」(開会式にて)な波が8センチも立つコンディションでもあったにもかかわらず、だ。
レースを終えてピットに戻ってきた西島は、ウチワを腰に差したスタイルでエンジンの点検とペラの調整を行なっていた。会話の間には笑顔も見える。決して悲観する状況ではないだろう。DSC00152
明日は5Rと12Rの2回乗り。後半の2号艇はともかく、前半は5号艇だ。当然インを狙ってくるだろう西島が、さらに圧勝したら……西島復活の狼煙が上がったと見ていいはずだ。(松本伸也)


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重成一人~たった一人の挑戦⑤~

 最終日の午後1時、重成一人はサバサバした表情でピットを歩いていた。準優3着。内の平石、外の西村が強硬なツケマイを打ったため、両者に挟まれる感じで最内差しに。窮屈な差しでは、さすがに優勝戦への道は遠かった。
DSC00615 「まあ、こんなもんですよ、まだまだです」
 重成は少し自嘲気味に笑ってから、準優を振り返った。
「判断が少し遅かった。内の2艇より、カドから攻めてきた西村さんが目に入っちゃって。絞られる勢いだったんで、まずはガードしようとしたんです。壁になってからまくり差そうとしたんですけど、遅かったですね。いっそのこと、西村さんを気にしないで一気にまくっていれば……」
 少しだけ悔しさが顔に滲む。だが、優出を逃した悔しさとともに、5日間エンジン全開で走り遂げた充実感もあるはずだ。優出まであと一歩に迫った今節、重成は何を学ぶことができたのか。
「そうですね……モーターさえ良ければ、このメンバーでも互角に戦えるっていう手ごたえは感じました。でも、あくまでモーターが良ければ、です。今節にしてもモーターに連れてってもらっただけですから。ハートもテクニックも、まだまだ弱いって思い知らされましたね」
 ハート? 俺は思わず復唱した。今節はスタートも1マークも、かなり強気に攻めていたではないか。ハートの弱さは、さほど感じられなかったのだが。
「つまりは自信です。まだ、本当の自信がないんですね。だからギリギリの勝負で勝ちきれない。モーターが並だったら、もう話になってないっスよ。本当の自信をつけないと……それを身に染みて感じました」
 でも、準優に進出したことで、その自信が少しでも付いたんじゃないですか?
 この質問に、重成は少し間を置いて「そうですね、そうかもしれない」と呟き、それから「でも」と言った。
DSC00674 「でも、まだよくわからない。少し自信が付いたかもしれないけど、次のSGまで待たなきゃいけないじゃないですか。また自信をつけられるのがいつになるか……いつまで待たなきゃいけないんだろ、っていうのが今の正直な気持ちです。本当に、次はいつになるか、本当にわからないから……」
 モーターの良否に関係なく、常にSGで好成績を残す選手でありたい。そんな気持ちを定点観測で確認できるのは、やはり極限のレースが続くSGでしかないのだろう。
「ありがとうございました。まだレースが残ってるんで、最後まで頑張ります」
 重成は静かに頭を下げて立ち去った。それから1時間後の8レース、重成は6コースからキップのいいまくり差しで2着。そして、11レースの特別A戦では上瀧の強引な前付けに怯むことなくインを死守し、深い進入をものともせずトップスタートから逃げきった。ブッチギリの道中でも、重成は思いきりのいいモンキーを連発した。次はいつ訪れるかわからない自信を持って乗ることができるSG水面の感触を噛みしめるように。
 焦る必要はない。香川地区からたったひとりで参戦し、準優進出で「香川に重成一人あり」を全国に知らしめた。それだけで、自分ではわからずとも大いなるハートの糧になったはずだ。今節のようなレースを常に心がけていれば、やがてSGは向こうから近づいてくるだろう。
 お疲れさま、そして、素晴らしいレースをありがとう。(畠山)


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重成一人~たった一人の挑戦④~

DSC00475  1レース、重成一人はゆっくりとインに構え、コンマ14の踏み込みから準優勝戦への先マイを果たした。道中で市川哲也に競り負けはしたが、この2着で節間勝率を7・00まで伸ばし、準優でのセンター枠を自力でもぎ取った。
 スタート、インからでもしっかり行けましたね。
 午後のピットでこう切り出すと、「はい!」と大きな声で答える。
「イン戦を考えてチルト0用のペラにしたんです。それでも伸びると思ったんですけど、あかんかった。思ったより全然伸びないんで、ビックリしました。市川さんにやられてましたね。無理に行けば頭を取れたかもしれないけど、ちょっとビビっちゃったし(笑)」
 昨日のすがすがしい笑顔とはひと味違う、底抜けに明るい笑顔。プレッシャーから完全に開放された顔があった。もちろん、明日の同時刻になれば、この笑顔も消えていることだろう。準優ではインを取れるわけもなく、センター~アウト戦になるはず。どのペラで行くつもりなのか。
DSC00507 「う~ん、もちろん相手によって違ってきますけど、おそらくチルト05用のペラだと思います。やっぱ伸びがないと苦しいですから。そのペラだって、スローでもダッシュでも大丈夫だし」
 自信に満ちた顔。今日のレース後はほとんどペラ整備室にこもって、微調整に専念していた。本体には初日から手ごたえを感じていたが、4日目にきてペラでも当たりの感触を得たとみた。
 では、準優勝戦に向けての意気込みを、読者の皆さんに聞かせてあげてください。
 この申し出には「は?」と照れくさそうな表情を見せてから、静かに話しはじめた。
「そうですね、正直、準優進出というノルマは果たせたんでホッとはしてるんですよ。でも、ボクにもチャンスはあるんで、精一杯頑張ります」
 当然のことを言っただけなのだが、一瞬ドキッとした。伏目がちに話していたのに、「チャンスはあるんで」の部分だけ顔を上げ、キッと俺を睨んだのだ。本当に一瞬だけの鋭い眼光だった。いつもの好青年ぶりとは別次元の、勝負師の面構え。ドキッとしながら、そうでなくっちゃ、と思う。そして、この男なら、とも思う。それくらいの厳しいレースとプレッシャーを、今節この若者は乗りきってきた。準優はノルマでもあるが、単なる通過点でもある。重成の目は、そう語っていた。
 明日の準優勝戦、重成は12レースで再びインの松井繁に挑戦することになった。一昨日は完璧なまくり差しを決めながら、凄まじい2マーク差しで逆転を喫している。どうすればこの鬼神の如き男に勝てるか……きっと明日の重成には「2着でもいい」という気持ちはない、と思う。(畠山)

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重成一人~たった一人の挑戦③~

DSC00466  12レース、1回走り。4号艇の重成一人は外に熊谷直樹を従えて、迷うことなく5コースのカドに引いた。ただ、起こしのタイミングには迷いがあったはずだ。
 伸びはきましたか? こう質問したのは、10レースが終わってから。重成はトホホ顔で首を横に振った。
「それが、参りましたよ~、今日は朝に本体を割って、リングを1本換えたんです。で、試運転してみたら、ムッチャクチャ足が落ちちゃって……なんとかかんとか整備して、昨日と同じくらいにはなったんですけどね。それからペラにかかりっきりで、仕上げの試運転ができなかったんですわ」
 つまり、ペラを整備したものの、どれだけ良化したのか把握できないまま本番に臨むことになったのだ。これは怖い。想像以上にペラが当たっていれば、Fにつながる危険がある。その逆ならドカ遅れの危険が……スタート展示の気配と展示タイムだけを参考にして、目分量で起こさなければならない。ただでさえF持ちなのに。
 じゃあ、できる範囲でスタート、行くしかないですね。
 俺が追随すると、重成は「そうなんですよね……でも、頑張ります」
 12レースのスタート展示。4コースのスローを選んだ重成の艇は、スリットからスッとひと伸びしたように見えた。
 あ、伸び、きてるじゃん。
 そう感じたし、展示タイムも松井繁と並んで6・65の最高タイムをマークした。ただ、それはそれでスタートがさらに難しくなる。「出る」と思えば、どうしても起こしで慎重になってしまうだろう。かといって、合わせスタートではスリットからの威力が半減してしまう。
 行けるのか、おい。
 5カドに引いた重成より一瞬早く、アウトの熊谷が起こした。重成の艇が半艇身ほど遅れている。
 やはり、慎重になったか……これじゃ届かないな。
 俺は勝手にあきらめて、重成の心の重圧を労っていた。

DSC00448  が、それから重成の艇はググッググッと熊谷の艇に近づいていった。そして、スリットでズルリと熊谷を引き離した。おそらく、全速。一瞬にして他艇を置き去りにした重成のボートが、心地良さそうに内側のボートを絞ってゆく。後で知ったのだが、コンマ13の快ショットで重成はスリットを通過していた。それは昨日、重成がスリット写真を指差し「ここまで踏み込んでいれば、まくり差しできたかも」と呟いた、まさにその地点だった。
 昨日、重成が悔しさとともに頭の中だけで描いた航跡が、現実の弧を描いてゆく。1号艇の松井繁を回し、マイシロをたっぷり取って鋭角に切り込む。水面が裂けるようなまくり差し。だが、節一級のモーターとテクニックを兼備した松井の旋廻も凄まじく、惜しくも1周2マークで逆転を喫した。2着……。

DSC00475

「ありがとうございました~!」
 ピットに帰った重成は、他の5選手に深々と頭を下げた。その顔には昨日見せた悔恨の色も、2着に負けた無念さも感じられなかった。ベストを尽くして、松井にだけやられた。そんなすがすがしさが、笑顔に溢れていた。
 俺も思う。よくぞレース前の整備時間のロスや1日早い勝負駆けのプレッシャーを克服して、あんなスーパーショットを決められたものだ。昨日と同じ過ちだけは犯したくはない。その決意を手探りのままで貫き通した度胸と潔さに、俺は感動さえ覚えた。
 昨日、思い描いていた1マークが、そのまま実現できましたね。
 青いカポックを脱いだ重成にこうぶつけると、「いや、はは、よかったです」と照れくさそうに笑う。
「こらぁぁぁ重成ィィィィィ、ちゃんと仕事(まくり差しではなく、松井まで絞りまくり)しろ、仕事。俺が早めに引っ張ってやったんだからな~」
 差し場のなかった熊谷が、茶化すように言う。
「あ、すいません。すいませんでした」
 重成は熊谷にペコリと頭を下げてから、また実になんとも嬉しそうに笑ったのだった。
 これで節間勝率は6・75。明日は1レース1号艇の1回走りという絶好の条件が揃ったが、まだ準優が決まったわけではない。
「まだ当確じゃないですんでよね、はい、とにかく、明日も頑張るしかないっス」
 こう言い残して、重成は足早に立ち去っていった。


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重成一人~たった一人の挑戦②~

「いやぁ、(ハンドルが)入らんかったっス」
 10レース、水面からピットに戻った重成一人は、緑のカポック&ヘルメットを装着したまま苦笑いを浮かべた。が、目は笑っていない。6号艇、6コースで6着。ほぼ同体のスリットから果敢にまくり差しを放ったが、引き波に乗って減速し、そのまま他艇の水しぶきを浴び続けた。昨日が1着、今日の3レースでは植木に競り勝っての2着。「ブッ込んでくんで、よろしく!」(byパチスロ『鬼浜』)と叫びたくなるほど準優まっしぐらの勢いだったが、この6着で一気に節間勝率6・33まで落ち込んでしまった。

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  「うん、最大の敗因はスタート(コンマ27)に尽きますね」 読者プレゼント用のサインを書きながら、重成はこのレースを振り返りはじめた。

「全速では行けたんですが、遅すぎる。3レースはゼロ台だと思ったら、14だった。勘より届いてないんだから、もっと踏み込まなきゃいけないのに……ね、ここまで行ってたら、楽に絞れたんですよ」
 スリット写真の自艇の1艇身先に指を当てて、悔しそうに首をひねる。納得のできないスタートでも、ギリギリまくり差しに入れそうなシーンまであった。だからこそ、悔しさもひとしおなのだ。
「1マークで平石さん(5コース)を見すぎちゃって……すぐに動いたら、絶対に張られるでしょ。だから、少し待ってから動いたんですけど、ほんのちょっと待ちすぎたんですよ。その分、ハンドルを入れる角度がなくなって突き抜けられなかった。引き波にも乗ったし、角度が浅い分、流れて村田さんにぶつかりそうだったから、減速するしかなかった。決め撃ちすれば、いけてたかも……」
 これが一般戦なら、今日のような展開でも楽に突き抜けられたはず。まくり差すには決め撃ちしかない。全艇が見る前に動く、SGの厳しさ。俺が見た限りでは、あのタイミングが最善だったとしか思えないのだが、おそらく100分の数秒ほど遅かったのだろう。
「それから、全速で行ったわりに思ったほど伸びませんでしたね。10レースはアウト確定だから、前検のペラ(2番時計を叩き出した伸び型ペラ)に換えたんですよ。でも、たいしたことなかったなぁ。何が悪いのか、また考えます」

DSC00269   後悔と反省と迷いと疑問と……たったひとつのレースから、課題が山のように生まれる。そして、その課題のひとつひとつがSGレーサーとしての糧になっていくのだと思う。
「とにかく、スタートはしっかり行かなきゃ」
 最後にこう言って、重成は足早に去っていった。昨日のひょうきんなまでの笑顔は、一度も見せなかった。明日は12レースの1回走り。1号艇の松井繁が仁王立ちで立ちはだかる厳しいカードだが、まだ時間はたっぷりある。SG経験の浅いこの若者が、どこまで難題をクリアして本番に臨むことができるか。俺としてはその動向を追いかけることになるわけだが、ただひとつ、これだけは予言しておきたい。
 明日の12レース、重成一人はスタートを決める。(畠山)


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重成一人~たった一人の挑戦①~

DSC00266  その名のとおり、香川地区からたった一人で下関に乗り込んだ26歳の新鋭・重成一人(読みは「かずひと」です)。デビュー時からその端正なマスクはかなり評判になっていたが、実力もルックスと肩を並べるほどに成長した。今日の5レースでは、枠なりの2コースからしっかり踏み込んで快勝。前検2番時計の伸び型モーターを存分に生かしきって、勝ち点10をもぎ取っている。
「いやぁ、昨日の前検はチルトを1・5に跳ねて、時計だけ狙ってましたから。前検だけでも1等を取りたくて(笑)。まあ昨日ほどではないにしろ、伸び型は伸び型なんですよ。今日は回り足なんかもつけて伸びは落ちましたけど、乗りやすさもあって手ごたえは感じてます」
 夕方のピットで元気に話してくれた。明日は3号艇と6号艇の2回走り。3レースの3号艇は無難にこなせるとして、問題はやはり最アウトになりそうな6号艇の10レースだろう。ここで重い着を取ってしまっては、せっかくの1勝が台無しになってしまう。胸中の作戦やいかに。

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「そっすねぇ、前検みたいに思いっきりチルトを跳ねて6コースからドカ~ンと行ってみようかな。な~んて、強気なこと言っちゃってますね、ボク」
 阿波勝哉さんみたいに? と振ると「いや、まさか、あそこまでは無理っすよ」と茶目っ気たっぷりに笑う。だが、伸びにはかなりの自信がありそうで、一泡吹かせますよ、という気合いがその笑顔から見て取れる。
 じゃあ、今節で1号艇のときはどうしますか?伸びだけだとインからは苦しいのでは。こんな質問にも、笑顔は変わらない。
「大丈夫、だと思います。伸びだけじゃなくて掛かりとかもしっかりしてるから」
 エンジンへの信頼は強い。
「だってボクのペラでも通用するんですから(笑)。本体はほとんど触らず、あとはペラ調整に絞ります」

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 ルックスよし、性格も明朗快活、実力もついてモーターは上位級となれば、今節で一気にブレークしてもおかしくない逸材だ。もちろん、これから銘柄級とぶつかって苦渋をなめるシーンもあるだろう。SGの強さ怖さ厳しさを体感しながら、さらに精神的にも逞しく成長する6日間であってほしい。明日からも、レース後の表情やコメントを交えながら、この未完の大器の追っかけレポートをアップしていきたい。(畠山)


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究極のアウトサイダー・阿波勝哉⑥

 阿波、転覆! 5レースでアウトからのまくりが不発に終わった阿波は、それでも3番手に付けていたが、2周1マークのターンでバランスを崩し転覆した。ピンかロクか、はたまた転覆か。らしい、といえばらしい結果ではある。
「いやぁ、すいません。(チルトを跳ねている分)引き波に弱いんで、なるべく先行艇の引き波を避けようとして大回りしたんですよ。でも、そこに引き波が来ちゃって……バランスを崩しちゃいました」
 と頭をポリポリ。身体とモーターへの影響が心配だが

DSC00304 「身体は大丈夫、どこも痛んでません。モーターもこれから整備しますが、特に悪くなっている感じはないですね。ただ、それよりも他の人も整備して伸びがアップしてるんで、スリットからの伸びがイマイチっスね……ちょっと苦しいですけど、明日も頑張ります」
 確かにここ3日はスリットからぐいと伸びる感じがなくなっている。明日もひとまくりとはいかないかも知れないが、その分、人気も下がって穴選手になる。大張りはせずに、阿波の頭から万シュ~狙いでもしてみよう。(畠山)


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究極のアウトサイダー・阿波勝哉⑤

DSC00219  阿波まくり、不発。勝負駆けの4レース、阿波はコンマ10の全速でスリットを通過したが、イン・花田の05を筆頭に他の選手もスタートを張り込んで横一線に。4コースの太田も09で阿波に抵抗したため、無念の6着に沈んだ。ま、ピンかロクかは覚悟の上、運がなかったと言うしかない。
 このレースでは、ちょっとした珍事が起こっている。5号艇の山本浩次が阿波よりも先に最アウトコースに陣取り、阿波を5コースに封じ込めたのだ。2日目の4レースで阿波にまくられた山本は、よほど悔しかったのだろう。「阿波くんは反則だよ」との名言を残したのだが、それを教訓にして「阿波の外に入る」という珍戦法を選んだのだろう。阿波に内4艇を掃除させて、自分が最内をズッポリ差す。そんな山本の思惑も、阿波のまくり不発で常滑心中になってしまったけれど。
 この「阿波囲い込み運動」は、過去にもあった。平和島で阿波まくりを恐れた2艇が5、6コースを先取りし、阿波を4コースに封じたのだ。このときは阿波が4カドからあっさりまくって快勝したが、さすがSG、山本の”奇襲”の前に力尽きた。

DSC00193 「まあ、自分がそれだけ評価されてるってことですから、不愉快じゃありませんけど、やっぱ他のコースは難しいっス。外からの引き波も喰らいますから」
 阿波はレース後、こう振り返った。なるほど。素人目にはアウトより5コースの方が有利に映るが、アウト屋にとっては難関なのだ。つまり、先に6コースに入った山本は、流れて阿波より前にいる。起こしの段階で山本の引き波が広がって、後ろから来た阿波の艇にぶつかる。6コースなら外からの影響がないから、通常のスタート勘とは微妙な狂いが生じるわけだ。
 しかし、それでも阿波はその引き波も計算に入れて、コンマ10を決めた。6着に散った阿波の顔に、悔いの色はなかった。
「太田さんがすごく伸びてたんで……仕方がないっス。反省するなら昨日です。あのスタート(コンマ30)は情けなかった。悔いがあるとすれば、あれっスね」
 後半の10レースでも阿波は5着に敗れ、準優突破はならなかった。一ファンとしては残念この上ないが、明日も阿波は走る。「準優だろうが負け戦だろうが一般戦だろうが、とにかくあの凄まじいアウトがましが見たい」という阿波中毒患者(もちろん俺もそのひとりだ)のために、明日も阿波は走ってくれる。(畠山)

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究極のアウトサイダー・阿波勝哉③

  今日もやったぜ阿波勝哉、2日目の第4レースで山崎智也や田中信一郎など豪華メンバーをアウトから全員まとめて強まくり! これで初日から6・1・1着とし、平均勝率は7・00。節間ランキングで12位まで躍進した。チルトはもちろんマックスの1・5度。展示タイムでも他を圧倒する6・59を叩きだし、昨日よりもはるかに伸び型=阿波スタイルに進化させた。
 俺の舟券はといえば、松本から借りた2000円でド万シューの546と564で勝負したのだが、結果は521……またまた阿波フィーバーに恩恵にあやかることはできなかった。が、そんなセコイ話はどうでもよろしい。とにかく準優~優勝へ、アウトサイダーの野望は果てしなく視野が拓けたわけで、明日以降も大外まくりショーをワクワクしながら観戦できちゃうのだ。

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 俺はピットに行って阿波を発見し、はじめて名を告げてから握手をせがんだ。
「ああ、どうも」
 阿波の右手が伸びる。宿命とでもいうべき固い堅い硬い契りの握手(もちろん俺だけの思い込みだけど)。俺はそのゴツイ指の感触にコーフンしながら、核心に迫る。
「どうっすか、エンジンは。かなり伸びましたね」
 阿波が硬派に特有の太い眉を微動だにせず答える。
「はい、かなり自分向きになりましたけど、まだ伸びるはずなんです。チルト3まで跳ねられるなら、もっと伸びるし問題もないんでしょうけどね。チルト1・5でも、もっと伸びた経験があるんですよ。まだ、その伸びにはなってませんから。あとはペラの調整でもっと伸びるようにしたいっス。
 出足や行き足を捨てても伸びを育てる。このアウト屋スタイルはおそらく最終日まで続くだろうし、明日はもっと伸びることだろう。それだけ確認して、俺は唐突に質問を変えた。
「阿波さんは、今節、誰のために走ってますか? やっぱ自分のためですか?」
 阿波は持ち前のでかい目をさらにでかくした。少し面食らったようではあったが、「うん、そっスね」と呟いてから、こう言ったのだった。
「自分のため、というのもありますけど、なんか、いろんな人の応援を感じるし、ファンのおかげでここまで来れたわけですから、自分を応援してくれる人のために走りたい。それっていつも思ってることですけど、今回はいつもより強いです」
「じゃあ今節の最終目標は? やっぱ優勝ですよね」
「いや、ホント、一走一走走るだけで精一杯で、その積み重ねで走ってる。ただ、それだけです」
 阿波は静かにそう言った。まあパッと聞きでは優等生発言のようにもとれるが、その目は直球勝負、本気でそう思ってるし行動してます、という輝きがあった。実に、真面目な硬派なのだ。
 そう、確かにスリットから一瞬先はピンか、ロクか、というアウトサイダーに、予定調和的な未来など存在するわけがない。その一瞬に集中力のすべてを賭けるからこそ今の阿波が存在する。我々も興奮する。昨日はディープインパクトと比較したが、ジョッキーと比較するなら阿波は追い込み一辺倒の騎手、ということになる。競馬界では馬主や調教師が幅を利かしているから、そんな無謀な戦法にこだわる騎手はいない。だが、阿波はできる。我々は、阿波の優勝を見たいのではなく、今日も明日もあさっても、阿波の破天荒にして豪快なアウトまくりを見たいだけなのだ。
 明日の阿波はピンか、ロクか……レールなき水面の、スリットに立ち会える俺は、つくづく幸せ者だと思う。(畠山)


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究極のアウトサイダー・阿波勝哉②

 は、はやくも水神祭! やったぜ阿波勝哉。初日の6レースで、もちろん最アウトの6コースからコンマ16の全速スタート。横西・丸岡・金子・今村暢・田口を一気に絞りまくって圧勝してしまった。緒戦の1レースでは内5艇がスタートを張り込んだために不発。6着に甘んじたが、このSG初勝利で平均勝率を5・5に引き上げ、準優戦線に踏みとどまった。
 上気した赤ら顔でピットに戻った阿波は、すぐにレジャーチャンネルのインタビュー室へ。阿波の顔をまともに見るのははじめて、という競艇ファンも多かったことだろう。まあ、たとえていうなら『スラムダンク』の桜木花道、リーゼントがたいそう似合いそうな、一言で言ってしまえばヤンキー顔なわけだが、その彫りの深い端正な顔立ちにまくり差された女性は全国で推定825人とみた。
 で、インタビューの合間、ピットの隅でなにやら額を突き合わせてヒソヒソ密談する集団あり。平石、濱野谷、山崎智也、濱村美鹿子などで、「いつヤる?」「どうやって沈める?」など怪しい会話が洩れ聞こえる。ま、もちろん水神祭の相談なわけで、数少ない関東組が寄り添って阿波を水面に「沈める」算段を立てているだけだが。そこで、濱野谷がボソリ「うん、熊谷さん(7レース出走)が帰ってからにしよう」

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 東京チームのボス・熊谷がピットに戻り、やはり上気したままの顔で登場する阿波。たちまち関東組を中心に大勢の選手と報道陣がニューヒーローを取り囲む。が、肝心の濱野谷はまだ試運転で水面に。慌てて引き返した濱野谷のボートが揚降装置に吸い込まれ、ゆっくりとピットへと引き上げられる。遅刻して照れくさそうな濱野谷に熊谷が茶目っ気で拍手し、釣られて全員が拍手する。アタマを掻いて苦笑する濱野谷。勝負師たちの、束の間の安息。

 その直後だ。真の主役・阿波勝哉の体が宙に浮いた。関東組の面々によって高々と持ち上げられた阿波の身体は、揚降装置の端から乱暴に水面へと投げ落とされた。全員が笑顔。水面からぽっかり浮かんだ阿波の端正な顔も崩れる。気持ちよさそうに、阿波は悠長なクロールで祝福者たちのもとへと帰還した。ずぶ濡れの髪、服、ズボン……山崎智也の隣で瞳をちょっぴり濡らしていたのも、常滑の海水だっただろうか。

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 で、もちろん俺もこの「阿波踊り舟券」で家を建てるくらい大勝し……たはずだったのだが、前半の1レースに全財産(松本からぶん取ったカネも含めて9000円)をすべて突っ込んでしまい、ポケットの中には昭和63年産の1円玉が1枚あるだけだった。黒須田も貸してくれなかったし。

kyotei_109  まあいい、とにかく阿波が勝つことが俺の舟券なんかより100万倍も重要なのだ。阿波のアウトまくりは、競艇の歴史を変える。阿波は伝説のアウトサイダーになる。俺はそう信じてるし、それだけのヤンキー顔を、もとい、ポテンシャルを持った男なのだ。競馬界ではディープインパクトなる馬が騒がれているが、阿波のレースっぷりはあの馬に負けないほどの深い衝撃をファンに与える。ダービーも笹川賞の優勝戦も、今度の日曜日。きっと、俺のこの持論が証明される日になることだろう。(畠山直毅)

kyotei_161 身体も瞳もずぶ濡れ?の阿波(左)と山崎智也、金子良昭


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究極のアウトサイダー・阿波勝哉

 SGごとに1人の選手をピックアップ&集中取材する、この「特注選手コーナー」。今シリーズは、迷わず阿波勝哉選手を抜擢する。

 阿波勝哉。知っている人にはもうかなりの有名選手だが、知らない人にはとことんまで知ってほしい、究極のアウト屋。平和島ではまくられるのを恐れた内の5艇がすべてフライングをやらかして、レース不成立になったことも。とにかく、6コースから全速スリットでまくりきるというスタイルを貫き通す、命知らずの個性派レーサーなのだ。

DSC00067  そして、今節が32歳にしてはじめてのSG参戦。最強のライバルたちを相手にどこまでアウトから攻めきれるか、いつ水神祭で常滑の水面を泳ぐのか、とにかく興味津々なのである。今日の前検ではチルトを常滑マックスの1・5まではねたものの、さほどの伸びは見られなかった。だが、ぺラ制度の改定もあってほとんどの選手がスタートに悩む中、阿波だけは全速のロケットスタートを決めてくれるはずなのだ。それが明日か明後日か、アタマで突き抜ければ高配当間違いなしのこのアウト屋を、追いかけてみようではないか。

「伸びはまあまあ……とにかく6コースから全部まくっていきますんで、よろしく」

 こう言い切る阿波勝哉。明日からも密着する予定なので、その豪快無比な性格&レースっぷりを最終日まで楽しんでほしい。よろしくっス!(畠山直毅) 


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